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第98話 レンギア王国これで本当にグッバイ

《キャラバン・ジゼニア29日目ーケルンジリア48日目ー》


「戻ってきたよ、ナザル・ギルド長!」

「おお、早かったな!」


 砦の前、荷馬車のそばで指示を出していたナザル・ギルド長に駆け寄った。

 周囲では、ジゼニアの住民たちが朝食の準備をしていたらしく、パンの香ばしい匂いや湯気があちこちから漂っていた。

 あ~~、戻ってきた~……パンの香りが、なんか安心するよぉ。


 少し遅れて到着したウィルと神斗が、ナザル・ギルド長に任務報告を始めた。


「それで……(アカシ)として持ち帰ったキングの首と、クイーンの首、どうしましょう?」

「あー、そうだな……ん? クイーン?」

「なんていうんだっけ……あ、そうそう! (ツガイ)(ツガイ)でしたよ」


 どうやら、夫婦やペアという呼名ではないらしい。

 リーナさんが『動物や魔物のペアは(ツガイ)って言うのですよ』の教えてくれたんだった。

 レンギア王城で優しくしてくれたリーナさん……会いたいよ。


「キングとクイーンの子供ができたら……何になるんだろうな? 最初から子キング?」


 ナザル・ギルド長は「そんな勢いで増殖されたらたまらんわ」と肩を落としながらため息をついた。

 

「すまなかった。急いでいたとはいえ、あいつらの話を信じたのは俺の判断ミスだ。お前たち以外に頼んでいたら、きっと無事では済まなかった」


 ナザル・ギルド長は真剣な顔で言ったあと、少しだけ口元を緩める。


「今回は、色つけて報酬渡すぞ。ちょっと商統と依頼完了の報告してくる」



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「遅すぎない?」


 ナザル・ギルド長が商統と話に行ってから、もうかなりの時間が経っていた。

 15時を知らせる鐘の音が、鳴り終わった。


「戻ってこないね……。もうそろそろ、出発しないとここで一泊になっちゃうよ」


 大所帯での移動だから、17時までには野営地を決めて停泊しないといけない。

 あと2時間じゃ、いくらバイソンが激走しても距離は稼げない。

 それに、地形的に山下りの爆走は危険だ。


「大丈夫だと思いますよ。ジゼニアとしては、レンギア王国から出国できれば目的は果たせますから」

「砦を越えたら、国境線があって……今度はテーミガン公国の砦があるんだっけ?」


 神斗は、私が抱えていたアストラのおでこをかきかきしながら言った。

 アストラは気持ちよさそうに目を細めている。


「そうです。国境を越えて、テーミガン公国の砦を通過できれば、もう問題はないはずです」


 それなら、問題なさそうだ。


「ゴブリンキングとクイーンがいたんだろ? ……どうだったんだ?」


 〖インダミタブル・ロック〗のミゲルが、焚き火の向こうから歩いてきて話しかけてくる。

 一緒についてきたエルネスも口には出さないけれど、目が「聞かせて」と言っていた。


「え……」


 言葉につまった。

 ゴブリンキングとクイーンが瞬殺された光景は、あまりにも現実離れしていて、感想すら浮かばない。

 神斗は、肩をすくめながら「倒したよ」と言った。

 それはみんなわかってるんだよ!

 

「あ――、二人が強くてね……」


 私は苦笑しながら言った。

 説明になっていないのは自分でもわかっていたけど、それ以上の言葉が見つからなかった。

 ミゲルとエルネスが顔を見合したからして、どうやら察したようだ。


「まぁ、レンギア王国の副団長と勇者って聞けば、そりゃな?」

「一人でドラゴン狩れるそうですからね」

「ウィルヘルムさん、ドラゴン狩れるんだ!」


 神斗は、ドラゴンのアストラを撫でながら言う。

 さらに「あのお兄さん怒らしたら食べられちゃうぞ~」と冗談めかして脅すと、アストラがくすぐったそうに尻尾を揺らした。

 

「流石に、不必要にドラゴンは倒しませんよ」


 ウィルが笑いながら言った。

 倒せるのは事実なんだ……。

 そんなウィルは、クッキーを皿山盛りに盛り付けている。

 アストラといつも遊んでくれる子たちの分もあるんだろう。

 子供たちがいつの間にか集まり、賑やかにティータイムが始まった。


 そんな時、砦に入るドアが開き、ナザル・ギルド長がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 子供たちが「ナザル・ギルド長が戻ってきた!」と嬉しそうにはしゃぎ、クッキーを持ったまま駆け寄っていく。

 ナザル・ギルド長は軽く手を振ったが、笑顔はなかった。

 顔が険しいのが気になる……。

 私たちは立ってナザル・ギルド長を迎える。


「遅くなってすまん。困ったことになった。ヴィヴィオラに帰城命令が下った」

「え? 私ですか?」


 私は思わず聞き返した。

 ウィルと神斗には、魔王討伐の命令が下っていた。

 もちろん、二人はその命令には従うつもりはない。

 私は、うん。

 イラナイ手紙(ラブレター擬き(モドキ))2通……だったよね。


「昨日の夕方の伝令書とは別に、今朝、帰城命令が届いたらしい」

「なんで!」


「「「「人質」」」」


 ウィル、神斗、ナザル・ギルド長とミゲルの声が合わさった。

 なるほど……、なるほど?


「昨日のお前たちの様子を報告したんだろう。人質をとっていれば、お前たちが働くと思っているんだ」

「まあさ、ヴィヴィオラが城に連れていかれたらね」

「そうですね」


 神斗の言葉に、ウィルが静かに頷いた。

 

「私、城に戻りたくない!」


 胸の奥から湧き上がる拒絶が、言葉になって飛び出した。

 せっかく、あの城から逃亡できたのに戻るなんて!

 ウィルが「大丈夫ですよ」とニッコリ笑う。

 神斗が「連れていけるわけないじゃん」とニカッと笑う。


「だが、商統が軟禁されていてな。なんとか交渉しようとしたんだが――」

「無理だったってことですね?」

「ああ、すまん……」


 ナザル・ギルド長の謝罪は、ただの言葉じゃなく、悔しさそのものだった。

 

「ジゼニアに迷惑がかかるのは私も嫌だよ」

「お前たちがいる限り、越境の許可がおりんだろうな。この人数だからな。砦を強行突破するのは現実的じゃない」

「じゃあ、俺たちがジゼニアから外れればいいんじゃない?」


 私も城に戻るという選択肢以外では、これが一番合理的だと思った。


「それが一番でしょう――」

「本当に戻ってきたのか! ヴィヴィオラに帰城命令が出てる。さっさと来い。商統と交換だ」


 砦の門の向こうから、甲冑を纏った砦長が怒鳴るように叫んだ。

 砦長の後ろから、商統が兵士に囲まれて歩いてくる。

 ジゼニアの護衛兵たちや住民、冒険者たちの、ゾワッとするほどの怒りを感じた。

 彼らは、大きな家族なのだ。


「交換ですか?」


 ウィルが冷たい声で静かに問いかける。

 

 ドガッ!

 

 鈍い音が地面に響く。

 誰もがその音の正体を目で追った。

 ウィルが【収納(アイテムボックス)】から、ゴブリンキングの首を取り出し、無言で砦長の足元に投げ捨てた音だった。


「ヒィィァッ!!! あ、ああ、あ、あ……」


 砦長が悲鳴を上げる。


「お望みのキングの討伐証だよ。俺たちは仕事したんだけど?」

「二人とも、向こうに商統がいるんだから……落ち着いて」


 私のことで怒ってくれるのは嬉しいけど、でも今は、人質のようになっているジゼニアのトップである商統が危ないんだよ?


「お、お、おまえたち、レンギアに立てつくつもりか!!」


 砦長が震える声で叫ぶ。

 威厳を保とうとするが、声の震えが恐怖を隠しきれていない。


「おい、ウィルヘルム! 商統がいるんだぞ、おちつけ!」

「ウィル! 神斗! 剣を握るのはだめ!」


 気づけば、二人とも剣の柄に手をかけている。

 なんでいつも冷静なウィルがこんなことに――剣を抜けば、交渉は終わる!


「あの……砦長さん、そう! タッチの差で国境越えたことにしてくれません?」

「だ、だ、だめだ!」

「ゴブリンキング討伐。下位種のゴブリンだけで200体はいたんですよ。それを30分もかからずに殲滅したんですよ……二人だけで!」


 アストラが「キュイ……」と自分も倒したのにと言っているかのようになく。

 ごめん……、ほぼ、二人って言わなくては行けなかったね。

 そうしている間にも、ウィルと神斗が無言のまま、ゆっくりと砦長に近づいていく。

 ちょっと! 二人とも!


「こ、こ、こ、こっち来るな!」


 砦長が声を裏返らせて叫ぶ。

 威厳はすでに崩れ、ただの怯えた男の叫びになっていた。

 砦長が足元をもつれさせながら、必死に距離を取ろうと後ろにズイズイと下がる。

 二人はかまわず、前に進んでいく。


「おおおぉぉぉ……」

「と、砦長? うわっ」


 兵士の一人が驚きの声を上げる。

 ついに、砦長が後ろの商統を囲っている兵士にぶつかった。

 甲冑同士がぶつかる鈍い音が響き、兵士たちがよろめき隊列が乱れた。

 その勢いで、商統が前に飛ばされる。

 神斗が素早く身を乗り出し、商統をしっかりと受け止めた。

 ウィルが砦長の耳元に顔を寄せ、低く、鋭く囁いた。


「そ、それ、それは!! ヒィ!! ――見てません!!!」


 え? 何を言ったの?

 その言葉は聞こえなかったが、砦長の顔がみるみる蒼白になっていくほどなのは理解した。

 さらにウィルは、ゴブリンクイーンの首を砦長の腕の中に無言で押し付けた。


「砦長!!」


 砦長は口をはさんだ兵士をギロッとにらむ。

 

「だ、黙れ! お前たちで止めれるのか? 見てない 俺は見てないゾ!」

「人を殺すところを見せたくないんだ」


 神斗がニッコリと笑いながら言った。

 

「さぁ、行きましょう。ヴィヴィ」

「うん、行こう……」


 血が流れなくてよかった……。

 もう、お腹いっぱいだよ。

 二人の八つ当たりで、この山中に巣くっていたゴブリンとキングとクイーンの血は根絶やしになったけど。

 流石に人と戦うのはちょっと……。

 

 砦の門が軋む音を立てて開かれ、先頭の馬車に乗った私たちは、静かにその境界を越えた。

 

「国境を超えましたね」

「本当にさよならだー!」

「俺たちは自由だ!」

「キュン」


「あぁ……、いやぁ、辺境伯の通行証をもっていたけど、こんなに手間取るとはな」


 ナザル・ギルド長が肩をすくめながら言う。


「でも、ゴブリンキング討伐は早かったでしょ」

「ううん……まぁな……それはそうなんだが、そのあとのゴタゴタは、ほぼお嬢ちゃんたちのせいだがな」

「あぁ……」

「数年はあの国に商売で行けんな」


 テーミガン公国の砦はすんなりと通過した。

 テーミガン公国へ入国できたということ。

最後まで目を通していただきありがとうございます。

少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、

広告の下にある【いいね】や【☆☆☆☆☆】ポイントを入れてくださるとめっちゃ喜びます。

最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

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