第97話 アイテムバッグの中身
戻ると、神斗は崖の上で足を投げ出して座っていた。
焚かれた火は、風に煽られながら高く燃え上がり、赤い光が岩肌や木々を揺らすように照らしていた。
「これ……明日の朝までに燃え尽きるかな」
流石に2日目に突入は嫌すぎる。
倒れていた木をくべているらしいけど、乾燥した薪とは違って水分を含んでいるせいか、炎が不安定に揺れている。
そこで頼りになるのが、神斗の【火球】。
定期的に火力を補ってくれるおかげで、なんとか燃え続けている。
火に包まれたゴブリンの山は、すでに半分ほどの高さになっていた。
「ここで、夜を過ごすのか……な?」
「森に火が移るといけないですからね」
ウィルが静かに言う。
「じゃあ、薪をだすね。あと寝床の準備と……」
「ヴィヴィオラ……それより、俺……お腹空いた……」
そのまま神斗は、バタンと音を立てて地面に倒れ込んだ。
「ご飯ね。その前に! 神斗にプレゼントがあるよ! ゴブリンから!」
「アハ、それって……ゴブリンがくれるの?」
「ほら、このバッグ。容量は小さいらしいんだけど【収納】みたいなバッグだって。しかも、何か中に入ってるんだよ」
「へぇ……中に何が入ってるんだろうな」
神斗が身を起こし、バッグを覗き込む。
好奇心が空腹に勝ったようで、目が少しだけ輝いていた。
「「見てみよう!」」
「アイテムバッグは、使用者登録をすれば、中に何が入っているか手を入れた瞬間に感覚でわかるようになります。登録者が死ぬと次の使用者を登録できるので今登録できるはずです。そもそも、ゴブリン達は登録方法をしらないでしょうしね」
バッグの留め具を指さし「血を1滴たらすだけですね」とウィルが焚火を起こしながら言う。
ほぉー、どんな仕組みなんだろうね。
この世界は、不思議であふれてる。
魔法があるので今更だけど!
「指出して! 切ってあげるよ!」
「いや、自分でするよ。……指が切り落とされそうだから」
「私、一人暮らししてたんだよ! 自炊していたんだから! さぁ!」
神斗は、ため息をつきながらしぶしぶ指を差し出した。
私は「一応ね」と言いながら、ダガーの先を焚き火にチョロッとかざした。
神斗の指をぎゅっと掴み、血が集まったのか指先が赤くなる。
赤くなった指先に向けて、ダガーの先を慎重に立てると、ためらいなくぷすっと刺した。
「いてっ!」
「大丈夫! 痛くない、痛くない」
「いや、痛いし――」
「ギャウゥゥ……」
「もう! さ、 早く、登録しよ! アストラがお腹空いてるからっ」
「ここに垂らしてください」
神斗が血を垂らすと、留め具に埋め込まれた魔石が一瞬、強烈な光を放った。
私は神斗の指に【治癒】をかけるとスーッと傷跡がなくなった。
思ったより血が出て、ちょっと焦ったのは……内緒。
「登録できたようですね。ヴィヴィお茶をどうぞ」
ウィルが湯気の立つカップを差し出す。
ウィルは相変わらずの手際で、アストラの餌も用意している。
アストラはすでに尻尾を振って待機中。
「さぁ!」
私は神斗の袖をちょんと引いて、催促する。
お宝、めっちゃ興味あります!
「あ~ハイハイ。それじゃあ、失礼して」
神斗は苦笑しながら留め具に手を伸ばす。
その手の動きから、ちょっとだけ緊張してるのが伝わってくる。
私も【収納】を初めて使ったときは、手が震えるほど緊張した。
空間が開くって、頭では理解してても、初めては意味がわからないんだよね。
神斗が慎重に留め具を外すと、魔石が一度だけ淡く脈動する。
「あっ……なんか、頭に直接……えっと、浮かぶとは違うんだけど中身がわかる。え~と――取り出して見るよ」
ポーション 11本
魔石 18個
お金 115万6700ギリア
アクセサリー 解毒の指輪
宝石 3個
「ヴィヴィオラ、これどうすればいい? 正直、バッグだけでも十分ありがたいんだけどさ」
「ウィル、私は中身ごと神斗にあげちゃってもいいんじゃないかなって思ってる」
「そうですね……ポーションの中では、このMP回復ポーションが1番回復量が高いので、ヴィヴィに渡すのが妥当かと。残りはお好きにどうぞ。ただ――この1本だけは、非常に貴重なものです。大切に保管することをおすすめします」
ウィルが指さしたのは、1本だけある異質なポーション。
その小瓶だけ、やたらと小さい。
「綺麗だけど……飲むってなると、ちょっと勇気いるね。鑑定していい?」
瓶に触れていないのに、液体はまるで空中に浮かぶ白いオーロラのように、刻々と色を変えながら揺らめいていた。
神斗は「俺のじゃないし」と笑う。
「【鑑定】……RFポーション……瀕死、あるいは死後以内からの――復活!? え、これって……大当たりの宝物じゃない!? 超ラッキーだよ!」
「これ、ヴィヴィオラが持ってたらいいんじゃない? いや、違うか、ウィルヘルムさんか」
「多分、同意見なので神斗さんが持っていてください。私がいるときに使う状況には、まずならないと思いますから」
「まぁ、今のところそうですね。では、これは俺が持っています」
「?」
どうやら、話はまとまったようだ。
「じゃあ、これはヴィヴィオラね」
神斗から手渡されたのは、青色でドロッとした、どう見ても飲み物には分類されないMP回復ポーションだった。
これも絶対過ぎたるものだよね。
このアイテムバッグの持ち主は何で死んだんだ?
このMP回復ポーション、レベル5でMPが1000も回復するらしい。
こういうものってエリ〇サー症候群みたいに一生使わないんだよね。
焚き火がパチッと跳ねて、火の粉が空に舞った。
神斗とウィルは、焚き火のそばで食事の準備を始めている。
この、ゴブリンが燃えている景色を見ながら食べるんだ……。
なかなか……来るものがある。
「だってさ、チキンチキンだったら平気でしょ? 同じだよ。まぁわかるよ。あの山チキンチキンだと思えばいいんだよ」
「え? そうかな。……あぁ――」
ゴブリンたちの顔が炎の中からこっちをみている。
炎の揺らめきが、彼らを生きたまま焼いているように錯覚させる。
「うぇっ……今日はいらない……」
かわいそうとは思わないけど、グッとせりあがってくるものがある。
「いや……やっぱり、かわいそうだったな」
「なんで?」
「だって……あまりにも、強者のいじめに見えたからかな……」
あまりにも、二人とゴブリンの力の差が圧倒的すぎて、ナザル・ギルド長が『ウィルヘルムは★だな。俺はもっと上だと思っているがな』という言葉に、今なら納得できる。
「ここで燃やすのって……何か理由があるの?」
「そうですね……。十数体ぐらいであれば燃やさなくても大丈夫なのですが、このように100体以上になればその場で燃やさないといけません。魔物の持つ魔石は、魔物にとって魅かれるのもなのです。だから、他の地域で燃やすと生態系が乱れるのです。落ち着いていたはずの地域に、突然ワイバーンが襲来することもあります」
ウィルは聞こえるか聞こえないか小さな声で「私の管理でないのでわからないのです」と言った。
「なるほどね。だから、討伐した地域で処理するのが暗黙のルールになってるんだ」
「それに【収納】持ちがあまりいないので基本はその場で燃やすか埋めるがルールなんです」
「たしかにそうだ」
神斗は、チキンチキンのレッグをかじりながら、頷いている。
【収納】を持っていない不便さを、神斗は一番身に染みているんだもんね。
「よかったね、神斗。このアイテムバッグ、小さいけど、着替えくらいならちゃんと入るよ」
「俺も、ヴィヴィオラのおかげでラッキーを分けてもらってるんだな」
神斗は照れくさそうに笑いながら、骨だけになったレッグを焚き火に放った。
ラッキー全振りサイコー!!
「でもさ、俺は討伐した魔物を入れたいから……着替えとかはヴィヴィオラが持っててくれる?」
どんだけ魔物倒したいの……。
その情熱、ちょっと引くけど、ちょっと羨ましい。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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