第96話 ゴブリンの宝と恥ずか死
目の前には、無数のゴブリンの死体が積み重なった山。
うわぁ……この中に上位種がいるのか……うっ。
私はこの死体の山に【浄化】を何度も唱える。
そのたびに光が広がり、緑色の血と泥、汚れがスーッっと時間が巻き戻すように消えていく。
ううぅ……。
綺麗にしても腸がでているし……脚はもげてるし……うぅぅぅ。
戦闘は観戦していたのに、吐き気と戦うはめになるとは――こうなることは予想していたけど……実際にキツイ。
……もしかして! いや、閃いたかも!
【収納】にまとめて入れれば簡単に仕分けができるのでは?
私って頭いい!
それからは嘘みたいに作業がスムーズだった。
一気に【収納】に入れて、下位種のゴブリンたちを焼却場所に取り出す。
残りのゴブリンマジシャン・シャーマン・ロード……etc。
それらを、魔石を取り出すために神斗の前に置く。
彼らの持っていた武器などのアイテムも【収納】にリスト化される。
ゴブリンシャーマンの骨杖
破損ゴブリンシャーマンの骨杖
ゴブリンロードの剣
破損ゴブリンロードの剣×2
破損ゴブリンマジシャンの杖
破損ホブゴブリンの棍棒×4
あれだけ、みんなが暴れれば……無事な武器は少ない。
武器は討伐証ぐらいの価値しかない。
冒険者のプライドがゴブリンの武器を使うのを許さないらしい。
とはいっても、駆け出しの新人冒険者には安く強い武器なのでこっそり使っているそうだ。
「ヴィヴィオラのゴブリン綺麗じゃない?」
「私の所有物みたいな言い方やめてよ……」
ためらいなくザクッとシャーマンの胸を切り裂く神斗。
その裂け目に手を突っ込み魔石を探す……たくましい。
いやいや、たくまし過ぎるでしょ!
その時、視界の端をアストラがパタパタと飛んできて、器用に爪で掴んだゴブリンを山の上にポンと落とすのが見えた。
「アストラ偉いね~。お手伝いしてくれるの?」
「いや、たぶん積み木だと思ってるんじゃない? ヴィヴィオラあれ見てよ」
目を向けた先には、異様に整った死体の塔ができ上がっていた。
アカン!
ちゃんと教えないと……。
「アストラ! おいで。あのね、死体は魔物であっても遊んではいけないの」
「ギャウン?」
首を傾げるアストラ。
「アストラは賢いけど、まだわかんないよ。生まれて10日だよ?」
神斗はアストラの頭を「偉いな~」と撫でている。
そうだった……。
ついつい、理解が早いから……。
「神斗さん、魔法で燃やしてくれますか?」
神斗が【火球】を唱え、1か所にまとめられたゴブリンの山なるものに火がつけられた。
聞けば、木材の火力だけでは完全燃焼まで数日かかるらしい。
たしかに、死体の水分量を考えるとどれだけの木材と時間が必要かわからない。
「全部燃えきるまで誰か見ておかなくてはいけませんので、神斗さん頼まれてくれますか?」
「いいですよ。アストラと見てます」
「では、ヴィヴィ。洞穴に行ってみましょう。初めてでしょう?」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「洞穴や洞窟、ダンジョンは罠があったり複雑な作りなのでしっかりとした準備が必要です」
私たちの無属性魔法【探索】はこういった時に罠やゴブリンの生き残りを発見したりと、とても役に立つ。
「くっ、臭すぎる……、枝分かれというか部屋になってるのか……臭いぃ」
「ここは、ゴブリン達の巣穴なので臭いですね。それに、この部屋……おそらく繁殖部屋とに使われてたのでしょう」
突き当たりの部屋に足を踏み入れると、床に敷き詰められた葉がクッションのように沈む。
明らかに他の部屋とは違う造りだ――これは、ゴブリンキング・クイーン専用の寝床かもしれない。
その空間の奥に、ひときわ目を引くボロボロの木の扉があった。
ウィルが「ここですね」と呟くと木の扉を蹴り飛ばし破壊した。
いや、なんで壊すの……。
「ところで……先ほど、神斗さんと何の話をしていたのですか?」
「え? え? 先ほど?」
「キングを倒す前です。崖の上で……とても楽しそうに……」
ウィルの言葉は柔らかいのに、確かに詰めてきてる。
いや、ただの筋肉話なんですけど!
ただ、真剣に戦っていた人の前でこんな話してたなんて、言えない……。
「あ、あれは!」
「話せない事なんです?」
「いや……ただ、神斗が、筋肉を自慢してきて……見せてきて……その……」
声がどんどん小さくなる。
「筋肉? 筋肉が好きなんですか?」
「やぁぁぁ、す、好きっていうか……やっぱり、強そうだし? 頼りがいがありそうだし? 男らしいし? えええええええええと……っ」
顔が熱すぎて、洞窟内のむわっとした臭いすら感じなくなる。
羞恥が臭気を凌駕するって初めて知った。
「嫌いじゃなくて、じゃなくて、好きです!!」
「そうなんですね。いつでも言ってください」
ちょっと待って『いつでも言ってください』って私が触りたがりみたいに勘違いされてる。
「……その時は……お願いします……」
これが恥ずか死。
チーン……。
「ここにはあまり何もありませんね。山奥なので砦の兵士の装備品ぐらいですね。後で砦の兵士が回収にくるでしょう」
小部屋の内部には、ゴブリンに殺された兵士が装備していた防具や剣が無造作に散らばっていた。
この辺りは、山越えルートなので商人はあまり使わないせいか、実用品ばかりで宝物がないらしい。
「――これはなかなかの掘り出し物ですね」
「何それ? バッグ? ただの古びたポーチにしか見えないんだけど……」
ウィルが壁の端に捨てあったバッグを静かに拾い上げた。
それは金具に淡く光る魔石が埋め込まれた革製のバッグだった。
「これは古代の遺物でアイテムバッグです。【収納】一級に匹敵する性能を持っています」
「誰でも使えるの?」
「ええ、魔力を持っている者なら、誰でも。およそ1000万ギリアぐらいの価値があります」
1000万ギリア――平民家族の生活費が一か月1万ギリアだったから、約80年過ごせるってこと!?
「へぇ~凄いっ! この小さなバッグひとつで?」
「それほどまでに、【収納】やアイテムバッグは希少で価値が凄いのです」
私とウィルは無属性魔法の【収納】があるから価値は凄くとも必要がない。
「これ、よかったら……神斗にあげていいかな?」
ウィルは少しだけ頷き、「それがいいでしょう」と同意してくれる。
「中は空っぽ?」
「何か入っている可能性は高いですね」
「お宝♪ お宝♪」
ゴブリンキング討伐――正直、貧乏くじかと思ったけど、こんな値千金な宝があるなんて!
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