第87話 配信するようです⑤ ※ビューワ 1行×32文字以上
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《キャラバン・ジゼニア18日目ーケルンジリア37日目ー》
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[待機]
[待機しますた]
「配信開始時間まで、もうちょっとだけ待ってね。ーーあ、だめ。アストラ! それマイクのコード! かじっちゃ……わぁあ!」
[なんか、横切った?]
[アストラ?]
[トカゲじゃないか?]
[よくみろ、コモドドラゴンだ]
[<810円>爬虫類大好き]
配信部屋のマイクのコードに興味を持ったアストラ。
コードが蛇にでも見えたのか、アストラはちいさな体で器用にしゃがみこみ、ガシガシと牙を立てて夢中で噛む。
「こらっ! だめだめ。コード噛んじゃあ。サンクチャありがとう! 確かに爬虫類なのかも!」
[<1,000円>お前こそ、よくみろ。ドラゴンだ]
[トカゲ? 羽? ナイスサンクチャ!]
[あ……ドラゴンね。今日なんかのお披露目会?]
[<3,811円>尻尾ふてぇ]
[コード噛むと感電するぞ]
「感電!? 危ないっ! おいで。ーーあっ、またサンクチャ!助かる~! フフフ、ちょっと待ってね」
[本物のドラゴンの赤さん?]
[絵が感電するわけないだろ?]
[今はやりのVRChatかな?]
[ドラゴン誰が動かしているんだろう???]
[<324円>俺はヴィヴィを信じているから、ドラゴンだ]
「はいっ! お待たせしました! こんばんんにーにー! ヴィヴィオラです 今日も1時間ですがおつきあいください」
今日も楽しい時間が始まった。
ウィルと神斗が護衛任務を受注して出かけたので明日まで戻ってこない予定だ。
私よりも強いドラゴンとはいえ、赤ちゃんのアストラを連れていくわけにもいかず、私はお世話係としてジゼニアでお留守番を引き受けることにした。
ダメ元でアストラを連れて配信部屋にログインしてみたら、予想に反して……入れた!
システムは、想定外に寛容だったらしい。
それなら、ウィルや神斗も入れる……、やめておこう。
杞憂かもしれないが! 杞憂かもしれないが! 炎上するかもしれない。
今は、応援してくれるメンバーが71人にまで増えた。
一か月前は9人だったのに。
今の時代、炎上ひとつで信用がゼロになっちゃうから……慎重にいかなきゃ。
「今日はアストラを連れてきました!」
[ドラゴンなの?]
[スゲー!]
[赤ちゃんのドラゴン? それとも成体?]
[ドラゴンだ]
「はい、ドラゴンの赤ちゃん〖アストラ〗です。さぁ、アストラ挨拶してみようか!」
「ギャギャァ!! ……ギャッ??」
予想より大きな声に、私もコメント欄もつい笑ってしまう。
アストラが興味津々とばかりに、カメラレンズへぴったりと顔を近づける。
配信画面には、ドーンとアストラの顔面アップ。
リスナーのツッコミが爆速で飛んでくるのも当然だ。
大きな口が開き、舌がカメラに向かってーーベロン。
「だめ、だめだめ! カメラは一年使わないといけないんだから!」
[うわああ! 画面いっぱいベロきたww]
[カメラごと食べにきた!?]
[<1,000円>これが、舌圧ってやつか……ありがとうござい
ます!]
「ごめんなさい、カメラ拭くね。この子はアスカリオンドラゴンの赤ちゃんだよ。5日前に生まれた私の子供なんだ~。私の魔力から生まれたんだよ」
[猫からドラゴンが生まれたの?]
[じゃあ、どらにゃんだ]
[考えるな。どらにゃんだ]
[一人の魔力で生まれたの?]
ドッキィーー!!
コメント欄に、思わず心臓ひと跳ねした!
流石リスナー、鋭い!
「えっと……うん、まぁ、私ひとりの魔力ってわけじゃない……かな? ね、アストラ?」
ごまかし気味にアストラに助けを求めて視線を送る。
「ギャウウ!」
アストラが大きな口を開けた瞬間、チカッと小さな光が見えた。
「ん!? アストラ!? え!?」
シュワッという音とともに、カメラの映像が一瞬で白く染まり、画面越しに霜が広がっていく。
「えぇぇぇぇぇ!? どうしたの!? え?氷? 何が!? あーーーカメラが!? 凍ってる!? どうしよう!?」
[なんだ?]
[どらにゃんが氷を吐いたぞ]
[アイスドラゴンなんですね。フムフム]
[答えずらい質問するからww]
[アイスブレスでやっつけようとしたんだな]
[ママを守るのだにゃと言っている]
カメラのレンズが氷の膜に覆われて、画面にはうっすらぼやけた私たちが、心霊写真のように写り込んでいた。
どんな配信画面なんだよぉ!
「今はカメラは壊れてないけど、どうしよう。これカメラ壊れるの確定じゃない? カメラもう買えないんだよぉ 引退だよぉ」
[カメラ、買えばいいじゃん]
[カメラオタク急募カメラが凍った時の対処方法]
[ご要望のカメラマニア、参上です]
[買えないんだよ 配信の概要欄に書いてあるはず]
[おおぉ。カメラマニアいた!]
「あ、えっと、ご新規さんはたぶん今の流れ意味わかんないよね!? 概要欄にうちの配信の前提とか世界観とか全部書いてあるから! 信じるかどうかはお任せするけど、楽しく過ごしてもらえたら私としてはめちゃくちゃ嬉しいです!」
[まずは電源オフ。起動中に氷が溶けて内部に浸水…なんて悪夢は
回避したい。次に、乾燥剤と一緒にジップロックへ収納し、室温
でじっくり馴染ませる。急加温はNG、レンズ割れのリスクが跳
ね上がる。氷が自然に溶けたら、マイクロファイバーでそっと水
分を吸い取り、決して擦らないこと。完全に乾いたらようやく再
起動。なお、寒冷地撮影にはレンズヒーターや防曇シートの装備
も推奨される。レンズは眼、映像は魂、その魂を守る手入れを惜
しんではいけません]
[<1,000円>おおん……なげぇ]
「ま、まずは電源オフ……でもカメラ映らなくなったら、今日の配信、声だけになっちゃう」
「ギャ、ギャッ!」
こちらの気も知らずに、アストラが元気よくひと鳴き。
[今日は仕方がないんじゃない?]
[カメラは大切にですぞ]
[カメラって異世界にないから買えないんだよね?]
[アストラにゃんは悪戯っ子だね~]
カメラの電源オフ……。
画面はまるで電源が切れたテレビのように真っ黒。
でも、コメント欄だけは変わらず賑やかに流れていて、少しほっとする。
画面に映る自分が消えた瞬間、一年後ってこんな感じなんだ……。
自分が元居た世界から居なくなって……って、いけない! 配信は楽しくしなくちゃ!
「ちょっと、放送事故みたいになってる!! アストラほら、みんなにあやまろうね」
「ギャギュゥ……」
アストラはバツの悪そうな声を漏らしながら、申し訳なさそうにお座りする。
ちょっとだけ反省モードらしい。
[<1,000円>アストラにゃんは偉いでちゅね~]
[みたいじゃなくて、放送事故じゃww]
[<3,244円>俺はドラゴン見れて満足だよ]
[薄水色だったよな]
[かわちぃ]
「でも、アストラがアイスブレス? するのは今日が初めてだったから……みんなが世界初の目撃者だよ!」
[本当だったらアイスブレスを受けて全滅してたけどな!]
[勇者くんよりも先に見ちゃったな]
[おいやめろ、今度はPCが逝くぞ]
ーーという、ひやっとする真実を軽快なノリでぶち込んでくるコメント。
ツッコミのキレが容赦ない!
勘が鋭いリスナーは、他の魔力は神斗のだとバレてる!!
そんな感じで一時間を待たず、今日の配信はドタバタと幕を下ろした。
通知 入金<52,408円>サンクチャ代が入金されました
通知 入金<35,500円>メンバーサブスク代が入金されました
残高<110,637円>
私は膝の上に座っているアストラの頭を、ぽすぽすと優しく撫でた。
ふにょっとした手触りがクセになる。
「みんな、アストラにたくさんサンクチャくれたね」
そう話しかけると、アストラは得意げにしっぽを揺らした。
せっかくだし、牛乳をまとめ買いしておこう。
きっとたくさん飲むだろうし、お腹がすいたら困るもんね。
おもちゃは、大型犬用の木枠でできたボールを購入した。
そし今、私はゆっくりと解けていくカメラをじっと見つめていた。
アストラのアイスブレスにやられて真っ白になったあのカメラ。
壊れてなければいいけど……こればかりは祈るしかない。
それにしても、ドラゴンって普通は炎を吐くイメージじゃない?
アストラの場合は、まさかの〖氷〗。
「氷……アイスブレスを吐いたのをみんなに伝えなきゃ」
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、
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最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。