第88話 -商人ギルド職員side- 伝説の日!?
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机に上に慎重にドラゴンの卵を置いた。
モザイク模様が特徴なこの卵は本来の2分の1の大きさでしかない。
「ただ……この卵、孵化可能と思われる期間がもうすぐ終わるんです。となると、あとは……廃棄か……卵料理でしょうか……」
今回、受け付けた依頼が失敗した……。
いいえ、依頼の失敗自体は、そう珍しいことじゃない。
それより問題なのは……依頼者である神斗様のプライバシーを、説明のためとはいえ開示してしまったこと。
商人ギルドとして最大の禁忌を犯したのだ。
それはジゼニア商人ギルドの長い歴史においても、前代未聞の失態だった。
ジゼニアは商人の国。
その中核を担うこの商人ギルドは、他の都市の商人ギルドからも一目置かれるほどの信頼を看板にしてきた。
なのに、それを……私の、判断ひとつで……やってしまった……。
「ドラゴンーー」
キラキラと星が宿ったような瞳で、神斗様は卵を見つめていた。
失敗報告書類は、まず依頼者本人によるサインと意見記入欄への記述を経て、ジゼニアを含む各都市の商人ギルド長全員に正式に回覧される仕組みになっている。
それはただの内部記録ではなく、信用情報のひとつとして記憶され、時には人脈や取引先の判断材料にもなる。
そこに「極秘扱いを望んだにも関わらず内容が露見し、屈辱を受けた」なんてかかれたら!
「い、今なら金貨1枚でお譲りします! 本来であれば、卵料理の卵になっても金貨100枚はくだらないんです!」
このドラゴンの卵は、ギルド長から託されたーー少しでも今回の件を穏便に収めるために、という静かな願いとともに。
本来、孵化の可能性がある卵だったら、白金貨1000枚、1億ギリア級の商品なのです。
「なんか、怪しいよ? 神斗」
ヴィヴィオラ様の指摘はもっともです。
「【鑑定】してもいいですか?」
「も、もちろんですとも! あと、卵の保証書もあります」
ヴィヴィオラ様は【鑑定】持っているのですね!
商人ギルド職員として羨ましすぎます!
おっと、感心している場合ではないです。
今です!
これを神斗様に伝えないと。
「ここだけの話なのですが、ドラゴンは雄と雌の魔力で子供が孵化すると言い伝えられているのです。どうでしょう?」
ヴィヴィオラ様がドラゴンの卵に向き合っている間にこっそっと神斗様に耳打ちする。
「……確かにドラゴンの卵みたい」
間違いなくドラゴンの卵とお墨付きも頂きました!
「買うよ。でも、契約書頂戴。あとで問題になっても困るし」
神斗様はサラサラと契約書にサインをしていく。
「はい、もうこの卵は神斗様のものです。あとこちらのーー依頼不履行のサインと何かあれば意見欄のご記入を……」
神斗様は「うん、わかった」と言って、サインだけをした。
助かりました、ギルド長!!
「ありがとう。そ、そうだ、ヴィヴィオラ」
「ん? 何?」
「あ、あのさ……。なんか魔力流すともしかしたら生まれるかもだって だからさ、やってみようよ」
まぁ、なんて積極的なのでしょう!
でも、卵は孵らないとは思いますけどね……。
「魔力……」
「だ、だめかな」
「いいよ」
神斗様は100万ギリア出すほど、お金を持っています!
ここは、商人ギルドとして繋いでいかないと。
「では、この手の向きで魔力を流しましょう! ヴィヴィオラ様の手はこちらとこちらで。はい、よろしいかと思います。そ、そうですね、ドラゴンに会いたいと願いながら 目をつぶって貰って」
ヴィヴィオラ様は「こうですか? おお、ザラザラしてるーー!」と素直に手を置いてくれる。
「神斗様は、ヴィヴィオラ様の手の上に重ねる感じで」
神斗様は「あ、あぁ」と控えめに重ねます。
「では……さぁ、おふたりで魔力を流してみてください。焦らず、ゆっくりとで構いませんーー呼吸を合わせるような気持ちで」
「こんな感じですか?」
申し訳ありません、私、魔力がなくてわからないのです。
「えぇと……はい、とても良い感じかと! 何か手がかりありますか?」
「んんん……、なんか神斗の魔力が私の方に流れ込んできてて……」
「ごめん、ヴィヴィオラ。痛い? 前、痛かったよね」
前、何かあったのですね!
「痛くはないよ。大丈夫だけど……なんか、なんとも言えない感じが、はぁ、はぁ……。うん、あぁ……。そうだ! フフフ……片手は反対にしよう?」
ヴィヴィオラ様の右手が卵から離れて神斗様の手の上に重ねる。
魔力を流すってなんて官能的なのでしょう!
「ああ!? ぁぁぁぁ……、はっ! なんでこんなに暑くなるんだ」
突然、神斗様の額にじわりと汗が浮かび始めました。
「フフフ。卵から手を放しては駄目だよ~。もう少し魔力流すね!」
「ちょっと待って! もう少しゆっくり!」
「えっ……なにが……? 一体何が起こってるんですか!?」
「多分、私の魔力が神斗の中をかき混ぜているのかな。私の方が魔力量が多いので! フフフ……」
「あっ!? まじで! やめて! やめて! やめてー!!」
神斗様の叫びが、部屋にエコーする。
ヴィヴィオラ様、完全に遊んでらっしゃるうぅぅう!
「お二方、もう少し、し、真剣……に」
でも……まぁ、いいか。
神斗様も、なんだかんだで苦しそうだけど楽しそう……な気がするし? たぶん? たぶんです!
結果が良ければすべてよしーーそう、まさに結果オーライです。
あの時、私が「今すぐ母体になる人を選びましょう」と連れて行ったのが悪かったのです。
神斗様の金額提示に興奮してしまって即急に動いてしまったのがいけませんでした。
もう少し、慎重に進めなくてはいけないデリケートな話だったのに。
うん……でもまぁ……神斗様、ちょっと幸せそうだし……ヴィヴィオラ様も楽しそうだし……結果オーライ、ですよね。
卵が孵らないのは説明済みですし、あとはギルド長からの「依頼は、細やかな対応をしろ」とお説教のみですね……。
「あの、職員さん?これ、どのくらい続けます?」
「そ、それは……魔力が空っぽになるまで?」
私はドラゴンの卵の孵化に関する情報を全く知らないのです。
「ま、まじか……あぁぁ」
「じゃあ、私がこっちの手も上からするね」
ヴィヴィオラ様が満面の笑みで意味深な言い方をするから、神斗様の顔が真っ赤になりました!
「うわああああぁぁっ!? はっ……はぁあああ……うああああ!! あぁぁ……」
神斗様、もはや悲鳴と吐息のミックス。
あら……どうしましょう、これは勘ですが……。
ドラゴンの卵で無事に事なきをえたか心配なギルド長や、なぜかギルド女性職員たちが幕の向こうに立っているのがわかります。
「神斗っ、魔力はちゃんと卵に流して! なかなか入っていかないよ?」
「やってるっ! やってるけどっ! ヴィヴィオラぁ! ちょ、ちょっとでいいから緩めてぇぇぇ!!」
流石にこの声の大きさでは仕方がありません。
商人ギルド中に思わず赤面してしまうような悩ましげな神斗様の声が響き渡ってるでしょうね……。
「ん? ヴィヴィオラ様どうかされました?」
私はその顔色に気づき、思わず声をかけた。
「【鑑定】……。???ドラゴン ?ランク……!? ドラゴンの卵じゃなくなってる!」
「はぁ、はぁぁ……、ヴィヴィオラ……どういうこと……?」
神斗様は困惑をにじませた声で尋ねる。
「あのね! 今、この状態なら……ドラゴン、もしかしたら……孵るかも知れない!!」
「えっ!? ほんとに? ヤッター……、ヴィヴィオラありがとう……」
けれども、歓喜に浸る間もなく、神斗様はバタリと机に突っ伏しました。
どうやら、限界のようです……。
「え!? 神斗大丈夫!?」とヴィヴィオラ様が肩をゆすってます。
ヴィヴィオラ様は平気のようですね、これは魔力量の違いでしょうか……。
それはそうと、えっと、孵るってあの孵るですよね?
生命体が生まれるっていう……あの孵るなんですよね?
このドラゴンの卵……孵化の可能性はゼロ……でしたよね?
「ドドドドドッドオッドドド、ドラゴンが孵化するかもですかーー!?!?」
案の定、布製の仕切りを荒々しくかき分け、部屋の空気を切り裂くようにギルド長が顔を突っ込んでくる。
「ギギギギギギ、ギルド長ぉぉぉぉっ!!」
「ドドドドドド、ドラゴンが孵るってのは、本当なのかあああっ!!」
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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