第79話 助っ人新人冒険者③
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「お前たち! 報告してやるから大人しくしとけって言っただろ!」
「「ごめんなさい……」」
ナザル・ギルド長の怒りはもっともだ。
彼の声には鋭い怒気が込められ、場の空気がピリッと引き締まる。
室内の温度がわずかに下がったかのような錯覚すら感じる。
このギルド内にいる他の冒険者もこちらの空気を察して静かに依頼完了報告している。
「そんなに怒らないでくれ。俺たちが無事だったのは彼らのおかげなんだ」
「しかし! ヴィヴィオラに何かあったら!」
「遠くから矢を射っただけだから……ウィル、ご、ごめんなさい」
「それでも!」
ウィルの怒りも無理はない。
商統との会合が終わったあと、私たちが帰ってこないのに気がついたナザル・ギルド長に呼び出されて待っていたらしい。
「俺が悪いんだ……ガビルが森に入ったから、ちょっと見るだけって……」
「私も止められなかったから……同罪です」
「まぁ、まぁ。俺だったらそうするから」
ミゲルさんは、その場をなんとかなだめようとしているが、ナザル・ギルド長の怒りは簡単には収まらないようだ。
ナザル・ギルド長の拳がカウンターを叩き音が響く。
「こいつらはFランクなんだぞ! 強いが圧倒的に実践が少ないんだ! そうだったな、ウィルヘルム!」
「そうです。剣を握ったのは一か月前ですよ」
「え? ソロFランク? 一か月前? そりゃ、凄いな。俺たちのパーティに入らないか?」
「勧誘は止めてください」
ウィルは、ピシャリと牽制する。
その表情にはわずかに苛立ちがにじんでいた。
「ヴィヴィ。こういう時は、助けを求めてギルドに戻ってくるのですよ」
「はい。その通りだと思います」
痛いほどの正論だった。
こうして怒られるのは当然だと思う。
「調査も助け貰いましたので、許してあげてくださいよ。ギルド長」
調査班の職員が、慌てた様子で助け舟を出した。
彼は宙吊りになっていた人だ。
「そうだ、彼女は無属性持ちなんだな。やっぱり俺たちーー」
「「勧誘は止めてください」」
ウィルと神斗は間髪入れずに拒否する。
「今回は相手が実力のないCランクパーティだったからよかっただけだ!」
「ガビルたちってCランクなの?」
パーティランクはソロの平均値で決まる。
つまり、Cランクということはメンバーそれぞれの冒険者ランクが一定以上でなければならない。
「冒険者ギルドの査定って大丈夫なのかな?」
ナザル・ギルド長は額を押さえながら苦々しく呟く。
「俺にいうな。キリフの冒険者ギルドが決定しているんだ。それに依頼を完遂していたらどうにもならん」
「横取りでも依頼完了ってなるのか」
「査定に関しては各ギルドの判断だが、俺のところではそんなことは許さない。依頼を受けた者が正当に実行しなければ、評価には値しない!」
ナザル・ギルド長の語気が強まるにつれ、受付の職員がビクリと肩を跳ねた。
「そんなことはどうでもいい!」
怒られるのは当然だ。
だからこそ、言い訳をする気にもなれない。
ただ、長い。
とても長い。
内容は理解しているし、反省もしている。
それでも説教は続き、続き、続く。
ふぇぇぇん……いつまで続くのコレ。
仕方がない……仕方がない……仕方がない、終わらせるには。
目よ。キュルキュルに潤へ!
「ねぇ……ウィル。ちょっと疲れちゃった……(ウルウル)」
ウィルの袖をチョコッと摘まみ、ほんのわずかに目を潤ませ、上目遣いで見上げる。
「!? ヴィヴィ! 大丈夫ですか?」
「おい! 王都から歩いてきたやつがこんなことぐらいで疲れるわけないだろ!」
「罠回収とかにMPたくさん使って貰ったんで本当だと思いますよ」
「ヴィヴィ、宿に戻りましょう」
みんなの死角から、神斗に「やってやったぜ」とハンドサインをする。
「ヴィヴィオラ……」
神斗の目が冷たい。
でも、疲れたのは本当なんだから!
「あぁ、わかった。わかった。そうしろ。まぁ、神斗の言う通りだとヴィヴィオラは仕方なくだったからな」
受けた依頼は、【収納】に入っているのもあり明日の報告で許してくれるらしい。
「だが、お前は残れよ。神斗」
ナザル・ギルド長が腕を組みながら静かに言い放つ。
「うそだろぉぉぉ!!!」
「報告書の作成に手伝ってもらうからな!」
報告書の束を指で弾く。
その声には容赦ない決定の響きがあり、逃げ道はないことを示していた。
「徹夜だな。頑張ろうな。新人冒険者」
「これも冒険者ギルドの大切な、お・仕・事だ。最後までかかわりたいだろう?」
神斗がバッとこちらを振り向き、助けを求める。
その目には「助けてくれ」とはっきり書かれていたが、私にどうすることもできない。
「神斗ごめん……ファイトぉ」
笑みを嚙み殺し、顔を隠すためにウィルの背中に顔をうずめる。
「ヴィヴィ!? そんなに!? 体調が悪いのですか!?」
ウィルの腕がすっと伸び、次の呼吸には、私の体が宙に浮いていた。
「うわぁぁぁぁあ!」
「それでは、お先に」
また、人前で抱きかかえられた!
ウィルは天幕の出口に向かって歩く。
「恥ずかしい! まだ、歩けるぅぅ ほんとに、まだ全然歩けるぅぅぅ」
「あいつ、本当に過保護だな。どうなっているんだ?」
そうでしょう!
出会ったときから過保護なんですよ!
ギルドを出た瞬間、夜風が頬を撫でる。少し冷たいけれど、それが逆に心地いい。
ウィルはしっかりと私を抱えたまま、まっすぐ宿へ向かっている。
「ウィル……本当に歩けるから、降ろしてほしい……」
「ダメです。念のため、宿に着くまでしっかり休んでください」
もう、どうしようもないな……諦めるしかない。
「はぁ……仕方ない」
そんな私の呟きを聞いたのか、ウィルの口元が少し緩んだ?
気のせいかもしれないけれど、ほんのわずかに、優しい笑みを浮かべていた気がした。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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