許すとか許さないとか④~other side~
「カナ、ごめん。俺……」
「本当にどうしたんだ?」
心配そうに顔を覗き込まれる。
俺がやったことだ。だから、泣いてはいけない。
グッと目に力を入れ、こらえる。
「痛いのか?」
「違う。俺、ずっとカナにひどいことをしてきた。マリアンばっかりで……」
カナの顔を見れなくて、視線を逸らす。
「……ふっ。ふふ…………あははは…………」
「カ……ナ…………?」
「何を言うのかと思ったら、そんなことか」
「そんなこと?」
意味が分からず、恐る恐るカナを見れば、目じりの涙を拭っている。
「別に私は気にしてないよ」
「……え?」
「弟がよその女性を好きになって、何かを思うわけがないだろう?」
優しく瞳を細め、カナは言う。
声は温かく、責める様子はない。
「弟? 俺の方が年上だ」
「そうだけど、すぐに迷子になるし、目を離せば問題を起こすじゃないか。それに、好きな女性と一緒の教室で過ごしたいからと留年までした。年上だなんて思えないよ。仮に兄として見たとしても、馬鹿兄だ」
「うっ……」
言い返す言葉もなく、うなることしかできない。
そんな俺の肩をカナはポンポンと優しく叩く。
「ログロスのこと、ずっと家族だと思ってる。親愛はあるけど、恋情はない。嫉妬をしたこともないよ。ただ、馬鹿だとは思ってたけど」
「おい!」
思わず声を上げれば、カナは器用に片眉をあげる。
「だって、そうだろ。相手は王子の婚約者だ。どうあがいても、ログロスと結ばれることはない。そんな相手に恋焦がれ続けてるんだ。馬鹿だよ。大馬鹿だ。でも、その様子だと目が覚めたみたいだね」
「そう……だな。今まで、悪かった。これからは、カナを大切にする」
決意を伝えれば、カナはまた笑う。
「いいよ。私は守られるようなタイプじゃない。それに、もうログロスには守ってもらったから」
「…………?」
そんな記憶なんてない。
ずっと助けられてきたのは俺の方だ。
それなのに、パーティーでは一緒に会場まで行き、そのあとはずっとマリアンといた。
マリアンと一緒にいないカナを責めた。
カナに贈り物をしたことだってない。けど、マリアンの誕生日プレゼントを買いたい時は、カナに一緒にきてもらった。
本当に、俺はろくでもない。
カナのために何かをしたことなんて、本当に何もないんだ。
「ログロスは、私が異国の血を……母が踊り子であったことを蔑まれることを良しとしなかった。私のことをはれ物扱いもせず、対等に接してくれた。周囲が何かを言わなくなるまで、私の代わりに言い返して、困ったことに暴力沙汰を起こしてくれたこともある」
「あれは、相手が悪い! 俺は悪くない‼」
「そう……だね。だけど、それが心強かったんだよ。ログロスのおかげで、ネイエたちと友人にもなれた。私の周りはログロスが繋いでくれた縁でできているんだ」
懐かしむようにカナは言う。
だけど、俺にはカナの言っていることがよく分からない。
「みんなカナが好きだから友だちなんだろ? 俺、関係ねーじゃん」
「そういうところだよ」
「どういうところだよ」
昔のようなやりとりだ。
よく分からないが、カナは許してくれたってことか?
「俺、カナと一緒にいてもいいのか?」
「いいも何も、私がいないと困るだろ。まったく、手のかかる弟だよ」
「弟じゃねーし」
噛みつくように言ったあと、一つの可能性に気が付いた。
俺だって、マリアンが好きだったんだ。カナだって……。
「カナ、誰か好きな男はいるのか?」
そう言った瞬間、背筋が凍るような冷たい視線を向けられる。
「私がそんなクズだと?」
「え? あ、その……」
「ログロスがクズなのは、仕方がない。だが、私まで婚約者がいるのに他者に懸想するクズにするな」
「…………俺のこと、クズだと思ってたのか?」
「当たり前だろ。互いに恋情を持つ持たないは別として、婚約者がいるにも関わらず、他所の女の尻を追いかかる男は全員クズだ。それに喜ぶ女もな」
吐き捨てるように言うと、カナは大きなため息をつく。
「反省して落ち込んでいるようだから言わなかっただけだ。ログロス、あなたは馬鹿でクズで、最低な男だ。きちんとそのこと、理解しておくように」
「…………おう」
「返事は「はい」だろう?」
「はい!」
そう答えた瞬間、拍手が聞こえてきた。
誰だ? と見れば、カミレが目を輝かせている。
「カナ様、かっこいい……」
そんなカミレを見て、カナは昔から令嬢に人気があったことを思い出す。
「怪我はどう? ログロスが申し訳なかった」
「頭をあげてください! カナ様が謝ることじゃありませんよ!」
「いや、婚約者の不始末は私の不始末だよ。傷が残らないといいのだけど……」
そう言ってカミレを見るカナは、男の俺から見てもかっこいい。
「もう二度と、こんなことはさせない。レフィト様も婚約者に怪我をさせて、申し訳ありません」
「うん。カナ嬢からの謝罪は受け入れるよぉ。これからも、カミレとほどほどに仲良くしてねぇ」
棘を含ませた言い方に、イラっとする。
だが、俺が何かを言う前にカナに睨まれる。
「レフィト、ほどほどって何? 失礼でしょ!」
「だって、カミレがカナ嬢のことかっこいいって言うからぁ」
「え⁉ そこなの? レフィトもかっこいいよ」
「オレだけじゃなきゃ嫌だ」
レフィトは頬を膨らまし、カミレがレフィトの頭を撫でている。
俺はいったい何を見せられてるんだ?
「じゃ、オレたち先に帰るねぇ。あ、そうそう。ログロス、これから大変だろうけど、逃げるなよ?」
俺にだけ向けられる殺意のこもった視線に頷く。
逃げない。
自分のやったことの責任を取る。
馬鹿でクズな俺ができるのは、それしかない。
新作短編
「お前を愛することはない」と言われたので、労働対価に食事を要求します を公開しました。
「お前を愛することはない」と結婚初夜に言われ、旦那がいなくなった瞬間に膝から崩れ落ちて笑い転げるヒロイン爆誕です。
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