許すとか許さないとか③〜other side〜
ログロスsideです。
俺は何を見て、信じてきたのか。
カミレに謝るつもりで、話し合いに出た。
「ごめん」と言えば、カミレなら許すだろうと、何となく思ってた。
たが、謝罪は受け入れられず、レオンハルトから見放された。……マリアンも、助けてはくれなかった。
そんななか「あなたが本当に困った時、そばにいてくれた人は誰でしたか?」というカミレの言葉に、見慣れた顔を思い出す。
「カナ……」
無意識に名前が口を出た。
太陽が似合うカラリと明るい笑顔と、褐色の肌。
母親の出自で何を言われようと、夜を思い出す神秘的な紫の瞳は、どんな時も下を向くことはない。
「カナ…………」
今度は意識して呟けば、胸の奥があたたかいどころか、真夏の日差しを浴びたかのように熱くなる。
カナはいつだって、俺が道に迷えば探しに来てくれた。
勉強を教えてもらったことも数え切れない。
子どもの頃は、いつだって一緒にいた。
いつからだ?
カナが俺のそばからいなくなったのは……。
いや、違う。俺がカナを雑に扱うようになったんだ。
「……俺は今まで」
カナを覚えているのに、忘れていた。
マリアンだけを見て、マリアンだけを信じ、マリアンさえ笑っていれば、その他のことはどうでも良かった。
カナが大好きだったはずなのに。
その気持ちが抜け落ちてた。
何で、こうなった?
思い出そうとするが、頭にモヤがかかったみたいに、記憶がハッキリとしない。
鈍く痛む頭と情けなさに視線が下がる。
「これから、どうしたいですか?」
カミレの声に、何故かモヤがほんの少し晴れた。
「これから?」
のろのろと顔を上げれば、空色の目が俺をまっすぐに見ている。
「はい。レオンハルト王子の側近候補ではなくなった、これから先です」
これから先……か。
望んでもいいのか?
分からない。
分からないけれど──。
「カナは、馬鹿な俺とずっと一緒にいてくれたんだ……。俺がマリアンばかりを見ていても、馬鹿だと言いながらもと一緒に……。もし、カナが許してくれるなら…………」
またカナと一緒にいたい。
その気持ちを言おうとして、自分勝手だと思った。
俺が言葉にしたら、いけない気がする。
「…………間に合う……と思うか?」
情けない声だった。
カナは謝れば、許してくれるだろうか。
また、遠乗りしてーな。
領地でカナと愛馬に乗って、日が沈むまで走りたい。
……もう、駄目かもしんねーけど。子どもの頃みたいに。
「それは、分かりません。でも、向き合ってみてはどうですか?」
そう……だな。それしかない。
逃げ出したいくらい、怖い。
けど、遅くなればなるほど、カナが俺から離れていくのは、さすがに俺でもわかる。
「……あぁ、そうする。ありがとう。カミレ、本当に申し訳なかった」
頭を大きく下げる。
謝罪への返事はないけれど、別にそれで良かった。
謝られたからって、許さないと駄目なわけじゃない。
それすらも、やっと思い出した。
「いつか、ログロス様が本当の意味で誰かを大切にしている姿を見せてください」
それでも、優しい言葉をくれる。
レフィトが惚れるわけだ。
話し合いが終わり、俺はすぐ席を立つ。
早くカナに、今までのことを謝らねーと。
許してくれなくても、何度でも謝って、変わる努力をする。
今度は俺がカナの助けになる。カナの笑顔を守る。
一秒でも早く会いたい。
その思いのまま、謁見の間を出るために扉へ向かおうとした。
だが、父上に肩を摑まれる。
「ログロス、どこに行く。陛下に考え直してもらうぞ」
「そんなこと、しなくていい」
「何を馬鹿なこと言っている? 困るのは、お前だ」
俺の肩を摑む手に力がこもる。
その手が昔は大きくて、逆らえなかった。
「困らねーよ。もう必要ない」
「何言ってるんだ! 早く行くぞ」
摑まれている手を叩き落とす。
驚きに見開かれた父上の目に、そういえば反抗したことがなかったな……と思う。
「俺が悪かったんだ。罰は受ける。陛下に話すなら、父上一人で行けばいいだろ。俺はそんな恥ずかしいことしない」
父上は怒って顔を赤くした。
殴られるな。
そう思ったが、陛下の前だからか手を出されることはなかった。
「先に帰ってる」
父上の返事を待たず、謁見の間の扉に手をかける。
強い視線を感じて振り向けば、マリアンが泣きそうな顔をしていた。
反射でマリアンの方に戻ろうとして、足を止める。
すぐに駆け寄って、マリアンが悲しまないようにしなければ。
もう関係ないだろ。
二つの声が頭から聞こえる。
マリアンの赤い目を見ていたら、頭の中にモヤが広がっていく。
「…………マリアンのところに行かないと」
ふらりと足を踏み出した時、マリアンのイヤリングが窓から差し込む陽の光を反射して光った。
眩しくて目を閉じた時、瞼の裏に太陽のような笑顔がチラついた。。
「…………あ……れ?」
俺はカナのところに行きたかったはず。
自分の行動が理解できなかったが、勘でマリアンから視線を外す。
そうすれば、頭の中がすっきりとした。
「ログロス……」
名前を呼ばれたけれど、もうマリアンの方は向かなかった。
目を見なければ、驚くほど心が動かない。
それどころか、何であんなに必死に守ろうとしてきたのか不思議でならない。
カミレに小さく頭を下げて、謁見の間を出た。
そうすれば、会いたいと思っていた人が目の前にいる。
「カナ……」
「ログロス! ちゃんとカミレ嬢に謝罪できた? 一緒に謝ろうか?」
「……謝れた。許してはもらえなかったけど、それも当たり前だからいい。これから償っていく」
そう答えれば、カナの手が俺の額に触れる。
「熱は……ないな。頭でも打ったのか? ログロスがまともなことを言うなんて……」
あまりの言いように、言い返そうとして、口を閉じた。
たしかに、俺はまともじゃなかった。
カナの言う通りだ。
まだログロスside続きます。
よろしくお願いいたします。




