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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
2章 ハトになったわたくし
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4話 ハト胸がほっこり暖かくなる

 

「あっ……」


 逃げ場がなくなり、わたくしは愕然とする。


 わたくしの絶望に反して、ピジン副隊長は明るい口調だ。


「お前か。いいところに来た」

「なんずいぶん楽しそうだな。仏頂面のピジン様にしては珍しい」

「様付けはやめろ。同い年だろ」

「つっても、警備隊では上司だからな。敬意を払わないと、首が切られ……あれ?怪我、しているのか?」

「まあな、つつかれたんだ」

「つつかれた?」


 部屋に、ピジン副隊長ともう一人の男が入ってくる。


 ピジン副隊長は嬉しそうにしているが、傍らの男性は険しい表情を浮かべている。男性に見覚えはない。さっきの会話から察するに、警備隊のしたっぱだろう。


「この鳩か?なんか汚い鳩だな。野生だろ」

「いや、野生ではない」

「本当か?だって、飼われている鳩なら、足になんかついているだろ」

「リングはついてないが、野生にしては人馴れしすぎている。きっと、捨てられたんだ」

「……いや……」


 部下は眉を潜める。


「……もしかしたら、トッキャ大臣の新たな嫌がらせかもしれないぞ」


 ピジン副隊長はキョトンとする。


「トッキャ大臣? なぜあの人の名前が出てくるんだ」

「お前はトッキャ大臣のとこの商店の連中をガンガン逮捕しているだろ。それを恨まれて、嫌がらせしてきているだろ」

「……嫌がらせ……?」

「気づいていないのか。お前、先月、逮捕されただろ。賄賂しただのなんだのって言われて。証拠不十分でどうにかなったが、あれもトッキャ大臣のせいだって専らの噂だぞ」

「バス。証拠もないのに、人を疑ってはいけないぞ」

「……俺、お前のそういうところ、大好きだ」

「? ありがとう」


 本人は分かっていないようだが、わたくしは全てを察する。


 トッキャ大臣の母方筋は、代々大臣を担っている家系だが、父方は貿易商の家系だ。トッハ国最大の商店であり、経済界での影響力は大きい。


 特にトハエイでは甚大な権力を握っている。商店に睨まれたら、たとえどれほど国民に人気な商品を売るお店も、即座に潰されてしまう。


 同業他社を悉く潰し、商売を独占するその様は、国民から批判され、嫌われている。


 彼らは、国から罰せられない。


 トッキャ大臣が訴えを全て切り捨てているのもあるが、他の政治家にも多額の献金をしているため、目をつぶってもらっているのだ。


 しかし、最近は風向きが変わってきている。


 近年、罪を犯した商店の人々が捕まっているのだ。犯罪の内容は暴行や痴漢などなど、捕まって当然の内容ばかりだが、昔はどんな犯罪でも、商店の人間に容疑がかかっていれば、もみ消され、なかったことにされていた。


 なぜ、今になって、商店の人間が罰を受けているのか。


 理由は、ピジン副隊長が真面目に仕事をしているせいであったのだ。


 商店の人間の犯罪が明るみに出て、国民は商店への嫌悪感をさらに増している。彼らの怒りは商店だけでなく、商店と深いつながりのあるトッキャ大臣への批判にもつながっている。


 トッキャ大臣は、どんなあくどいことをしてでも、勝利をつかみ取る男だ。多少の嫌がらせは、彼にとっては当然のことだろう


 そんなことを考えていると、わたくしの頭上にかげがさす。


 見上げると、バスがわたくしをのぞき込んでいた。


 彼は、いう。


「トッキャ大臣が放った刺客が、お前にそのハトを送りつけたのかもしれないぞ?」


 なにやら、事態は妙な方向に進んでいる。


 ピジン副隊長はぽかんと口を開ける。


「ハトを? えっと、……この子に手紙を括り付けて、相手に返すために?」

「違う違う! そうじゃない。なんか、ほら、病気の鳩を送りつけて、お前に移す、みたいなの!」

「漫画の読みすぎだろ」

「揶揄うな。俺は本気で言っているんだ」


 彼はわたくしを見下ろす。


 その眼は、敵意に満ちていた。


「友人として、ちょっとでも危険があるなら、排除しなくてはならない。そうだろ? 大丈夫。お前の動物好きは分かっている。俺が絞める」


 事態は最悪な方向へと進んでいる。


 扉が一瞬開いたとき、逃げていれば、助かっていたかもしれない。


 今さら、遅いけれど。


 わたくしは、古い本の挿し絵で見たことかある、鶏を絞めているイラストを思い出す。


 あのときは特になにも思わなかった。鶏を処理するときは、首を絞めればよいのだと、要らぬ知恵を増やしていただけだった。


 今のわたくしは、絞められることへの恐怖に怯えていた。


 暴れれば、どうにか逃げられるかもしれない。


 けれど、逃げられないかもしれない。


 どうすれば、どうすれば、どうすれば、


「ばか野郎!」


 突如、ピジン副隊長が叫ぶ。


 あまりの勢いに、部下は驚いて後ずさり、棚に乗っていた小物が落ちる。


 散乱する物のなかで、部下はぽかんと口を開けていた。


「……へ?な、なんです?」

「なんです、じゃない!!」


 ピジン副隊長は、顔を真っ赤にさせて怒鳴る。


「俺が怪我したのは、俺が悪い!俺がこの子のことを考えずに触ってしまったのが悪い!つついて当然!怪我をして当然だ!それなのに、絞めるだと?ふざけるな!」

「わ、わかったわかった。わかったから、落ち着け落ち着け」


 部下は小物を適当に棚に戻す。


「落としてすまなかったな」

「それよりも、あの子に謝れ。怖がっていたぞ」

「……」


 部下は何とも言えない表情でわたくしに頭を下げる。


「すまなかったな、鳩坊」

「その子は女の子だ」

「……えっと、すまなかった、鳩のお嬢さん」


 部下がちらっとピジン副隊長を伺う。


 ピジン副隊長はなにも言わない。


 じっと、わたくしを見ていた。


 言わんとしていることが、なんとなく伝わる。


 きっと、彼はこう思っているに違いない。


 ――鳩、つまりわたくしが許さないと、俺も許さないからな、と。


「べ、別に構わない、わよ?」


 ピジン副隊長は腕組みをしている。険しい顔は変わらない。


「……えーっと、」


 小首をかしげてみた。


 まだまだピジン副隊長は怖い顔をしている。


「……ぽ、ぽっぽー」


 わたくしは一声鳴いてみた。怒ってないよと気持ちを込めて鳴いてみると、思ったより柔らかい声が出た。


 ピジン副隊長を伺う。


 ニッコリと笑っている。満足してくれたようだ。


 ピジン副隊長の部下は軽く埃を払う。


「全く、お前の動物好きは異常だな」

「仕方ないだろ」


 ピジン副隊長はぎゅっとわたくしを抱きしめる。


「この子が可愛いのが悪い!」

「かっ、可愛い……!」


 どうみても可愛くない。


 上から見ても下から見ても、右から見ても左から見ても、どこからどうみても可愛くない。


 きっと、ピジン副隊長の目や頭がおかしいのだろう。


 そうに違いない。


 そう、分かっているのに。


「……」


 わたくしの胸が、暖かくなるのは、どうしてなんだろう。

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