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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
2章 ハトになったわたくし
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1話 醜く汚いハトになった、わたくし

 そしてわたくしは、鳩になっていた。


「そ、そんな……!どうしてわたくしが、こんな醜い動物に!!」


 魔法使いを探して歩き回るが、彼女はどこにもいなかった。


「……ど、どうしましょう……」


 ぺたりと地面に座り込む。無理に探し回ったせいで、足が痛んでしまった。もう動けそうにない。


「おや、こんなところにハトがいるぞ」


 聞き覚えのある男性の声に、はっと顔をあげる。


 トッキャ大臣だ。


「大臣!わたくしです。リルイア・ヘロデ・トバラワカです!屋敷のものたちを全員集めてください。黒のローブをまとった女魔法使いを探すのです!」


 しかし、トッキャ大臣は眉をひそめて、嫌悪感をむき出しにする。


「汚らしいハトめ。どこかへいけ」


 トッキャ大臣は、なんと、わたくしを蹴ってきた。


「なっ!」


 わたくしはあわてて後ろに飛び退く。


「お、王家の血を引くわたくしに向かって、なんたることを!あなたといえども許せません。この国から追放しますわ!」


 力のあるトッキャ大臣を追放するのは骨がおれるが、わたくしの力をフルで使えば出来ないことはない。


 しかし、トッキャ大臣は再度わたくしを蹴ってくる。


「お、おやめなさい!」


 わたくしはハッとする。


「もしかして、わたくしの声が聞こえていないの?」


 トッキャ大臣は小さくため息をつく。


「全く。吾輩は鳥は嫌いなんだ。ハトはもっと嫌いだ。さっさと飛べ。でなければ、殺すぞ!」


 トッキャ大臣の目が、動きが、確実にわたくしの息の根をとめようとしていた。


「っ!」


 わたくしは無我夢中で羽を動かす。


 ふわりと、宙に浮く。


「ひっ!」


 生まれてはじめて経験する感覚に、わたくしは恐怖を覚える。


 けれど、飛ばなくては、わたくしはトッキャ大臣に蹴られて死んでしまう。


 わたくしはぎゅっと目をつぶり、必死に羽を動かし、空へと飛び立った。


 ○○○


 まだ義理の両親に引き取られる前、わたくしは実の両親から厳しい教育を受けていた。


 嫌気がさしたわたくしは、青空を気持ち良さそうに飛ぶ鳥をみて、こう思った。


 空を飛んで、自由になりたい、と。


 そして、鳥になってしまったわたくしは、こう思う。


 早く人間に戻りたい、と。


 空を飛ぶのは、思ったより楽しくなかった。


 そう、例えるなら、激しいリズムのダンスを十回連続で踊るようなものだった。


 地上のダンスなら、一休憩もいれやすいが、空で休憩をしたら、すぐに下に落ちてしまう。


 わたくしは荒い息をたてて、翼を上下に動かす。


「つ、疲れた……。どこかで、どこかで休まないと……」


 目の前に、展望台が見えた。


 わたくしはそこに降りることとした。


 トッキャ大臣から逃げられた安心感と、はじめての飛行に、わたくしはげっそりする。


「もう、どうしてわたくしがこんな目に……!」


 あの魔法使いを見つけたら、絶対に処刑してやる。


 そう意気込んでいられたのも、ほんの一瞬だけだった。


 展望台には、先客がいた。


 物音がして振り返り、わたくしは固まった。


 五羽ものカラスが、目を爛々と輝かせて、こちらを見つめていたのだ。


「ひ、ひいっ!」


 飛んで逃げると、カラスは追いかけてくる。


 カラスたちは、私を食おうとしているのだ。


 飛行能力も、数の上でも、向こうの方が上だった。


 わたくしが上に逃げようとしたら、一羽のカラスが先回りしている。


 左に逃げると、そちらにもカラスがいる。


 下にも、待ち受けている。


 迫るカラスから逃げようと、わたくしはカラスがいない方向に逃げる。


「こっちこないで!わたくしは人間よ!」


 こちらの声が聞こえているのかいないのかは分からないが、カラスは楽しそうな鳴き声をあげる。


「こんなところで、死にたくない……!」


 どこかに隠れなくては、と辺りを見渡し、


 わたくしは、気がついた。


 真っ正面には、巨大な建物が建っていた。


 このまま飛ぶと、激突してしまう。


 避けようとするも、周りはカラスが飛んでいて、身動きができない。


 気づかないうちに、カラスに追い込まれていたのだ。


 壁に激突するか、カラスの餌食になるか。


 唐突な選択に、わたくしはパニックに陥る。


 どちらがいいか、どちらの方が生き残るか、なんて、考えられなかった。


 ただがむしゃらに飛んで、飛んで、飛んで、


 わずかにあいていた建物の隙間に滑り込んだ。


 カラスは、入ってこない。


 何かが身体を撫でる。風だと分かっていても、身体が震える。


 カラスは、入ってこない。


 カラスは、入ってこない。


 ……カラスは、入ってこない。


 わたくしは恐る恐る顔をだす。カラスは諦めたのか、遠くの空に消えていった。


 ほっとした私は、その場にしゃがみこむ。


「……元の姿に、戻れるのかな……」


 魔法使いは、何と言っていたか。


 愛がどうのこうのと口にしていたような気がする。


 魔法使いに言われなくても、わたくしは愛を知っている。だって、わたくしは愛されていたのだから。


「あの魔法使いを、探さないと」


 どんな手を使ってでも、わたくしを元に戻してもらわねばならない。


 もう一度空を見渡す。カラスの姿はみえない。それどころか、空を飛ぶ生物もいない。


 原因は、空を漂う雲のせいに違いない。雲の色は黒く、重々しい。暫くすると雨が降ってくるに違いない。


 野生の動物なんて興味はなかったのでよく知らないが、雨の中空を飛ぶと、低体温になって衰弱してしまうかもしれない。


 雨が降る前に、あの魔法使いを探さねばならない。


「……」


 わたくしは恐怖を押し殺して、空へと飛び出した。


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