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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
1章 美しく、愛されているわたくし
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3話 魔法使いの呪い

 

 庭師は即座にクビにした。


 訴訟はしなかったが、別に彼を許したからではない。あのあんな男を訴える暇があるなら、生意気な男、ピジンをどうにかしてしまいたい。


「ほんと、これだから庶民上がりは嫌いなのよ!!」


 ピジンを処罰するのは当然として、第二第三のピジンを生まないため、国王陛下に頼んで、貴族以外は要職につけないように訴えよう。


 イライラして屋敷に戻る最中、とことこと、一羽の鳩が歩いているのが見えた。


 鳩は一心不乱になにかをついばんでいる。


 見たくはなかったし、見ていないが、何を食べているか察しがつく。


 トッキャ大臣が踏み潰した、あの虫だ。


 背中に悪寒が走る。


 わたくしの視界に入ってよいものは、美しいものだけだ。


 色とりどりの花、輝く宝石。


 思い通りにならない動物は嫌いたが、孔雀や川蝉など、見目麗しい動物なら許せる。


 鳩は許せない。


 灰色の汚ならしい羽は、貧困層の服装のようで、首もとの色味は娼婦の化粧のよう!


 下品で喧しい鳴き声に、なんでも食べる貪欲さ。


 全てにおいて、気味が悪い。


「わたくしの前で、醜い姿をみせないでください!」


 近づきたくもなくて、足元にあった石を投げつけた。


 驚いた鳩は慌てて飛んでいった。


「ふん、いい気味ね」


 誰かに頼んで、屋敷に虫一匹たりとも、鳩一羽たりとも寄せ付けないように命令しなくては。


 屋敷に戻ろうとすると、誰かが声をかけてきた。


「ちょっとお待ちなさい」


 さっきまで人の気配はなかった。びっくりして振り返ると、そこにいたのは怪しい女性だった。


 服には所々泥の汚れがついていて、履いている靴もボロボロ。顔はしわだらけで、スラム街にいそうな女性だ。


 嫌な匂いがこっちにも漂ってくる気がして、わたくしは顔をしかめる。


「なんですの、あなた。ここはわたくしの屋敷です。出ていきなさい」


 しかし、彼女は出ていく素振りを見せない。それどころか、わたくしを睨みつける。


「美しいお嬢さん。動物を傷つける行為はおやめなさい。全ての生きとし生ける者に敬意を持たねば、せっかくの綺麗なお顔が醜く穢れ、誰からも愛されなくなります」


 しゃがれた声で、彼女は説教をしてくる。


 わたくしより下劣な身分の癖に、何を言っているのだろうか。口をきくだけでおこがましいのに、なぜ偉そうに叱られねばならないのか。


「僻みも大概にしなさい。動物に優しくしなくても、わたくしは愛されています。あなたとは違いますの」


 早くこの老婆を追い出してしまいたい。


 誰か呼ぼうと辺りを見渡す。いつもなら、わたくしの要求に答えるため、誰かしら側にいるが、なぜか今はいない。


 何をしているのかと苛立っていると、貧民女も理不尽に怒鳴ってきた。


「あなたは、少々痛い目にあわねばなりませんね」


 女は、くるりと回転する。途端、老婆の身体が光り輝いた。


「わっ! なんですの!?」


 光が収まると、老婆の姿が変容していた。


 老婆が身にまとう汚らしい布切れは、夜空を映したローブへと変化し、しわだらけの顔は雪のように白くなっている。


「あ、あなたは……。まさか、魔法使い……!」


 この世界には、魔法使いと呼ばれる人がいる。彼らは、自然の力を用い、不思議な現象を起こすとされている。


 魔法使いは人前に姿を見せないので、わたくしは実在するとは思っていなかった。


 わたくしは慌てて頭を下げる。


「わ、わたくしとしたことが。魔法使い様とは思いませんでした。大変失礼しました」


 しかし、魔法使いの表情は固い。


「先ほどとは態度が違いますね。どうやら、あなたは見た目や身分で左右されるようですね。……しかし、環境のせいもあるでしょう。そんなあなたを『愛して』しまっている周りも悪ですね」

「お許しください、わたくしは、」


 こちらの話を聞かず、彼女は杖を握る。


「いいでしょう。ここであったのも縁です。あなたに魔法をかけてあげましょう」


 逃げる間もなく、わたくしの身体が輝く。


 魔法使いは冷たく言い放つ。


「あなたが本当の『愛』を理解するまで、その姿のままでいなさい」


 その言葉を最後に、わたくしの意識は失われた。


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