3話 魔法使いの呪い
庭師は即座にクビにした。
訴訟はしなかったが、別に彼を許したからではない。あのあんな男を訴える暇があるなら、生意気な男、ピジンをどうにかしてしまいたい。
「ほんと、これだから庶民上がりは嫌いなのよ!!」
ピジンを処罰するのは当然として、第二第三のピジンを生まないため、国王陛下に頼んで、貴族以外は要職につけないように訴えよう。
イライラして屋敷に戻る最中、とことこと、一羽の鳩が歩いているのが見えた。
鳩は一心不乱になにかをついばんでいる。
見たくはなかったし、見ていないが、何を食べているか察しがつく。
トッキャ大臣が踏み潰した、あの虫だ。
背中に悪寒が走る。
わたくしの視界に入ってよいものは、美しいものだけだ。
色とりどりの花、輝く宝石。
思い通りにならない動物は嫌いたが、孔雀や川蝉など、見目麗しい動物なら許せる。
鳩は許せない。
灰色の汚ならしい羽は、貧困層の服装のようで、首もとの色味は娼婦の化粧のよう!
下品で喧しい鳴き声に、なんでも食べる貪欲さ。
全てにおいて、気味が悪い。
「わたくしの前で、醜い姿をみせないでください!」
近づきたくもなくて、足元にあった石を投げつけた。
驚いた鳩は慌てて飛んでいった。
「ふん、いい気味ね」
誰かに頼んで、屋敷に虫一匹たりとも、鳩一羽たりとも寄せ付けないように命令しなくては。
屋敷に戻ろうとすると、誰かが声をかけてきた。
「ちょっとお待ちなさい」
さっきまで人の気配はなかった。びっくりして振り返ると、そこにいたのは怪しい女性だった。
服には所々泥の汚れがついていて、履いている靴もボロボロ。顔はしわだらけで、スラム街にいそうな女性だ。
嫌な匂いがこっちにも漂ってくる気がして、わたくしは顔をしかめる。
「なんですの、あなた。ここはわたくしの屋敷です。出ていきなさい」
しかし、彼女は出ていく素振りを見せない。それどころか、わたくしを睨みつける。
「美しいお嬢さん。動物を傷つける行為はおやめなさい。全ての生きとし生ける者に敬意を持たねば、せっかくの綺麗なお顔が醜く穢れ、誰からも愛されなくなります」
しゃがれた声で、彼女は説教をしてくる。
わたくしより下劣な身分の癖に、何を言っているのだろうか。口をきくだけでおこがましいのに、なぜ偉そうに叱られねばならないのか。
「僻みも大概にしなさい。動物に優しくしなくても、わたくしは愛されています。あなたとは違いますの」
早くこの老婆を追い出してしまいたい。
誰か呼ぼうと辺りを見渡す。いつもなら、わたくしの要求に答えるため、誰かしら側にいるが、なぜか今はいない。
何をしているのかと苛立っていると、貧民女も理不尽に怒鳴ってきた。
「あなたは、少々痛い目にあわねばなりませんね」
女は、くるりと回転する。途端、老婆の身体が光り輝いた。
「わっ! なんですの!?」
光が収まると、老婆の姿が変容していた。
老婆が身にまとう汚らしい布切れは、夜空を映したローブへと変化し、しわだらけの顔は雪のように白くなっている。
「あ、あなたは……。まさか、魔法使い……!」
この世界には、魔法使いと呼ばれる人がいる。彼らは、自然の力を用い、不思議な現象を起こすとされている。
魔法使いは人前に姿を見せないので、わたくしは実在するとは思っていなかった。
わたくしは慌てて頭を下げる。
「わ、わたくしとしたことが。魔法使い様とは思いませんでした。大変失礼しました」
しかし、魔法使いの表情は固い。
「先ほどとは態度が違いますね。どうやら、あなたは見た目や身分で左右されるようですね。……しかし、環境のせいもあるでしょう。そんなあなたを『愛して』しまっている周りも悪ですね」
「お許しください、わたくしは、」
こちらの話を聞かず、彼女は杖を握る。
「いいでしょう。ここであったのも縁です。あなたに魔法をかけてあげましょう」
逃げる間もなく、わたくしの身体が輝く。
魔法使いは冷たく言い放つ。
「あなたが本当の『愛』を理解するまで、その姿のままでいなさい」
その言葉を最後に、わたくしの意識は失われた。




