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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
1章 美しく、愛されているわたくし
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2話 いけ好かない男

 

 わたくしのお屋敷は、各国から取り寄せた珍しいお花が咲き乱れている。


 遊びに来たお嬢様方も、感嘆のため息をつく。


「素晴らしいわ」「いい香り」「さすがリルイア様のお屋敷ね」


 女性たちからの評価は上々。


 男性たちも、はじめは関心がなさそうにしていたが、花が各国から取り寄せたものと伝えると、目を変えて花を眺め、嬉々として外交や商売の話をしはじめる。


 暖まる場を眺め、ほくそ笑む。


「リルイア様の庭園は本当にすばらしいですなあ」


 トッキャ大臣も髭を撫でて、ご満悦の様子だ。


「おほめいただき、光栄ですわ」

「はっはっは。君はまさに才色兼備だな。美しく、それでいて賢い」


 彼はわたくしの髪をとく。「葉っぱがついていた」と口にしていたが、わたくしに触りたいだけに違いない。


 あとで、しっかりと髪を洗わなくては。


 心の中の嫌悪を隠し、わたくしはお礼を口にする。


 そのときだった。


「きゃあ!む、虫!」


 女性の甲高い声が上がる。驚いて声のした方を見ると、白い女性の手に緑色の芋虫が這っていた。


 近くにいた男性が助けようと近寄るも、トッキャ大臣が制す。


「まあまあ、我輩に任せなさい」


 トッキャ大臣は虫を払い、踏み潰す。


 虫はわずかに震えるが、トッキャ大臣がもう一度踏みつけると、動かなくなる。


 トッキャ大臣は満足げに頷くと、女性の手をとる。


「大丈夫だったかい?」

「あ、ありがとうございます」


 手はしっかりと握り、挙げ句のはてには揉みはじめる。


 彼の女好きは世間にも知られている。


 けれど、彼は地位も高く、逆らった者は容赦なく切り捨てる。


 文句を言える人はいない。女性本人も引きつった笑みでお辞儀をする。


 さっきまでの穏やかな空気はなくなり、場がしらけてしまっている。


 騒ぎを聞き付けてか、庭師がかけてきた。


 わたくしの完璧な作戦をふいにした罪は重い。


「ちょっと。今日の朝、しっかり庭の手入れをしなさいって命令しましたよね?」

「え、ええ……。まさか、どこか壊れていましたか?」

「違うわ。虫が出たのよ!虫!」

「虫、でございますか……?」


 庭師はぽかんと口を開けている。それがどうしたと言いたげだ。


 彼の間抜け面に、わたくしの怒りは爆発する。


「あんた、何様のつもりよ!!!誰に口答えしているのよ!」

「も、申し訳ありません」

「あなた、クビよ」

「っ!で、ですが、」

「それだけですむと思わないことね。業務を怠ったと訴えさせていただきます」

「そ、そんな……!」


 わたくしの権力があれば、庶民の一人や二人有罪にするなど造作もない。


 わたくしに恥をかかせたことを思い知るがいい。


「……ちょっとお待ち下さい」


 庭師のせいで生まれた重い沈黙を、一人の男性が破った。


「外ですから、虫がいて当たり前ですよ」


 真っ白な鎧や、銀色の勲章から推察するに、彼は首都トハエイを守る警備隊の幹部だ。


 肌の色は褐色。トッハ国は白い肌を持つ民族なので、別の国からの移民だろう。


 該当するのは、一人しかいない。


 ピジン・コルンバ。


 庶民上がりの騎士。


 実力だけで警備隊副隊長に上り詰めた凄腕。


 が、こういう場に出てくるタイプではない。


 よく男性たちに「庶民上がりなのに、図々しい」「腕はよくても礼儀がなってないとな」と嫌みを言われている。


 目立つ容姿から、女性からの評価はよかったが、わたくしは男性側の意見に賛同したい。


「なんですのあなた。これは我が家の問題ですの。あなたは関係ありませんよね? それとも、あなたがいらっしゃった国では、無礼な発言をしなくてはならないルールでもあるのですか?」


 周りの女性たちはくすくすと笑う。


 動揺でもすれば面白いが、ピジン副隊長は眉もひそめずに噛みついてくる。


「しかし、あなたのおっしゃっていることは間違って」


 立場違いのご指摘は、トッキャ大臣の一喝でかきけされた。


「ピジン!失礼だぞ。後ろに下がれ!」

「ですが、大臣……」

「大臣命令だ。逆らうのか!」

「……」


 ピジンは歯を食い縛り、後ろに下がる。


 警備隊は内務省の管轄、そしてトッキャ大臣は内務大臣だ。トッキャ大臣の命令には逆らえない。


 トッキャ大臣は、甘い声でわたくしに謝る。


「すまないな。我輩の顔に免じて許してくれ」


 とんでもなく自信に溢れている。


「……ええ、わかりました」


 渋々そう言うが、苛立ちはなくならない。


 そのあとはお茶会の予定だったが、問答無用で解散した。


 不満そうな顔をした人もいるが、知ったことはない。わたくしの気を損ねた庭師とあの男が悪い。


 むしろ、なぜわたくしの機嫌を取り持とうとしないのか、わたくしにはそれが不思議でならない。


 トッキャ大臣はさすがにわたくしに気を使ってくれた。


 わたくしの容姿を誉め、庭師を貶し、ピジンを叩く。


「あんな男、気にしなくてもいいですよ」


 トッキャ大臣は嫌悪をむき出しにする。


「本当はさっさとクビにしたいんだ。しかし、あの男は市民に媚を売っていましてね。そのせいで解任はできない」


 トッキャ大臣は嫌らしい笑みを浮かべる。


「どうせ、体でも売っているのでしょう。移民らしいふるまいです。タイミングをみて、解任させようと考えております」


 わたくしは静かに言う。


「ならば、わたくしも協力しましょう」

「と、いいますと?」

「わたくしは王族の血を引いております。国王陛下に直談判して、あの男を牢屋に入れましょう」

「ろ、牢屋?」


 何を驚いているのか。わたくしにはさっぱりわからない。


「当然ですわ。わたくしをこけにしましたもの」


 トッキャ大臣はニヤリと笑うと、「さすがリルイア様」とおどけてみせる。


「当然よ」


 わたくしは鼻をならす。


「だって、わたくしはリルイア・ヘロデ・トバラワカですもの」


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