巻き込まれ召喚者
「よく来てくれた勇者諸君」
「?」
「陛下、一人多いですわ」
「なに?1、2、3、4、5…6人いるな」
「はい」
只、いつも通りの道を歩いていただけだった。
なのに何故、宮殿の様な場所にいるのか?
「ここは何処だ?俺達に何をした」
大柄な茶髪の男子高校生が兵士に阻まれながら、先程から意味の分からないことを言う男女に食ってかかる。
「先ずは、此方の勝手で貴方方を召喚した事は詫びよう。しかし、この世界は現在…魔王の軍によって攻められている。しかもだ、他種族の国らもそれに乗じて戦争を仕掛けられている状態だ。異世界の勇者達よ。どうか、我々人間を助けてくれまいか」
「わかりました。全力で助けましょう」
金髪のイケメンが何を狂ったかやる気マンマンだ。
「では、ステータスと唱えて下さい。氏名、年齢の後にレベル、HP、MP、職業、スキル、称号と続きます。先ずは職業が勇者である事と、称号に勇者が、ある事を確認して下さい」
「ステータス」
氏名 叢雲誠一郎
年齢 26
レベル 10
HP 60
MP 600
職業 万物召喚師
スキル 万物召喚 ストレージ 叢雲流剣術 叢雲流槍術 叢雲流弓術 風属性魔法 火属性魔法 水属性魔法 土属性魔法 聖魔法 風火水土聖属性創造
称号 巻き込まれ召喚 叢雲流師範代
うん、俺は勇者ではない。
それにしても、スキルや称号にうちの叢雲流が出てくるとは思わなかった。
叢雲流とは、初代晴政が戦国の世を百姓、庶民階級の者が合戦で生き抜く為に道場を作った事から始まる。
間合いの外にから相手を殺す為に急所を狙う事を重点に置いた槍術から始まり、弓術、剣術と広まった。
5代目愛太郎が叢雲の姓を授かると、叢雲道場とし叢雲流を名乗った。
すぐに勇者達が名乗りを上げる。
剣の勇者は金髪イケメン如月光輝
槍の勇者は大柄茶髪皐月裕樹
弓の勇者はインテリ眼鏡香月春樹
魔法の勇者はギャル水月愛奈
聖魔法の勇者は清楚系葉月絆奈
美男美女の高校生達が勇者だったが…あれ?俺一人で剣も槍も弓も魔法も聖魔法も出来てしまう。
バレる前に逃げよう。
「あのーすみません。俺は巻き込まれた一般人の様です。申し訳ありませんが、戦争にも参加出来きる様なスキルありません。地球に帰る事は可能ですか?」
「そうか。申し訳なかった。帰すことは不可能だ。なので数ヵ月は暮らしていけるだけの金をやるから、何処かで静かに暮らしてくれ」
「わかりました」
お金を受け取ると王城から出る。
城下は綺麗に整備されていた。
街は既に夕暮れ、教えられた宿屋に入る。
「泊まりにきたのか?それとも飯か?」
「両方です」
「了解!先ずは飯でも食っていけよ」
俺は空いているカウンターに座った。
「何日泊まる?」
「取り敢えず5日でお願いします」
「お前さん、丁寧な言葉を話すな?服装といい貴族か?」
「いや違う。普通に話すよ」
「おお、それでいい。貴族と話すなら丁寧に話すが普段は普通に話せよ」
「わかった」
「よし、何にする?」
「ここの名物と酒は何がある?」
「なら猪肉のステーキと酒ならエール、ミードなら直ぐ出せる」
「なら…エールをくれ」
「わかった」
「はいお待ちどう様」
待つこと5分、小さな子供が料理とエールを運んでくれた。
「ありがとう」
そう言ってチップを渡してみた。
「ありがと」
チップは正解だった様だ。
先ずはエールを手に取る。
温いがコクがありフルーティで飲みやすい。
「魔法で冷やせるかな?」
手に持ったエールを冷やす事をイメージをする。
すると腹の中で何が蠢くと、手に冷たい感触が。
その瞬間、頭の中で魔法名が聞こえる。
『水属性創造魔法クール』
そんな事より、冷たいエールはとても美味しかったが隣に座る騎士の格好をした女性に見つかってしまった様だ。
「冷えたエールは美味しそうですね」
「ええ、とても美味しかった」
エールを差し出す女騎士、もう一度エールを冷やす俺。
「嘘、美味しい」
美女が喜ぶ姿を見れてよかった。
その後も、お酒の勢いを借りながら美女と夜遅くまで話をした。
騎士風な装備だがソロ冒険者だと言う事、この国情勢など、色々な情報を聞けてよかった。
早朝に目が覚める。
どんなに深酒をしても朝目が覚め、二日酔いしないのが俺の取り柄だ。
直ぐに着替えると、昨日客が話していた聖魔法、浄化を唱える。
風呂に入らないのは日本人としては堪えるが浄化の魔法はさっぱりしていいな。
朝食はスープと黒パン。
とても硬いパンだがスープに浸して食べる。
一度、部屋に戻る、万物召喚を試す為だ。
取り敢えず想像してみる。
イメージは大切だ。
おにぎり、お袋のおにぎり。
手のひらの魔法陣からおにぎりが出てきた。
「美味い。お袋の味だ」
上京してから何年も会っていない。
久々のお袋の味はもう会えない家族の事を思い出させる。
その後は愛用していた日本刀、十文字倉、弓は愛用の和弓よりも取り回しの効くボウガン、スーツも目立たない様に黒のジーンズに上は黒のスポーツ用のインナーと無地のグレーのTシャツを召喚した。
基本的に長袖を着る。
夏はスポーツ用インナーは欠かせない。
若気の至を見せない為に。
武器は刀を差し、冒険者風の男達が身に付けていた革の防具も召喚して装備した。
宿屋から歩いて5分、冒険者ギルドに到着した。
登録を済ますと、最下級Eランクの依頼を2件受けた。
門を出ると直ぐに魔物や魔獣が出る。
ゴブリンを見付けるとボウガンを取り出して引き金を引く。
頭部に命中、即死のようだ。
その後もゴブリンを仕留めていった。
その度に耳を削いでいくのが苦痛だ。
ある程度の耳が貯まると、薬草の採取だが大量に召喚する。
ゴブリンは1匹50円程、それを60個で3000円。
薬草は10束で1500円、それを50束で75000円、半日で7万8千円。
お金を貰うと呼び止められた。
「すみません。薬草ですか、どうやったらこんな最良品をこんなに納品できたのですか?今の時期は少なく、良品が出れば万々歳なのですか…」
「そ、そうなの?少し奥まで行ったら群生してただけだよ」
「わかりました。では、最良品なので増額致しましょう」
増額分5万円を受け取った。
トータルで12万5千円。
先程から円を使っているが、通貨単位は日本と同じで、1 5 10 50 100 500 千 5千 万となっている。
違うのはそれ以上の通貨も存在していることだ。
因みに1円から小鉄貨 鉄貨 大鉄貨 小軽銀貨 軽銀貨
大軽銀貨 小銀貨 銀貨 大銀貨 小金貨 金貨 大金貨、それ以降も小中大でミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロガネと続く。
この国の通貨名称はラン、他の国でも使えるが通貨名称が変わるだけなので基本的に円単位で考える。
遅めのランチをするのにギルドの食堂を使う。
朝から仕事もせず酒を煽ってる連中もいて、騒がしいが情勢を聞くのには困らない。
「近々、この国は国境を封鎖するらしいな」
「いよいよ戦争だ。勇者召喚が成功して亜人を平等に扱うアラシヤ王国に宣戦布告するって話だな」
「亜人は戦闘能力は高いが魔法は使えんから楽勝だろ」
「略奪し放題だ。ワハハハ」
王の言っていた事は嘘だったか、早めにこの国を出よう。
地図が欲しい。
「やあ、昨日ぶりだなセイイチロウ」
「こんにちは。昨日はどうも。ユナさん」
「さんは辞めてくれって言っただろ。セイイチロウはこの国から出て行くのか?」
「そのつもりです」
「そうか。なら一緒にいかないか?」
「いいですね。どの国に行きます?」
「そうだな、亜人は嫌いか?」
「いえ、全く」
「よし、なら南の覇者バーリアル王国へ向かいましょ」
「わかった。いつここを出る?」
「そうね…。2日後の早朝は?」
「大丈夫だ」
「ならギルド前に集合ね」
「わかった」
そう言うとエールを冷やした美人冒険者のユナは頷いて席を立った。
俺は昼飯を急いで食べて、直ぐに宿へと戻った。
着替えや、ボウガン用のボルト、武器の手入れ用品、何かあった時用でワルサーのP.99と実弾入りマガジン数本、プラスチックの黒いホルスター召喚。
ユナさんと2人なら便利な物を召喚しても大丈夫だろう。
ベルトにホルスターをセットした。
本当にどうしようもない時に使う。
近距離での襲撃、剣で立ち回れない室内でや狭い場所での襲撃等、気配を消して近づく者を確実に殺す事為の装備だ。
次の日は普通に依頼を受けた。
グリーンウルフとゴブリン討伐だ。
グリーンウルフ20匹、ゴブリンの耳を50個で6500円だった。
今回でD級へと昇格となった。
ここを出ると話すと残念がっていた。
宿に戻ると明日出る事を伝える。
2日分の金を返すと言ったのでチップとして部屋に置いてきた。
翌朝、冒険者ギルド前で待つと直ぐにユナが合流した。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶を済ませると王都の門を潜り道なりに南下する。
途中、ユナに俺の能力を伝えてオフロードバイクのセロー250を召喚して、ユナの荷物をストレージに入れて二人乗りで走り出した。
「早いわね」
「バイクって言う乗り物だ」
「私にも乗れるかしら?」
「休憩の時、乗り方を教えるよ」
「約束よ」
「約束だ」
街の手前でストレージにバイクを入れ街から出るとまた取り出して乗り込む。
馬車や歩きで街へと向かう人々は一様に早さに驚いていたようだ。
暗くなる前に次の街へと着いた。
馬車で数日の距離を進んだことになり、ユナは興奮している。
休憩中に練習したが自転車のない世界でバイクを運転するのは相当難しいだろうと思っていた。
しかし、最後の休憩ではゆっくりだが進む事が出来るまでになった。
「明日は2台でゆっくり進むのもいいな」
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