第2552話、わたくし、何とついに『魔物と魔石の関係』を完璧に解明できましたの☆【聖女無双編】
──ここは異世界グリンワルド、魔族の本拠地、魔王城の玉座の間。
今この場では、魔王率いる魔界四天王と、聖女率いる勇者パーティとの、最終決戦が行われようとしていた。
「……くくくくく、人間の身で、よくぞここまでたどり着けたものよの」
「──だが、すべては儚い望みよ」
「我ら魔王軍最強の四天王に、人間ごときが敵うはずは無かろう」
「魔王様のお手を煩わせること無く、すぐさま決着をつけてやるッ!」
人類最強のメンバーを前にしても、余裕綽々の四天王たち。
確かにその巨体からにじみ出る魔力は、これまで倒してきた魔族たちとは桁違いであった。
勇者や剣士や盾役や魔法使いが、目に見えて臆してしまう中で、一人紅一点の聖女だけが、まったく躊躇すること無く、魔族たちのほうへと歩み寄り、
相も変わらぬおっとりとした表情で、口を開いた。
「消えなさい」
「「「「──うぎゃあああああああああああああああああッ⁉」」」」
まさにその言葉通り、まるで突風に吹き飛ばされる塵芥のように消滅していく、四天王たち。
その場に残ったのは、四つの色とりどりの、『魔石』だけであった。
「──さすがは、聖女様だ!」
「──四天王さえも、これまでの魔族ども同様に、一瞬で消し去ったぞ!」
「──残るは、魔王本人だけだ!」
「──こいつは、俺たちで仕留めてやろうぜ!」
聖女のこの上なき強大なる力を再確認した、他の勇者パーティのメンバーたちは、これまでに無く戦意爆上げとなり、後先考えずに魔王へと飛びかかっていった。
「……貴様らを、新しい『四天王』に、任命する」
『『『『──グゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ⁉』』』』
魔王が、己が魔力を込めた言霊をつぶやくや、全員が禍々しい魔物へと変化する、勇者パーティの面々。
そこで初めて、玉座から立ち上がった魔王陛下は、一人残った聖女に、冷徹な瞳を向けた。
「……さあ、どうする? まさか、今まで仲間だった者たちを、さっきのように──
「消えなさい」
『『『『──ウギャアアアアアアアアアアアアアアアア⁉』』』』
先ほどの四天王同様、素粒子に分解されるかのように消滅していく、勇者パーティの成れの果てたち。
「──躊躇が無さ過ぎるだろッ⁉」
聖女の胸ぐらを掴み上げて、全力で突っ込む魔王様であった。
「まあ、元に戻すこともできなくは無かったですけどぉ、面倒くさいしぃ、一度でも聖女に歯向かった者を赦しては、我が『聖女教』の教義に反しますからね」
……エグいな、『聖女教』とやらの教義。
「『元に戻すこともできた』だと? やはり、おまえの力は──」
「ええ、『集合的無意識とのアクセス能力』ですわ。──あなたと同じくね★」
『集合的無意識とのアクセス能力』。
それは、文字通りに『ありとあらゆる超常現象』を実現可能とする、現代物理学や心理学に則った、究極の『魔法原理』であった。
例えば、魔族や魔物と言った、本来は実体を持たず、魔術や魔法などと言う超常現象を行使できる、『魔法生物』が存在し得ているのは、ファンタジー異世界の生物なら万物が有している、『内なる魔法要素オド』からなる『魔石』を中核にして、集合的無意識とアクセスして、この魔法世界に満ちあふれている『外なる魔法要素マナ』のうち、魔石の周囲にあるものに対して、集合的無意識から魔物や魔族としての『形態情報』と『人格情報』をインストールして、任意の魔物や魔族に変化させることで成り立っている。
実は、すべての魔族や魔物は、膨大な魔力を有している、その時代において『魔王』と称される者が、己の身の内から無尽蔵にオドを放出して、それに周辺のマナをまとわせてから、集合的無意識とアクセスさせて、魔族や魔物に変化させているのであり、魔族や魔物の生殺与奪権を魔王が有するのは当然のことであり、魔族や魔物は自分の生みの親である魔王に対して、絶対の忠誠心を捧げているのだ。
……ここまで言えば、察する方もおられると思うが、魔王は元々人間であり、その生まれつき持っていた魔力がまさしく、人類の最高峰の異能者である『聖女並み』にすごかっただけの話であった。
ただし、『集合的無意識とのアクセス権』が最上級ゆえに、その行使する力に何の制限も無い聖女に対して、魔王のほうは文字通り『魔』に限ったことに限定されており、先ほど申したように、自分の眷属である魔族や魔物を生み出したり、人間に邪な心を芽生えさせたり、何なら身も心も魔族や魔物に変化させたり──と言ったことに特化していたのだ。
──そう、より凄まじいのは、聖女様の『異能』のほうであった。
……確かにすべての魔物は、最大級の『集合的無意識とのアクセス権』を有する、魔王自らの手で生み出されている。
しかし何と聖女は、魔王の魔力を凝縮してできている『魔石』から、集合的無意識とのアクセス権を奪い取ることで、『魔物としての形』を維持できなくさせて、元のマナへと霧散させ得るのだ。
もしも彼女の力が魔王と均衡していたら、こんな芸当はできやしまい。
実は、同じ『集合的無意識とのアクセス権』と言っても、聖女のほうが魔王よりも、遙かに凌駕していたのだ。
よって本当なら、魔物と化した勇者パーティのメンバーを、元に戻すことはもちろん、何なら最初から魔王の力を無効化することすらも可能であった。
それならどうして、勇者たちの魔物化をみすみす許して、しかも人間に戻すこと無く、他の魔物や魔族同様に、消滅させたかと言うと、
彼女にとって、自分を崇拝している信者の人間なんて、『使い捨ての駒』でしか無かったのだ。
「──いや、酷いな⁉ それではどっちが魔王か、わかったもんじゃないだろ⁉」
当然のごとく、ツッコミが冴え渡る、魔王様であった。
「……そんなあ、魔王様なら、わかってくださると思ったのにぃ〜」
「よせ、一緒にするな! おまえなんかと一緒にされたら、魔王になっても捨てずにいた、『人間として大事なもの』を失いそうな気がする!」
「あなただって、そうでしょう? 周りの者たちが皆、盲目的に自分を崇拝してばかりいるのって、むちゃくちゃ気持ちが悪いじゃないですか? ──でも、聖女や魔王って、本人無自覚で『洗脳レベル』の影響力をダダ漏れしているから、どうしようも無いんですよねえ……」
「──ッ」
そう言われてみれば、思い当たる節が多々有る、魔王様であった。
先程も述べたが、そもそもすべての魔族や魔物は、魔王自身が生み出したのである。
どこかの聖女様とは違って、本人にはそんなつもりは毛頭無いが、ほんの気まぐれに命を奪うことだって、できなくはないのだ。
だったら魔族たちにとっては、魔王こそが『神様』そのものであり、絶対的な崇拝と忠誠を誓うのも当然であろう。
「まあ、私のほうは、自分の権力を万全なものにするために、自覚的に洗脳をすることも有りますけど、基本的に聖女と言うのものは、無条件に人々の信仰を集めてしまうので、もはや実の親すらも『神様扱い』してくる始末。こんなことでは『友達』一人つくることもできず、『将来』が心配なんですよねえ……」
「……『将来』、って何だ? 『聖女教』だか何だか知らないが、世界宗教を立ち上げて、しかもこうして人類の最大の脅威である、魔王討伐を成し遂げたも当然の今となっては、『将来』も何も、既に『人生のゴール』に到達しているのでは?」
「──何言っているのよ! 女の子にとっての人生のゴールって、『幸せな結婚』に決まっているでしょう⁉」
……。
…………。
……………………。
…………………………………………えー?
あ、すみません、『地の文』にはあるまじき、あきれ果てたつぶやきなんかを漏らしてしまって。
だがその思いは、本作の『ツッコミ担当』の魔王様も、同様のようであった。
「──乙女か⁉ もっとどこかの『ブチ切○令嬢』みたいに、『残虐非道』の女かと思ったのに⁉」
「たとえ、残虐非道でも、『結婚問題』は、重要でしょう⁉ ──特に、私たち『二人』にとっては!」
「──どういう意味⁉ 何でどうしても、俺を巻き添えにしようと思うの⁉」
「……あんた、自分が生み出した、超絶美麗な女魔族に、自分のことを『好き♡好き♡魔王様♡♡大好き♡♡♡』とか言わせて、虚しくはならないの?」
「──うぐぅッ⁉」
「私だって、同じよ。もはや全人類が、私を『聖女様』として崇拝しているのよ? そんなのと恋をして、幸せな家庭を築くことができるとでも思うの?」
「た、確かに……」
「──と言うことで、私はわざわざ、こんなところに来たわけなのよ☆」
「え? 何? あなた、ここには私めを──つまりは魔王を、討伐に来られたんでしょう?」
何かむちゃくちゃ嫌な予感がして、つい口調を改める魔王様であった。
「あはは、そんなあ、自分の『婚活相手』を討伐して、どうするのよお?」
──予感、的中!
「どう言うこと⁉ ──いや、やめて! それ以上何も言わないでッ!」
「私ほどでも無いとは言え、超上級の『集合的無意識とのアクセス権』を有する、魔王であるあなたなら、私の聖女としての洗脳効果が効かず、極普通の男女のお付き合いができるって寸法よ!」
「あ、あの! 理屈はわかりますが! 私のほうの意思は、どうなるのでしょうか!」
「──お黙り! あんたに選択肢はねえんだよ! ガチでこの場で滅ぼしてやろうか⁉」
「──ひいッ⁉」
「……それにあんたも、魔王としての力を無自覚に振りまいて、周囲の者たちに『悪の心』を植えつけるなんて、もう懲り懲りでしょう? 聖女である私と一緒になれば、常にその力を打ち消すことができるのよ?」
「──‼」
「さあ、あなたも人間として生まれたからには、一度くらいは『人並みの暮らし』をしてみたいでしょ? ──大丈夫、信じる者は救われるわ♡」
さすがは、宗教家! 『言葉巧みな勧誘』は、お手の物ですね!
こうして永らく続いた『人魔戦争』は、両方のトップ同士の文字通りの『ハッピーエンド』で幕を閉じたわけであるが、聖女様が『人としての幸せ』を掴み取るために、人間や魔族や魔物を合わせて、一体どれだけの犠牲者を出したかは、『言わない約束』として、完全に歴史の闇へと葬り去られたのであった★
(※次回の解説編に続きます)




