79. あたたかな日差しの中で
新国王の溺愛ぶりで王城は笑顔が耐えない。
そんな噂が国内に次第に広がっていった。
お腹も目立ち始め、執務室の椅子に1時間も
座らせてもらえない。
そろそろ本格的な休養を、と医師からの勧めもあり
自身の仕事は一度休みにした。
今は王妃の職務もセーブしているが、毎日ちょっと
した予定は入っている。
段々と大きくなっていくお腹。
ふっくらとしたそのお腹に、愛しい我が子が
いると思うと、とてつもなく幸せだった。
ウィルはいつもヘレナのお腹にそっと触れると
「僕はヘレナが大好きで、君がここに居ることが
幸せだよ」
と話しかけるのだ。
※※
空気も冷たくなってきた頃にはヘレナは
完全な休養に入っていた。
読書を楽しむ程度の
日々を過ごしていたある日、
ウィルから、素敵な箱を手渡された。
両手で支えられる位の箱の中には、
沢山の手紙が入っていた。
「これは?どうしたの?」
毎日一緒にいるのに、手紙を書いているのかしら
と不思議に思っていると…
「君と離れていた3年間、渡せない手紙をいつも書い
ていたんだ。今、時間がたくさんあるから好きな
時に読むといい」
それは、思いがけないプレゼントだった。
それからは毎日少しずつ手紙を開封するのが
楽しみになっていた。
会えなかった3年の間、彼がどんな事を考え
日々を送っていたか。
どれ程ヘレナを想って過ごしたかを少しずつ知る。
「君は…他の誰かとの人生を、選び初めていたかもし
れないけれど…僕にはずっと、ヘレナしか見えなか
ったよ」
そう話した時、少し淋しい顔を見せたウィル。
ウィルに伝えたい。
「私ね。逃げようとしていたの。人を愛しすぎた
自分が怖くて。でも一度知ってしまった愛は…
忘れる事など出来ない事も、わかったの」
お互いが過ごしてきた日々を頭の中で重ね
合わせる。
すると、二人の気持が離れた事など一度も
なかったのだと分かった。
それから数ヶ月後、
ヘレナは待望の王子を出産した。
この王子の可愛いらしさに、
前国王夫妻はもちろんのこと、スレイドが
とても喜んだ。
「ヘレナ王妃。あなたはこの国に幸せを何度も
もたらしてくれた。とても感謝している」
スレイドと妃は未だ離れて暮らしてはいるが、
ウィルとヘレナの結びつきを目の当たりにして、
時々食事を共にするようになっていた。
「私の方こそ…ウィルの手紙が無ければ……
今、ここに私も王子も居なかったと…
とても感謝しています」
ヘレナは、今日も手紙を1通開封した。
『愛しいヘレナ
君と過ごした学園生活は、僕の人生が
動き出したんだ。と感じた一年だった。
君の笑顔がこの王城でも絶えることのない
日常になるように、ずっと今も考えている。
必ず君を迎えに行くために。
今は離れていても…いつも君を想う。
ウィル』
「オギャー、オギャー」
生まれて間もない、赤子の泣き声が明るい室内に
響き渡る。
ベッド脇のベビー用ベッドに身を乗り出す
ようにして、我が子の泣き顔に微笑むウィル。
小さな手が、必死に彼の指をつかんでいる。
「ヘレナ、フェリクスがお腹すいたみたいだよ」
そう言いながら、抱き上げようとして、
フェリクスの頬に何度もキスをしている。
その目はヘレナを見つめるのと同じように
優しくてあたたかい。
窓から差し込む木漏れ日が、
親子をキラキラと輝かせてみせる。
大切な手紙を封筒に戻して、そっと箱にいれた。
「フェリクスはね、手紙を読み終えるといつも
泣くのよ。不思議でしょ?」
ベビーベッドのそばまで来て、フェリクスの頭をそ
っと支えながら、小さな体を抱き上げる。
それを聞いて、ウィルはクスリと笑った。
「それはね…早くそばに来て。って言ってるんだよ
フェリクスは僕と同じだ。」
先ほどまで真っ赤な顔をして、全身で泣いていた
フェリクスは、ヘレナの腕の中ですやすやと
眠っている。
「あれ?お腹空いてるんじゃないのね?」
「ほら、早くそばに来てほしかったんだ」
フェリクスを抱いたヘレナを、
つつむように抱きしめたウィル。
そっと目を閉じた。
「こんな幸せな日が、僕の人生に訪れた
事がまるで夢のようだよ」
フェリクスを抱く手に少し力がはいる。
見上げたウィルの唇にキスをした。
王城の一室には、今日も柔らかな日差しが
差し込み、幸せな家族をつつみ込んでいた。
最後までお付き合いありがとうございました。
初の長編作であることと、いつか書きたいと思っていた
エピソードなどを盛り込んだ作品でした。
楽しんでいただけましたら、評価でそっと教えていただけると嬉しいです。




