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第17話 :絶対防壁(ファイアウォール)の突破と黄金の焼き小籠包

前回(第16話)の廃棄バスでの「相互認証ハンドシェイク」テストを経て 、いよいよ今回は帝都への入り口である『聖別検問所』へ挑みます 。 教団の防衛システム(ファイアウォール)が冷徹に生体データを監視する中、二人は「熱烈な新婚夫婦」として無事にゲートを突破できるのか 。

極限の緊張状態でさらにゼロ距離へと近づく二人のやり取りと、緊迫のミッション後に待っている裏路地ならではの「ご褒美」にご注目ください!

荒野と宿場町を抜けた俺たちの眼前に、ついにその威容が現れた。

 天を突くほどに巨大な白亜の防壁。その内側には、幾重にも重なる幾何学的なノードがそびえ立ち、空を覆うほどの高密度なマナの光を放っている。


「これが、帝都……」


リィルが息を呑んで見上げた。圧倒的な質量と、緻密に計算された魔導建築の数々。だが、俺のスキャナーには、それが過剰なまでにリソースを独占し、外部を切り捨てる「傲慢なメインフレーム」にしか見えなかった。


「あれが帝都の入り口、『聖別検問所』だ。教団の防衛システム(ファイアウォール)の最前線だな」


 門の前には、入国を待つ人々の長い列ができていた。

 門をくぐるアーチには、青白く光る巨大な水晶体――生体スキャナーが設置されており、通過する者の  魔力波形、心拍、さらには同伴者との「親密度(同期率)」までを冷徹に数値化している。


 「いいか、リィル。ここから先は常に『ゼロ距離』だ。少しでも魔力の循環セッションが途切れれば、俺たちの偽装IDは即座にエラーを吐く」


 「わ、わかってるわよ……っ。でも、こんなに大勢の人が見てるのに……」


 俺は列に並びながら、コートの下でリィルの細い腰に腕を回し、自分の身体にぴたりと密着させた。

 びくっ、と彼女の肩が跳ねる。


 「力が入りすぎている。もっと寄り掛かれ。俺の魔力回路ポートを解放する、お前の波長を合わせろ」


 「んっ……あ……」


 俺の指先が彼女の腰の結節点に触れ、微弱なマナを流し込む。

 リィルの体温が急激に上がり、その白い頬が熱を帯びたように赤く染まっていく。彼女の甘い吐息と、かすかに震える柔らかな身体の感触が、俺の腕を通してダイレクトに伝わってくる。周囲の商人たちからは、ただの「熱烈に愛し合う新婚夫婦」にしか見えないだろう。


 「……次。IDを提示しろ」


 無機質な教団兵の声。ついに俺たちの番だ。

 俺は偽装した銀のプレートを提示し、リィルを抱き寄せたままアーチの下へと足を踏み入れた。


 『生体ログ、スキャン開始(Ping)――』


 青白い光が、俺とリィルの身体を舐めるように上から下へと走る。

 教団兵が手元の魔導盤に目を落とす。沈黙の数秒間。リィルの心臓が「ドクン、ドクン」と早鐘のように打ち、それが俺の胸に痛いほど響く。


 「……あの、監督……」


 「黙ってろ。今、俺たちのデータが承認コミットされている」


 俺はリィルの耳元に唇を寄せ、周囲に聞こえない声で囁きながら、彼女の腰をさらに強く抱き寄せた。傍から見れば情熱的な囁きだが、実際には彼女の脈拍を俺の魔力で強制的に安定させるための「同期プロトコル」だ。

 その吐息に、リィルの背中がゾクッと震えた。


 『――認証完了。ペア・アカウント、同調率99.8%。第一居住区へのアクセスを許可します』


 アーチの光が緑色に変わり、重厚な金属のゲートが音を立てて開いた。


 「……入れ。帝都の恩恵に感謝することだ」


 「ああ。感謝するよ」


 俺は教団兵に薄く笑いかけ、リィルを抱いたまま、堂々と帝都のメインストリートへと足を踏み入れた。


 数十分後。

 大通りから外れた、薄暗い下層区画の路地裏。

 監視の目が途切れた死角に入った瞬間、リィルは「ふにゃぁ……」と情けない声を上げて、その場にへたり込んだ。


 「も、もう無理……心臓止まるかと思った……」


 「見事なパフォーマンスだったぞ。負荷テスト(ストレステスト)はクリアだ」


 「あんたは平然としてるけどね! 耳元で息かけられたり、腰撫でられたり……ああもう、変な汗かいたわ……」


 真っ赤な顔で涙ぐむリィル。極度の緊張から解放されたせいで、彼女の魔力レベルは危険域まで低下していた。

 と、その時。路地の奥から、強烈に食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってきた。


 「……この匂い、動物性の油脂と、小麦が焦げる匂いか。近くに非正規の屋台ローカルノードがあるな」


 匂いを辿ると、油汚れにまみれた小さな屋台で、店主が巨大な平鍋を使って何かを焼き上げていた。

 鍋の中には、一口サイズの丸い点心。底面にはたっぷりの油が敷かれ、ジュージューと激しい音を立て ながら、きつね色に焼き上げられている。


 「お待ち! 帝都名物、裏路地の『焼き小籠包』だ。中の汁が熱いから気をつけな!」


 俺は銀貨を払い、紙の器に乗せられた熱々のそれを二つ受け取った。

 白くもっちりとした皮の底面は、カリッカリに揚げ焼きにされている。上部には香草がまぶされ、濃厚な油の香りが鼻腔を直接殴りつけてきた。


 「……食べるわ! 私、もう限界!」


 リィルがひったくるように焼き小籠包を受け取り、無造作に齧り付いた。

 その瞬間。


 「あふっ!? あつっ、んんっ……!」


 分厚い皮が破れた途端、中から黄金色に輝く超高温の肉汁スープが、間欠泉のように爆発して溢れ出した。


 「馬鹿、いきなりアクセスする奴があるか」


 俺はハンカチで彼女の口元から溢れた肉汁を拭いながら、自分の分を慎重に端から齧った。

 ――凄まじい「圧力」だ。

 モチモチの皮(外部装甲)の内側で、粗挽きの豚肉(おそらくマナを豊富に含んだ特上の猪肉)と、ゼラチン状に固められていた濃厚なスープが熱で完全に液化し、旨味の暴力を形成している。

 カリッとした底面の香ばしさが、噛むたびに肉の脂と絡み合い、脳の報酬系ネットワークを強制的にショートさせた。


 「……完璧なカプセル化技術だ。外装の強度で熱と圧力を完全に閉じ込め、噛んだ瞬間に全ての旨味データを開放させる仕様……!」


 「あふぅ、はふっ……! あついけど、すっごく美味しい……! お肉の味が濃い……!」


 口の中を火傷しそうになりながらも、リィルは幸せそうに目を細め、溢れるスープを一滴も逃すまいとすすり込んでいる。先ほどの検問での恐怖も羞恥も、この暴力的なまでの美味しさの前に完全に上書き(オーバーライト)されていた。


 「さて、腹も満たしたことだし、俺たちの『偽装ログハウス(新居)』を探すとしよう」


 最後の一個を放り込みながら、俺は端末タブレットを開いた。

 画面には、教団から割り当てられた「夫婦専用居住区」の座標が、冷たい赤い光を点滅させていた。そこは、ここ以上の「高密度監視ハイ・サーベイランス」が待つ密室だ。


 「……また、あの密着シンクロやんなきゃいけないの……?」


 「当然だ。次は、ベッドの上での『睡眠時同期プロトコル』だからな」


 「……バカッ!!」


 夕闇が迫る帝都の裏路地に、リィルの抗議の声が響く。

 世界のバグを正すための、もっとも過酷で、もっとも密接な「新婚生活」が、いよいよ幕を開けようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


無事に検問を突破した二人ですが、リィルが「心臓止まるかと思った」と本音を漏らすほどのギリギリの潜入劇でしたね 。

そして後半に登場した裏路地の「焼き小籠包」 。極度の緊張から解放された後に食べる、こういうジャンクで熱々の屋台グルメって、理屈抜きに美味しいんですよね。カリッカリに揚げ焼きされた皮と、そこから爆発するように溢れ出す特上の肉汁スープ…… 。私自身も餃子や熱々のラーメンなど、香ばしさと旨味が詰まった食事が大好きなので、今回の描写にはつい執筆の熱が入ってしまいました!読者の皆様の食欲を少しでも刺激できたなら嬉しいです。


次回(第18話)は、教団から割り当てられた監視下のワンルームで、息の詰まるような「偽装新婚生活」の夜が幕を開けます 。

引き続き楽しんでいただけるよう執筆を進めてまいりますので、もしよろしければ下部の「★」からご評価や、ブックマーク登録で応援していただけると大きな励みになります!

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