なるみは なるみの ままなのれす
アドレナリンの静脈注射、多少効果があったらしい。
その後、埋め込み型除細動器のパターンに、「宇宙船を作ってます」という変な会社の技術者さんに貰った土壇場用の乱数生成プログラムを結合、偶然、アタリを引き当てて心拍が再開したそうだ。
自宅で調べてみると、転んだ拍子に外れたらしい。
おなかのなかで、なると製造器がガタついていた。
なんにせよ。
なるみ2026は一命を取り留め……いや、二命?
本日1月4日は、御年始の挨拶まわり。
チョコマカついてまわる晴れ着の幼女は、得意先でも大評判。鳴海工機製作所に到着すると、笠松さんが大喜びしながら応接室へ案内したので、ホッコリした空気に包まれた。
涙ぐんで見ている社員もいる。
亡くなった社長の、亡くなった娘さん。
その面影が、なるみに重なるんだろう。
「新年早々、なるみが死んじゃってねぇ」
「しんぞうが、とまってしまったのれす」
「「 えぇえぇええ?! 」」
応接室は凍り付いた。
失言だった……かな?
「大丈夫、大丈夫。僕、本職ですから」
「大鈴様が?」
「バイオ人工心臓、突飛な話でしょ?」
「はぁ」
「でも、僕には心当たりがあったから」
「心臓の、心当たりって。ダジャレ?」
順を追って説明したほうが良さそう。
名刺入れを取り出すと、一番上に笠松さんの名刺。その下にある、自分の名刺を渡す。規模こそ違うが住所は同じ工業団地。どちらも肩書きは代表取締役社長。
「僕の会社は、生体部品を研究してて」
「へ? ……大鈴さんの会社?」
全員、ポカ~ンと口を開けている。
「三次元プリントで、人工臓器を作る研究をしています。青二才のベンチャーに、居抜きで使える工場を紹介して頂いたのが、鳴海工機の会長でした」
「あの時の、人工心臓?」
偶然そこにあった。
止まった時を刻む。
第二の心臓が。
「最初はお孫さんの幹細胞。次に肝臓と心臓。バイオ人工心臓だから、拒絶反応が出なかったんです。義足も手配してたでしょ?あの感覚フィードバックデバイスを埋め込んだ外科医が、てっきり献体と思い違いをしていて。練習がてら移植したそうです」
なぜ蘇生できたのか。
偶然が重なり、奇跡的に。
そうとしか説明できない。
「他社さんも、実験段階の無茶なしろものを提供してて」
「おっしゃる意味が私には。 ……なにか、問題がある」
「あとは……」
まだ、未知の領域がある。
「なると製造器、取り外して洗うでしょ?」
「はぁ」
「途端に、ピクリとも動かないんだよなぁ」
「ふぇ?」
なにか大切な機能がある。
なると作り以外の、機能。
生きるための、原動力が。
それでも。
準備不足だったから――
「今わかっている範囲で、他には。脳のダメージが大きくて、このまま成長しない可能性が高い。ずっと子供のままなんです」
「なるみは、なるみの、ままなのれす」
なると作りに加えて、簡単な料理の手伝いや洗濯・掃除もできてるし、記憶力も驚くほど良い。反面、苦手なことも多く、それはそのままだった。
置き換えたパーツの性能じゃない。
失われた脳の機能が、原因らしい。
「じゃ失敗作?」
「大成功かなぁ」
「だって―――」
「なるみの生命活動に直結する、なると製造器。ほとんど解析できてない。成長に合わせることが事実上不可能なんです。でも。なると製造器は生体材料用素材の工業製品。なるみ本体は生体部品。普通は癒着して問題を起こすのに、それが無い。生体適合性の完成体なんです」
なるみが左側にひっついてきたので、「足、痛い?」と聞くと「大丈夫れす」と笑ったが、話が長引きだして、心配になってきたのだろう。
「他にも、指まで曲がる右の義足。これほど使いこなしているのは稀有な例だと、メーカーさんも驚いてました。今はまだ脳へ感覚をフィードバックできた段階で、足と腹筋の動作を混乱することがあるみたいで」
良い頃合いだ。
本題に移ろう。
「そこで、ひとつ。提案があります」
和やかな雰囲気が、一転した。
場の空気はピンと張り詰めた。
「弊社の人工心臓は未完成すぎる、なるみのトラブルには僕自身で対処しようと思います。期限付きのモニターテストではなくて、購入か養子縁組か同棲か、事実婚あたりで……」
「みなとさん泣き虫なのれ心配なのれす」
「そうだなぁ、一緒にいたら心強いなぁ」
「おい!」
「はい?」
「とんでもないロリコンだなぁ、大鈴!」
笠松さんの返事は予想通りだった。
「じゃあ。内縁の妻、かなぁ」
一瞬ギョッとした顔をした。
「大鈴みなと。なにを、どこまで知っている?」
「会長が、若い嫁さんを掴まえたことですか?」
笠松さんはハッとした顔で「コイツか? 会長が言ってた」と呟いてから「ただのなると好きじゃねぇのかよ、食えねぇ奴だ」と舌打ちした。
少々、逡巡した後で――
「まぁ。 ……鳴海工機製作所といたしましては」
「 「 ご く り 」 」
「願っても無い申し出です。 ……なるみちゃんを幸せにしてください」
「……だってさ? はー、緊張した。よかった、よかった。親御さんの了解も出たことだし、これで養子縁組も同棲も事実婚も結婚も好きにできるね?」
「はいっ!」
「そうは言ってません!!」
「でもなぁ」
「結婚が増えたでしょ?!」
専門分野は地味な試行錯誤の積み重ね。
なるみ2026が来てからは、違った。
退屈な日常の解決方法を搭載していた。
なるみと僕は、二人三脚で生きていく。
みんなに支えてもらいながら――――
「ひととおり挨拶回りも済んだなぁ。家に帰ろうか?」
「これからは、おおすず なるみ として頑張ります!」
アリス風の水色メイド服に身を包み、「手伝って欲しいのれす!」と抱き着いてきたので「ちょっと早いけど、もう練るの?」と尋ねると、カレンダーを指差して「明日はお仕事で早起きなのれすよ!」と叱られた。
留守中はホウキを持ってする練り工程。
一緒のときは、甘えてくることが多い。
か わ い い 。
「ストップ、ストップ。練り終わってる」
「っふぅ、だっこして、ん、だっこー!」
「はいはい」
お姫様だっこでベッドに移動すると、端に腰掛けてエプロンの上を腰まで下ろし、服を留めるボタンを上から順に外していく。
「みなとさん……」
「ん?」
「なるみは、なるとが作れて、良かったれす」
「そっか?」
頬を赤らめて「もぉ、できそうれすぅ」と潤んだ瞳を向けてきたので、背中からギュッと抱くと、ふんわり体重を預けて、おへそを触りながら、まどろむように、うっとりと、ささやいた。
「みなとしゃん」
「ん、どした?」
「みんなに、こんなに、だいじにされてて。おおすず なるみは、幸せものれす」
「……そっか」
「 …… ぁ゛ 」
「出るなら早めに言って?」
「も゛もぉ、ちょっぴり、でてて」
「あ。ほんとだ」
「ゃ、見ちゃ、らめれす……ぅ!」
―― 女児型なると製造機 なるみ [ 完 ] ――




