なるとづくしのお正月れす!
なるみ2026が我が家に来てから、早3か月。
AI学習で高度化・効率化した……兆候は無い。
工業団地が得意分野を結集して、復活した子供。
まるで生きているように見える。
脳や神経など生体の重要部が9割以上無事であれば、各分野で置き換える機械の開発は進んでいるそうだ。50:50、身体を半分機械化できるケースも、技術的には実現可能性があるらしい。それはあくまで『生きていたら』の話だろう。
秘密は、このブラックボックス。
試作段階だった『新型なると製造器』?
「よぉし、綺麗になったぞ~お!」
「ぃ、いそいれ……のぼせれ、しまうのれす……」
創業時に様々な援助してくれた恩人から、味気ない袋めんばかり食べていた僕に「華を添えたらいい」と贈られた、先代『なると製造器』。あれから数年。和服の幼女がいる新年の幕が開けて、華やかさは段違いになった。
「あけましておめでとうございま~す」
「ほんねんも、よろしくいたますぅ!」
では――
おぉお!!
「なるみの作った、なるとだらけだ!」
「なるとづくしれす~❀」
「文字は下手なのに、のの字は綺麗!」
「んふ~、そうれすよぉ」
「煮物! ……どうやって作ったの?」
「レンチンなのれす~♪」
ほったらかしてあった古いスマホに興味を持って、テキストの読み上げ機能と、電子レンジの使い方を覚えてから、レシピが一気に増えた。
おせち料理じゃないものも入ってる。
これが初おせち、カメラで撮影して。
よし。
「 「 いっただきま~す! 」 」
それにしてもドタバタしてた。
2027年になってしまった。
なるみ2026、どうなるのかなぁ。
お孫さんは死亡診断書が出る前に、心停止の状態で移動して急速凍結。その後は超低温冷凍保管。必要なパーツが揃い準備が整ってから、なるみ2026にした、という流れだったそうだ。
あの話が本当なら、笠松さんは逮捕。
問われるとしたら、『死体領得罪』。
会長が特別失踪で処理し、墓の下へ持って行ってしまった。死亡診断書が無いと「死体」とは言えない。その他の部分も、今回のケースは死体領得罪の構成要件に符合しない。立件自体まれ、判例となると極々少ない。
不起訴処分……お蔵入りか。
じゃあ。
なるみ2026、どうなるのかなぁ。
「ん?」
「どうしたのれす? むつかしぃかお」
「今年なるみ2027になるのかな?」
「なるみは、なるみの、ままなのれす」
そっか。
そうか?
「いいや、違う!」
「違うんれすか?」
「見ろ、この料理の数々を! 人型なると製造機なるみ2026試作型じゃない。2027年のなるみは完璧だ、そうだろ? うんうん、そうだろぉ!」
「ぅわぁあぁん!」
あ、あれれ?
泣きだした!
褒めた……つもり、だったんだけど。
「完成……テストおわるのれす」
「たしかに! そうなるの?!」
「ゎたし、ず~っと試作型れすっ!!」
「いや、そういうわけには……」
「じきそです、じかだんぱんれす!!」
なるみ2026は玄関を飛び出した。
生まれ故郷の鳴海工機、株式会社だからなぁ。
年末年始は休んでる。
で。
振り向いて「どっちれすか?」と首を傾げた。
そりゃそうだ、後部座席に座ってたんだから。
「今日明日どうにもできないよ?」
「なしてれすかーっ!!」
「正月三賀日は、お休み」
「そう……なんれすか?」
笠松さんに電話して、渡す。
言い争っていたけれど……。
すぐにスマホは戻ってきた。
「明けましておめでとうございます」
『本年もよろしくお願いいたします』
「なるみ2026、なんて?」
『なるみは試作型です……と』
その押し問答か。
「僕の言い方が悪かったのかもなぁ」
『4日の月曜から出社と伝えました』
「ご挨拶に伺っても?」
『お待ちしております』
よしよし。
「仕事始め、挨拶に行くこ……っと、に?」
居ない。
なるみ2026の気配が無い。
玄関は、開きっぱなしのまま。
靴 が 、 無 い 。
足元の悪い氷点下の屋外を、着なれない和服で歩く。なるみ2026の身体には過酷すぎる環境だった。すぐに迷子タグで位置を表示すると、すでに簡易型の範囲にはいないらしい。
すぐに通話を切って、GPS測位の紛失防止タグを起動する。無事に位置が表示された。これで追える、移動中……車で行くか?
「早すぎる、走ってる?!」
ゾ ワ リ ――
嫌な予感がよぎる。
『これは……マズイ』
車で追うと小回りが効かない。最短距離で追ったとして「このあたり」と目星をつけて、長靴で家を飛び出した。思ったより距離がある、間に合うか?!
しばらくして。
地図上に表示されていた位置へ、到着。
方向を確認するためスマホを取り出し……。
ふと。
路上にうずくまる、小さな影が目に入った。
「なるみっ!!」
動かない、動いていない。
あちこち触って、調べる。
……冷たい。
雪の積もった地面と変わらないほど冷たい。
どうしたらいい?
一度は、死んでいた子供。
なるみは医療機関を頼れない。
この状況で、命をつなぐ方法。
知り合いに聞いてみるか……。
『あけおめー』
「緊急の用件」
『おや珍しい』
「なるみが死んだ」
『死……心停止?』
話が早いな。
いいや早すぎる、想像どおりか。
「ウチの心臓を使ってるんだな?」
『除細動器のパターンが、まだ手探りの段階で』
「急な寒暖差と運動、その程度で止まるのか!」
『2歩離れて』
小さな身体がビクン! と、陸に上がった魚のように跳ねた。なるみ2026に使える手段は少ない。埋め込み型除細動器の電気ショックを、遠隔操作で何通りも試しているようだが……。
『どう?』
「だめだ」
『AED』
「用意が無い」
『あ! アドレナリンは?』
「0.15mgが3本。静脈?」
『それだ、モニターします』
「よし、一発勝負だな!!」
反応は……無い。
時計を見る。
10分以上、経っていた。
『3回分、あと2回あります』
「いいや。蘇生に失敗した――
へたり込んだ。
体から力が抜け落ちていた。
雪に埋まったスマホの雑音。
もう一度、耳に当ててみる。
『らしくないよ大鈴さんっ!』
「もう……時間が、無いんだ」
通話を切った。
静かになった。
それは、一人。
袋めんを啜る、仕事の、合間のような。
わびしい静けさだった。
ダメだった――――
試作型のまま、完成せず。
なるみ2027にすらならずに、終わってしまった。
「なると作りに来たのにねぇ……」
死んでしばらく、声は聞こえているらしい。
2度も死んだ、なるみにも届くのだろうか?
「なるみ、うちの子になろうか?」
なるみ2026の、まぶたがゆるんで。
目尻から、す――っと涙が流れ落ちた。
『泣いてる?』と思った。
鼻から、鼻水もでてきた。
それきり反応は無かった。
筋肉が弛緩して体液出た。
ただ……それだけだろう。
ずっとこんな感じだった。
なるみ2026、なんかでろでろ出てくる。
ひどく出来損ないの、なると製造機だった。
なるみは、ただの、おんなのこだった……。
「 ぉ 」
「なるみ?!」
「ぉすき なのれすか、こ ぃうの」
ひどい顔色でヘラヘラ笑ってる。
ぎゅっと抱き締めてみると、トクン、トクンと脈打つ心臓が、微かな温度を身体に送りはじめていた。
「しんぱい れ もどって きたのれす」
「じゃあ。 ……うちの子になるか?」
「わっかした。ゎたし おおすず なるみ……なるれす」
ずっと、ずっとこんな感じだった。
一生懸命『大鈴なるみ』になろうと努力してた――




