綾乃の失恋 6
「じゃあ、沙希さんお元気で!」
それぞれ別れの挨拶をしてから、最後にアカリが手を振った。沙希さんも4人に向けて手を振ってくれてから、去っていった。
「沙希さんと暫く会えなくなっちゃうの寂しいですね」
「別に、またわたしたちの夏休みに合わせて帰ってきてくれるし、そこまで悲観しなくても良いんじゃない?」
一番ショックを受けてそうだと思った綾乃さんが一番冷静だった。
「じゃあ、モモカはちょっとリリカちゃんと一緒にモモカの家に寄ってから帰るねぇ!」
「勝手に決めないでよ!」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど!」
そんな会話をしながら2人が去っていくから、綾乃さんもアカリものんびりと見守ってから、ふと気づく。
「ねえ、よく考えたら桃香がいないとアカリが帰れないんじゃないの……?」
「あっ……、そうですね……」
綾乃さんはプティタウンの入館証を持っていなかった。
「仕方がないわね。どこか公園ででも休んでおきましょう」
綾乃さんがため息をついた。
マイペースな桃香たちのせいで取り残されてしまった。のんびりと近くの公園に移動した。綾乃さんはベンチに座ってから、アカリのことを膝の上に置いた手のひらの上に乗せていた。
「最近かなり暑いわね」
綾乃さんが6月に挙式をしていた後の季節は、もうすでに初夏だった。
「手汗大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ。汗かいてないです」
本当はほんのりジメッとしているけれど、気にするほどでもない。
「でも、綾乃さん元気そうでよかったです」
「どういうことかしら?」
「沙希さんが結婚したんで、ショック受けてるのかと思ったので」
「なんだ。そんなこと? 好きな人が好きな人と結ばれたのだから、ショックを受けるわけがないじゃないの」
綾乃さんがどこか遠くの方を見つめながらため息をついていた。無理をしているのがわかりやすかった。
「綾乃さんは強いんですね」
「強がってるみたいに見えてるのかしら?」
「えっと……」
綾乃さんが少しキツイ口調で言ったから、アカリが困惑する。
「まったく……、あなたの視点からだと気持ちを隠すのが楽で良いわね」
ごめんなさい、とアカリが謝ったところで、手のひらの上に水滴が落ちてきた。目の前にボトっと落ちた水滴を見て、一瞬慌ててしまった。
「これって……」
「前言撤回するわ。あなた相手でも感情が隠せないくらい、本当は私の気持ちは荒んでいるみたいね……」
下を向いて、アカリの方を見つめた綾乃さんの瞳が潤んでいる。そして、次々と手のひらに向かって、涙が溢れてきていた。
「綾乃さん、すいません、わたしのほう向いて泣かれたら涙の粒が怖いんですけど……」
コップをひっくり返したときみたいな水の塊が次々とアカリの周囲に降ってきていた。雨というよりも雹みたいなイメージだ。
「そんなこと言われても、知らないわよ。泣かせたのはアカリじゃないのよ!」
「泣かせるつもりは……」
「一緒に沙希を取り合ったあなたに沙希のことを思い出さされたら、いろいろと我慢できなくなっちゃうもの!」
アカリは取り合ったという気持ちはないけれど、泣いている綾乃さんの言葉に水を差す気にもならず、静かに聞いていた。降ってくる涙の塊から身を避けながら。




