プティタウンを探せ! 4
「ねえ、どう言うことよ?」
桃香はアカリと会ったことが無いと言うのに、一体どうやって……。
そんな疑問を抱いたときに、昨日桃香が仕事に行く時にリリカをカバンに突っ込む前に発した言葉が蘇る。
『「綾乃さんに怒られて、モモカ落ち込んでたんだけどぉ、リリカちゃんのおかげで元気が出てきたよぉ」』
綾乃のことを聞きたかったけれど、結局カバンの中でスマホやリップクリームから逃げるのに必死で、それどころではなくなってしまったのだった。
桃香と綾乃は知り合い。そして、アカリは綾乃に酷いことをされた。桃香とアカリの間に何らかの関係があってもおかしくないと思った。少なくとも、桃香がアカリに不快な感情を抱く原因としては、綾乃のことは考慮すべきだ。リリカの方も、トーンの落として、不穏な声で尋ねた。
「ねえ、まさかと思うけど、その桃香の大切な人って綾乃って人じゃないわよね?」
「え? リリカちゃん、綾乃さんのこと知ってるの?」
ええ、とリリカが小さく頷いた。
「わたしの大切な子を傷つけた意地悪な子よ」
桃香が顔を青褪めさせた。それを見て、リリカも大きくため息をついて、リリカの方を見るのをやめた。
「残念だけど、桃香とは、お友達にはなれないみたいね……」
「リリカちゃん……」と桃香は小さく声に出したけれど、それ以上何も言わなかった。桃香も多分リリカと似たようんな感情を抱いているみたいだった。お互いの大切な人同士が、それぞれの嫌いな子だったなんて。暫くプティタウン探しもできずに気まずい時間が続いていた。
「ねえ、リリカちゃん……。モモカね、お友達が少ないんだ……。モモカ、空気読めないからみんなに嫌な思いさせちゃってるみたい」
「それがどうしたのよ? だから、友達になってほしいってこと?」
「ううん、そうじゃないよ。もちろん、友達になってくれたら嬉しいけど。そう言う意味じゃ無いよ」
モモカの言いたいことがわからないから、俯いたまま話を聞いていた。
「でもね、そんなモモカに気にせず優しくしてくれたのが、綾乃さんだったの。家が近所で小中高ずっと一緒で、学年は違うけど、いつの間にか仲良くなってたの。ていうか、まあ、一人ぼっちのモモカのことを気遣って、優しい綾乃さんが仲良くしてくれたって言う方が正しいかもしれないけど……」
「ふうん、その綾乃って子、人間に対しては随分と優しいのね」
リリカが意地悪気な言い方をしたら、桃香は小さく首を横に振った。
「違うよ、綾乃さんは人間にも、小人さんにも優しいよ」
「そんなわけないでしょ! その綾乃って子は、アカリに意地悪をしたのよ! 上から手を乗せて潰そうとしたり、親指でアカリの首を折ろうとしたり! 桃香とは違って、あいつは意地悪なの!」
綾乃と会った日のことを語っていたアカリの話を思い出して、リリカが顔を覆った。思い出しただけで綾乃の指に思いっきり噛みついてやりたい気分になってくる。
「沙希や桃香みたいに優しい人間もいるってことは理解したけれど、綾乃のことは嫌よ」
リリカが顔を覆ったままでいると、桃香が悲しそうな声で「違うよ」と続ける。普段何も考えていなさそうな桃香が、さっき以上に深刻そうな声を出していたから、ゆっくりとリリカが顔をあげた。
「意地悪なのはモモカなのぉ……」
「モモカは別に意地悪じゃ無いでしょ? 確かに初めはかなり困らされたけど、一緒に過ごしているうちに根っからの悪い子じゃ無いって言うのはわかったわよ」
一応優しい言葉をかけてあげたつもりだったけれど、桃香はまだ落ち込んだままだった。
「モモカね、アカリって子のこと押しつぶすふりだけしてそのまま返してあげた綾乃さんのことを優しいねって言っちゃったの……。モモカならきっと許してあげないって言ってぇ……。それを止めてくれたのが綾乃さんなのぉ……、冗談でもそんな酷いこと言うのはやめてってぇ……」
その後の言葉は出てこなかった。リリカも絶句した。
そのままポタポタと桃香の瞳から涙が出てきていたけれど、リリカはどうしたら良いのかわからなかった。攻める気も優しい言葉をかける気もわかなかった。とりあえず一言、「酷い……」とだけ静かなトーンで伝えた。素直な気持ちだった。桃香がさらに泣き出してしまって、嫌な空気が部屋に流れていた。




