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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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リリカの怪我 5

「な、何のつもりよ!」

彼女の手のひらの中で叫んだけれど、反応はなかった。突然暴走しだした彼女の行動を小さなアカリでは止めることはできない。


すでにグッタリとして動かなくなってしまっているリリカの体がこれ以上傷つかないように、少しでも衝撃を和らげようと、アカリはそっと手を添えていた。

「リリカ、ごめんね。わたし、弱いから助けてあげられなかった……」


何を考えているのかわからない、得体の知れない人間に好き勝手運ばれてしまっている。抵抗もできずに、どこに連れられてしまうのかもわからない。手のひらの中でリリカの横でアカリも横たわって、そっと肩周りに手を添えた。身をくっつけて、リリカの体を固定する。


この人間がアカリとリリカを離してくれないことがわかった以上、せめてリリカに寄り添ってあげようと思った。それに、一緒に横になって、体を添えておけば、リリカが動いて脚をさらに痛める可能性も減らせるし。そうやって手のひらに隠されながら5分ほど揺られていると、ようやく光が差し込んだ。


「あんたね、わたしとリリカのことをバカにするのもいい加減にして――」

「ごめんね、できるだけ揺れないように運転するから」

アカリの言葉を無視して、アカリとリリカを車の運転席に座らせた。当然、小さなアカリにハンドルを握ることなんてできない。


「ねえ、こんなところに座らせて何をする気で……、ってちょっと!」

アカリとリリカが無理やり座らされているにも関わらず、女性はその上から座ろうとしてくるのだった。

「ふ、ふざけないでよ!!」

アカリは自分だけがお尻に敷き潰されるのならまだいいけれど、リリカを巻き込もうとしているのが許せなかった。


「ごめん、動かないで。わたし、キミたちにとっては象みたいに重いから、踏んづけたら痛い思いさせちゃうから。間違っても怪我してる子の脚踏まないように、悪いけど気をつけてあげて」

真面目な口調で女性が言いながら、運転席に座る。女性のお尻は器用にアカリたちを避けるようにしながら席に乗っかった。それと同時に、座席が沈み、アカリはバランスを崩して尻餅をついてしまった。


アカリとリリカは彼女の脚の付け根の辺りに軽く挟まれるような体勢になった。落ち着いてから、「多分象じゃすまないよね。ちょっとサバ読んだかも……」と苦笑いをしていた。


「ねえ、あんたはわたしたちのことどこに連れていくつもりなの?」

ギュッと彼女のズボンを掴み、リリカのお腹の辺りに手を回して体を固定しながらアカリは尋ねた。信用しても良いのかはわからなかったけれど、とりあえず彼女は何らかの意図を持ってアカリとリリカをどこかに連れて行こうとしている。


「どこって、その子怪我してるから病院に連れていくだけだよ」

ハンドルを握っているから、アカリたちのほうは見ずに答えていた。


「まだその子、息あるよね?」

不安そうに女性が尋ねてきたからアカリがリリカの口元に手のひらを当てる。とても弱々しいけれど、なんとかまだ呼吸はしていた。


「結構ギリギリだけど、一応ある……。けど、人間の病院に行っても、この子は治せないでしょ? 針はわたしたちの体くらい大きいし、糸は縄みたいに太いんだから、縫合なんてできないくせに」

「大丈夫。小人を見てくれる病院、わたしは知ってるから」

「そんなのあるわけないでしょ?」

「あるんだよ、それが」

ふざけている様子はなく、至って真面目な様子で女性が呟いた。


「ずっと集落にいたんでしょ? この世界には小人たちの住める街もあるし、意外と小人たちに向けた施設だって多いよ」

「そんなの嘘よ……」

当の本人たちが知らないのに、そんな施設あるわけないと思った。けれど、女性は本気のようだ。


「信じても信じなくてもいいよ。けど、わたしを信じてくれた方がその子の生存確率は大きくあがることは伝えておくね。少なくとも、今動かれて、わたしの足元にでも落ちられちゃったら、もう助けてあげられないから、変な行動はやめてね」


それ以上、アカリは何も言わなかった。嘘をついているにしては、彼女はとても真剣だった。時々揺れる車の中でリリカの怪我を悪化させないように体勢を調整したり、時々リリカに声をかけて意識が戻ってくるように呼びかけたりしながら、彼女の運転の行き先を待つ。


とても長い10分間だった。車が止まると、女性は急いで病院へと駆け込んだ。


「ちょっと、ここ人間用の病院じゃないのよ!」

てっきりアカリたち用のドールサイズみたいな小さな建物があると思ったのに、やっぱり騙されてしまったんだ。もしくはこの女性が誤った知識を持っているか。


アカリの言葉を無視して、手のひらに2人を乗せたまま、女性は院内に入ると、受付に急いで伝える。

「すいません、急患です。もうこの子、意識がかなり薄れてるみたいで……」

「さっき診察が終わったところで……」


面倒くさそうな対応していた受付の女性がジッとリリカを覗きこんで、ハッと息を呑むのがわかった。

「すぐに先生に言って手術の準備するようにしますね。こちらへ」


すでに午前の診察は終わっているようで、待合室には誰もいないけれど、人間用の大きな椅子が並んでいた。明らかに人間用の病院にしか見えない。本当にここは小人を診察してくれる病院なのだろうか。


「リリカ、もうちょっとだからね……」

そっとリリカの手を両手で包み込んだ。ここまできたらもう、女性を信じるしかなかった。アカリがリリカに呼びかけた。返事はなかったけれど、ほんの少しだけ、動いたか動いていないかわからないくらい少しだけ、リリカが手を握り返してくれた気がした。

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