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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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52/107

リリカの怪我 3

※大怪我や大量出血を想起させる描写があるので、苦手な方はご注意ください。

(当初の想定よりも詳細な描写になってしまったので、「残酷な描写あり」にもチェックを追記致しました。)

美味しい野イチゴの味は、アカリとリリカの正常な判断能力を奪ってしまう。リリカの、もっと遠くに行きたいという要望を強くは止めることができずに、そのままついて行った。


「あ、これ美味しそう」

大きな野イチゴの実に気を取られているうちにリリカは先に行ってしまう。リリカは呑気に野イチゴの実を取ろうと手を伸ばしているけれど、アカリはそれよりも、遠くから聞こえてくる不穏な地響きに注意をしていた。場合によっては、苦手な茎登りをしてでも、リリカを助けにいかなければならないと身構えていた。


ズンズンと大きな地響きがこちらにやってきて、アカリは不安そうに、その出どころを見つめた。悪意を持った人間だったらどうしようかと思って見つめていると、やってきたのは2人組の小学生だった。遠足で来ているのか、大きな水筒を持っている。


「わっ、小人さんだぁ!!」

子どもたちの一人が声をだした。大人よりも子どもの方が小人の存在を受け入れやすいらしい。


リリカが見つかってしまっていたけれど、特に怯える様子もなく、子どもたちに近づいていく。「こんにちは」とリリカのほうから挨拶をした。当時のリリカは何も怖いものなんてなかった。人間にだってとても友好的だった。


「ねえ、こびとさん。いっしょにあそぼう!」

子どもに声をかけられて、リリカも楽しそうに「いいわよ」と声を出していた。子どもたちよりもリリカの方が少しだけ年は上みたいで、お姉さんぶっている。普段は集落の中にはリリカと一番歳が近いのが3つ年上のアカリで、年下の子がいなかったから、リリカにとっては新鮮だったのかもしれない。リリカは終始楽しそうだった。だから、アカリも、そしてリリカ本人も油断していたのだと思う。


アカリは引き続き、野イチゴを取り続けていた。アカリはリリカから少し離れたところにいたから、子どもたちはアカリには気付いていないようだった。


「ねえ、リリカちゃんわたしと遊ぼうよ!」

「えー、次はわたしの番だよ!」

2人の子がリリカと一緒に遊びたがっているその声は、とても無邪気で、何も心配なんてする必要はないように思えた。アカリは遠くで野イチゴに視線を向けながら、その声を微笑ましく聞いていた。だけど、今度は少し不安な声が聞こえる。


「やめてぇー、体がちぎれちゃうわ!」

リリカの声は叫びに近い声だった。少なくとも、今までの楽しそうな声とはまったく違う、恐怖心だけで構成されている声。


「リリカ!?」

アカリがようやくその声を聞いて、取り合いをしているリリカが右腕と左脚、それぞれを別の子に引っ張られているのを見た。まるでお気に入りのおもちゃを取り合うように無邪気に取り合いをしているけれど、当然リリカはおもちゃではない。力加減をわかっていない、無邪気な暴力がリリカを襲っていた。


「や、やめなさい!」とアカリが叫んだ声は、次の瞬間にはリリカの絶叫に遮られて、届くことはなかった。叫び声にびっくりした子どもたちがリリカのことを離した。それと同時にリリカの身体が地面にドサリと落ちる。


「わたしじゃないよ……」と怯えた声を出した子どもたちは、先ほどまで楽しそうに声を出していたリリカの出していた悲鳴に近い泣き声に驚いて、逃げるようにしてどこかに行ってしまった。アカリは大急ぎでリリカに駆け寄った。


「痛い!!!!! 助けて!!!!!」

小さなリリカの体から出る声としてはとても不自然な大きな声。そして、近づいてリリカの周りにできている血溜まりを見て、背筋を凍らせた。周囲には、リリカがカバンに入れていた小さくて軽そうな野イチゴが2つほど転がっていた。つい先ほどまで帰ったらイチゴジャムを作ろうと楽しそうにしていたリリカの表情が、今は苦痛に満ちていた。


「リ、リリカ……」

アカリが小さく声を出した。とても苦しそうに叫び声を出し続けているリリカの左脚が不自然な方向に折れ曲がっていた。骨は間違いなく折れている。


「と、とにかく一回集落に戻らないと……」

でも、戻ってどうするのだろうか。まともに治療できる知識がある人も、設備もない。これだけの大怪我が自然治癒するとも思えなかった。だけど、放っておいたらこの出血量では助からない。


「だ、誰か……」と喉から振り絞るように、震えた声を出したけれど、当然助けてくれる心当たりなんてない。とにかくアカリ一人で抱え込んでいる間にもリリカがどんどん弱っていっているのは見てとれた。


「一度、戻ろう……」

アカリはリリカをおんぶして帰ることにした。脚に触れないように気をつけながら。弱々しくアカリの肩にしがみつくリリカの手は今にも力が無くなってしまいそうで怖かった。


脚に気を使いながら、普段よりも難易度の高いおんぶで歩き出したけれど、とても時間がかかる。アカリたちのサイズ感では、森の中はとても歩きにくい。小石だって岩みたいに大きいし、どんぐりや松ぼっくりだって通るのには邪魔になるサイズだ。


背中のリリカが少しずつ重たくなっていっているのは、リリカの意識がどんどん薄れていっているということ。すでにアカリの服にもリリカの血は大量に付着しているけれど、そんなことはどうでもよかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 頑丈だったら理想のシチュエーションなんですけどねぇ
[一言] 怖い話になっていますね。 でもわざと傷つけたいわけでもない。ただサイズの差のせいで。この物語では誰も悪い人がいない。これはこの作品のいいところの一つだと思います。
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