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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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あなたのことは嫌いだから 4

「どうしよう……」

前に部屋の中で綾乃から嫌がらせを受けた時には、確実に沙希さんが戻ってくることがわかったから、まだ希望のある怯え方だった。だけど、今回は違う。うまく沙希さんがアカリのことを見つけ出してくれる保証はない。


外からは綾乃の荒くなった呼吸音と、ドタドタと走る音が大きく聞こえる。その背景の音として、街の音も聞こえてくるけれど、それらはいろいろな音が混ざりすぎていて、うまくは聞こえなかった。今どこにいるのかなんて、当然わからないし、わかったところでそれを誰かに伝える術もない。


このままどこに連れていかれるのだろかう。場合によってはもうリリカの元に戻れないのではないだろうかという不安が押し寄せてきて、次第にアカリの呼吸が早まってくる。こんなことなら、きちんと出発前にリリカの言うことを聞いておいてあげれば良かった。そうすれば、リリカが落ち込むこともなかったし、アカリも怖い思いをする必要もなかったのに。


何がおいてあるのかわからない真っ暗な場所で不安いっぱいになりながら移動を続けていると、突然カバンの揺れが止まった。その拍子に勢いよく跳ねてきたリップクリームに危うくぶつかりそうになり、慌てて身をかわした。そして、次の瞬間、勢いよくファスナーが開き、カバンの中に一気に光が入ってくる。アカリは眩しくて、思わず目を瞑ってから、少しずつ目を開いていく。


「ご、ごめんなさい……」

目があった瞬間に、綾乃が怯えたような表情でカバンの中を見つめた。そして、カバンをベンチに置いてから、両手で慎重にアカリを取り出した。この間の乱暴な手つきとは全く違う、壊れ物を扱うみたいに慎重な手つきで触れられた。


「公園……?」

辺りを見回すと、滑り台とベンチと5本くらいの桜の木が生えている公園に着いていた。てっきり綾乃の私室とか、トイレとか、誰も助けにくることのできない密室でたくさん脅されるのかと思っていたから、少し緊張感は和らいでしまう。公園に他の利用者はいないけれど、公園の出入り口の道の方には人も車もたくさん通っていて、かなり見通しの良い場所ではあった。


「あの、わたしはなんでここに連れて来られたんですか……? ……って、何やってるんですか!?」

綾乃の考えがわからなくて、恐る恐る尋ねようとしたら、当の綾乃は突然土下座を始めていた。ベンチの上に立っているアカリに向かって、砂で痛そうな地面に額をつけている。とても姿勢の良い土下座の姿に、申し訳なくなってししまう。


「この間のことも、今日ここに連れ去ってきちゃったことも、本当に申し訳ございませんでした……」

「い、良いですから。大丈夫ですから! 顔あげてくださいって! 地面に顔着いたら汚いですから!」

もしアカリが人間サイズだったら、大慌てで綾乃の体を起こしにかかるのだけれど、残念ながらアカリには綾乃の体を起こす力は無いし、そもそもベンチから降りる術もなかったから、ベンチの端っこギリギリまで近づいて、落ちないように気をつかながら、綾乃が自ら土下座を止めるように説得することしかできなかった。


「良くないわ。私の都合であなたを怖がらせてしまったこと本当に反省しているの……。でも、あなたにどうやったら私の反省の気持ちが伝わるかわからないから……」

「わ、わかりましたから。もう伝わってますから! 顔あげてください!」

何度か呼びかけて、ようやく綾乃はゆっくりと顔をあげて、今度は砂の上で正座をした。


「えっと……、ベンチに座ったら良いんじゃないですか……?」

「それだと、あなたとちゃんと話ができないから」

土下座をやめた綾乃はまた淡々とした調子に戻っていた。ベンチの上で立っているアカリと、地面で正座をしている綾乃。彼女の計らいのおかげで、アカリは今真正面に綾乃がいる。まだ怖いことは怖いけれど、正面から見ると、お淑やかでキリッとした顔立ちをしていて、綺麗に背筋を伸ばした正座も相まって、クラスの優等生にしか見えなかった。


「足、痛くないですか……?」

「ちょっと痛い……」

「別に目線合わせなくても良いんですよ……?」

「それは私が嫌なの。あなたにはとっても悪いことをしちゃったのだから。だから、きちんとあなたと視線を合わせて2人だけで話をしたいの……」


真剣な瞳でアカリに訴えかけるようにして伝えてくる。今の綾乃は、少なくとも表面上は信頼しても大丈夫なように感じられた。

「そのために、こんな形で強引にあなたを連れてきてしまったのは本当に申し訳ないわ……。でも、どうしてもあなたにこの間のことをきちんと伝えるには、沙希がいたらダメだったの……」

とりあえず、綾乃がここにアカリを連れてきた経緯については理解できた。アカリが小さく頷くと、綾乃が少し恥ずかしそうに話し始める。

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