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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第二章【同じ川に二度入ることはできない】
19/44

18.死活的アンサンブル

コンクール直前。

光太郎は、千、希人と共にいつものように練習に励む。

3人の奏でる打楽器三重奏は、果たして恩師に届くのか。

一方謎の多いテノールとソプラノは、"あの男"に出逢って…

明後日は、コンクールだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

いつものように皆で会館に集合し、自動ドアを通過する。


響木(ヒビキ) (セン) ‐ ティンパニ

紺賀(コンガ) 希人(マレト) ‐ トムトム、ボンゴ


「どうしたの?光太郎くん?」

ティンパニ奏者の千ちゃんはストレートタイプのポニーテールリングが特徴だ。

まだ中学1年生だが中華風メイクを描きこなしている。

元から若干つり目であるが、その上のメイクによるキリッとした雰囲気とは対照的に、内は蒲公英(タンポポ)のような穏やかで柔らかい人である。

その洞察力ゆえ、よく心情を汲み取られる。

「いや、なんでもない。」

何か、ソラ兄ちゃんに対する違和が在った。

「…そっか!何かあったら言ってね、」

優しい。


「もう本番は近い。さて、行こうか。」

トムトム、ボンゴをえんそうするのは希人くん。

青色のメガネが特徴で、いつもネクタイをしている。本人曰く、"引き締まる"らしい。

キャラクターとしては少し厳しいがその腕は間違いなく、圧倒的な統率力には僕も千ちゃんも拍手せざるを得ないのは希人くんから滲み出る優しさだろう。

「本番直前は『楽しく』よりも『死ぬ気で』を意識しよう。終わったら皆で...ゲームセンターにでも行こう...!」

「「うん!!」」

明日は敢えて一日休みになっている。

今日が最後の練習だ。


ソラ兄ちゃん、待っててね!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

打楽器三重奏『Walhalla』の譜面は中々難しい。

三種の神器による威厳のある一発。

強烈なボンゴの一撃を合図に

口ずさみたくなるドラム16ビートが奏でられる。

ティンパニソロで落ち着いたかと思えば、なんと手を使い出すのだ。

常人の成し得る事ではない。

が、練習をすれば成る。

そう信じてやってきたのだ。

「じゃあ頭から練習しよう。」

希人くんの声は、千ちゃんの笑顔に点火する。

それぞれマレットとスティックを構える。

1

2

3

4


響き渡る地の雄叫び。

迫り来る脅威。

槍を突き合い、盾で防ぐ。


殺すか、死ぬか。


開戦の音。

隠れる戦士たち。

狭くなる足音を目掛けて、突撃。

止まらぬ乱れ。

向かい合う戦士。


戦士は死んだ。

神々の運命に備え、酒に祈る。


開戦の音。

隠れる戦士たち。

狭くなる足音を目掛けて、突撃。

止まらぬ乱れ。

向かい合う戦士。

響き渡る地の雄叫び。

迫り来る脅威。

槍を突き合い、盾で防ぐ。


殺すか、死ぬか。


「...何かが足りない。」

人生最後の"今日の最初の通し"が終わった。

「何か足りないような…?」

千ちゃんが意見を置く。

「なんだろう、手拍子のところ。何かコンタクトが取れていないような心地がするの。」

「そう」

録音を再生する。

「ああ」

「えっ。」

「なに。」

「うん、」

10秒巻き戻し、少し聞く。

「ここ。」

「ちょっとズレてる、楽譜を読みすぎだね。」

「じゃあどうするの。」

Walhalla(ヴァルハラ)を理解するんだ。」


Walhalla(ヴァルハラ)は、

神の住む世界における天国にあるとされている。

戦場で勇敢な死を遂げた戦士たちは神によってこの地に招かれ、いずれ来る神々の戦い【ラグナロク】に備えて永遠に戦闘と宴会を繰り返すのである。

Walhallaで死んだ戦士はすぐさま蘇生し、再び戦闘の訓練を行う。

ラグナロクは神々の運命であり、より良い世界への第一歩へと繋がっていくのである。


「この手拍子は、何を意味するんだろう。」

直前にこんな事も考えていなかった自戒。

「宴会の場面かな」

「この後戦いが始まるような印象ではある。」


「ちょっと、水買ってくるね」

光太郎が離脱する。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

自販機。ただの水で、160円もする。

「高っ、」

限りなく正方形に近い長方形の財布についたマジックテープを剥がし、中から1000円札を取り出す。

「これしか無いや。」

ちょっと損した気分になる。

先程まで威厳のあった人物の顔は、無機質な英数字に分解されて帰ってくる。

「ああ。」

キャップを開ける。

一度飲んだ。

生ぬるい脊髄に沿って冷水が流れ込む。


まだ、喉が渇く。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おかえり、続きだ。」

空っぽな喉のまま、ドラムスティックを持ち直す。

「手拍子前から」

ドラムスティックをおろす。ティンパニソロだった。

6拍子で手拍子をする。

.

.

.

「うん。揃った。」

音が揃うという事。

それは、気持ちが揃うという事。

「ギリギリまで勉強しなきゃね」

千は希人に笑顔を向け、首の後ろで空を掻く。

「そうだね、じゃあ次のフレーズだ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

水上 素流は、立っていた。

「水上 宇宙。」

テノールとソプラノが迫る。

「?」

テノールは既に、違和感に擽られた。

「お前...誰だ?」

「誰って。」


「誰だろう。」

「何で生きている...?」

「何でって、僕だって人間なんだから。」

ソプラノが喰らいつく。

「何が人間よ!あんた銃で撃たれたんじゃないの!?大地言ってたんだけど!!」

「え、銃?というか…」


「大地って誰?」


白目が大きくなる。

「いや、モメントの」

理解していない。

記憶喪失かと思ったソプラノをテノールが察する。

「お前、Mr.クーロンに何かされたか?」

「Mr.クーロンは迷っていた僕に名前をつけてくれたんだ、水上 素流って。」

水上 素流(ソル)

初めて聞いたその名に、テノールは震えた。

「まさか…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

終いのシンバル。

はあ、はあ、はあ、と息を小刻む一同。

「…上手くできるかな。」

「ここまできたんだ...やれる。」

「でも、自信無いよ」

千は涙目で俯く。

その背中に手を当てる希人。

「自信が無いから、頑張れるんだよ。賞をとれる自信じゃない、頑張れる自信だ。」

「…ある。」

涙を弾く千の肌。

「光太郎くんの先生、来るといいね。」

「うん、...っ、うん。!」

光太郎はしっかりと頷いた。

「さ、エアコンは切った?」

「うん」

「帰ろっか。」

そして今日も、音の染み付いた部屋は眠った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「まさか…」

テノールはアルトの持っていた元素プレイヤーを出すと、元素プレイヤーは素流の方へと引き寄せられた。


『元素プレイヤー!!』


「えっ!?これって!」

ソプラノは驚愕した。やはり水上宇宙と同じ事が起こっているのである。

素流のポケットからキセノンとクリプトンのスティックが出現、素流の前に留まる。

「これはアルトが渡したものか?」


『クリプトン!!』


Kr=クリプトンのスティックが元素プレイヤーに装填され、立ち竦む素流を襲う。

「何が起こっている!?」

素流が光に包まれる一方、キセノンのスティックは──


──メイプルの手に届いた。


「お前は!!!」

Xe=キセノンのスティックを元素プレイヤーに装填するメイプル。


『キセノン!!』


巨大なカスタネットのような装置が出現。

素流とメイプル、両者のプレイヤーからドラムソロが流れる。それは数ミリのズレもなく機械的に揃っている。

が、次第に音はズレていく。


象徴化(シンボライズ)!!』


同時にスティックを弾く。

2人は、巨大なカスタネットによって潰された。


沈黙。


「え…?」


すると、カスタネットは泥のように溶けていく。

そこには、赤と青の戦士の姿が1人しか確認できなかった。



『メメント・二重奏(デュオ)!!』

【所持スティック】

〈クラック〉

謎のチューニングキー(テルビウム)、水素、炭素、酸素、ガリウム、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、スカンジウム、セレン、イットリウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、アンチモン、タンタル、タングステン、オスミウム、水銀、鉛、コペルニシウム、ホルミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム

〈水上 素流&メイプル〉

ダイナミックタム、キセノン、クリプトン


〈アイソトープ〉

ヨウ素 (ヨウ)


NEXT▶19.自然的アーティファクト

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