身体強化
光は火水風土の四系統から外れた、別名第五の属性と呼ばれる属性である。
その性能は結界の展開や回復などの効果が多く、まともな攻撃魔法をほとんど持たない。
それ故そのサポート性能に注目されがちだが、聖堂騎士の強力さはクリステラの内外にまで響き渡っている。
聖堂騎士が特級戦力とされる所以――それこそが、身体強化の魔法である。
「ポイズンアクセラレーション!」
ロンドが先ほどまでいた地点を、セラトの斬撃が通り抜けていく。
彼の全身は淡く光っており、その動きは先ほどまでとは完全に別物になっていた。
(くっ……聖堂騎士、まさかこれほどとはっ!)
身体強化を使っている相手と戦うのは、ロンドには初めての経験だった。
彼が首を動かすと、そこに剣の先端が襲いかかる。
ふぁさりと前髪の一部が斬れ、風に流れていく。
拳を振るうロンドと剣が激突する。
わずかに後ろに押されながら、なんとかその場で踏ん張る。
(力もあっちが上か……)
息つく間もなく、更なる連撃が襲いかかる。
強化された身体能力によって放たれる高速の突きは、それら一つ一つが目で追うことができぬほどの速度を持っていた。
啄木鳥のついばみを思わせる高速の突きが、ロンドの全身にいくつもの傷を作っていく。
地面には赤いシミができ、攻守が反転することはなく剣が嵐のようにロンドへと襲いかかり続けた。
「ぐうっ……!?」
いくつもの戦いを乗り越えて成長してきたロンドであっても、魔法なしではついていくことが難しいほどのスピードだ。
ポイズンアクセラレーションを使えば同等の速度は出るが、戦闘経験豊富な聖堂騎士と真っ向からぶつかり合っては、さすがのロンドといえど分が悪い。
リーチの差があるので、下手に前に出て拳を振るうわけにもいかない。
それなら距離を取り魔法戦に移れればとも思うが、当然そんなことを許してくれる相手ではなかった。
「ぜあっ!」
「くっ……っポイズンメイル!」
溜めをつけて放たれた一撃の威力の高さを即座に看破し、ロンドが毒の鎧を身に纏う。
クロスした彼の両腕と淡く光る剣が交差する。
今度はロンドが後方へと思い切り吹き飛んでいく番だった。
ロンドの肉体も以前と比べればはるかに鍛えてられているが、そもそも膂力自体に大きな差がある。
真っ向からの戦いでは、相手を倒すのは厳しいのは間違いない。
「オールヒール」
地面を転がっていくロンドの全身の傷が癒えていく。
見れば遠くにいるレアがこちらに回復を飛ばしてくれているのがわかった。
既に二人の聖堂騎士は片方がレアに、そしてもう片方がメンチに向かっている。
ロンドは一刻も早く目の前のセラトを倒し、二人に加勢する必要があった。
「ふむ、毒魔法使い、一体どれほどのものかと思っていたが……所詮はこの程度か。これならあれを使うまでもなかったな」
砂煙が消え、中から現れたセラトが剣を握る。
全身から発される光は、先ほどまでよりも強くなっているように見えた。
絶望がロンドの身体を重くする。
だが彼の目は、死んではいなかった。
「――死ねえいっ!!」
振り下ろされた一撃を避ける。
逃げる先は背後……ではなく前。
地面から起き上がろうとするロンドの頬を、剣風が撫でてゆく。
攻撃を受けた腕がぱっくりと裂け、血が噴き出した。
「――なっ!?」
けれどこちらを舐めて大ぶりの一撃を放ったセラトの動きには、今までになかった大きな隙がある。
ロンドはそっと、甲冑に触れる。
そしてその隙間から、毒を流し込んだ。
「龍毒」
零距離から放たれた毒が、セラトの身体を蝕んでいく。
セラトの身体に漲っていった光が弱まっていったかと思うと……突如として、その光が紫色に変色し始めた。




