速度
「ポイズンミスト」
まずロンドが発動させたのは毒の霧だった。
闇夜に混じる形で放たれる紫色の霧が、固まってその場を動かない三人の聖堂騎士を包み込んでいく。
(まず確かめるのは、毒が効くのかだ)
今回は先ほどまでのものとは違い、弱毒化させていない龍毒を使用して魔法を展開する。 ロンドが自身で毒魔法を使う分には、毒の重ね掛けが可能だ。
だがロンドは他者が毒になっている状態で自身の毒魔法を使ったことはない。
故にまずは現状でも相手に自身の毒が効くかを確かめておくことにした。これができるかできないかでは、戦術の幅に大きな差が出る。
テンソル
健康状態 ヴェネラの聖晶毒・龍毒
HP 409/545
(ほっ、問題はないみたいだな)
ロンドは続いてポイズンアクセラレーションを発動させ、毒の霧の中でも迷うことなく聖堂騎士達の下へと駆ける。
そして同時にポイズンナックルを使い毒を己の拳に纏わせた。
光魔法による回復能力がある以上、ロンドが得意とする毒魔法によるスリップダメージは見込めない。
故に相手を倒すためには相手に直接的なダメージを与える必要がある。
遠距離攻撃用の魔法ではなくポイズンナックルにしたのは、相手方の近接戦闘能力を早い時点で確かめておきたかったためだ。
滞留するポイズンミストにより位置は把握しているため、紫の濃霧の中であっても敵の姿をロストすることはない。
接敵するというところまで近づいた段階で、ロンドは彼らが未だ最初から一歩も動いていないことに気付く。
「「「三重聖結界!!」」」
彼らが動いていなかったのは、精神集中を行い一刻も早く魔法を発動させるためであった。
彼らの周りを囲む形で三角錐を思わせるバリアが展開され、中にあった毒霧が一瞬で消えていく。
光魔法には解毒用の魔法も存在する。結界の中では毒が弱毒化、ないしは無効化されるのだろう。
毒が消されたことには衝撃を受けたが、この可能性も十分に考えてはいた。
それ故の接近でもある。
「すううっっ……」
拳を引き絞り、そしてロンドは新たに魔法を発動させた。
龍毒、形状は球、魔力は大量に。
(ポイズンボール)
魔法名を出すことなく、ロンドはポイズンボールを発動させる。
いわゆる無詠唱と呼ばれる技術であり、一応以前から使うことはできていたが、その練度は以前と比べるとはるかに上がり、発動までがスムーズになっている。
またこの技術に加え、ロンドは現在三つの魔法の同時発動ができるようになっている。
ここ最近の魔法訓練による上達が、聖堂騎士を相手に優位を取ることを可能としてみせた。
聖堂騎士達目掛けて放たれたポイズンボールが結界へと激突する。
が、わずかにヒビが入っただけで結界は未だ健在。
故にロンドは使用する魔法ポイズンナックルとポイズンボールに限定し、ポイズンボールを間断なく連射し始めた。
都合五発目のポイズンボールが結界に当たった時、ガラスが割れるような音と共に結界が割れる。
「ぐうっっ!?」
「馬鹿なっ、三人掛けだぞ!?」
即座に打ち込んだ二発のポイズンボールが二人の聖堂騎士を捉えた。
その後方にいた無事な一人は、手に両手持ちの直剣を構えながら再び精神を集中させ始める。
自身に来る魔法攻撃を防ぐためなのだろうが……。
(遅いッ!)
ロンドはポイズンボールの連発に使用していたリソースを使い、即座にポイズンアクセラレーションを使用。
精神集中をして無防備になっていた後方の聖堂騎士、セラトの背後へと回り込む。
「ポイズンナックルッ!」
「――ぐうっ!?」
毒によって硬質化した拳を振り抜き、同時にポイズンアクセラレーションを発動。
超速で放たれた拳が、振り向きざまのセラトの顎下へとクリーンヒットする。
装着していた兜が吹っ飛び、そのままの勢いでセラトはゴロゴロと後ろに転がっていった。
「ポイズンミスト」
そして再び毒霧を展開、ポイズンボールのダメージから立ち直りかけているテンソルとアンクの視界を塞いでから、未だに地面に転がっているセラトの方へと駆けていく。
(三対一でこっちを嬲ろうとしたんだ、これくらいのことは許してくれよ)
そのまま二人との合流を防ぎ、ロンドはポイズンミストを利用してセラトの正確な位置を把握。
「ポイズンウィップ、ポイズンボール」
立ち上がろうと片膝を立てているセラトの足下に毒魔法をぶつけると、重心が後ろに寄ることで再び地面に倒れ込む。
全身鎧のデメリットは、一度転んでしまった場合に立て直しが非常に困難になることだ。
片膝を立ててから力を入れなければ起き上がるのも一苦労になる。
どうやら聖王国の鎧は王国や帝国と比べてもかなり重たいらしく、同じミスリルを使っていてもその動きの違いは明らかだった。
(このまま行けば倒せる……なんて思っちゃいないさ。なんせ聞いた話なら……)
「聖なる活性」
再びロンドが毒魔法を発動させたタイミングで、三度片膝を立てたセラトの全身が光り出す。
そしてセラトへ毒魔法が命中し……けれど彼は気にした様子もなく、何事もなかったかのように立ち上がった。
「舐め腐りおって……裁きの鉄槌を、下してやる!」
セラトがグッと足下に力を入れ、ロンド目掛けて駆け出す。
その速度は、先ほどまで動くのに難儀していたとは思えないほどに軽やかだった。
(――速いっ! これが……光魔法による身体強化か!)




