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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 ゲオルギー・リジコフ その6

 ゲオルギー・リジコフがメイド二人を連れて九段下駅から飯田橋駅の方に向かって歩く。

 さすがにマスクは取っているが、ビルが林立する街中でパワードスーツを着た外人がメイド二人を連れて歩いているのは異様でしかなく、立ち止まり眺めてゆく通行人に思わずやっかみが口を衝く。


「平和なんだろうな。この国は」

「喜ばしい事では?

 世界はどこもかしこもテロとの戦いに明け暮れていますよ」


 そのテロと戦う最前線で暗躍していた元CIAの現メイドが皮肉を漏らすなら、ゲオルギーも苦笑で返すしかない。


「そう言わないでくれ。

 こいつは豊原地下都市では悪魔として恐れられていたんだ。

 それがこんな晴れた日、青空の街中をメイドを連れて歩くのだから、少しは冗談も言いたくなる」


「ピクニックするのでしたらランチボックスでも持ってきましたのに」


 そんなおよそ800メートルの散歩でも仕事は忘れないのが彼らである。

 聞かれても困らないような会話で、仕事の話をしていた。


「で、そいつ飯田橋駅に居ると思うか?」

「こればかりは、行ってみないと分からないので。

 悪魔の証明ですから、居ない事を確定させるのにマンパワーを使うんですよ」

「そのマンパワーがこの国というか桂華にはあったと。

 羨ましいもんだ」

「とりあえず、居なかった事が確定できたら、引き込み線の方に踏み込む手筈なので」


 彼らが徒歩で飯田橋駅まで歩く事になったのは、東西線ホームのトラブルのおかげである。

 ホームから落ちた客を探す為に車両は停車したままであり、いつになったら動くのかと駅員に詰めていた乗客との会話が耳に入ったからだ。


「申し訳ございません。お客様。

 ホームから落ちたお客様がまだ見つかっておらず……こちらに来ていただけるとありがたいのですが、飯田橋駅の方に行かれたかどうかも分からないので……」


「分からない、か」


 ゲオルギーが足を止めて客と駅員の前に出る。

 威圧的なパワードスーツを前に客が即座に居なくなるが、駅員は迷惑な客が去ってほっとした顔をゲオルギーに見せていた。


「それを最初に言い出したのは誰だ?」


 駅員は一瞬だけ言葉を探すが、口調はお客様を相手にしたのと同じだった。

 ゲオルギーではなく東西線飯田橋駅方面を眺めて言う。


「ええと、現場ではよくある話なんですよ。

 トラブルになったからその駅に戻るのが恥ずかしいというお客様が。

 地下鉄は駅間も短いので、その際には隣の駅に連絡して拾ってもらうんです。

 危ないんですけど、ここは第三軌条でもないので」


 実体験のこもった苦労話をしながら駅員は肩をすくめるが、ゲオルギーとメイドはアイコンタクトで互いに合図を送るのみ。

 駅員に保護されるのは構わないが、そこをマフィアなりヤクザに襲われたらと考えたら厄介なことになると察したからだ。


「こちらゲオルギー。確認だ。

 元男が飯田橋駅側へ上がった可能性はないのか?」


 その後夏目警部とのやり取りの後、飯田橋駅に向かう前に先ほどの駅員に尋ねられる。

 業務的かつトラブル対処ゆえになんとも困った声には嘘はなかった。


「あとどれぐらい東西線が止まっているのか聞いてきてくれませんか?

 こちらもお客様に、具体的な時間を返答できなくて困っているのですよ」


 かくして、ゲオルギーとメイドたちは徒歩10分ほどで飯田橋駅に到着する。

 地下鉄東西線の不通はこちらでも告知されており、駅員が客を相手に説明をしていた。


「北樺警備保障のゲオルギー・リジコフだ。

 九段下交番の夏目警部の要請でホームに落ちた客の保護に来たんだが、こちらに来ていないか?」


 飯田橋駅の駅員も連絡を受けていたようで、あっさりと返事をする。


「こっちには来ていないよ。

 監視カメラにも映っていなかった」


「そうか。邪魔した……」


 言いかけて、ゲオルギーはふと視線を止めた。

 飯田橋駅のホームを映す監視カメラ。

 その位置。角度。死角。

 それを見た瞬間、九段下で聞いた話が頭の中で繋がる。


 ホームから落ちた男は、最初から監視カメラの映りにくい位置にいた。

 警戒していたからだ。

 そんな人間が、ただの揉み合いで都合よく落ちるものか。


 しかも、さっきの駅員は飯田橋側へ抜けた可能性を、まるで当然のように口にした。

 だが、本当に問題なのはその先ではない。

 その死角を知っていて、そこへ自然に立てる人間が誰かだ。


「……そういう事か」


 低く吐き出した声に、メイド二人が振り向く。

 ゲオルギーの目はもう飯田橋駅員ではなく、九段下のホームを見ていた。


「あの男は、逃げ先を当てたんじゃない。

 落とした側だ」


「っ!」


「急いで戻るぞ!」


 ゲオルギーは即座に踵を返した。


「無線に出るな。全部聞かれている前提で動け。

 多分、あの駅員だ。奴がホームから突き落としたんだ!」

三線軌条

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%B7%9A%E8%BB%8C%E6%9D%A1

地下鉄東西線は架空電車線方式

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― 新着の感想 ―
三線軌条ではなく第三軌条では?(とWikipediaでも注釈されていますね)
更新お疲れ様です そりゃ化けるか、スタッフに
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 前話と二度味がしますね。 ゲオルグさんも最初に言い出した人を聞いていましたので、警戒はしていたようですが、見事に化かされてしまったようです。 質…
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