道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 ゲオルギー・リジコフ その2
ゲオルギー・リジコフがメイドに連れてゆかれたのは九段下の交番だった。
何か事件が起きたら、基本警察の指揮下に入るのだから、顔合わせをしておいて損はないという判断なのだろうと思ったが、そこの署長の挨拶はずいぶん気軽なものだった。
「九段下交番署長の夏目です。
何もない事を願っていますが、どうぞよろしくお願いします」
若いのに警部で交番署長。
キャリア組がこんな現場に出てくるのはまずないと訝しんでいたら、顔に出たらしく説明をしてくれる。
「お察しの通り、お嬢様の警備でへまをしましてね。
ここで一回休み中という訳です。
三度目のへまは御免なので、そういう意味でもよろしく頼みますよ。
あと、知っていると思いますが、私の上は小野管理官なので」
旧北日本の警察でも、党官僚の若手が出世チケットを持って現場に来る事はあったが、その目的は現場の監視である。
とはいえ、己のポカを堂々と晒すのは馬鹿か馬鹿のふりをしているかのどちらかで、後者だろうとゲオルギーは当たりをつける。
小野管理官こと小野健一警視とは面識があったからで、現場で出世させられた人間が無能な訳がないのは世の東西変わる事もなく。
「挨拶はこれぐらいにして、とりあえずものを見せましょうか」
「もの……ですか?
自分は会場警備の任務につくと聞いてきたのですが?」
「だからものですよ。強化外骨格。
着れるんでしょう?」
九段下交番の地上は見た目通りの交番だが、地下鉄駅と直結した上で常時警官が2人四交代で詰めているだけでなく、北樺警備保障の警備員が交番に詰めて警察業務のお手伝いもする事もあり地下はかなり広い。更にメイド姿の北樺警備保障警備員が仕事をする事もあり『メイドのお巡りさん』とTVでも取り上げられる事もしばしば。
夏目の飄々とした物言いにゲオルギーはやはりこいつは馬鹿のふりをしていると確信したが、あえてこの場でこの言い方をするとなれば、前職知識から思い当たるふしが一つあり、地下保管庫でそれを見つけて思わず目をみはる。
「強化外骨格零式改四。
樺太重工苫小牧製作所が作り出した最新鋭パワードスーツ。
まだ、本庁特殊事件捜査班ですら持っていない優れものですよ」
「また、そんなものがどうしてここに?」
夏目もゲオルギーも会話は胡散臭そうだが、目は口ほどにものを言う。
隣のメイドのジト目が全てを語っているのだが、それを口にするほど無粋でもなかった。
「こいつは北樺警備保障が購入してここに預けているという名目で。
ものがものだけに、本庁からも見学者がやってくるのはいいとして、使ってみないと性能はわからない。
で、こちらとしては、使える人間に評価試験をやってもらおうというのが表向きの理由です」
堂々と表向きと言うあたり、彼はこの茶番劇の詳細を知らされているらしい。
強化外骨格を見る目とは違う色で夏目はゲオルギーに話しかける。
「これを着ていると、顔見えないでしょう?
偉い人も大変でね。知事や総理が英雄をたたえる為に色々苦労したそうで察してあげてください」
「そんな事に使われるぐらいなら、こいつも買ってイラクに送りたい所なんですけどね」
「メイドさん。所属。所属」
「あら失礼。今は北樺警備保障でした。おほほ」
新世紀に入り、テロとの戦いに世界が明け暮れている中、戦車より安く、歩兵を強化できる強化外骨格はアフガンでイラクでその真価を発揮し続けており、米軍は自国製強化外骨格を採用してはいるが、戦場ではその実績と歴史から東側、つまり樺太重工の強化外骨格は世界中から注文が殺到していた。
「ゲオルギーさんならご存じかと思いますが、樺太重工も系統が二つあって、旧東側工廠をまとめたのが豊原本社。一方で、苫小牧製作所は東側技術と規格を日本人の職人たちが作りあげる事で樺太重工随一の稼ぎ頭となりました。
そこが送り出した強化外骨格は、89式をベースに各所をコンピューター制御でアシストする形になっています。
その為稼働時間がネックですが、外部電源ケーブルとバッテリーパックの交換でそれを解決。最大四時間の稼働が可能だそうです。
もちろん、電気なしでも動かせる体をゲオルギーさんをはじめ強化外骨格使いの方々は持っているでしょうから問題ないと思いますが」
89式という言葉にゲオルギーの眉が少し動く。
察したメイドがそれとなく口を挟む。
「89式も北樺警備保障で保有しているので、そちらをご用意いたしましょうか?」
「いや。仕事に好き嫌いもないだろう。
それに最新式を着れるのは悪くはない。
うん。悪くはないんだが……」
ゲオルギーは口を濁しながら言葉を選ぶ。
それを小野警視が聞いたら『刑事の勘』と言っただろう。
「ここまで、ご丁寧に積み木を積み上げられていると、誰かがこれを崩しそうな気がするんだよ……」
強化外骨格の名称
『パトレイバー』と『艦これ』のオマージュ。
強化外骨格の零式の第四改造って感じだが、作者はノリで作っているのであまり決めていない。
98式だと東側は崩壊しているので89式で。
そういえば、パトレイバー世界だとソ連残っているのか……
ノリ的には零式改四は『ドム』で89式は『グフ後期型』のつもり。
つまり、ゲオルギーはベテランのグフ使いという属性説明。
なお、バッテリー交換でどこまで動けるか怪しいので外部電源ケーブルを用意したのは『エヴァ』がネタ元である。
作って気づいたただの趣味回である。




