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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 小野健一 その2

「花婿さん。ちょっといいか?」


 さしたる身寄りもいない花婿こと近藤俊作の控え室には彼一人しかいなかった。

 親族とはそれほど親しくもなく、結婚と言っても元水商売の女だから田舎ではそれ相応のやっかみがある訳で。

 来るはずもなく、呼ぶつもりもない花婿控室には近藤俊作が一人火のついていない煙草を咥えていた。


「構いませんが、何なら吸います?」

「やめとこう。お前こそ吸っていいぞ」

「あいにく禁煙中でして。それでも口寂しいからこうして咥えているんですよ」

「まぁ、いいや。

 少しトラブルが発生してな……」

「でしょうね。

 愚痴ぐらいなら聞きますよ」


 そんなやり取りの後、小野健一は前藤正一についていた蒼水ハンナ警部から聞いたロシアンマフィア襲撃の情報を漏らす。

 この部屋も盗聴されているなんて可能性を二人は考える事無く会話は続く。


「何も一介のタクシードライバーとネットカフェ店長の結婚式を襲わなくても……」

「それはそうだが、たまたま総理と都知事が顔を見せるなら、チャンスと考える馬鹿はそりゃ出るわな。

 マフィアもヤクザと同じで暴力と面子の商売だから舐められたままで済ませられんって事だろう。

 で、だ。仕掛けるとしたら、あいつは出ると思うか?」


 この事を聞きたかったのだろう。小野警視の言葉に近藤俊作は探偵の顔でそれを否定した。


「出ませんよ。振付師は。

 あれは、あれで怪物になっちまった。

 わざわざ出てきて捕まる危険を冒す必要もない。

 出てくるとしたら、模倣者ですよ」


 二人の言う『振付師』とは、新宿ジオフロントテロ未遂事件において、あわやの所までテロが成功し総理や都知事や公爵令嬢の命が危なかったのにもかかわらず、『何もなかった』事にされた結果完全犯罪を達成してその行方が見事に消えた奴の事で、米露諜報機関は今だ行方を追っているのにその足取りは奇麗なまでに消えて、今回の結婚式ついでの大仕掛けも彼が引っかかればと両国が考えているのは容易に想像がついていた。


「なかった事になっているのに模倣者か?」


「そりゃそうでしょう。人の口に戸は立てられません。

 あの時、木更津箱舟の大規模な大捕り物の裏で、新宿ジオフロントに警官隊や自衛隊が駆けて行ったのはあちこちで見られているし、セキュリティーの厳重さでマスコミが記事を書こうとして政府どころか米露両政府からの圧力で潰されたじゃないですか。

 嫁さんの調べですが、一番掴んでいた奴は『平成の鼠小僧』と呼んで売り出す所まで行っていたそうで」


 九段下周辺で金を置いた事まで掴んでいた事に小野警視は戦慄するが、だからこそ米露の諜報筋が見逃さなかったともいう。

 なお、そのマスコミは露のマフィアまがいの脅しに米に助けを求めるという、良い警官と悪い警官の見本みたいな形で口を塞がれる事になった。

 現代社会というのはなかったと隠す事がこれほどまでに難しい。


「で、平成のダークヒーローとして、模倣者が名を売るためにここを狙うか。

 振付師の奴、ここまで読んでいたのかもしれんな」


「でしょうね。模倣者が出れば出るほどオリジナルが輝きますからね。

 その模倣者が馬鹿でなければ、ポイントは二つです」


 近藤俊作は咥えていた煙草を灰皿において指を二つ差し出す。


「一つは『なかったことにされる』事。

 事件になってしまったら、日本の警察は優秀だからいずれ捕まってしまう。

 だから、事が起こっても事件にならないレベルに抑える必要があります」


「ん?花婿さんよ。

 それだったら、ロシアンマフィアの依頼はこなせないんじゃないか?」


「そうでもないですよ。

 もう一つが『面子が潰れる事で』、誰の、何に対する面子かを考えると手段はいくらでも選べます。

 例えば、前と同じように一億円をこの九段下に置いて大衆が集まってしまえば、総理や都知事がこちらに来れなくなるので桂華グループの面子はつぶれると」


 花婿衣装姿で語るには、少しおかしい気がするが、今の近藤俊作はしっかりと探偵をしていた。


「この間乗ったお客さんの話ですが、米露の諜報筋に対する報復は、イラクなりチェチェンなりでできるんですよ。

 宗教過激派は信仰に殉じて命すら捧げるからたちが悪いんですが、マフィアは面子命であると同時に命を懸ける場所と商売をきちんと分けています。

 本拠でない極東の洗濯機に命まで懸けても割に合わない。

 この国に対する報復は、マネーロンダリングが潰され、テロとの戦いで後方支援に徹している我が国でテロを起こして完全に敵に回すより、こういうさじ加減が求められると。

 さて、模倣者は、誰の面子を潰すつもりなのやら……」


 そう言って、近藤俊作は指を三つ立てる。

 その誰は、総理・都知事・桂華グループの事だと小野警視には容易に想像がついた。


「ただのタクシーの客にしては、えらく語るじゃないか。

 誰だい?そいつ」


「ああ。名前は聞かなかったですけど、嫁さんが通う事になった学校の図書館館長をしているとかで。

 嫁さんが色々話したのか、お祝いとばかりに面白い話を……どうしました?おやっさん?顔真っ青じゃないですか?」


「……ああ。まぁ、思い当たる節があってな。

 悪い人じゃないが、ちょっとな……」


 そう言って出ていく小野警視の姿を見て、これは花嫁にも話を通した方がいいなと花婿は部屋を出てゆくのだった。

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― 新着の感想 ―
妖怪が現れた!w 文字通りの昭和の妖怪だなあこの人w
……図書館長に踊らされてるなぁw
仮に振付師が絡んでも「お疲れ様です、あと結婚おめでとうございます」ってカードが何時の間にか置かれてそうだけど。
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