道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 前藤正一 その2
丁度良いタイミングでYouTubeでパトレイバーの劇場版が……
九段下桂華タワー。
その中にある桂華ホテル九段下大ホール。
そこでは、ホテル宿泊者及び利用者に向けての無料立食パーティーが開かれていた。
前藤正一樺太道警主席監察官とその秘書の蒼水ハンナ警部は表向きはスーツ姿のビジネスマンよろしく、パーティーの壁際で参加者を観察していた。
このパーティーそのものが釣り堀である以上、こうして見ているのと同時に見られている訳で。
「やあ。前藤さん。久しぶりですね」
「おや、乾さん。元気そうで何より」
互いに中年サラリーマンがパワーエリートの宴に馴染めずに壁際の置物と化すような会話は、こんな感じで始まった。
「そういえば、知っていますか?
最近は釣りにも実家が煩くて気軽にできなくて……」
「ご時世ですからねえ……実家、どちらでしたっけ?」
「さすがに嫁の実家で趣味を堂々とするわけにはいきませんよ」
趣味の釣りの会話のように聞こえるが、目の前の乾という男が近く公安に帰るという情報を持っていると、途端に別の意味に化ける。
(公安要請。釣ろうとしている男を保護しろ)
(公安の何処からの要請だ?)
(外事。樺太がらみ)
釣ろうとしていた男は、東京と豊原を往復しながら経歴を変えている。
止める手が来るのも理解しているつもりだったが、古巣の公安から止められるとはと前藤の顔が苦笑し、乾と呼ばれた男がぼやく。
「釣りもエサが大事でね。
海老でも鯛を釣るのが難しいなら、もっといい餌を用意しないといけない」
「最近の魚はグルメになったもんだ」
「熊と鷲が掻っ攫うつもりだから、横取りしたら美味しそうぐらいにしか考えていませんよ」
(司法取引で、樺太内部のロシアンマフィアの浸透について教えるそうだ)
(なるほど。マネロンの洗濯機の金を奪って、情報だけを売りに出したと)
(米露の諜報機関にロシアンマフィアが追い込みをかけているから、外事が保護して米露の諜報機関に恩を売るつもりらしい)
表裏の会話をしつつも、前藤は思考を走らせる。
彼が今いる樺太道警は腐敗と汚職が蔓延しており、それが政治家レベルにまで浸透している事でその掃除が難しくなっているのを彼自身仕事として思い知っているからである。
となれば、公安の保護要請も乾が言っていない裏事情が見えてくる。
「しかしまぁ、こちらは平和ですなぁ。
とうとう恋住総理が郵政民営化に向けて動き出したそうで、党内反対派が必死に仲間集めに奔走していますよ」
「乾さん。さすがにこの場所にはいないでしょう。
ここは泉川副総理の金主である桂華グループのパーティーですからね」
「いやいや。
集めるなら、まず本土政局において中立を言い続けている樺太出身国会議員でしょうから」
(政局で反恋住勢力が郵政民営化阻止に与野党勢力を集めている。それに樺太出身の国会議員が同調しつつある)
(このパーティーは、恋住政権内で力を持っている泉川副総理の金主である桂華グループのパーティーだ。反恋住勢力の議員情報を手土産に、保護を求めた……仕掛けたのは内調か?)
(そういうストーリーで、公安自体が保護を仕掛けた。狙いは樺太出身国会議員だ)
外事が内調や警察内部を無視しての公安要請。
きな臭いことこの上ないが、それでも行う根回しと政治力を持っているのが公安の公安たる所以である。
世情からまた釣りの話に戻る感じで、前藤がぼやく。
「釣りをしていて、人の獲物を横から掻っ攫えば獣でも怒るのがどうして分からないのでしょうねぇ……」
「その理屈で言うならば、まずここに釣り堀を作った奴が悪いとしか」
正しい事を正しく行っても、世界の半分は怒るのが世の常。
なかった事にされた新宿ジオフロントテロ未遂事件は、成田空港テロ未遂事件で発生した警視庁・警察庁内部の大粛清を再度引き起こした結果、組織内部の正常化に対する運動が内部から吹き上がっていたのである。
外部機関の超法規的活躍での平穏よりも、正規機関の防げなかった悲劇の方が組織と言うのは尊重されるのである。
「じゃあ、そろそろ私はこれで」
「ええ。楽しんでいってください」
日本人的なお辞儀をしながら乾が離れると、前藤は後ろで控えていた蒼水ハンナ警部に小声で囁く。
「この会場にいる道暗寺男爵を連れて来てくれ。
保護するなら華族特権を使わないと逃がし切れん。
それと、小野さんには、ロシアンマフィアがここを狙っている情報だけを周囲に聞こえるように話してやってくれ」
「あら、今の会話の全ては話さないのですか?
次期麹町警察署署長に?」
さも白々しい諜報系特有の確認に、前藤は低く本音を吐露する。
愛すべき先輩かつ友人の、仕事での評価と、鉄火場に足を踏み入れさせないような心つもりを混ぜた声で。
「だから、署長どまりなんですよ。あの人」
この時期の国会。
参議院が独立王国として存在していた事に注意。
衆議院の優越があったから、参議院は参議院内で面子を潰されると一体化して時の政権に歯向かう事があった。
……この後の郵政解散後から結構発生する衆院2/3状況によって、参議院独立王国も解体の道を進むことに、つまり自民党内のガバナンスが効くようになってゆくのが郵政解散後なのである。
正しい事を正しく行っても、世界の半分は怒るのが世の常
元ネタは『正義を行えば、世界の半分を怒らせる』 (『赤い眼鏡』)。
この言葉パトレイバー用だったのか……
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/45847.html




