道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 道暗寺晴道 その1
九段下桂華タワー。
その中にある桂華ホテル九段下大ホール。
そこでは、ホテル宿泊者及び利用者に向けての無料立食パーティーが開かれていた。
名目こそ『新メニュー試食会』となっているが、今日このホテルも入っている九段下桂華タワーは厳重なセキュリティー下にあり、限られた人間しか入れない特別な場所になっていた。
「おや、神戸教授。あなたも来ていましたか」
「久しぶりですね。道暗寺男爵。桜田門の中で巣食っていないでもっと顔を出してくださいよ」
「ははは。貴方の方のご活躍は画面越しに眺めていますよ」
今日は男爵としてこの場に来ていたというか呼び出された道暗寺晴道は、神戸総司に呼び止められる。
スーツ姿で、学生時代は多くの女子を虜にしたその面影は今でも損なわれてはいない。
「で、教授が来ている理由は、マスコミの都合で?」
「ええ。このパーティー恐ろしくセキュリティーが高い上に、総理と都知事が顔を出すそうじゃないですか。政局と勘繰る連中が様子を見てこいと」
「天下のマスコミ様も、赤坂と狸穴坂に喧嘩をうる勇気はなかったと」
この年の霞が関の人事は警察庁と警視庁周りで密かな話題になっていた。
大規模な退職、天下り、左遷に、成田空港テロ未遂事件で責任を取った現場筋の復権。
それは首都における警察の一時的な影響力喪失となり、桂華については特に赤坂と狸穴坂、つまり米国とロシアによる『テロとの戦いにおける最大級の警戒の警備』をマスコミは押しのけられずにいた。
結果、使い捨てのパパラッチを雇って突貫させて更に状況を悪化させるという始末。自業自得ではあるのだが、神戸教授クラスのコメンテーターすらコネで入れるならと送り込む所に今のマスコミの窮地と傲慢がある。
「この間の参議院選挙の与党大勝利で、政局は完全に郵政民営化に絞られたじゃないですか。
与党内反恋住勢力がクーデターをしかけるにも、担ぐ頭だった加東さんは失脚し、都知事を利用してと考えていた矢先に、この急接近だ。
与党内分裂というニュースで飯を食おうとした矢先にこれだから困っているんですよ」
「国内マスコミの奥の院のストーリーが効きにくくなっているのは事実なんですよね。
特に、あのお嬢様周りは米ロ両国がエージェントを送っているから、あの二か国の『テロとの戦い』が続いている以上、それに対する妨害ストーリーが作りづらい。
警察内部の二度にわたる大粛清は自業自得ではありますが、ストーリーの主導権を完全に失ってしまいましてね」
道暗寺は暗に神戸に手土産を渡す。
それを神戸もしれっと受け取れる仲ではあった。
「やはり、春の人事は粛清でしたか」
「この国は平和ですが、あの二か国は戦時というのを理解しなかった……というか理解したくなかったんですよ。貴方なら渡しても広げないでしょう。この話」
「まぁ、モニターの中で飯を食べていますが、モニターの外にも物語があるのはあの人のおかげで散々思い知らされたから……まさか動いていますか?あの人?」
この二人にあの人で通じる人物の名前は高宮晴香という。
現在は帝都学習館学園中央図書館館長におさまっている彼女は昭和期におけるストーリーテラーとしてその筋に名前を轟かせていた。
「積極的にではないですね。
当人図書館館長という職は気に入っているみたいで。
教授。貴方の方が知っているんじゃないですか?
最近、帝都学習館学園に教えに行っているそうじゃないですか」
「この年になって、才能のある若人というのが羨ましく思えてきましたよ。
きっと、あの人にとって私たちは才能のない若人だったのだなと。
なるほど。男爵が出てくる席でも、何かしかけるつもりはないと」
二人が属していたのは『高宮読書会』。のちに高宮ゼミと呼ばれるこの会に当時の天才・鬼才が集まったのは、彼女がその天才・鬼才を用いて物語を紡いて行ったからで、そんなコネの流れはこういう場でもしっかりと発揮されていた。
「とはいえ、仕掛けるつもりはないけど、あの人予言は言うから困りものなんですよ。
大体面白そうでかつ、動く我々が困るような話を面白そうに話すから」
「そのくせ丸く収めるのだから、あの人作家としても大成したでしょう……
……何か言ったんですね?」
二人の顔が険しくなる。
『世界は、物語は、面白くハッピーエンドならば、みんな幸せなのよ』とのたまう彼女の紡ぐ物語に現実が寄せられる度に、時の政財官の面々が狼狽え、狼狽し、下っ端として二人が奔走したなんてもう昔話の出来事なのに、冷や汗がでるのは体験というものの記憶の深さゆえだろう。
「ええ。前に不意に電話がかかってきましてね。
『釣り堀で人様が魚を釣ってるのを見るだけなら面白くないでしょう』って」
「……あの人らしいというか……しかるべき人に伝えました?それ?」
「もちろん言いましたよ。
あの人に右往左往させられた人なら、怯えてこの厳重警戒です」
男爵がグラスを持ち、教授に手渡す。
中身はもちろんノンアルコールだった。
「まぁ、今回は高みの見物ですよ。
やばくなったら動きますので、そちらもお願いしますよ」
「はいはい。面白い見世物を見せてくれるのならば……」
互いにあきらめ顔で、それでも目には面白さへの興味が。
そして二人の間でカチンとグラスが鳴った。
なんとなくSCP動画を眺めているが、高宮館長SCPのオブジェクトクラスならSafeのはず。




