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周回遅れの召喚勇者 ~キモくてニューゲーム~  作者: 行広主水
第2章「そもそもなんで俺なんだ」
18/27

1.「剥き出しですから!」

 日はまた昇る。地球にいた頃は夜明けといえば、夜勤が明けて早朝シフトの同僚に引き継ぎをするか、休日であれば就寝に備えネットゲームに一区切りをつけるか……とにかく『終わり』に向けて活動していた時間帯であった。

 しかし今、若く美しい三人の仲間と共に行く旅路にあって、黎明れいめいの一時は『始まり』の時間になっていた。


 荒野の只中ただなか、一夜の野営地として選んだ岩陰の、消えかけたき火を囲む輪の片隅で日出郎は目を開けた。晩春とは言え屋外だ、長袖の上下に身を包んでいても、毛布を退けると寒気で頭は覚醒する。

 大欠伸おおあくびしながら身を起こして伸びをすると、既に起きていた仲間の一人が素早く近づいて来た。そしてかたわらにひざまづくと微笑みと共に、水を入れた真鍮しんちゅうのコップを差し出してくれる。


「おはようございます、勇者様。よくお眠りになれましたか?」


 ショートカットの蜂蜜色の髪(ハニーブロンド)と藍青色の瞳、抜けるように白い肌を持つ、聡明にして可憐な美少女――ならぬ美少年だ。

 細い体にすその短い貫頭衣チュニックを纏い、細い手足を袖や裾から突き出させている。移動時などはこの上に白い法衣ローブを着ているため、アンダーウェアの無防備さはいつ見ても目にまぶしい。


「おはよう、ハチェトリー。お陰様かげさまでグッスリだったよ」

「それはようございました」


 水を飲み干し、ぷはーっ! なんておっさん臭いリアクションを取る日出郎をにこにことながめ、空いたコップを受け取ると代わりに暖かなおしぼりを渡してくれる。

 それで顔をごしごしこすれば、目やにやよだれの跡とともに寝ぼけた気分もすっきり洗い流せた。


「ありがとう。毎朝ごめんね」

「そんな、もったいないお言葉です。従士として当たり前のことを、しているだけですよ」

「毎朝イチャコラ鬱陶うッとォしいコンビだな、あァン?」


 主従がほのぼのと朝の挨拶を交わしあっていると、焚き火を囲む輪の外から、乱暴な声がかけられる。

 腰まである白い髪と血玉のような真紅の瞳、幽鬼のごとく青白い肌をした、端正で佳麗かれいな容姿の少女。長く尖った耳と捻くれた黒い角、先端がやじり型をした黒い尻尾を有し、幼気いたいけな顔に似合わぬ粗野で凶悪な表情を浮かべている。

 ゆらゆら肩を揺すりながら歩み寄って三白眼でめつける動作が、頭の悪い不良ヤンキーそのもので、赤い(うすぎぬ)のワンピース姿と全然あっていない。


「おはよう、ジャベリナ」

「オハヨーじゃねェんだヨ、このデブ。オレァ一刻は前から起きて見張りやッてるッつーの」

「単なる見張りの順番でしょう? それを言ったら勇者様は夜半に起きて下さったんだから、ゆっくりお眠りいただくのは当然です」


 主人からおしぼりを回収しつつ、ハチェトリーは澄まし顔で言う。

 なおこのおしぼり、日出郎から故郷の話を聞いた少年が微術マズニを駆使して作り出した逸品であり、ファラスの地には存在していなかった代物である。


 また、実は彼も昨夜の見張りは四人中三番目と決して楽な順番ではなく、日出郎として自分より早くに起き出していた少年に、頭が上がらない思いだ。

 昨夜は、『子供なんだからちゃんと寝ろ』と主張する日出郎に対し、『貴方こそ見張りなどしなくていい』……と互いの見張り番を奪い合って言い争い、他の二人を呆れさせたものである。

 さてその二人の仲間の一方、見張り順で言えば最初で、起き出してきたのは最後の一人。


「おふぁよほ、ごじゃひまふ……」


 まだ半分は夢の国にいるのが見た目に明らかだが、美人は寝ぼけていても美人だ。

 波打ち広がる淡黄色の長い髪と、普段は凛々(りり)しい金茶色(ゴールデンオレンジ)の瞳、艶のある褐色の肌。毛に覆われて丸みを帯びた耳が側頭上部から、先端に房状の体毛を生やした尾が尻の上から生えている。


 そして豊満な胸とほどよく引き締まった肢体のシルエットがありありとわかる、大胆に胸元が開けられたシャツ一枚の格好。

 朝の光が不自然なくらいに差しまくって隠さねば、色々見えてはいけない物が見える寸前だ。


「わーっ! ちょっとチェイネさん、若い女性がそんな格好で異性の前に出ちゃいけませんっ!」

「わたくしは、べつにぃ……かまひま……」

「そして丸くなって寝ないでーっ! そこ地面! き出しですから!」


 あせってわめくハチェトリーと対照的に、チェイネはマイペースに尻尾をゆらゆら揺すりながら、二度寝に突入しようとしていた。獅子ライオンの獣人だけあって、行動がどこか猫っぽい。

 そんな一挙一動ごとに目を奪われかけ、そのたび顔ごとらす日出郎。本音を言えば舐め回すように視線を這わせ、じっくりねっとりその艶姿あですがたを脳内録画したいところだが、紳士として許されぬ行いはしないのだ。勇者は食わねど高楊枝、である。


 滑稽な様子をよどんだ半眼で見やりつつ、ジャベリナは消えかけの焚き火の上に乱雑に薪を放り込むと、手をかざし短くなにか呟いた。途端に炎が燃え上がり、熾火おきびとなって赤々と燃え上がる。

 火が落ち着くのを待つ間に、長い金串と事前に発酵させておいた生地を用意し、くるくると螺旋状に巻きつけていった。出来上がった大ぶりの串団子と言うか、ちぎりパンの串焼きとでも言うべき代物を、火の周囲に突き刺していく。


「ハチ公、鍋」

「もう。ハチ公はやめてくださいってば」


 文句を言いつつハチェトリーは、少し離して置いてあったふたつきの深鍋を、焚き火のそばへ移動させる。ん、と短くうなずいた少女は串焼きパンをくるくると回しつつ、時折は鍋も回転させ加熱量を調整した。

 やがて甘く香ばしいパンの焼ける匂いと、野菜と肉汁の合わさった優しいかぐわしさが、あたりにふわりと漂い始める。日出郎の腹が盛大な音を鳴り響かせ、寝ぼけ顔のチェイネが鼻を鳴らしつつ目をしばたたかせた。


「……よし、そろそろイイな」


 ジャベリナは腰に帯びた小さな短刀を引き抜くと、一度火にかざして刀身をあぶってから、小麦色に焼き上がった串焼きパンのそれぞれに切れ目を入れる。ふわりと湯気が上がり、なんとも艶めかしい断面を露わにした。

 そしていよいよ、深鍋の蓋を開ける。遠火でじっくりと再加熱され温め直されたのは、具沢山の肉野菜スープ、いわゆるポトフだ。細切りにされた肉と、ごろんとした色とりどりの野菜が入っており、香辛料の刺激が嗅覚的ないろりを添える。先ほどまで澄まし顔だったハチェトリーまで、ごくりと喉を鳴らした。


 ジャベリナは鍋の中の具材を手際よく切り分け、短刀に突き刺しては串から抜いたパンの間に挟んでいく。そうして出来た汁気の多いバゲットサンドのようなものを、全員に渡していった。

 そして自分の分を片手に木製の杓子レードルを取り出すと、鍋にたっぷりと残ったスープを掬って、味見をする。


「……うん」


 普段の凶相はどこへやら、ごく真面目な顔で頷いた。欠食児童のごとく期待に満ちた目でコップを差し出す各人に、スープをんで寄越よこす。そして、皆が待ちかねた一言を発した。


「良いようだゼ。食ッてくれ」

「「「いただきますっ」」」


 少女が言い終わるや否や、残り三人の唱和が響く。熱々のスープをふうふう吹きながら飲み、香ばしく焼き上がったパンと間にはさまれた細切り肉や野菜を、がっつくように噛み砕く。


「はふ、ふはっ、うまっ」

「口の中が幸せですぅ……!」

「ん~~~~っ!」


 吸い込むような勢いで食べていく日出郎、一口ずつ味わってはうっとりするハチェトリー、満面の笑みで小さく足をばたつかせるチェイネ。三者三様のリアクションを披露しつつ、肉野菜サンドとスープを平らげていく。


 実に意外なことに、ジャベリナは料理が上手かった。四人で野営した初日にその腕前を披露し、絶賛を受けるや否や、満場一致で一同の料理番に就任している。

 当人は面倒そうなことを言うものの満更でもないようで、手持ちや道中で補充した材料を用い、朝に晩にと仲間の舌と胃袋とを満足させていた。


 その料理は乏しい具材でも、細かくバリエーションをつけきさせないようにするとともに、栄養バランスも考えているように見受けられる。

 ファラスに栄養学的な考えがあるのは意外であったが、他人種に比べて基礎体力に劣る魔人種ディアボロスの間では、古来より食餌の大切さが説かれてきたらしい。医食同源、というやつだ。

 お陰でこの数日は味以外に健康面でも充実した、どうかすると元の世界よりも快適で美味しい食生活を送れている。


 故郷の母の手料理が不味まずかったとは思わないが、生活時間帯の違いのため、作り置きを一人で食べることが多かった。

 加えて三食のうち一食は、アルバイト先のコンビニエンスストアで廃棄弁当をオーナーから貰って(フランチャイズの規約では違反)休憩中に食べるものだったし、もう一食は寝酒のさかなのスナック菓子やコンビニ惣菜だ。

 そして量だけは食らうのだから、あっという間に不健康な肥満体が出来上がる。地球での食生活を続けていたら、遠からず日出郎は病に倒れていたことだろう。


 それに比べると三食きちっと出来たての――しかも、言動こそ酷いが美少女の――手料理が食べられる現状は、望外と言って良い恵まれようだ。

 そう言えばラヴォエラス砦の食堂じゃ、微妙な内容の食事に不満を抱いていたなあ、なんて今更のように思い出す。


「僕、枝兎えだうさぎって苦手だったんですけど、この肉は臭みもなくて美味しいです。ジャベリナさん、これ、どうやるんですか?」


 ハチェトリーが興味津々、といった様子で聞いた。日出郎と二人で旅をしていた時は彼が料理を担当していたのだし、自分でも作れるようになりたいのだろう。

 どうかしたら次のレベルアップ時には調理技能のレベルを向上させかねない勢いだが、どうも生活や労働・芸術などに関する技能は、一部の職業しか技能点を割り振れないようだ。ジャベリナのそれも、長年の経験や研鑽けんさんで向上したものであり、技能点を割り振ったことはないと言う。


「あー、スープん中に黄芹きぜりが入ッてるだろ。めてすぐ内臓モツ出して、寝かせとく間、代わりに詰めとくんだ。枝兎の臭みのほとんどは、腹の内側からだからヨ。大蒜にんにくでもいンだけど、朝からはちょいキツいわな」

「内臓は捨ててしまうんですの?」


 食べる手は止めずに、チェイネが尋ねる。話題に出ている枝兎、耳をムササビのように広げて樹上を飛ぶ兎は昨夜、彼女が仕留めた獲物だ。

 獣人種リュカオーンは生肉を食べる習慣があり、その際は内臓も珍重する。肉食動物のように体内に植物を栄養化する酵素を持たない、というわけではなく長年の歴史および風習と、生来の消化能力も高さにるものだ。

 一方で魔人種ディアボロスは、肉を生で食べることはしない。そもそも他人種ほど胃腸が強くないし、肉が新鮮ということは付着する細菌の活動も盛んだ、ということをよく知っているからである。


「油で煮込んで裏漉うらごしすッと、オツな味になるんだがな。料理屋ならともかく、流石さすがに外じゃあヨ」

「でも、確かに美味しそうですわね」

「今度の町で鍋と一緒に買っておこうか? ボンゴにもまだ荷物を積めると思うし」


 スープをおかわりしながら、日出郎が言う。当然、自分の分のパンは既に食べ終わっており、ハチェトリーから三分の一ほどを貰っていた。半分でないのは、食が細い少年をしてそれほど食べさせる、ジャベリナの手腕であろうか。

 話に出た甲竜ホプロスは、まだ微睡まどろみのふちにあって野営地の一角で伏せている。他の騎竜サウルスはもう活動を開始しており、鸞竜オルニス二頭はクルクルと声を上げながら足下の草を食んでいた。コミュニケーションが取れて逃げ出す心配がない麟竜エラポスのインテなど、手綱から解放されてあたりを駆け回っている。


「道中の揺れを考えッとなァ……『次元布』かそれで作ッた鞄か、いっそ『裏界収納箱』がありゃ、また話は違うんだろうけどヨ」


 ジャベリナが名を挙げたのは、異空間に内包した物品を収納できる布や箱だ。当然どちらも泉宝スフェラであるが、魔晶石を動力とするものなら現在のファラスの技術でも、製造可能であるらしい。


「それは、買おうと思えば買えるもの?」

「布や鞄はすごく高いですね、特に容量の大きい物は。箱も安くはありませんが、大鍋ひとつを納める程度のものでしたら多分……ブラッドオックスの魔晶石に少し追加すれば、足りると思います」


 ハチェトリーの答えに意外と安い、などと一瞬は思った日出郎。だがブラッドオックスは熟練の騎士が命懸けでどうにか互角、という強力な魔物であるから、その魔晶石の価値も相当のものであろう。

 くだんの裏界収納箱とやらも、下手な高級家電より遙かに価値ある逸品ではなかろうか。聞けば、その箱に入るサイズの物であればなんでも入れられ、中身を異次元に保管できる泉宝なのだと言う。実にファンタジーだ。


「そんなもの売っている場所なんて、王都以外にありますの?」


 日出郎に遅れることしばし、こちらも食べ終わったチェイネが、鍋の中のスープをさらいつつ聞く。なお調理担当であるところのジャベリナは、ハチェトリーほどではないが量を食べる方ではないため、食事は既に終えている。

 少女は、自分の提案に対し前向きな検討を始めている他の三人に、呆れたような半笑いを向けた。


「つか、王都に行く道中のメシの話だろ。なんで王都でしか買えそうにェ道具を買おうかッて話になるんだヨ、あァン?」


 当たり前といえば当たり前の指摘に、恥入った表情を見せるハチェトリーたち。しかし日出郎は、頭の中で地図を展開する作業を中断しなかった。

 この先の行程、ゲーム『ファイナルラストファンタジア』での地図と実際に歩いた時の差異、これまでも経験してきた物語とは違う人々の営み。


「王都まではまだ後、十日ほどかかると思うけど……途中、ケルテレーンを通る道筋ルートじゃない?」

「はい、その予定でいます」


 ゲームでの名称は『虹をかかげるケルテレーン』。染め物が名産で、街中に色とりどり布が干されていることから、そのような通称を持つ。

 勇者伝説に不信感を持つ領主に無理難題をふっかけられるが、見事すべてを解決して見せると、報酬および王都に至る山道の通行権が得られるのだ。と言っても山道が封鎖されていたのは魔王の脅威があったからで、現在は開放されているだろう、というのがハチェトリーの推測である。


 後に別な地方の関所を通してもらう際、ケルテレーン領主に紹介状を発行してもらうために、再訪することになる。これも魔王が倒された今となっては、無縁のイベントと言えた。

 観光する分にはともかく、特段の用がある場所でもなければ、見過ごして重大な事件が発生する危険が存在するわけでもない。


「遠回りになるけど、ゴルンゴドに寄っていかないか?」


 日出郎が提案したのは、『湧玄ゆうげん峡谷きょうこくゴルンゴド』。ラフガルド王国と隣国バスオークンとをへだてる深く長い峡谷で、最も広い部分で幅10キロメートル以上、最も深い部分で高さ5キロメートル以上に及ぶ。

 谷というより大地の断裂と呼んだ方がふさわしい、現在旅をしているハイネシア大陸でも、群を抜いた奇勝である。


 ちなみにゲームの『ファイナルラストファンタジア』では、海や川の代わりに黒く塗られた岸が続く、なんとも手抜きくさいグラフィックの場所だ。

 しかしちょうどケルテレーンを再訪するタイミングで、バスオークン側からこの峡谷を抜けていくイベントが発生する。谷の内部を支配下に置く中ボスを倒し、ここに集落を築く者たちの協力を得ることで、峡谷が通行可能になるのである。


「そうですわね、ゴルンゴドならそれなりの泉宝スフェラを手に入れられそうですわ。あそこには、腕の良い職人も多い、と聞いていますもの」

「谷の途中まで行って戻るとなると、ケルテレーン回りより三日ほど余分にかかることになりますが……でも、そうですね。ここからの距離自体はむしろケルテレーンより近いですからね」

「おめェら……もう完全に行く気でやがるな?」


 すっかり呆れ返り、迂闊うかつなことを言ってしまったなと反省する少女の肩に、日出朗はさわやかに(できていると自分で思う表情で)手を置いた。


「なんだヨ? キモイぞ」

「うぐっ……ジャベリナ。俺の世界には、こんな言葉がある。『腹が減っては道理が引っ込む』」


 そんな言葉はないのだが、言わんとすることはなんとなく伝わる。がしがしと髪を掻いて、嘆息混じりに少女は答えた。


「ハァ……まあいいけどヨ、おめェがそれでいいッつーんなら」


 面倒そうな言葉。しかし、どこか嬉しそうでもあった。


 ¶


 カタパルトロール、そしてティコとの戦いから、既に五日が過ぎている。

 激闘を終え『星の噛み跡』からユターの村へ戻ると、オリオン一座は既に村を出立していたが、伝令役として座員が一人残っていた。


 チェイネはその座員に一座を離れて勇者と同道すること、いずれ父には詫びに行くこと、面倒を見てくれて感謝していることなどを言づける。面と向かって言えれば良かったのだが、いないものは仕方がない。

 ティコのことは、伝えないことにした。道中で喧嘩別れをした、王都に向かうと言っていた……などと、もっともらしい嘘をつく。得体の知れない存在の間諜として一座に潜り込んでいた、などと説明するわけにはいかなかったからだ。


 伝言を頼んだケインは、娘の行動をある程度は予想していたのだろうか。幾ばくかの路銀と、なにやらいわくありげな首飾り(チョーカー)を座員に託していた。

 黒い革製の首帯ネックに小さく連なる金色の花を象った装飾ヘッドを持っており、美しくも野性的な雰囲気を持つ、なんともチェイネに似合いの一品だ。


金鎖の首輪エフェメラルビューティLv.22:幻惑・催眠効果から防護。致命の一撃(クリティカルヒット)による即死効果を遮断。ただし後者は発動後、一ヶ月の間、同効果を発動しない】


 叡智の額冠で象明グリフを見ると、そのように書かれていた。

 即死を防ぐ能力は有用そうではあるが、遮断できるのは即死効果だけであり、ダメージ全てをカットできるわけではないようだ。飽くまで不意の一撃を避けるだけのものであり、絶対の安心を与えてくれるわけでもない。


「……なんとなく、父様がなにを言いたいか、わかる気がしますわ」

「ドジを踏むな、ということだろうね」


 なんとも微妙な表情になってしまうチェイネであった。

 座員と別れ、村で食料や狩猟用の弓矢、当座の護身武器としてなたなどを購入し、ユターの村を出立する。チェイネは破壊された分銅鎖(チェイン&ウェイト)の代わりを欲したが、流石さすがにそんな特殊な武器は辺境の村では手に入らなかった。

 なお、時ならぬ外貨獲得に村長がひっそり喜んでいたのだが、日出郎たちはそれを知る由もない。


「そもそもチェイネはなんで、鞭や鎖を主武器にしてるんだ? あんまり、お姫様っぽくないけど」


 鞭などと言うと、日出郎の貧困なイメージでは、女王様である。


「そのう、それは……ちょっと、トリィ。なんですの、その『わかってますよ』と言いたげな微笑みは」


 トリィというのは、チェイネがつけたハチェトリーの愛称だ。ちなみにジャベリナは『リナ』。似合わないこと、この上ない。


「いやだって、わかりやすいじゃないですか。チェイネさんは猴王こうおうバマンに憧れてるんですよね?」

「あー、あのサル」


 買い求めた食料品を検分していたジャベリナが、興味なさそうな相槌あいづちを打った。日出朗も、以前にちらりと聞いた記憶がある。“はじまりの勇者”クリシュの従士であったか。

 改めて聞いてみると、史上始めて勇者専用装備をまとって戦った男に仕え、その冒険を大いに助けた猿の獣人種リュカオーンこそが、“猴王”ことバマンであると言う。


「仁徳に優れるがゆえ戦いに制約を受けることが多かったクリシュに代わって、八面六臂の活躍をしたバマンの物語は、吟遊詩人や舞台劇の格好の題材ですからね。獣人種リュカオーンの身軽で力強くて主に忠実、という世間の認識イメージも、バマンに由来するものですし」

「あと、乱暴で間抜けで酒と女が大好き、ッてのもな」


 楽しそうに語るハチェトリーに対し、けけけ、と意地悪く笑うジャベリナ。


「失敬ですわね。確かにそういう逸話いつわも存在しますが、四角四面の堅物よりは、よほど良いじゃありませんの」


 高貴な生まれの美女なのに時々微妙に残念なチェイネの言動を見ていると、世間のイメージというのも確かに、わからなくもない。

 ともあれ、そんな猴王バマンが用いたいくつかの武器のうち、象徴的なエピソードでよく出てくるものこそが、鎖であった。悪神が彼を囚えた際に縛鎖として用いたもので、聖なる力以外では決して切れず、無限に延びて敵を討つのだと言う。


 まるで孫悟空の如意棒だな、そう言えばあれも猿か……と思って仲間を見渡すと、沙悟浄のように槍を持ったジャベリナと、猪八戒のように太った自分がいる。

 つまりハチェトリーは三蔵法師であったか、イメージ合うなあ、なんて明後日の方向に考えが飛んだ。

【串焼きパン】

 生地には膨張剤が含まれており、どちらかと言うとパンケーキに近い代物。


【三食】

 ファラスでは朝夕二食が普通であり、朝昼晩と食事をするのは兵士や農民など肉体労働者か、行商人などのように長距離移動をする者たちだけである。


【枝兎】

 魔物ではなく、ファラスの現地生物。というか魔物は死ぬと魔晶石になるので、食用できるはずもない。

 兎に近いが雑食性で、ハチェトリー言うとおり肉には独特の臭みがある。大きさは最大で体長70センチメートル超とかなり大きいが、その分だけ大きくなった耳を広げてフワーッと樹間を飛翔する。実はそこを狙い撃てば狩るのは容易。


【虹を掲げるケルテレーン】

 スタート地点から三番目に到着することになる、初めての大きな町である。カラフルな布が町のあちこちを飾っており、そこここにグラフィック上は覆われているが侵入可能、という箇所が存在する。

 調べるとちょっとしたアイテムや小銭が入手できるが、レアなものは存在せず、全部を手に入れようとするとかなり時間がかかる。その時間を戦闘に費やせば同額の金銭に加えて経験点も入手できるため、実質まったく無駄な仕掛けと言える。


【湧玄峡谷ゴルンゴド】

 ユター村からは本来、侵入できない。イベントをこなすことで通路が開くのだが、物理的に閉ざされているわけではなく『ただ通れない』だけの、ゲーム的な進入禁止である。

 峡谷内に存在する集落も『ゴルンゴド』なので、ちょっとややこしい。


【バスオークン王国】

 フィールドマップの一区画。諸侯が乱立する封建的無秩序を、国王が取りまとめる形で統治する国家。現国王はソフラディーノ・L・バスオークン。領内に魔物の群生地を抱えているため兵士の練度は高いが、その分だけ国外への備えが弱い。

 ラフガルド王国からすれば、魔物に対する防波堤のような国家。長い海岸線を有し、海産物が豊富。他国では忌避されるタコやイカを食べる習慣がある。


【伝令役の座員】

 狼の獣人で、オリオン一座では五指に入る古株。実はチェイネの母に横恋慕していた過去があったりするが、本筋とは全く関係ない話である。


金鎖の首輪エフェメラルビューティLv.22】

 チョーカーヘッドの花は黄花藤。即死効果遮断の能力が発動すると、花がはらはらと散るという、無駄なギミックを備える。特殊効果だけでなく、防具としての防御力も地味に高い。

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