16.「俺たちの戦いはこれからだ!」
爆音、そして衝撃。日出郎を中心とした嵐が収まったその後に、立っていられた者はいなかった。カタパルトロールでさえ、大の字になって倒れている。
日が落ちかけているのか、いつしか朱に染まっていた、岩場に注ぐ陽差し。その中で、ティコは呆然と喘ぐ。
「嘘……だろっ……こん、な……っ!」
よろよろと必死になって身を起こす、その小さな体に鎖が絡みついた。地に伏せ先ほどの大爆発をやり過ごした、チェイネの仕業だ。
伏せた程度で完全に逃れられるような規模の攻撃ではなかったが、立ち上がり髪を払うその美貌は、心なしか艶めきを増したようにさえ見える。
「信じ難いのも、無理ありませんわね」
「まあ実際、キモいわな」
肩を鳴らし、髪や体についた砂埃を払いながら、ジャベリナも立ち上がった。彼女もまた、服や部分鎧こそ汚れてはいるものの、傷や疲れは欠片も見当たらない。
余裕げな笑みを浮かべているせいか、本来の凶暴さや粗野さが隠れ、場違いな幼気すら帯びている風なのが不思議だ。
「い、言うに事欠いて『キモい』とはなんですか!? 勇者様を馬鹿にすることは、僕が許しませんよっ!」
憤然と噛みついたのが誰であるかは、言うまでもないだろう。女性陣と同様に、あるいは見る者によってはそれ以上に、少年の美貌も輝きを強めていた。柳眉を逆立てる顔すら、愛らしい。
しかしハチェトリーの猛抗議も牛の角を蜂が刺す、といった調子で流し、少女は肩をすくめた。
「だッて……なァ?」
「そこで私に同意を求めないでくださる?」
チェイネとしてもどう答えたものか、微妙なところだ。実際、二転三転した戦況を最後の最後で一気に押し流してしまった、日出郎の合成召術。
唐突に放たれてトロールを打ち倒し、並み居る魔物を全て消し飛ばしてしまった手並みは、素晴らしいというよりは恐ろしい。もっと言えば理不尽、あるいは不気味でさえあろう。
とは言えそこに自分の、自分たちの力も『乗って』いることもわかるので、不快感はない。
「勇者様ぁ、ジャベリナさんには一回、びしっと言うべきだと思うんですよ」
「え? ああうん、そうだね。いかんね」
脱力し、その場に胡座をかいて座り込んだ日出郎は、上の空だ。ひんひん縋りつくハチェトリーの頭を撫でつつ、視線は自分や仲間の象明を行ったり来たり。
最後の一撃で稼いだ経験点によって、全員が力量を成長させていた。皆が見た目に麗しく元気なのも、その影響だろう。
先ほどまでの苦闘が嘘のようで、イベント戦闘が終わったら全員ケロッとして復活なんて、まるでゲームみたいだな……と今更といえば今更な感想を抱く。
「ぶごろどおご(どちくしょうがあ)!」
と、出し抜けに仰臥していたトロールが吠えた。弛緩していた空気がさっと引き締まり、全員が巨人を警戒する。
「おい旦那、こっちだ! この鎖さえなんとかなりゃ、すぐに回復を……」
「がべえ(だまれぇ)! ばらが、ぶが、ぼばあああ(おめの姑息なやり方のせいだ、こうなっただ)!」
ティコが必死に言い募るのを、無体に切って捨てた。細かなニュアンスは日出郎にしか解らなかったが、しかし彼の仲間たちにもなんとなく、泣き言めいたことを並べ立てているのは伝わる。
「……ぐぼらば(もう、知らね)……!」
そして大型鉄槌を放り捨てたまま、胎児のように身を丸めるトロール。巨体は急速に硬化していくが、日出郎たちも黙って見送るほど甘くないし、今は体力も気力も充実しているのだ。
ひとまず動きを止めようと、ジャベリナが二叉槍を生み出した、その瞬間。
落雷のように天空から、少女のものとは形状も大きさも異なる槍が降り注ぎ、大岩と化したトロールを刺し貫いた。
「が……!?」
巨人は短い悲鳴を残して黒い霧と化す。後に残されたのは槍というよりむしろ、両刃の大剣の柄だけを長くしたような、長大な武器だった。
驚くより早く、続けてもう一発。先のものと異なる、長く幅広い刃を持った棹状武器。湾曲した刃の峰側が鮫の歯のようにぎざぎざに尖った、敢えて言うなら薙刀に近いが、もっと邪悪な形状だ。それは真っ直ぐ、日出郎に向かっていた。
「うおおっ!?」
慌ててハチェトリーを庇うように立ち上がり、剛毅の大盾を頭上に翳す。間一髪、鉄板を倒したような音を立てて、薙刀を弾くことに成功する。
そして、更にもう一閃。穂先の半ばから左右に膨れ上がって、一方が炎を象ったかのように広がり一方が翼のように尖り曲がった、斧槍だ。
今度の狙いは、鎖に囚われたままだったティコ。寸でのところでチェイネが腕を引いたため、小男が哀れ串刺しとなることなかったが、鎖が断ち切られ自由を許してしまう。
「アッハ、さっすが勇者。弾かれちゃった」
「狙いが甘いのよ。あなたたち、手を抜き過ぎだわ」
「フン。もう一撃くれてやれば済むだけのこと」
黄昏の朱に染まった空間の向こうから、三つの声がする。甲高くてどこか耳障りな少年の声、柔らかで妖艶な女性の声、太く重く軋るような男性の声。
「手前ェら……!」
夕映えと同じく赤い色彩の目を、驚愕で丸くして、頭上を見上げるジャベリナ。彼女には今の三つの声、そして落ちてきた三本の棹状武器、どちらにも覚えがあった。
一方、鎖から開放されたティコもまたそちらを睨みつつ、日出郎たちからも素早く距離を取る。すかさず追おうとしたチェイネだが、頭上からの得体の知れない攻撃を警戒し、咄嗟には動けなかった。
「あんたら、今更やってきて……それに、どうしてあっしを!」
「答える義理はないな……死ね」
ふっ、と斧槍が消える。そして天井から差し込む夕日に影が差し、再度の攻撃が投じられることを悟った。
日出郎の合成召術によって痛めつけられた今の体では、避けられるものではない。そう判断したティコは、一か八かの反撃に転じた。
「――〈撃猛塊〉っ!」
両手を突き出し、絶叫するように召術を唱える。やや離れた位置の壁から二本、三本と巨岩の大槍が突き出して、開口部からこちらを窺っていた者たちに襲いかかった――が。
「……かはっ」
ほぼ同時に放たれた斧槍は、形成されかけていた岩の壁を突き破り、今度こそティコを貫く。
刺突用の先端部分だけではない。長く大きな刃ごと彼の体を貫通し、小さな体をずたずたに引き裂いて抜けた。
「はは……ほんと、チンケな……」
「ティコっ!」
岩に覆われ薄暗くなった空間を走り、チェイネが駆け寄る。涙目になって手を伸ばし、崩折れようとする体を支えた。
その卑怯さ下劣さに、殺してやりたい、と思うほどの怒りを持った相手。だがそれでも、死に瀕した彼を、抱き止めずにはいられなかった。同情か憐憫か、あるいは共に過ごした日々のせいか。
「……姫さま、あんたやっぱり、いい女、だなあ……」
最後に口をついたその思いが、どれほど言葉となって届いただろう。それを確かめることは叶わぬまま、柔らかな感触に包まれて、ティコの意識は途絶えた。
¶
「ジャベリナ、今のは」
「あァ。ランスの旦那はいなかったようだが、他は間違いねェ。パル姐さんとベルハの親爺と、犬の糞だ」
「最後の酷くない!? グレイブンのことだよね!」
ゲーム『ファイナルラストファンタジア』で主人公たちに立ちはだかる魔王軍の幹部、五凶槍。“怨叉”ジャベリナの同胞たる彼ら、“黝騎士”ランスロッド、“極刑の”ベルハルト、“貫き姫”パルチザーネ、“死咬み”グレイヴン――いずれ劣らぬ強敵である。
正確には、ジャベリナだけちょっと劣る。
「オレをガン無視ッてことァ、べつに魔王サマがらみじゃねえッてことか」
「お前がジャベリナだって気付かなかったんじゃないか? 俺が知ってる五凶槍のジャベリナって、完全武装で兜も被ってたし」
「エ……? ィや……? そんなこと、ないんじゃ、ねェか……なァ?」
途端に疑問符だらけになるジャベリナ。思い当たる節があるらしい。
「お二人とも、漫才をやっている場合じゃないようですよっ」
いつか聞いたような台詞を言って、ハチェトリーが割り込んできた。埋まってしまった天井付近を不安そうに眺めやる、彼の視線を追ってみると、ぱらぱらと細かな石欠が落ちてきている。
どうやら〈撃猛塊〉によって生み出された岩と、表面を削られ不安定になった壁面が、崩れかけているようだ。
「上は危ないな。下の出口から――」
ずごん、と重い音とともに、カタパルトロール以上の大きさを持った岩が砕けて落ちて……今まさに日出郎が言った、チェイネたちの侵入口を塞いだ。
三人してそちらを見て、顔を見合わせ、今度は日出郎たちが入って来た方の出口を見やった。すぐ上に〈撃猛塊〉の岩塊があって、今にも崩れ落ちそうだ。
「チッ、こいつァとんだ置き土産だぜッ!」
舌打ちするや、真っ先に駆け出すジャベリナ。手に槍を生み出しているところを見ると、いざとなれば支え棒にでもするつもりか。
「チェイネ! ティコさんを連れていくなら」
「いいえ」
俺が背負う、と言いかけた日出郎の言葉を、チェイネは首を振って止めた。目を閉ざした小男の体を、そっとその場に横たえて、手を胸の前で組ませる。
「置いていきましょう。厳しいようですが、今この状況で余計な荷物を抱えるわけには、いきませんわ」
ゆっくりと体温を失っていく頬に軽く口づけをして、チェイネは立ち上がった。
「……いいんですか?」
「ここが、『星の噛み跡』こそが、この男の墓標に相応しいと……思います」
少年の問いに、労るような声で、彼女は答える。自らを低劣と自嘲していた男だったが、せめて一端の伝説が宿る地で眠るといい。そう思った。
「……わかった。急ごう、例によって俺が殿だ。二人は、さっさと上がって岩が崩れそうなら召術で吹っ飛ばせ」
有無を言わせず、追い立てる。まあなんだかんだと言っても急斜面であるから、最も体の大きな日出郎が最後尾を行くのは、理に適っている。
そのまま一気に駆け上がって、ひとまず全員で飛び込んだ、その先で――通路は、崩壊していた。あるべき道が、崩れた岩で塞がれ埋め尽くされている。
「チビ猫の術がどうこう言うより、元々ガタ来てたとこを、暴れ過ぎたな」
ジャベリナが、妙に冷静に分析した。ティコを、というかチェイネを慮ってのことであるかは、不明だ。
「勇者さま、先達ての凄まじい召術で、なんとかなりませんの?」
「う、うーん……なんか余計に被害が出る未来しか見えないんだけど」
日出郎の脳裏に、元の世界にいた頃に見たニュース映像が浮かぶ。崩落事故などにおいては、爆薬などで岩盤を除去するにも二次被害を慎重に避ける必要があった。トンネルを掘る場合も、掘り返した部分を崩れないよう支える仕組みが必須だ。
召術で瓦礫を一気に吹っ飛ばすことは可能だが、正しい工法を取った場合とは安全度が比べようがない。この先にあった部屋で宝箱を開けた時とは違う、一か八かは許されぬ状況。
と、その時だ。迷い悩む主と女性たちを後目に、崩れて進路を阻む瓦礫を検分していたハチェトリーが、違和感に気づいた。
「なにか……向こうから、音がします」
「げっ、まさか五凶槍が」
「いいえ、これはもっと固くて太い感じの……四つの……!」
ぎょっとなった少年が、慌てて行き止まりから飛び離れる。直後、衝突音がして、行き先を覆う瓦礫の山に亀裂が走った。
衝突音は、二度、三度。通路自体が崩れたらどうするんだ、と焦る日出郎たちを嘲笑うかのように最後の衝撃が走り、瓦礫の山に大穴が空いた。
そして、その向こうより現れたのは。
「ぶるるるる……(主よ、無事か)」
体高2メートルはありそうな、白く輝く鱗と炎のように揺らめく真っ赤な鬣を持った、巨体の麟竜であった。枝分かれして伸びた黒曜石のごとき角の下、なままかな魔物など足下にも及ばぬ勇猛な目が、威厳さえもって日出郎たちを睥睨する。
すわ新たな魔物か、と警戒した他の面々と異なり、ハチェトリーだけが驚きつつも喜色で顔を満たした。
「きみ、インテかい!? おっきくなったねぇ……!」
「ぶるっ、ひひい……ん(主のお陰だ。我は、貴方を守護するために参った)」
顔をぶつけ、べろりと頬を舐めてくる騎竜に慌てながらも、少年はその頭を優しく撫でさする。呆れた日出郎が象明を見ると、確かに地下迷路突入前に入り口あたりに放った騎竜であった。
別れた時は【軍騎Lv.4】だったものが、【霊騎Lv.8】にまで成長している。
「ぶるるっ、ぶるん(さあ主よ、我が背に。淑女らも同乗願おうか)」
かっ、かっ、と蹄状の爪を鳴らしながら反転すると、インテはゆっくりと身を屈めた。きょとんとする少年に、通訳してやる。
「乗れってさ。女性陣も」
「え? でも、勇者様が……」
「ぶるーっひ、ひっひぃ……ん(主以外の男を乗せる背は持たぬ。従者は従者らしく、二本の足で走れ)」
どうやらインテの中では、完全に主従が逆転しているらしかった。なんとなく生暖かな気持ちになるが、今この通路は、いつどこが崩落するかわからない状況だ。悠長にしている暇はない。
「俺まで乗ると重量オーバーさ。ダイエットを兼ねて、もうひとっ走りするよ」
¶
通路を駆け、時に落ちてくる天井や崩れかかる壁を吹っ飛ばし、どうにかこうにか外へと飛び出した。既に日は落ち、薄暮が地平を染めている。
すぐさま崩壊する様子は窺えないが、遠くの方で地響きがしているようにも思う。崩落の規模は知れないが、再びこの中に人が立ち入ることは、もう二度とないのではなかろうか。
僅かの間チェイネは瞑目し、ティコのことを想った。
(でも、私たちは覚えていますわ……ここに、あなたが眠っていることを)
それから気持ちを切り替え日出朗の方を見やると、ハチェトリーが金色の〈蛍火〉を浮かべていたので、自分も倣って白い光球を生み出す。
「だけど、カタパルトロールの魔晶石は勿体無いことしたな。けっこう大きかったろうし、それに、あれだけ倒した魔物連中も」
「ん? 野郎の魔晶石なら、拾ッといたゼ」
ぼやく日出郎に対し、なんでもないことのように胸元から、緑色に輝く拳大の結晶を取り出すジャベリナ。
「僕は、あんまり拾えませんでした……すみません」
「私も。けっこう慌てていましたので、大した量は」
ハチェトリーは法衣の隠しから、チェイネはスカートの襞の奥から、じゃらじゃらと様々な色彩の鉱石を取り出した。
あの大騒ぎの中で、抜け目ないことだ。関心半分、呆れ半分で日出郎は絶句する。そんな彼にチェイネが、穏やかに問いかけた。
「これからどういたしますの、勇者さま」
「うーん、まあまずは、ユターの村に戻るかな。オリオン一座がまだ残ってるかは知らないけど、荷物や甲竜を預けてるし」
一座の話に美女が少々眉を寄せるが、まあ父親に心配をかけているのは確かなのだ。合流できるようなら、ちゃんと謝るべきだろう。その後は……どうするのだろうか。
「オレはしばらく、つきあうゼ。どうもお前を狙ッて動いてる連中がいるみてェだしヨ」
意外なことに真っ先に同道を口にしたのは、ジャベリナであった。
「心強いけど、いいのか? 元々はあっちが仲間なんだろ?」
「あァン? だから、今更そんな義理は無ェッての」
けっ、と吐き捨てるように言う。ジャベリナはジャベリナで、なにか思惑があるようだ。土壇場で裏切られたら嫌だなあ、なんて思わなくもないが、少女に限ってそれはないだろう。
「俺とハチェトリーは王都に向かってるんだけど、大丈夫かな? 魔人種は迫害されてるとか、あったりする?」
「さッきから質問ばッかりだな、なんで国の住人かヨ。どうとでもなるから、でッぷり構えとけ」
「『どっしり』じゃないの!?」
軽妙なやりとりに、チェイネは思わず笑ってしまった。意を決して表情を整えると、改めて日出朗と向かい合う。
「勇者さま。微力ながら、私にも力添えをお許しくださいませ。レイ=アルクスが獅子の民チェイネは、あなたのお傍に、命を賭してお仕えいたしたく存じます」
豊満な胸に手を添えて、優美な一礼とともにこちらを見上げてくる彼女の視線に、日出朗は固まる。
考えてみれば、地球にいた頃なら話しかけることすら叶わないような、とびっきりの美女なのだ。今の今まで普通に接していたが、若く美しく高貴な出自のお嬢様なのだな、と改めて認識してしまった。
そうなると、不健康で不細工でコミュニケーション障害気味な自分にとって、本来なら正対するのも憚られる対象なわけで。そんな場合でないとわかっていても、緊張し挙動不審になってしまう。
だが、凛々しく光る金茶色の瞳にかすかな不安の色が混ざるのを感じ、慌てて居住まいを正した。どうあれ女性に恥をかかせてはいけない、というなけなしの矜持を奮い、手を差し出す。
「魔王との戦いには、周回遅れで間に合わなかったようなダメ勇者だけど……その、よろしく」
「はいっ!」
その手を繊手で包み込み、チェイネは華やかな笑顔を見せてくれた。
「何度も言いますけどね、勇者様。悪いのはうちのボンクラ兄であって、勇者様じゃないんですからね?」
にこにこと経緯を見守っていたハチェトリーが、念のためにと口を挟む。
やっぱり勇者様は仲間に慕われるんだなあ、なんて思う反面、従士が自分だけでなくなることに対する寂しさは……そっと、胸の奥に封じ込めた。
「でも、そのアクスレイと合流できないことには、安心もできないわけで。俺たちの戦いは……」
言いかけて、ふと悪戯心が湧き上がる。秘密の作戦会議をするように声を潜め、言うべき台詞を伝えた。要領を得ない表情ながらも、全員が承知してくれたので、声高らかに唱和する。
「せーの、「「「「俺たちの戦いはこれからだ!」」」」
宵闇の空に、その声が響き渡った。決まった……と拳を握り、にやにや笑う日出朗を、女性陣が不審げに見つめる。
「やッぱ、キモッ」
「少し、早まりましたかしら」
様式美を理解してくれない彼女たちの、顔を見合わせ囁き合う様子に、テンションを上げ過ぎたかと反省する。ともかく夜が更けきる前に、さっさと移動することにした。
「あの、勇者様。僕は今の、いいと思いますよ。なんというか、この先まるで戦わずに済んで話にならなくても大丈夫、って感じがすごくして」
そう言って慰めてくれる優しいハチェトリーに、そんなやつ放っておいて自分に乗れ、と鼻面を押しつけるインテ。この麟竜は今や決して日出朗を背に乗せようとしないため、彼の移動手段を確保しなくてはならなかった。
チェイネたちが『星の噛み跡』の進入に使った方の入り口に、繋ぎっ放しになっているはずの鸞竜がいるはずだ。一部が崩落し、歩きにくくなった斜面を登る。
「ありがとうな、ハチェトリー。この先まるで戦わずに済めば、それはそれでいいけど、そうもいかなそうだから……迷惑かけるけど、頼むな」
困ったように笑いかける、日出朗。そこにはもう、少なくともハチェトリーだけはなにを言わずとも着いて来てくれる、という確かな信頼があった。
それだけで先ほどの少しの寂しさなど吹っ飛び、少年は天にも昇るような気持ちになる。
「はいっ! 僕も勇者様の足を引っ張らないよう、頑張ります……その……ふ、不束者ですが、どうぞ末永くよろしくお願いいたしますっ」
「後半なんかおかしくね?」
可憐な声で、ハートマークでも飛び散らせそうに言い募る少年の言葉を、ジャベリナが冷静かつ胡乱げに突っ込んだ。
襲撃者の真意は知れないし、裏で糸を引く存在の正体もわからない。この先の道のりが安全である保証も皆無で、一寸先は暗黒の底かも知れなかった。
けれど、旅は続く。続けなければならない。少なくとも今この場にいる仲間たちだけは守りぬこう、そう誓って、日出郎は夜空を見上げる。
闇の向こうに一つ、星が輝いた。
~第2章へ続く~
【“死咬み”グレイヴン】
五凶槍の一人。基本的には真っ向勝負の五凶槍にあって唯一、卑劣な作戦を仕掛けてくる。こういう幹部は裏切って別組織に鞍替えするか、策に溺れて自滅するパターンが多いが、彼は普通にイベント戦で敗北して退場する。思わせぶりな末期の台詞を吐いた割には再登場せず、プレイヤーに肩透かしを食わせた。
【霊騎】
成長時、肉体と敏捷と感覚+1、自由割振1点。人間種族と同様の技能を習得可能。HP計算時にレベル+1、疲労ダメージの回復効率2倍、蹄と角は無限再生。
王者の白色の鱗を持つ、タイプR(『R』はReikiの頭文字)である。
¶
ご拝読ありがとうございました。ここまでで、第1章は完結となります。
病気で寝込んで妄想しかできない期間に脳内で形が整い、あとは2週間たらずで一気に書き上げた作品です。色々と粗もあるでしょうが、楽しんでいただけたなら幸いに存じます。
第2章もぼちぼちと執筆を開始していますが、ストックがほぼ尽きてしまっていますので、1~2週間に1話のペースで投稿していく予定です。
ひとまず次回は来週末、1章終了時点でのパーティメンバーのステータスを記載し、その後に2章の本編を開始いたします。
よろしければご評価・ご感想をいただけると、筆者のやる気に繋がります。本編掲載中1点たりとも評価が入らなかった状況は、なかなか心にクるものがありました……。
それではまた、第2章でお会いできますよう、心よりお願い申し上げます。




