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せっちん!  作者: 濱野乱
澪標編
90/97

Smells like teen spirit


八王子界隈の一角にある富坂布団店は創業二百五十年の老舗だ。二階建ての木造家屋で、客が訪れる。客が来るのは普通だが、その客は贔屓目に見ても普通ではなかった。

 

JK。


つまり女子高生が、下見をするように枕を持ち上げている。赤いフレームの眼鏡、細くないがっちりした足に白いソックス、ローファー、そして季節外れの冬服のセーラー服を着ているが、胸部がはちきれんばかりにふくらんでいる。もしや男が女装しているのかと、店主ははたきで掃除をするふりをして観察してみたが、男である証拠は認められなかった。単にサイズの合わない制服を着たそそっかしい娘だと店主は決めてかかった。

 

「何かお探しですか?」


補食獣のような押しの強い接客に、今度は女子高生が目を見開く番だった。


店主は黒いレースをドレスを着た六十代の女性だった。細身で、口紅をたっぷり塗り、プラダの靴を履いている。


「お店の方ですか?」


所在なさげに女子高生は聞き返した。


「見りゃわかるでしょ。枕を買うの? 選んであげる。固いのがいいの? 高いのがいいの?」 


店主の息つく暇もない接客は脅威だ。女子高生は、伏し目がちに両手をいじりながら、意中を伝える。


「固くてぇ、高くてぇ、長持ちするのが欲しいですぅ……」


店主はふんと、尖った鼻を鳴らす。


「若いくせに好きものだねえ。いいのがあるよ。ちょっと待ってな」


二階に上がってまもなく戻ってくると、枕を投げて寄越した。 


「自宅に配送して欲しいんですけど」


「できるよ。宛先は?」


JKは、枕に顔を埋め、くぐもった声でこう答えた。


「美堂薫子。十七歳」


「年は聞いてないよ。喧嘩売ってるのかい」


店主が目くじらを立てると、しくじりを自覚したのか、薫子は枕をカウンターに残し背中を向ける。


「お待ち! 十七歳。お会計がまだだよ」


「そうでした、そうでした。クレジットでお願いします」 


ますます怪しさが醸される。クレジットカードを慣れた様子で財布から出したのだ。偽造を疑ったが、目の前で確認するのは気が引けた。


「それにしても懐かしいね。その制服、丸岡だろ?」


伝票を書きながら、店主は訊ねる。


「ご存じでしたか」


「十年前は生徒がこの商店街の前をやかましく通り過ぎたものだよ。一回も商品を買ったことはなかったけど」


店主が顔を上げると、薫子の姿は店内から忽然と消えていた。


思い返せば、丸岡高校が廃校になって久しいというのに、その生徒が今になって訪れたのが不気味だった。


店主は身震いし、午前中にもかかわらず、店を閉めることにした。


雲行きも怪しくなってきて、気温がぐっと下がっている。


「やだねぇ、地獄の蓋が開いたみたいな天気だよ」


天気予報では一日中快晴だと太鼓判を押していたのだ。人知の及ぶわざなどたかがしれているのかもしれない。 


 二

 

曇りガラスの向こうで、笑みを浮かべたマネキンが生活している。型どおりのファッションをいかにも華やいだものにしようと懸命な努力の甲斐もなく、閉店の憂き目にあっている。


埃とシャッターの目立つ終末の都市は、灰色の空がよく似合う場所だった。


薫子はそんな通りを闊歩した。逞しく黒虎を引き連れ、バス停に向かう最中だったのだ。天気の崩れを気にして歩幅が大きくなっている。


「一雨来そうだ。枕なんて買わなきゃよかったのに」


不平を言いながら虎は薫子のすぐ後ろを歩いていた。


「帰りたくなる要素を残したかったのよ。今度こそ本当に最後になりそうだし」


「それ、死亡フラグって言うんじゃねえのか。おおこわ」


歯に衣着せぬ言動に、薫子は憂鬱になる。


帰る場所を作ろうとしたのは、無意識下において帰る場所がどこにも存在しないと気づいてしまったからかもしれない。薫子の本当に帰りたい場所は、北海道の叔母の元でも、不倫相手の元でもなく、父との生活だった。それすら否定した今の自分には何も残されていなかった。


ただ幸彦をこの世界につなぎ止めるには、その考えを払拭しなければならない。薫子までが夢の世界に引きずりこまれては元も子もない。


辛くても泣きたくても、この大地に踏ん張ると決めたのだから。


「行こう」


薫子と虎はバスに乗り込み、丸岡高校を目指した。高校があった頃は、高校前にバス停があったらしいが、それも廃止され、手前の停車場での降車を余儀無くされる。


白樺の木が左右に並立する道は、一声はどころか獣の声さえ途絶え、薫子の目眩を誘った。


黙々と先を急ぐ。幸彦はもうこの世界から消えたのかもしれない。しかし薫子に何の変化も訪れないということは、まだ望みはある。


丸岡の校門は固い鎖で施錠され、進入者を拒んでいた。


「どうする? 鎖を壊すか」


「しゃらくさいわ。こうするのよ!」


薫子は、助走をつけて三メートルはあろうかという門の真上を軽々と飛び越える。


虎の運動能力は薫子に劣るので、しゃにむに門をよじのぼって敷地に侵入した。


アスファルトのスロープから、校舎の下をくぐって校庭に出る。


白かった校舎の壁は、燻されたようにくすんで、なおかつ襟のくたびれたシャツのように縮んだ印象を受けた。


「学校ってこんなものかしら。卒業しちゃうとまるで印象が変わるものね」


感慨に耽っている暇はなかった。校舎の陰を蠢く何かを視認した。


「ストップ。何かいるわ」


すかさず時間融資を受け、その他の時間を追い越した。


肌に触れた冷気に目を凝らす。美しい雪の結晶だ。計算されつくされた分子構造は非の打ち所がない。自然のなせる業にため息が漏れる。


雪の一つ一つが、空間に静止し、光を反射し瞬いていた。


「きれい……、にしても、今は六月よね。どうして雪が」


「考えている暇はあまりないようだぜ。ここまで来た以上、やるか、やられるかだ」


薫子は頷き、校舎の柱の側に駆け寄る。


暗がりに潜んでいたのは、絣の着物の幼女だった。凍えに耐えようと、両腕で肩を抱いている。


「動揺するな! これは罠だ」


「わかってる……」 


虎に警告されるまでもなく、せっちんは雪乃の死を薫子に思い出させようとしている。それで動きを鈍らせるつもりのようだ。


「時間を元に戻して。話してみる」


「やめた方がいいんじゃないか。こいつは話が通じる相手じゃない」


渋々、虎は時間を揺り動かす。雪の結晶は地面にぶつかり粉々に砕け、せっちんは瞬きをして薫子を見つめた。


「あやしいわざを、つかうな。おどろくではないか」


口調の割に驚いたようには見えない。せっちんのことだ、薫子を尾行して、これまでの戦いを観察していても不思議はない。既に時間融資は見破られていると考えた方がいいだろう。


「貴女の方こそ、いるなら声かけてよ。隠れるのが好きなのね」


「そなたのしんいが、わからぬでな。ようすをみておったのじゃ」


「真意? 決まっているじゃない。寺田君を連れ戻しにきたのよ。彼はどこ?」


せっちんは、小さな手の平に雪を載せる。


「そうか……、そなたは、ゆきひこを、しんからおもっておるのじゃな。まことありがたいことじゃ」


皮肉に気を取られている場合ではない。薫子は、ナノや伊藤の姿がないことに気づいた。


「ねえ、貴女とナノは同じ目的で動いてるんじゃないの?」


「あやつは、もはやなにもみてはおらぬ」


せっちんは、きっぱりと否定した。


「あやつがもとめておるのは、しんのこんとん。ゆきひこはそれをのぞんでおらぬ。じゃからわらわが、すくいだす」


せっちんの決意を薫子は黙って聞いていた。


「さいごにとおう。そなたは、わらわのちからに、なってくれるか? わらわと、ゆきひこのためのせかいのために」


薫子の胸にすがりつく、せっちんをふりほどくには勇気が入った。


「その世界には、貴女たちの他には何も必要ないんでしょう? その傲慢さを捨てない限り、協力はできないわ」


せっちんはふらふらと、雪降る空の下へと歩いていった。方向を見失ったように頼りない足取りに、薫子は危うく飛び出して行きそうになった。


「なにをいっておる? せかいは、とはどこじゃ。ゆきひこが、”こうふく”をかんじるばしょこそ、せかい。それをつくれぬのならば、しはいしゃも、せかいなど、いらぬ!」


せっちんの背から体長の二倍はありそうな巨大な黒い翼が翻る。鴉の濡れ羽色に光る不気味な異様に、薫子は怯んだ。


激しい怒りの表情を浮かべ、せっちんは言い放つ。


「みどうかおるこ。やはりそなたは、どこまでもわらわのじゃまをするのじゃな。そなたを、ゆきひこのもとにはいかせぬ。ここで、ほろびるがいい!」


 三


戦闘は避けられないと覚悟を決めてきたものの、薫子の決意は揺らいでいた。


不遇の死を遂げた雪乃を模して創られた、過去の自分の姿。せっちんには、本来何の非もない。


「おい! いい加減にしろ!」


クロの怒号に、薫子は我に返る。 


「お前は何のためにここまで来た? 寺田幸彦を取り戻すためだろ? それができるのは、この世界にいるお前だけだ。気を引き締めろ」 


クロの言うとおりだ。もはや退けない所まで足を踏み入れたのだ。前に進むしかない。


「やるしか……、ないの?」


せっちんは肩を怒らせ、薫子と向き合っている。武器は持っていないが、その潜在性は未だ不明な点も多い。


時間融資で先手を取るのがベストだ。たとえ看破されてもアドバンテージはあまりある。


再びせっちんから時間の自由を奪う。


薫子はゆっくりと、五メートルの距離を詰める。


「待て」


クロが制止の声を上げる。

 

「あによ。やれって言ったのあんたでしょ」


「血気盛んなのは結構だが、そいつの頭の上を見てみろ」


指示に従い、目を移した。せっちんの頭に雪が薄く積もっているだけだ。意図が掴めない。


「何もないわ」


「視力がいいのに宝の持ち腐れだな。もっと上だよ」


むっとしつつも、さらに目を上げる。


黒い羽が宙に何本か浮いていた。


「これがどうかしたの?」


「観察眼が足りないぞ。そんなんじゃ、こっから先が思いやられる。せっちんは、今まで羽を動かしたか?」


羽音を聞いたような気がしたが、それで羽が抜けても不思議ではない。無風なら舞い上がることもないが、確証を持てなかった。


「ここにいるのは、クローンの可能性がある」 


せっちんは細胞分裂を繰り返し、分身を作り出すことができる。時間融資を想定しているとすれば、本体を晒すことを避けるのではないか。本体は既に身を隠しているとクロは言いたいらしい。立つ鳥後を濁さずというが、果たしてどうだろうか。


「考えすぎよ。どっちにしたって倒すことには代わりないわ」


罠かどうか迷わせる作戦かもしれない。せっちんの術中にまんまとはまっていることになる。


「さっきも言ったがこいつは一筋縄じゃいかない。まだ何か能力を隠しているかもしれないしな」


この時は、クロの言葉を薫子は軽く考えていた。時間融資はあるし、自分の気力体力を過大に評価していたのである。


薫子はせっちんの翼に手をかけ、引きちぎろうとした。再生能力はあるし、命に別状はないだろう。


「そろそろ融資が切れるぞ。早くすませろ」


急かされるまま、羽に力を込める。その時、せっちんが動いた。


せっちんの翼が弓を引き絞るように後ろに大きく傾いだのだ。薫子は意表を突かれ、手を離し、たたらを踏んだ。しかし、羽を後ろに下げたまま飛ぶ体勢に入らない。


「ふ……、よみがはずれたのう。きょりをとってくれれば、てばやくすんだものを」


せっちんは動じることなく淡々としている。


羽の隙間が銀色の光を反射している。それは幾千本もの金属メスが擬態したものだった。


羽は反動をつけ、前方に振り抜かれる。射出された羽の一本一本は残らず鋭利なメスに変化し、疾風のごとく空気を切り裂いた。


至近距離にいた薫子は、超人的な反射神経でせっちんの羽の下をくぐり、串刺しを避けた。


クロは上方に飛んだものの、左足にメスが刺さるのを避けられなかった。


校舎の壁にいともたやすく突き刺さるメスに、薫子は身震いした。翼は空を飛ぶためのものという先入観の裏をかかれたのである。


「よいのか? ほうけておって。いくさはつづいておるのじゃぞ」


せっちんの上腕部が風船のように膨れ上がり、体積を増した拳が薫子を情け容赦なく吹き飛ばした。腕の筋肉を増幅させた反動からか、せっちんの骨の砕ける音が薫子の耳にも届いた。


しかし、薫子のダメージはそれ以上に甚大なものだった。


五メートルの高さの校舎の壁に雑巾のように叩きつけられ、受け身も取れずに転がった。


クロもメスが刺さったままで歩行もままならない。


戦闘開始一分も経たず、戦闘継続は困難を極めた。


「まだじゃ。つぎはかわせるかのう」


せっちんは、一撃目の羽ばたきの際、既にメスを上空に投げていた。初撃をかわされるのは想定済みだ。正面に飛ばすメスはあくまで囮。上空五十メートルに浮かべたメスが時間差で雨あられと降り注ぐ。


「クロ、時間を止めて。メスを打ち落としてみるわ」


薫子は、左腕を押さえ立ち上がる。空気の振動音でメスの音を関知する。その数、百、二百をゆうに超えていた。


「無理だ。距離が遠過ぎるし、数も多い。お前だけでも逃げろ」 


「校舎の中に逃げ込めば」


「いや、あのメスは建物くらいは貫通する威力があるだろう。安全とは言えない。逃げろ」


せっちんは気配を消していた。何という狡猾さなのだろう。これがなりふり構わない傲慢の強さなのか。


流星のように降り注ぐメスを視認する。


「こんなの大したことないわ。全部打ち落とす必要はないのよ。こっちに落ちてくる分をはじけばいい!」


理屈ではそうだが、隙間なく落下するメスを捌くには度胸と反射神経を極限の危険に晒さなければならない。


メスに掠っただけで線状の傷が増え、制服の肩から袖にかけて血がにじむ。クロを庇うように薫子はメスをはじく。シンバルを叩くような音が、薫子の耳の奥で鳴っていた。


無限に感じるメスの猛襲を五体満足に防いだ時には、薫子は疲労で意識朦朧として倒れかかっていた。拳は血塗れ、制服は切れ込みでズタズタだ。


薫子の背後の校庭の土が盛り上がる。


盛り土を粉砕して飛び出してきたのは、太刀を振りかぶるせっちんだ。予想を上回る奇襲に、薫子の反応は遅れた。


「うつけものよ。いくさに、しきりなおしなどそんざいせぬわ。うらむなら、きをぬいたおのれをうらめ!」


せっちんは、強い。


これが幸彦を想う力の差なのだろうか。所詮薫子と、幸彦の結びつきなどたかが知れている。それを痛感して、刃を受けようと諦める。


はずだった。


あわや薫子と、せっちんの間に影が滑り込む。


クロの首に太刀の腹が食い込み、陶器が割れるような音と、重たい何かが地面に落下する音が聞かれた。

 

薫子が顔を上げた時には既に凶行は終わっており、せっちんは、黒い羽をはためかせ上空に待避した後だった。


「これでやっかいな、のうりょくはつかえぬ。しょうぶあったな」


せっちんは満足げな笑みを浮かべた。


薫子は、置物のように横たわる虎の遺骸を見下ろしていた。


「おい、笑えよ」


頭部だけになった虎がしわがれ声を発する。


「笑えるわけないでしょ! どうして……、ねえ、死んだりしないよね? 時間戻したりできるんでしょ」


クロの体からは歯車や、チューブのような部品がこぼれている。まるで無機物のようで死を実感できなかった。


「これ以上、時間融資を使ったらお前の時間が飛んじまう。リスクは説明しただろ?」


「私のことなんてどうでもいい! ねえ、大丈夫よ。まだ間に合うわ、きっと」


雪の混じった地面から部品をかきだし、虎の中に詰める。しかしクロの体は剥製のように冷たくなっており、手遅れだと悟った。


「教えてよ、貴方は私のパパなんでしょ? どうして話してくれなかったの」


錯乱した薫子は、封じ込めていた思いを吐露していた。


キャストはそれぞれの関わった死のメタファーである。クロが薫子の父親の模写という符号は十分辻褄が合う。


「馬鹿言うんじゃねえ……、お前みたいな女のこと知るか……、見た目だけじゃなくて考えまで幼くなってるみたいだな。そんな考えは捨てろ」


薫子は聞き入れるゆとりはなく、感情を激しく揺さぶられていた。立ち会えなかった肉親の死を再現されているような衝撃を受けている。 


「こう言って欲しいのか? 俺は、この時のために生まれたんだろう。もう……、お前は自由だ」


「私はずっと自由だったわよ! 変なこと言わないで」


苦みばしったように鼻に皺を寄せ、虎は笑んだ。


「お前は悪くない。父親はお前を恨んでいない。それどころか父親はお前を縛り付けて申し訳なく思っている。すまなかった」


「パパじゃないくせに、わかったようなこと言うな! ねえ、大丈夫よ、クロ。治るから、絶対」


部品が、黒ずんでもろくなっている。手の中で砕けてしまった。砂のように風に吹かれ、掌中から消える。

 

「ついでだ、寂しくないように遺言でもしといて……、やるよ」


それがクロの最期だった。ガラス玉のような目を見開いたまま息を引き取った。


「もうそろそろよいかの」


じれったそうに、せっちんは翼を振るう。


薫子は眼鏡をクロの脇の地面に置いた。小声でつぶやく。


「ごめん……、もう加減ができそうにない。死んでも恨むなよ」

 

せっちんは、驚くべき状況に遭遇する。


二十メートル上空にいるせっちんの鼻先すれすれまで、薫子が飛翔してきたのだ。目を疑った。回避が間に合わず、体の分子構成を防御にシフトする。


「ぐっ……!?」 


それでもなお、せっちんは空に押し上げられる。薫子の拳はせっちんの腹を猛牛に勝る勢いで突き上げた。炭素分子を凝集したにも関わらず、膵臓、肝臓が無惨に潰れ、行き場を失った血液が口から溢れだす。


「さかしいな!」


口中から溢れた血液の酸素分子の分布を最大に引き上げ、前歯を火打石代わりにして猛火を吹く。火竜の舌が、薫子を焼きつくさんと広がる。


「しゃらくせえ! 喝ッ!」


薫子の一喝は、大気の振動による壁をつくり猛火を完膚なきまでにかき消した。


唖然とするせっちんの無防備の頬を、勢い増した拳のラッシュが襲う。


「しゃおらあああああああああああ!」


激情に任せた一撃一撃が星を砕くような威力を有し、空間を歪ませ、時を追い越した。


光速を超えた猛攻をかわすことも防ぐこともできず、せっちんの細胞が虫食い穴を作るように焼き滅んでいく。


「なるほど……、さすが、いとうかいちろうとおなじ、”ちょうじん”というわけか。このままでは、ちとかなわぬか」


落ち着いた声で戦況を分析すると、太刀で自分の腹を突き刺した。


すると、風船が破裂するように、せっちんの体が細かい肉片にちぎれ、吹き飛んだ。意図的な自壊だった。


薫子が攻撃をやめた途端、空間のゆりもどしが起こり、薫子自身も反動で吹き飛ばされた。


地表ではせっちんが早くも実体を取り戻しており、帯状に層をなした金色の光を放出していた。


「わらわもぜんりょくであいてをしよう。いでよ、幻想之わんだー白鳥すわん

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