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11.青銀の巫女姫=絶壁の姫君……?

 レディってなんだよ。

 っていうか小さなってなんだよ。

 あーそうですよ! 私の身長は百五十センチですよ! 小さくて悪いか! ……まあ、このあたりの人間は基本的に背が高いから、凡顔の上にチビで身体にもメリハリのない私はイケメン王子に相応しくないだろう………………ちくしょう、前世も大差ないよっ。

 こんな感じで心の中で嵐が吹き荒れている私は、クオン嬢に手を取られて半ば引きずられるように意味不明なムーンなんたらのメンバーのもとへと連れて行かれても抵抗しなかった。

「皆さん! わたし、見事にレディを捕獲したわよ!」

 レディ呼びは勘弁してほしい。あと、捕獲もやめてほしい。珍獣ハンターか。山のぼっちゃうのか。

「クリス様、こちらがわたしのお友達よ」

 優雅な動作でクオン嬢は「お友達」とやらを示す。

「どうも」

 年長らしき人物が人好きのする笑みを浮かべて会釈した。あ、この人の顔は覚えてる。…………というか。

「クオン様のご友人は、その、随分ハンサムでいらっしゃいますね?」

 そうかしら。見慣れてしまったからわからないわ。なんて、華麗なお嬢様は言う。それを何となく聞きながら、私は紹介された人達をよく見る。

「……」

 どう見ても、男性しかいない。それも、三十代後半から四十代後半にまでの。

 さっきは言葉を選んでみたが、どうも年頃の令嬢のお友達という年齢ではないように思える。私の偏見かもしれないのだが、舞踏会に来るような家柄の少女は同じような身分の同性と集まって歓談したり、若くて有望そうな貴族と踊ったりするものではないのか。

 クオン嬢は友人の紳士と軽口を交わし、冗談がすぎると遠慮なく平手をくらわせて文句を口にされている。姪と叔父のようにも、少し(?)年の離れた親友にも見える。少なくとも、恋人には見えない。彼女の言葉に偽りはないのだろう。

「クリス様はお気に召さなかったかしら」

 突然私に話をふらないでほしい。返答に困る。

「いえ。お気に召す、召さないというか。てっきり、先日のようなご令嬢かと思っていたので……」

 どこからか取り出した扇で口許を隠した状態で、ころころと笑われる。

「彼女達は友ではないの。そう見えていたのなら残念だわ」

「どういうご関係で?」

「そうね。強いて言うならば、暇つぶしのときにできる集団かしら」

 暇つぶしときたか。

「話をして気が合うわけでもない、かといって一人でいるわけにもいかない。そういう場合、近くにいる人に声をかけてしまうことがあるの」

「ああ」

 と相槌を打つ。前世では女子高校生だったので、ぼっちの苦労はわかる。侯爵家の人間が浮いているというのは外聞が悪かろう。いや、壮年の男性がお友達でも聞こえはよくないのだろうが。

「それにわたしはメイディオの遠い親戚にもあたるから、彼との結婚を考えている人に話しかけられやすいの。だから、貴女に声をかけさせてもらったの」

「親戚、ってえ?」

 王族を記憶していなかった自分の脳に呆れていた私はぎょっとした。今の話と私の関連性がわからないのだ。半分以上流していたからか。

「失礼な話をこれからするわ。けれど、王子妃になる者としてしっかり聞いてちょうだい」

 今までの柔らかな雰囲気から一変して、急に真面目になる。

「王は一夫多妻だわ。けれど世継ぎになることがほぼ確定しているメイディオは、よりどりみどりのはずの少女に目もくれない。有力貴族の少女の名前だってあったのに。そして、結果的に婚約者は貴女になった。何か考えがあってのことだとわたしは睨んでいるの」

 そりゃそうだ。クオン嬢は、王子様が国王になるのは「ほぼ確定」と言った。つまり、絶対ではない。そして、「王は一夫多妻」とも言った。正妃でも一生ものの妻でもいいように、こういうときは家柄重視で嫁選びをするだろう。でも何故か私が、借金持ちの小国出身の冴えない王女がピックアップされた。裏がない方がおかしい。

「わたしはメイディオが何を思ってどう行動しているかなんて教えてもらえない。でも、結婚__今はまだ婚約だけれど、これに意図があるのなら、貴族の妨害をなくしたいの。だから、王子と親しいわたしが貴女を認めたと知らしめる必要があった」

 随分重要なことを告げられた気がするが、それに対する私の返事は一言。

「そうなんですか」

 深刻な感じはなかった。ただ、ぽけらーっと、普通の会話でいう「そうなんだ。へ〜」みたいなノリだった。流石にクオン嬢も驚いたらしい。

「そんな反応、期待していなかったのに」

 贅沢にも丁寧な仕上がりの手編みらしきレースをたっぷりあしらった扇の影で、クオン嬢は苦笑しているようだった。

「もっと怒るなり悲しむなりしてもいいのよ?」

「…………これでも」

 笑ってみせた。それが、私にできる精一杯。

 表情なり、立ち居振る舞いなり、趣味嗜好なり。どれでもいい。王子様の隣にいられるような生き方でありたい。だって、貴族の妨害が迷惑になるのは私も同じだから。

「これでも一応、身の程は弁えているつもりなので、べつにこれといった感想もないんです」

 玉の輿で家族の助けになることを、私は望んでいる。お姉様が愛した人と場所を守りたくて、ここにいる。だから、故郷でお父様やお兄様達が無事に暮らせているならその他の事情なんてどうでもいい。シンデレラストーリーなんて、絵本の中だけのつくりもの。

 しょせん、前世の記憶があったって、チートなしで、選ばれた血脈でもない私に、成り上がりなんて無理なのだから。

 ただ、今みたいな台詞を口にする度に心臓のあたりがざわざわする。瞼がじんわりと熱を帯びてくる。それがすごく痛くて、やだ。

「残念だわ」

 パチン、と扇を閉じる音がした。喧噪の中でさえ凛と光り輝く美少女は、面白そうに私を見ていた。

「今の話を聞いて予想どおりの言動をみせるようなら、認めてやろうなんて微塵も考えなかったわ。なのに、貴女みたいだと楽しくて側に置いておきたくなってしまう」

 この言葉を受けたときの私の顔は、ひどいマヌケ面だっただろう。だって、まったくもって意味不明だから。

「クオン、それくらいにしておいたらどうだ?」

 宥めるような落ち着いた声は、クオン嬢のお友達の中の最年長(に見える)の男性だった。

「可愛い弟分の婚約者が気になるのはわかるが、いじめるのはよくない」

 冗談をたしなめるような口調だったからうっかり無視しそうになったが、さらりと事実を言っていなかったか。「いじめ」って。否定してくれるだろうとクオン嬢を見上げたら、どうしてかより深く刻まれた笑みを目にする羽目になった。

「だって、新鮮なのよ。とりまき……いつもの彼女達にこんなこと言ったって満足しないの。その分」

 あれ、どうしてだろう? クオン嬢、笑ってるのに目がこわーい。なんかすっごく、肉食獣チックー。やだー、私、マジで身の危険を感じるんですけどっ!?

「レディは可愛いのよ! 子供っぽい見た目に反して冷めているところも、ミニチュアサイズのところも、ちんまりして愛らしいところも、ヒールで無駄に背を高くする女の子より断然いいいじゃない」

 とりあえず、彼女には私の身長が気に入られたようだ。嬉しくない。

「ごめんなさい。わたし、真面目な目的もあったけれど、とにかく貴女と話がしたかったの」

「はぁ。それは、恐縮です」

 そんなことよりがっちり掴んできて離れないクオン嬢の手の力が気になる。圧力どれくらいだ、っていうくらいには痛い。馬鹿力を体験するとこんな感じか。

「そこまで気に入ったなら我が【月夜ムーン・薔薇会ローゼズの新しい会員として彼女を迎え入れればいいでじゃないか」

「もちろん、そのつもりでいたわ。みすみす逃しはしないわ」

 ちょうど近くを通り過ぎようとしていた給仕の青年に声をかけると、クオン嬢はシャンパンのグラスを二つ取った。そのうちの一杯は私用だった。

「では、新規会員に幸多からんことを!」

 高らかに言ってグラスを掲げるクオン嬢。こつんこつんと次々グラスのぶつかる音が鳴る。残るは、何がめでたいのか皆目見当もつかない私だけだった。

「って、新規会員って!」

 思わず突っ込む。

「いくら王女と言ってもライティアはあまり名が知れていないわ。どう考えても後ろ盾はいるでしょう? その役目を、わたし達が担うわ」

「はい?」

 何言ってんのこいつ、みたいな口調になったのは仕方がないことだと思う。ああ、今の私は怪訝な顔をしていることだろう。

「この会はそれなりに有力な貴族で構成されているの。その中心となっているわたしの意志に背くということはつまり、孤立する覚悟ができていると同義」

 恐ろしく可憐にすごいことを言われた気がした。貴族の会合のトップが、私より一つか二つ年上にしか見えない少女というのはなかなかのことだ。逆らった人はどうなるのか。

 私が身震いしていると、空になったグラスを給仕に渡した後のクオン嬢がはい、と何かを取り出した。

「もらっていいんですか?」

 頷かれ、手を伸ばす。手のひらには、赤い薔薇のモチーフに銀の鎖があしらわれた、小さなバッジだった。

「社交の場だけでいい。このバッジを、服のどこかに身につけるだけだ。そうすれば、貴女の庇護は約束されるよ」

 口を開いたのは、会員の中でもとりわけクオン嬢と親しく見えた紳士。歳は倍近いだろうけれど、優しい雰囲気がカイルお兄様を連想させる。こちらの方が、もっと陽気で親しみやすそうだけど。

「紅薔薇と銀の鎖はハーディッドの家紋なんだよ」

「我々は、クオン嬢にあやかっているというわけだ」

 会員さん達がはは、と言葉をかわす。年下の女の子に厄介になるってどうなんだ。

「まあ、俺達では頼りないかもしれないが、婚約が定まる一ヶ月以内に他の候補が現れないとは言い切れないし、大船に乗った気持ちで任せてくれ」

 年長の人、こと確かエイミス伯爵が笑う。なんとなくだが、王女というより、年下の少女に対してのような態度をとられている気がする。なんだか、嬉しい。最近は「クリス王女」という肩書きばかり重視されていたように思えるから。

「そうね。ライバルなんて掃いて捨てるほどいるもの」

 物憂げに顔をしかめてみせると、クオン嬢は語り出す。

「あそこの令嬢は貿易商の出身。あの家は最近盛り上がりをみせているの」

「それなら俺も。そっちの方で歓談している中の、ほら、あそこだ」

 明らかに楽しんでいる風ではあったが、伯爵が話の和に入る。

「あの真っ赤なドレスの彼女は舞踏会によく来ている。家柄もそこそこで、殿下との会話に積極的だな」

「その隣にいるのは誰かしら? わたしは初めて見たわ」

「ちょっと待て、俺はこの間見たぞ。いつだ……そう、先週のガーデンパーティーじゃないか?」

「あら。それってちょどわたしが欠席したときだわ」

「……」

 気がつけば、私そっちのけで、どこそこの誰それがどれほど王子様と親密か、という話が始まっていた。が、他の会員さん達と世間話をしている間に耳に入ってきた断片的な情報を繋げてわかったが、私の婚約者(仮)殿は無愛想でまともに相手をされた女性がいないのだそう。

 王子様とご令嬢の会話を想像する。どうしても、王子様の方から積極的に喋っている姿が浮かばなかった。

 と、そこに。

「おや。貴女、クオンと一緒にいたんですね」

 クオン。私の近くで伯爵と話している少女を呼び捨てにしたのは、

「ギー?」

「それ以外の人物に見えるのであれば、一度診てもらうことを推奨しますね。特に目と脳を重点的に」

「……」

 たった一言交わしただけだと言うのに、私は閉口してしまった。いや、ここで負けちゃぁ駄目だろう。夢の玉の輿を成功させたあかつきには、こいつとも長い付き合いになるのだから、慣れておかないと!

「少し前に、【月夜の薔薇会】に勧誘されました」

「【月夜の薔薇会】、ですか?」

 少しだけ、ギーが目を見開いた気がした。

「はい。後ろ盾になってくれると」

「……そう、ですか」

 妙な間が空いた。

「えっと」

「僕は賛成ですね」

「へ」

「クオンなら、いえ、ハーディッド家ならば、信頼できます。ところで」

「ところで?」

「彼女とエイミス卿は何の話を?」

 その「彼女」が誰を示すのかは、なんとなくわかった。

「クオン嬢なら、私のライバル(?)について」

 今までの流れをざっくり伝えると、ギーはちらりとクオン嬢を見た。

「もしかしたら、貴女は相当気に入られているのかもしれませんね」

「そうなんですか?」

「ええ、おそらくは。または__彼が「特別」なのか……」

 聞き返していいものか迷った。私には、その「彼」がわからなかったから、下手に立ち入って気分を害するのは避けたかった。

「あら」

 考え込むギーと、聞けずに悩んでいる私に気づいたのはクオン嬢。

「ギー、貴方もいたのね」

「ええ、まあ」

 なんだか、ギーにしては歯切れが悪いような……? いや、そこまでよく知っている相手ではないんだけども。

「先程から聞いていましたが、クオン。読みが甘いですね」

 お、なんでか知らないがギーも加わったぞ! 私、勝ち目なさそうでメンタルべっこべこにへこんでるんだけどね、既に。とどめさすのやめようよ。

「僕は、このあたりで小競り合いするように同じように流行ばかりを追ったご令嬢より」

「貴方、本当にまわりくどい言い方を選ぶのね」

「あの姫君が一番壁となり得ると思いますね」

 さっくりとツッコミを受け流したギーの視線を、私達は見る。

「あれ、って__」

 舞踏会の蒸し暑さの中で、ただ一人、氷のように凛とした雰囲気を纏っていた。それは、彼女の青みがかった銀髪や、遠目からでもわかる濃い海色の瞳の色合いだけじゃなくて。他を寄せ付けない高貴なオーラというか、そういうものを、持っていた。

 後がふくらんだかたちのドレスは葡萄酒色。その上に重ねた、純白とも違う独特の白い上着。夏だというのにどちらも長袖なのだが、汗をかいている様子はない。オラディアでも、私の母国のライティアでも見かけないので、どこかの伝統的な衣装だろうか。

「我がオラディア王国と同盟を結ぶオースティン公国の、通称「青銀の巫女姫」」

「ああ、彼女か」

 伯爵は笑った。何が面白いのか、私にはさっぱりわからなかった。

「クリス王女。彼女は、メイディオ王子の婚約者なんだ」

「んなっ」

 伯爵の説明が衝撃的すぎて私は口を開いて固まる。

「もっとも、君を選んだときに解消したようだが。まあ、オースティンは納得していないだろう」

 紳士的なにやにや笑いを視界におさめ、私はどこの世界でもおじさんって似たようなものなんだと感じた。それにしても、どうして王子は同盟国を裏切るような真似までして私を王子妃にしようとしているのだろう。

「あの。彼女の名前は__」

「あの子は、そうね」

 クオン嬢は顎に閉じた扇をあてた状態で、どや顔になっていた。イヤな予感しかしない。

「言うなれば、絶壁の姫君プリンセス……」

「「「は?」」」

 伯爵の紹介を遮った人物の台詞に、つい絶句してしまう。それは私だけではなくて、すごく安心した。

「絶壁、って?」

 こわごわと尋ねると、意味不明な発言をしたクオン嬢は逡巡して、それから私の耳元でそっと囁く。

「__」

 小さな声にのった一言。ものすごく、くだらなかった。

「クリス王女、内容は?」

「え、いや」

 言っていいものか? そういうのは、さ。ほら。人によって個人差があるし。どうでも、いいじゃないか。

「絶壁の由来は、秘密ということで」

 内緒はずるいとかなんとか冗談をかます伯爵に適当な言い訳を述べた後に、オースティンのお姫様をうかがう。表情のはっきりしない、整った顔。その下の、胸。ドレスは、とてもストーンとしたラインを描いていた。

 やっぱり、言わない方がいいだろう。

 胸囲なんて、なくたっていいじゃない。人間だもの。

 べっ、べつに、私もないからじゃないんだからねっ! 

 …………………………。

 ちっくしょー!

 やっとできたクリスの身長ネタ。

 月夜の薔薇会は、まだまだ不滅です。ルビにいらっとしたら、

ごめんなさい。

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