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夕焼けの中で

思い返してみると俺はこの観覧車に1回も乗った事がない。

観覧車は、嫌いじゃない。だけど何故か乗る気にはなれなかった。


ずっとココにあったのに、遠目に見ているだけ。

だからこの町をこんなに高い所から見た事はもちろん無かった。

だからこの町がこんなに綺麗だという事も知らなかった。



「高、すごいな・・」

「本当に、綺麗」



夕日に照らされる町は本当に赤一色で、千治さんと俺しかいないこのゴンドラ内も真っ赤に染まっていた。

初めて見る町の景色に、俺は思わず興奮してしまう。食い入るように外を見ていると、前からクスクスと笑い声が聞こえた。ちらりと視線を元に戻すと、千治さんがニコニコしながら俺の方を見ていて。不思議と俺は首をかしげた。



「どうかしました?」

「いいえ、京太さんの髪は夕日と同じで綺麗だと思って」

「そうですか?初めて言われました」



長い前髪を指でつまみあげるとやたら赤い髪が目に入る。俺の髪は何故だか昔からずっと赤毛で、母に聞いた話だと祖父も赤毛だったらしい。髪が綺麗だと言われたのは初めてだ。ちょっとドキッとしたのはきっと気のせいだと言いたい。顔が赤いのは夕日のせいってことで。しかし京太さんも髪も赤かったのか。だから京太さんと間違えたのかな。赤毛の人ってほとんどいないし。


少し照れくさくなって、ちょっと下を向くとまたくすくすと笑い声がした。

なんだか遊ばれている気がしてならない。けど悪い気がしないのは何故だろう。



「拗ねた?」

「別に拗ねてないです」

「嘘をつくのが下手」



別に拗ねてはいないんだけどな。ただ恥ずかしいだけ!と声を大にして言いたいけど笑顔の千治さんには何を言っても意味がない気がした。



「あ、天辺に来たみたいですね!綺麗ですよ」

「話そらすのも下手ね京太さんは」



千治さんから思い切り目も話もそらすとゴンドラの向こう側は今までよりも一段と視線が高くなって、夕日がもうほとんど沈んでいる。空も町も全てが赤一色。沈みかけの夕空にはもう一等星が空高く光っている。本当に息をのむような美しさだ。俺も千治さんもきらきらと光る夕焼けに釘付けになっていて、天辺にいる間言葉はなかった。


そして天辺に来たゴンドラは夕日と共にゆっくりと下へ下へと降りていく。

降りていく時に見えた千治さんの横顔は何処か切なげだった。けど俺は何も言葉を発しなかった。というか何を言えばいいか分からなくて。見て見ぬ振りをした。



「千治さん大丈夫ですか?」

「はい。ありがとう」



ゴンドラから先に降りて手を貸すと千治さんは照れたのか夕日のせいか顔がほんの少し赤かった。それがなんだか嬉しくて俺はにんまりと笑ってしまう。今まで掌の上で転がされていたのに、それが逆転したような気がして。


俺達が降りて、少しすると車輪が動くのをやめ観覧車は止まった。まるで俺達のためだけに動いていたようだと柄にもなくロマンチックな事を考えてしまう。動かなくなった観覧車を前にして、千治さんはとても満足したようだった。降りた後も余韻に浸っているのか目をキラキラさせて観覧車を見上げている。



「京太さん今日は一緒に乗ってくれてありがとう」

「いえ。俺も楽しかったです」

「また、一緒に乗ってくれる?」



純粋なその問いを答えるのに、俺はしばしの時間を要した。

俺は京太さんではないから。けれどもし、もしも「駄目」だなんて言ったら千治さんはどんな顔をするのだろうか。時々見えた、切なそうな表情が一瞬脳裏をよぎる。



「はい。・・・俺でよければ」



そう、答えるしか今の俺には答えしかなかった。

この時はもう会う事はないだろうと思っていたのだ。


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