↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者をガチャで決めようとしたら、後継者もそれで決めると言われた件について  作者: 紡里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/3

たかが、おもちゃ一つで

 第一王子チャールズは、手を伸ばすことができない。

 顔面蒼白で、ふわふわの金髪まで震えている。


「チャールズ殿下。私が取りましょうか?」

 ジェイムスが助け船を出す。

「……あ、ああ。頼む……」


「ならん。

 例えば、他国との丁々発止(ちょうちょうはっし)のやり取りの後、屈辱的な署名をすることもある。

 手が震える? そのような者に王座は相応しくない」

 国王から放たれる威圧に、チャールズの喉がごくりと鳴った。

「は、はい。父上。ジェイムス、お前も余計なことを言うな!」


「はい。差し出がましい真似をいたしました」

 忠実な側近候補は、大人しく引き下がる。


 チャールズは、それでも「いえ、私めが――」とジェイムスが手を出してくることを期待していた。

 言葉の裏を読めない役立たずめ、と心の中でジェイムスを罵った。


 チャールズは震える手でカプセルを手に取った。

「どうやって開けるのだ?」

「上下にパカンと分かれます。兄上」

 第四王子が、声を弾ませる。

 王位継承権など知らぬ幼子は、兄に遊んでもらえるとでも思っているのだろうか。愚かな。


 カプセルは固く、うまく開かない。

 薄い溝に爪を滑り込ませる。

 手が滑って、自分の手を爪で引っ掻いた。

 舌打ちしそうになり、とっさに口の中を噛んだ。


 周囲からの視線が痛い。爪も痛い。

 なぜ、王子である私がこんなことをしなくてはいけないのだ。

 使用人に任せて、紙だけ受け取るのが普通だろう。

 苛立ちが募る。


 パカッ。

 間抜けな音がして、あっけなくカプセルが開いた。


 ほう、と誰からともなく、ため息が漏れる。


 折りたたまれた紙を、震える手で開く。

 うまくいかない。

 いっそ、ぐしゃりと握りつぶしてしまいたい。

 だが、政敵である継母の前で、醜態を晒すわけにはいかない。


 かさり。乾いた紙の音がする。

 息を詰めて見守る人々。


 ――そこには、第四王子の名前があった。


 とっさに引き裂いてしまおうと思ったが、脇に控えていた宰相に取り上げられた。

 継母である王妃が、ほっと安堵の息を吐いた。


 忌々しい!


「父上! こんなおもちゃで国の将来を決めるなんて、馬鹿げています!

 将来の国王に相応しいかどうか、多角面から検証すべきです」


「ほう、そうか」

 国王は感情の読めない相槌を打った。


「貴族たちから支持される能力や人望を備えなければいけません」

「……」

 国王は大きなため息を吐いた。チャールズは一瞬怯んだが、ここで主張しなければいけないと勇気を出した。


「外交の場で他国の王族と対等に渡り合う知識も必要です」

「だが、お前は語学の習得を、婚約者に任せきりにしていたようだな」


 チャールズの喉が、ぐうっと鳴った。だが、怯んでいる場合ではない。


「財政や産業についての見識も――」

「それで、婚約者へのドレス代を使い込むのか」

「……軍を率いる統率力も必要でしょう」

「戦略に行き詰まったときに、どうするかカプセルトイで決めるのではあるまいな」

「国益を考えて決断する責任感も――」

「己の婚約者すら決められない者が、国の行く末を決められると?」


「……!」

 駄目だ。

 何を言っても、用意していたように論破されてしまう。

 こんな時こそ主人を助けるべきだと、ジェイムスに視線を送る。


 だが、ジェイムスはチャールズを見ようとはしなかった。


「ジェイムスも、よく務めてくれた」

 国王は、ジェイムスに声をかけた。

「もったいなきお言葉。これにて、お役目を返上できますれば」

 ジェイムスは片足を引いて、恭しく頭を垂れた。


 つまり、ジェイムスはチャールズの元に戻らないということか。

 チャールズは怒りで顔を歪ませ、怒鳴りつけた。

「裏切ったのか!」


「お前は本当に何も理解していないのだな。

 公爵が、強引にメアリーアン嬢を婚約者に指名した。彼女は一人娘だったのに。

 お前に嫁げば、侯爵家を継ぐことはできない。

 だから親族から養子を取って後継者にするしかないと相談していたところに、公爵はジェイムスを押しつけた。後継者にぴったりだと」


 国王は、チャールズが知らない事情を語っていく。

 「その養子となったジェイムスを、お前は気に入って側近になれと命じたのだ。

 お前たちは侯爵家を引っ掻きまわして、潰す気だったのか?」


「そんなことは……知りませんでした」


「だから、貴族の情報を学ぶために家庭教師がついていたのだ。それを側近候補たちが覚えていれば充分だと、サボりおって。

 ジェイムスには、迷惑をかけたな」


「とんでもないことでございます。

 侯爵はまだお若く、後継者問題はこれから取り組んでも間に合うでしょう。私は、チャールズ殿下のお側にいることで、メアリーアンお嬢様のお役に立てました。そのことについては、感謝しております」

 ジェイムスは胸に手を置いて、国王に向かって礼をした。


「な、何を言っているんだ! ち、父上は、それを承知で……?」

 チャールズは心を許した側近候補がスパイだと知り、蒼白になった。


「公爵は武力と経済力を武器に政治に介入し、国王よりも自分が偉いと思っている。まあ、王家の血筋が入っていることも、傍若無人に振る舞う根拠にしているようだが。

 メアリーアン嬢の実家は侯爵家だが、真っ向から対立したら何をされるかわからない」


 国王は組んでいた指を解き、両腕を広げた。

「ジェイムスが側にいないこの一年で、お前は数々の失態を重ねた。その失態を公爵に尻拭いさせ、力を削ぎ、ようやくここまで来た」

 その顔には、重荷を下ろした晴れやかさがのぞいていた。


 ずっと立ちっぱなしだったチャールズの足が、震え始めた。


「先月までは、公爵が婚約者を早く決めろと催促してきただろう?」

「あ……はい。うるさいくらいに」

「それで、お前は公爵の面会を断るようになった」

 国王の口角が少し上がった。


「だって、いくらお祖父様でも、口出ししすぎだと……」

「一年間、お前に王族としての自覚があるかを折に触れ、観察してきたのだ。公爵は約束の期限までに婚約者すら選べないお前を、罵倒していたよ。

 金鉱山の譲渡手続きが終わったら、家督を譲って引退するそうだ。あの家の嫡男も父親を蹴落とす好機だと思ったらしい」


 チャールズは、口うるさくも最大の味方であった祖父を失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
想像以上の無能で草。
公爵の権力が孫には通じなかった皮肉 (^^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。