もうさっくり教えちゃおうってね
そうして、私たちはディザスターの前に立っている。ディザスターは私のことを、とても呆れたような顔で見ていた。これはあれだね、気づいてるやつだね。
「ディザスター様! この者が我らに協力したいと……!」
「本気で言っているのか、メルト……」
「え?」
あっはっは。めちゃくちゃ呆れてるね。勇者くんにとっては、先日ここに乱入してきた魔女が客人として連れてこられたようなものだから当然なんだろうけど。
「やあ。どうもどうも。久しぶりだね」
「ああ……。もう会わないと思っていたのだがな」
「んふふ。私もだよ」
私はあの子たちが頑張って戦う姿を見たいだけだから。だから、ディザスターが勝利してあの子たちを殺すことになっても、手を出すつもりはなかった。
それはあっちも察しているみたいだったから、またこうして顔を合わせることになるとは思ってなかったと思う。私ももう会うつもりはなかったし。
「な、なんだよ、スズラン。ディザスター様と会ったことがあるのか?」
メルトが私にそう聞くと、勇者くんが疲れたような長いため息をついた。
「はあ……。むしろお前は分からないのか。本当に」
「え? あの、それはどういう……」
「こういうことだよ」
魔法解除。いつもの髪色、いつもの服装に戻る。するとさすがにメルトも気づいたみたいで、姿を変えた私を見てあんぐりと口を開けた。
「お前は……魔女!?」
「どうも。魂魄の魔女シオンです。案内ご苦労様」
「て、てめえ……! あたしを利用したのか!?」
「おん。でもお互い様じゃない? 君も私を利用しようとしていたんだからさ」
「ぐ……!」
まあ、でも。この子との友人関係はなかなか楽しかったけどね。
改めて、ディザスターに向き直る。椅子に座ってこちらを見ていたディザスターは、怪訝そうに眉をひそめていた。
「分からんな。なぜメルトを利用した? お前なら、正面から入れただろうに」
「あー、ね。ぶっちゃけ入れるけどさ。今回はもうちょっとちゃんとお話をしようと思ったからね。だから、招かれておきたかったんだよ」
「話か。残念ながら話すことなど何もない。理解したのならすぐに……」
「まあそう言わずにさ。少し付き合ってよ。勇者くん」
「……っ!」
ディザスターが目を大きく見開いて絶句してしまった。
まさか、私が気づいてないと思っていたのかな。何度転生しようとも、魂の形までは変わらないというのに。
「メルト。部屋を出ろ」
「え……!? ディザスター様!?」
「俺はこいつと話がある」
私を静かに睨みつける勇者くん。私はにっこりと笑ってあげた。
メルトが部屋を出て、五分ほど沈黙を続けて。
やがて、勇者くんが口を開いた。
「まさか、俺に気づいているとは思わなかったよ」
「おん。懐かしい話し方に戻ったね。今までのはキャラ作りかな?」
「恥ずかしいからやめてくれないかな」
苦笑いしながら頬をかく仕草をする勇者くん。こうして見ると、若い男の子にしか見えないね。相応に苦労はしていただろうと思うけど。
「聞いていいかな。俺のことにいつ気がついたの?」
「最初からかな。君が私に気づいている、ということも察していたよ」
「マジか……。そっかぁ……」
はあ、と大きなため息をつく勇者くん。気付けなかったことがショックらしい。私も思っていること全てが顔に出るような性格じゃない。仕方ないことだね。
「俺、顔とかいろいろ違うはずだよ。よく気づいたね」
「今の私は魂魄を見ることすらできるのさ。何度転生したとしても、魂の形までは変わらない」
「そう、か……。それは知らなかったよ……」
知っている人の方が少ないだろうからね。私の世界でも、お師匠ぐらいしか知らないと思う。
「私としては、勇者くんがこんな組織のボスをしていることに驚いたものだよ」
「はは……。幻滅した?」
「まさか。私も、今まで褒められたようなことはしてきてないからね」
ずっと昔。それこそ、あの世界に召喚される前なら……。きっと、私も勇者くんも、まだまだ恥ずかしくない生き方をしていたと思う。
けれど、もう私の手は汚れてしまってる。生きていくために、同じ人間だって殺してきた。今更知り合いが悪事を働いていたからといって、幻滅なんてしないとも。
「君こそ驚いたんじゃない? そのままの姿の私が出てきてさ」
「ああ……。本当に驚いたよ。だって、少し年は取ったかなって見えるだけで、普通に若いままの、以前と同じ顔だったんだから」
「あっはっは。むしろよく気づいたよね。私は同じ顔だけど、勇者くんからすれば百年以上見てなかった顔のはずなのに」
「忘れるわけないさ。だって、俺の初恋だったんだから」
「あっはっは。なるほど……。ん? え? ……んえ!? なんて!?」
「お姉さんの狼狽する顔は初めて見た気がするよ」
いや、だって、初恋って……。初恋!? マジで!? それは知らなかったんだけど!?
「あはは。そこまで驚いてるってことは、本当に知らなかったんだ」
「知らなかったよ……! 冗談じゃなくて、マジなの?」
「マジだよ。もうずっと昔の恋だけどね」
「そっか……。そっかあ……。全然気づかなかったよ。ごめん」
いつからかは分からないけど、私と別れてから、というわけではないはずだ。ということは、私はこの子の恋心に気づかずにからかってしまっていたかもしれない。
なんだろう。人を殺した時の罪悪感なんてとっくに感じなくなった私だけど、これはちょっぴり悪かったなって思ってしまう。私にそういう経験がないから、かな?
「気にしないでよ。もう昔の話だから。あれから俺も結婚したり子供もできたりしたからね」
「おお。聖女ちゃんとだよね。風の噂には聞いてたよ。魔王を倒したこともびっくりだけど、聖女ちゃんと結ばれたのもびっくりだった」
「うん。本音を言えば、地球に帰りたかったんだけどね……」
「あー……。それは、ね。うん。気持ちは分かるよ」
私だって、何度も帰りたいと願ったものだから。その願いの結果が今回の転移なわけだし。まさかこんな地球によく似た世界があるとは思ってなかったけど。
「謝罪をするなら、俺の方こそ、だね。もう今更だけど……。ごめんなさい」
勇者くんが立ち上がって、私に頭を下げてきた。しっかり深く頭を下げた上での謝罪。何の謝罪なのか、ちょっと分からない。何かされたっけ?
壁|w・)自分にとっても優しく寄り添ってくれたら思春期は誰だって恋してしまうんだ……。しらんけど。




