だからお前は嫌いなんだ
福引きをしてから最初の連休。私たちは隣町の山奥にある旅館に向かっていた。天然温泉の露天風呂がある旅館で、すごく有名な場所らしい。
メンバーは明菜ちゃん一家三人と、静香ちゃん、そして……私だ!
よかった! よかったよお! ちゃんと私も同行させてくれた! 信じてたよ明菜ちゃん!
「ぐすん……」
「し、師匠!? どうしたの!? お腹痛い!? ぽんぽん痛い!?」
「弟子の優しさに泣きそう。あとふざけた言い方するならはっ倒すよ」
「師匠の情緒どうなってるの!? 急に真顔になると怖いよ……!」
どうもこうもねーです。嬉しいだけです。
さて。今は車の中。明菜ちゃんのお父さん、良介さんが運転する車の中だ。わりと大きな車で、七人ぐらいが乗れるほどの車。一番後ろの三人掛けの椅子には荷物しか置いてないけど。
「明菜ちゃんに旅行券を譲ったものの、あれこれ私呼ばれなくない? と思ってたんだよね」
「そ、そんなことしないですよ! いつもお世話になってるのに!」
「明菜ちゃん……じつは良い子だったんだね……」
「待って!? 師匠の中で私ってどうなってるの!?」
「猪突猛進のバカ」
「ひどい!?」
あっはっは。冗談だよ冗談。そんなことはちょっとだけしか思ってないよ。つまり思ってるってことだけどね!
「猪突猛進のバカ……。いや、なるほどね。的確だ」
「ふふ。そうね。間違いないわね」
「お父さんとお母さんはどっちの味方なのかなあ!?」
娘さんをバカにしちゃったわけだからご両親にはいい顔されないかも、と思ったけど、二人とも納得といった様子で頷いてる。この子、家でもわりと勢いで行動してるな?
「ふふ……。シオンさん。旅行券についてはあなたから譲られたものだと聞いていますから。むしろこちらがただ乗りしているようなものだ」
「そうよ。この旅行中の飲食代などは私たちが出すから、遠慮なく欲しいものを言ってね」
「そうっきゅ。魔女は魔女らしく遠慮しなくていいんだきゅ」
ああ、本当に。明菜ちゃんの家族はとても優しい……、いや待て。
最後の、三人目の声は、私の左隣に座る静香ちゃんの方から聞こえてきた。ゆっくりとそちらに視線を向ける。そこにいたのは、
「きゅ? どうしたんだきゅ?」
静香ちゃんのお膝の上でくつろぐマスコットもどきだ。
よし。
「静香ちゃん。そのきゅーきゅーうるせえやつは窓から捨てちゃいなさい」
「わかりました」
「きゅ!? ま、待ってほしいっきゅ! 捨てないでほしいっきゅ!」
「だまれきゅ太郎。目障りだから死ね。いやむしろ殺す。今ここで!」
「きゅううう!?」
「わああああ! 師匠待って落ち着いてえええ!」
ええい! 右手を拘束するな明菜ちゃん! この小動物はきゅうきゅううるさくて嫌いなんだ!
「語尾がうざい! きゅうきゅううざい! あまりにもあざとすぎて鳥肌が立つ!」
「ひ、ひどいっきゅ!」
「いやあ、とても気持ちが分かるなあ」
「毎日聞いてるとちょっといらっとするわね」
「お父様!? お母様!? きゅ」
「とってつけたようなきゅをやめろクソ虫」
「ひ、ひどい……。わかりました……」
思わず殺気を飛ばしたらクソ虫は静かになって黙ってしまった。それでいいんだよそれで。ぬいぐるみっぽくずっと黙っていてほしい。切に願うよ。
「どうして師匠はキュルのことがこんなに嫌いなんだろう?」
「少し大人げないと思う」
「う……」
いや、あのね。私を間に挟んでそれを言ってほしくないなって。
マスコットもどきが嫌いな理由……。第一印象とか語尾とか他にもいろいろあるかなあ。
いや、それと同時にありがたくも思ってるよ。私がこうしてリアルニチアサ展開を楽しめるのはクソ虫のおかげだからね。
けれど。それよりも何よりも、だよ。
「子供に助けを求めて魔法の力を与えて戦わせてる。それが心の底から気に食わない」
「あ……」
ニチアサは好き。変身ヒロインものとか大好き。リアルで見れて、とても嬉しい。そんな私がこれを言っても、どの口が言ってんだお前と言われることだけどさ。
魔法のない世界で、魔法の戦う力を子供に与えた。それだけは理解できない。
「温泉についたら楽しみたいから、ちょっと嫌な話はもうここでしちゃうよ」
「あ、あの、師匠……?」
明菜ちゃんが不安そうにしてるけど、気にしない。これは、知っておいてほしいから。
「魔法って、夢のあるものじゃないんだよ。その実態は、現代兵器と変わらない」
魔法も、兵器だ。誰かを殺すための技術だ。
もちろん平和な魔法もある。夢のある魔法もある。人助けができる魔法も当然ある。でもそれは、魔法の一側面に過ぎない。圧倒的に多いのは、誰かを攻撃するか、攻撃しやすくするための魔法だ。
夢のある魔法だって、使い方を変えれば容易に人を傷つける。料理をするための包丁で人を殺せてしまうように。
「そんな兵器を子供に渡した。本気で理解できないね。頭の中腐ってるんじゃないの?」
「きゅう……」
ふん、と鼻を鳴らすと、キュルは静香ちゃんの膝の上で縮こまってしまった。そのいかにもかわいそうなアピールも鼻につく。
でも、私から見てクソ虫なこいつでも、明菜ちゃんと静香ちゃんにとっては大切なパートナーだ。だから、本当に手を出すことはしないよ。殴ることはするかもだけど。手を出してる? 言葉の綾です。
「明菜ちゃん。静香ちゃん。君たちが使っているものは、容易に人を傷つけることができるものだ。そのことだけは、忘れないでね。忘れたら……いずれきっと、後悔するから」
「はい……!」
うん。本当に、空気を悪くしてしまった。反省だね。私らしくない。気楽に楽しく生きていこう、というのが私のモットーだ。だからいつも笑うのだ。あっはっは!
「明菜。静香ちゃんも」
ふと、良介さんが口を開いた。落ち着いた声だ。
「魔法のことは僕たちには分からないけど……。いいお師匠様だね」
「う、うん!」
「シオンさん。改めて……明菜と静香ちゃんのこと、よろしくお願い致します」
「あー……。まあ、うん。はい」
約束は、できないけど。
うん。偉そうなことを言ってしまったし、わりとこの子たちに肩入れしてしまっているのも事実だけど。それでも。それでもだ。一線だけは越えるつもりはないんだ。
つまり、戦いそのものに協力はしない。それは今でも変えるつもりがない。
もしも、明菜ちゃんたちが負けて、ディザスターに殺されそうになったとしても……。きっと私は、それを静観するだろう。この子たちを平気で見捨てると思う。もう終わっちゃったか、なんて言ったりして。
うん。そう思うと、私の方がクソだね。人でなしだ。まあ、今更だね! 多分キュルのことが嫌いなのも、わりと同族嫌悪が入ってるんだろうね!
まあ、私は所詮こんなものだ。明菜ちゃんの人を見る目がなかった、ということで。
私の歯切れの悪い返答に思うところはあったと思うけど、良介さんも桐子さんもそれ以上は何も言ってこなかった。
「で、でも、師匠! 師匠って本当に魔法に詳しいですよね! 正直、そこまで年は離れていないと思っていたんですけど、それだけ学んでいたってことですか!?」
空気を変えるように明菜ちゃんが言う。ふむ。年が近いか。確かに……私の見た目は、せいぜい高校生ぐらいだからね。中学生の明菜ちゃんたちと比べたら、確かに近いと思われるだろうね。
見た目は、だけど。
「あっはっは。年が近いか」
「え? あの、師匠?」
「あっはっは!」
「師匠!?」
魔法は兵器だ。夢のある魔法なんて少ない、なんて言ったけれど。私のこれは、人類からすれば夢のある魔法、ということになるのかな?
「私は魔法に人生を捧げた。人生を捧げてもまだ足りないから、人であることも捧げた」
「え……?」
「それぐらいしないと、地球に来るための魔法なんて作れなかったから」
私の師匠やそのお客様からも知識を請い、それでも簡単には成し遂げられず、とても、とても長い時間を捧げてしまった。
でも……。それをこの子たちに言っても、不幸自慢にしかならないかな。
「具体的な年は言わないよ。途中からはまともに数えなくなったし、適当だから」
「は、はい」
「とりあえず……。百から先は数えるのが面倒になった、とだけは言っておくよ」
私がそう言うと、明菜ちゃんだけじゃなくて、他のみんなも絶句していた。こういう反応を見るのは好きだから、たまに年齢について触れるのは楽しいよね! あっはっは!
壁|w・)なお、きゅ太郎が嫌いな理由はまだあります。




