第五十七話 コネを求めて
第五十七話 コネを求めて
ある程度の説明を、ロッソさんにした後。
場所を変え、リビングにて机を囲む。
「ふむ……」
途中でわざわざゴスロリ衣装に着替えたロッソさんが、豊かな胸の下で腕を組んだ。
「たかな……美由は、100年後の世界で機械と融合した少年兵であった」
「はい」
「魔物に世界の大半が制圧され、残っているのは米国の一部と英国のみ。それも、潰されるのは時間の問題だった」
「はい」
「そんな中、貴殿はデミウルゴスの手で並行世界に、それも過去へとタイムスリップした」
「はい」
「何をどうすれば見当もつかない状況だが、とにかく『より良い未来』の為に頑張っている」
「はい」
「若き鬼、璃子、マスターは既にこの事を知っている」
「はい」
「若き鬼は、未来において伝説のスーパードスケベ人2として有名」
「はい」
「ちょっと?」
今なんかいらん情報なかった?勝手に悪化させられていた気がする。
「そして、吾輩は邪悪な吸血鬼と成り果て、若き鬼の手で討たれた、と」
「……はい」
「なるほど……」
こちらの言葉を無視し、ロッソさんは数回頷いた後。
「何を言っているんだ?……と、言いたいが、信じる他あるまい」
「本当ですか……!?」
納得してくれた様子の彼女に、小鳥遊さんが少し驚いた顔をする。
「簡単には信じて頂けないと思っていました。特に、貴女の最期について」
「……まあ。『ケニング』の存在も貴殿が未来人という証拠になるのだが、それはそれとして、この前の事があったからな……」
ロッソさんが、視線を落とす。
「もしもあの時、貴殿らがいなかったら……と思うと、並行世界の吾輩が魔性に堕ちた事に、納得しかないのだ」
「ロッソさん……」
重々しく発せられた彼女の言葉に、何と声をかければ良いのか分からなくなる。
ロッソさんがあの時避難所の人達に対して抱いた感情がどんなものか、察する事が出来るだなんて、軽々しく言う事は出来ない。
だが少なくとも、彼女にとって真の復讐者に、そしてその後殺戮者にまで堕ちる理由としては、十分過ぎるものだったのだ。
自分も、璃子先輩も、美由さんも。口を閉じる他ない。
「あと、ちょっと自分の闇堕ちは滾るものがある」
「いっぺんぶん殴ってやりましょうか?」
感情のジェットコースターに人を乗せるんじゃねぇ。
ちょっと頬染めながら鼻の下を擦るな。武勇伝ちゃうからな、マジで。
「いやぁ、だって並行世界の出来事だし。この世界の、そしてこの時代の吾輩無実というか無関係だし。他人事かつまだ被害者はいないから、純粋にこう……な?」
「な、じゃねえんですよ。貴女の心情を慮った僕達の気持ちを返せ」
「……すまんな!」
「許します」
ドヤ顔しながらの謝罪ではあるが、話が進まないので頷いておく。
「しかし、これからどうするのだ?先程聞いた限り、この後の展望がまるでないようだが」
「それについてなんだけどねー」
頬杖をつきながら、璃子先輩が口を開く。
「実は、『これは』って考えがあるんだよ」
「えっ、貴殿の?超不安なのだが……」
「お前の家で夜通しパーティー開いてやろうか」
「やめてくれ。本当にやめてくれ。今マンションだから。近隣住民から伝説の『壁ドゥン』をされてしまう」
「なんでドンを『ドゥン』って言ったのこの人」
「つうか、あーしじゃなくって発案者はお祖母ちゃんだよ」
「なんだ、マスターか。であれば大丈夫そうだな」
「なんかあーしとお祖母ちゃんで信用に差があり過ぎない……?気のせい……?」
「安心してください、璃子先輩。気のせいじゃないです」
「そっかー!安心だなー!後で覚えておけよてめーら」
「して、その名案とは?」
「とに……名案って程じゃないけど、可能性の話でね?」
背もたれに体を預け、璃子先輩が続ける。
「美由っち曰く、この時代の日本政府には魔物の手が伸びている可能性があるらしいのよ」
「うむ。それで?」
「なら逆にさ。『今の政治家達以外』なら、魔物の影響を受けていない可能性はあるんじゃないの?」
「……うん?どういう意味だ?」
「4月に、当時の総理含めて5人の主要な大臣が霊的災害で亡くなったじゃん」
ピン、と。璃子先輩が指を立てる。
「そうだな。あの時は、大きなニュースとなった」
「アレが、本当に偶然なのか。それとも当時の総理を狙ったのかは、分からない。でも、アレで今の臨時内閣は発足した」
「ついでに……『ゴブリンとズメウ』の件で、既に現在の政府はあまり信用できません」
自分も口を開き、考えを告げる。
美由さんが告げた、『ゴブリンが最初に人間の武器と戦術を理解した』という未来での認識。それと、この前の一件があまりにも噛み合っていない。
単純に並行世界ゆえのズレだとか、タイムスリップによるバタフライエフェクトの可能性もある。
だが、最悪の可能性を想定した方が良い。もう既に、日本政府は魔物の影響を大きく受けている可能性を。
「ならさ。『前の政府』なら人間側の可能性があるんじゃないか、ってお祖母ちゃんは考えたわけよ」
ニヤリと笑いながら、璃子先輩は机に身を乗り出す。
ふにり、と。彼女の巨乳が机に乗った。会話に集中する為に、そっと目を逸らす。
「前の、とは……」
「『回帰の日』から数カ月後に、ダンジョン法や対霊庁の設立をゴリ押しで通した後、その代償とばかり解散した前の政権。あるいは、4月の霊的災害で亡くなった大臣達の縁者。その中で、今の臨時内閣から距離を取っている人なら……」
「なるほど!つまり、『死んだ政治家だけが良い政治家だ』という事か!」
「イグザクトリー♪」
指を鳴らすロッソさんに、璃子先輩が指をピストルの様にしながらウインクする。
彼女らのアレな発言に、ジト目を向けざるを得ない。
「あの、言い方をもう少し選んでください。なんかやべぇ思想家みたいなんですけど」
「いうてね、オタク君。『政府は怪物の魔の手に堕ちてしまったんだ!』とか言う人達って、もう大概やべぇ部類の思想家じゃない?」
「……くっ!」
「なるほど、これが『ぐうの音もでない』という状況なんですね」
美由さん。冷静に学びを得ないで。
「素晴らしい。吾輩達は、異能者ではあるがただの個人。出来る事も、見えているものも限りがある。しかし、政治家に味方が出来れば道も大きく開けよう……!」
「そうそう。名案に思えるっしょ?」
「ああ!流石マスターだ!」
「実現不可能って点から目を逸らせばな!」
「ええ!?」
突然璃子先輩に梯子を外され、ロッソさんが目を見開く。
「ど、どういう事だ?良い案だと思ったのだが……」
「いや、あくまで『魔物の手に堕ちていないかも』ってだけだから。確定じゃねぇのよ」
「それに、そもそも僕らにそういう人達と会えるコネとかありませんからね……」
「あっ」
自分達の言葉に、ロッソさんが口をパカーンと開けて固まった。
「お祖母ちゃんは偶に謎の人脈持っていたりするけど、あくまでこの辺ではって話だからねー。政治家先生とは無縁なんだわ」
「むしろ、ロッソさんにそういうお知り合いとかいません?」
「逆に聞くが、吾輩に貴殿ら以外の友人がいると思うか?」
「……なんか、すみません」
びっくりする程キラキラとした瞳で見つめられ、思わず目を逸らす。
いや、僕もあんまり人の事言えないけども。
そんなやり取りをしていると、美由さんがパン、と手を叩く。
「では、やはり彼女を頼る他ないかと」
「彼女?」
「……遠海虎毬さんです」
疑問符を浮かべるロッソさんに、自分が答える。
「公安所属かつ、未来の世界では英雄の1人として語られる人物です」
「おおっ、そんな者が!」
「ただ、未来に遺っている絵とはかなり違う容姿をしていまして……確証がありません」
「うむん?いや、別に多少実物と絵で異なるのは普通であろう。信長やナポレオンが、肖像画通りの姿だとは吾輩も思っておらんし」
「こちらが、私の時代に伝わる遠海さんの姿です」
「わぁお、セクシーダイナマイト」
美由さんが、机に印刷した未来で語られる遠海虎毬さんの絵を置いた。
「そして、同姓同名かつ同じ種族の人物が、僕と同じ学校に突然転校してきました」
「えっ、このセクシー美女が高校に!?教師ではなく!?女子高生として!?」
「どう見ても合法ロリでした」
「このセクシー美女が合法ロリ!?」
「美由っちのやっていたソシャゲのデータ見るに、下手したら20代後半だよね。現在の虎毬って人」
「アラサーで女子高生のふりをする合法ロリ!?なんだそれは、新手の変態か!?」
「25歳で中二病拗らせている奴に、言われたくないと思います」
「美由ぅ!若き鬼が虐めるぅ!」
「そもそも、中二病というのがよく分かりません。解説をお願いします。ロッソさんの、どういう部分が中二病……という病気?なのですか?」
「この話はよそう。吾輩、たぶんマジで泣く」
真顔で尋ねる美由さんに、ロッソさんは悲し気な顔でそっと首を横に振った。
うん。流石に哀れなので、追撃はしないでおこう。
「しかし、それはその……本人なのか?」
「そこが、分からないんですよねぇ……」
「つっても、ずっと悩んでいてもしょうがねぇべ。当たって砕けろって言葉もあるわけだし、玉砕あるのみっしょ」
「あの、直接確かめるのは僕なんですけど。砕けたくないんですが」
「……骨は拾うぜ、オタク君!」
「冥福を祈っているぞ、若き鬼よ!」
「こいつらよぉ」
「安心してください、耕太さん。貴方は死なせません」
「美由さん……」
「いざとなれば、貴方に変装して私が会いに行きます」
「それは無理だと思う」
「なぜ!?」
断言するこちらに、美由さんが驚いた様子で上半身を向けて来た。
その際に、彼女の爆乳がたゆんと揺れる。
くっ、鎮まれ我が煩悩……!
「僕と美由さんの場合、似てないどうこう以前の問題かなって」
「バカな。今の私は、並行世界の貴方の絵に背格好は近いと思うのですが……」
「別人が女体化した姿でございます。その絵の人物は」
「つまりオタク君に、この絵の肖像権はないって事だな!」
「な、なあ……吾輩、ちょっとだけその絵に興味があるのだが……いや、あくまでな?知的好奇心であって、決して悪ふざけではなく」
「今真面目な話をしているんですが?」
アホ2名を睨みつけるが、揃ってそっぷを向きながら口笛を吹きだした。こいつら……。
口を思いっきり『へ』の字にするが、すぐに戻す。
当たって砕けろ、というのは、あながち間違いではない。
ぶつかってみないと、何も分からない事もある。ズメウの件で、自分も多少は危機感を持ったつもりだ。
その危機感が足りているかは、分からないけど……腹をくくるしかないだろう。
「今から、虎毬さんに学校外で会えないか聞いてみます。相手の予定次第ですが」
「おう、頑張れオタク君!本当に公安かはまだ分からないけど、学校の女子を呼び出すとか告白にしか思えないけど!」
「ファイトだ、若き鬼よ!告白かと思って会いに行ったら、『貴女は公安でアラサーですか?』と聞かれたらビンタ間違いなしだが、ガッツだぞ!」
「先にお前らからビンタしてやりましょうか?」
思いっきり他人事である。ボケないと死ぬのか、こいつら。
「耕太さんと虎毬さんが付き合う、ですか……良いかもしれません」
「……はい?」
唐突に意味不明な事を言い出した美由さんに、3人揃って首を傾げる。
何で今そんな話に?
「強い異能者同士の子供は、強い異能者が生まれる可能性が高いと、100年後の世界では考えられていました」
「いや、あの……美由さん?」
「しかし、この時代は一夫一妻が基本。社会秩序に反し、無用なリスクを負うのは避けるべきですね。耕太さんの相手は、慎重に判断するべきかと」
「……うん」
璃子先輩やロッソさんと目を合わせ、それぞれ頷く。
情操教育、頼みました……!
「美由っち。あのね?付き合うイコール結婚っていう考えは、一旦置いておいてね?そういうのは、好き合った人同士がするものっつうか」
「しかし、メリットデメリットで交配相手を選ぶのは、この時代でも珍しくはなかったはずです」
「それはそうなのだがな?そのぉ、若い内から損得だけで相手を選ぶのは……よ、良くないと思うというか……」
「若さは関係ありません。未来の為を思えば、強い異能者は強い異能者同士でお付き合いするべきかと」
「うーん……えぇっと、ほら、あーしが貸している特撮でもさ?皆愛し合って家庭を築いていたわけじゃん。その辺から、察してほしいなって」
「……?客観的に見て、複雑な家庭環境や恋愛模様の方が多い印象ですが。痴情のもつれから、才ある者同士が重要なタイミングで殺し合いに発展していたケースもあったと、記憶しています」
「あ、ごめんロッソん。あーしには説得無理だわ」
「諦めるな璃子ぉ!というか特撮ってその辺ちょっとアレなのか!?吾輩そんなイメージなかったのだが!?もっと爽やかな恋愛とかしていないの!?」
なんか説得するどころか押し負けている気がするが、美由さんは璃子先輩達に任せるとして。
虎毬さんへ、メールを送る。以前、流されて連絡先を交換したのがこんな形で功を奏すとは。
はてさて、この行動が、吉と出るか。それとも凶と出るか。
未来人が味方にいても、分からない事だらけである。
「精子提供や体外受精では、魔力性質の陰と陽の融合が上手くいかず、霊的才能が遺伝しづらいとされています。その為、性交渉の必要性が」
「あうあうあうあうあう……!」
「はわ、はわわわわわわ……!」
……とりあえず、自分が今すべき事は1つ。
「あ、すみません。僕ちょっと、スクロールの作成に行ってきまーす」
なんか話の内容が無機質なピンク色に向かっているので、この場から離脱する事だ。
「逃げるなぁ!逃げるな卑怯者!逃げるなぁ!あーしを置いて行くなぁ!」
「ま、ままままて、若き鬼よ……!わ、吾輩、ちょっとこの子に勝てる気がしないというか、エグめの知識が多いというか……」
「私も経験はありません。霊的才能の無さから『残すべき遺伝子』としては見られていませんでしたし、そもそも肉体がありませんでしたので。しかし、だからこそ皆さんの遺伝子は後世に」
さらば、似非ギャル……!20代厨二……!貴女達の犠牲は、無駄にしません……!
骨は拾いに行く事を決意して、自分は逃げ出した。お借りしている、作業部屋を目指して……。
なお、帰りに生贄2名からそれぞれ肩パンされた。正直すまんかった。
美由さんの情操教育は、後日マスターにお願いするとしよう。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。創作の原動力になっておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。




