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第三章 プロローグ

第三章 プロローグ




 いつもの様に朝の支度を済ませ、いつもの様に朝食を食べ、いつもの様に学校へと向かう。


 そんな風に、いつも通りの流れで1日は始まった。


「お、おはよー……」


 ぼそりと、こちらに注意を向けなければ聞こえない程度の声量で発した、朝の挨拶。


 教室に入る時の、習慣の様なものだった。返事なんて期待していない。


 していなかった、のだが。



「お……おはよう……!」



「……えっ」


 わざわざこちらへ近づいてきて、そう答える男子生徒がいた。


 彼と、彼の後ろに2人。緊張した様子で、こちらを見ている。たしか……松田(まつだ)君?


 正直言って、あまり自信がない。普段教室では必要事項以外誰とも喋らないものだから、1回は頑張って覚えたクラスメイト達の顔と名前が曖昧になってきている。


「あ、うん。どうも……?」


 咄嗟に何を言えば良いのか分からず、曖昧な笑みを浮かべる。


 気づけば、教室は随分と静かになっていた。


「その……今日は、お礼を言いたくて」


 クラスメイト達の注目が集まる中、彼は緊張した様子で言葉を続けた。


「この前の、魔物が銃を使ったって霊的災害……あったじゃん?」


「まあ、うん。そうだね」


「その時……俺、お前に助けられたから……」


「……そう、なの?」


「俺、中学時代の友達と一緒にあの街で遊んでいたんだけど、そん時に……」


「……あっ」


 あの日の記憶を掘り返していくと、彼を見かけた瞬間があったのを思い出す。


 銃を持っているズメウと、初めて遭遇した時だ。あの時逃げていた人達の中に、松田君がいたらしい。


「もしかして、コンビニの近くで?」


「そう、それ。やっぱり、矢広だったんだな」


 どこか安心した様子で笑った後、彼は背筋を伸ばす。


「あの時は、ありがとう。それと、ごめん。酷い勘違いを……」


「い、いやいや。ああいう状況は、パニックになって普通だから」


「その……後日、きちんとお礼の品を持ってくるから」


「いらない……よ?その、僕も成り行きであの時は戦っていただけだし……」


「それでも、助けられた事は事実だから」


 どこか怯えた様子だった松田君が、意を決した様子で視線を合わせたかと思うと。


「本当に、ありがとう。お前は命の恩人だ」


 深々と、頭を下げてきた。



*     *     *



「ほうほう。学校でそんな事が」


「はい」


 放課後。小鳥遊さ……美由さんの家のガレージに集まり、『ケニング』の調整を行っている璃子先輩に今日の事を話していた。


「良かったじゃん。感謝されるのって、嬉しいっしょ?」


「はい。ただ、それ以上に驚きました」


 本当に、予想外だったのである。


 その後、特に松田君やその友人達と話す事はなかったが……教室内で自分に向けられる視線は、いつもとは少し違う気がした。


 未だに、異物扱いというか、場違いな存在として見られている気はする。それでも、それが幾分か和らいだ様に思えた。


「情けは人の為ならず、という諺がありましたね」


 ツナギの上をはだけ、黒いTシャツを着た美由さんが会話に加わる。


「異能者と非異能者の溝が浅くなったのなら、良い事です」


「そうだね……この前の一件と、東京での事で、随分世間からの風当たりも変わったっぽい」


「んまー、『ヴァルハラ』の発言関連で一部はピリピリしているけどねー」


 灰色のYシャツ姿の璃子先輩が、掌を上にしながら肩をすくめる。


「あそこ、存在感出したいのか最近ちょっと過激な発言が多いし。ロッソんへの勧誘が増していないか心配だよ。ちょっと前に、接触があったとか言っていたしね」


「あー……そう言えば、あの団体最近ちょくちょくニュースで見ますね」


 異能所の保護団体だか、互助団体だかである、『ヴァルハラ』。あそこは今、異能者の必要性を世間に大声で説いている。


 別に、それ自体は良いのだ。問題は、警察や自衛隊への過度な批判。そして、殺人鬼を捕まえたという2人や、ロッソさんをやたら称えている事である。


 まるで、神話の英雄の様な扱いだ。ハッキリ言って、うさん臭さが増している。


 この前の出来事でやっと風向きが良くなった異能者と非異能者の関係に、変な火種を投じないで欲しいものだ。


「美由っちー。『ヴァルハラ』って未来では何か言われていない?実はやべー集団とか、逆に思わぬファインプレーしたとか」


「いえ、少なくとも私は知りません。きちんと歴史を習ったわけではないので、本当は何らかの形で名前が残っていたかもしれませんが」


「そっかー……。まあ、未来の教科書を見る方法はないしねー。しゃーない」


 作業台の上に置いてあるノートパソコンを操作しながら、璃子先輩は苦笑を浮かべた。


「美由っちが持っていた端末に入っていたゲームも、その辺詳しいデータなかったし。容量を頑張ってやりくりして入れたらしい、オタク君の女体化キャラの絵は沢山あったけど」


「美由さん。今すぐそのデータを消しましょう」


「お断りします。既にオフラインの記録媒体に複数コピーしてありますが、それでも大本のデータを消すつもりはありません」


 ふんす、と。美由さんがその爆乳を突き出しながら答える。


 くっ、肖像権の侵害を訴えたいが、所詮並行世界の赤の他人。別人である以上、自分には何も言えない……!


 けっして、彼女のお胸様に思考が奪われたわけではないのだ。


「ちなみに、あーしも何枚かコピーを貰っているぜ!」


「貴女の記憶ごと消すしか……」


「突然過激になったなぁ!?」


 拳を握る自分から、璃子先輩が椅子から立ち上がり距離を取る。


「おっま、君のゴリラじみたパワーで殴られたら、可愛いくてか弱いギャルの頭とか木端微塵だぞ!?ミンチより酷い事になるからな!?」


「僕はゴリラじゃありませんし、貴女はギャルじゃありません」


「あーしギャルだもん!ロッソんはギャルって言ってくれているもん!」


 あの人のギャル判定がガバガバ過ぎるだけだ。陽キャな若い女性は、全員ギャル認定していてもおかしくはない。


 だって、僕も髪染めている陽キャは全員パリピだと思っているので。


 そんな事を考えていると、噂をすれば何とやら。バイクの音が聞こえてくる。


「たのもー!『ロッソ・ヴェンデッタ』であーる!誰かおらぬかぁ!」


「武士かな?」


 魔界とやらの貴族というより、江戸時代のお侍さんなのよ、挨拶が。


 そう思いながら、美由さんに視線を向ける。


 頷きが返ってきたので、ガレージのシャッターを開けた。


「ぬっ、そこであったか」


 玄関の前から、砂利を踏みしめてロッソさんが歩いてくる。


 彼女はゴスロリ衣装ではなく、黒いライダースーツを着ていた。美人は何を着ても美人と聞くが、確かにその通りだと思う。


 スタイルの良さもあって、綺麗かつ格好いい。


「それで、いったいどうしたのだ3人とも。突然『話がある』と、呼び出して」


 ヘルメットを脇に抱えたロッソさんが、首を傾げる。


 その視線が、自分達を飛び越えてガレージの奥。ケニングへと向けられた。


「もしや、そこの人型機動兵器についてか?というかロボだな?ロボだよねそれ。なぜにロボ?ちょっと乗ってみてよいか……?」


「半分は、その話です」


 美由さんが、一歩前に出る。


「ですが、他にもお話したい事があります」


「と、言うと?」


「私の過去であり……」


 ふいに吹いた風が、彼女の長い黒髪を揺らす。


「未来の出来事についてです」


 ────6月上旬。


 梅雨真っ盛りであり、昨日から学校では衣替えが始まった事もあって。湿気た空気が肌を撫でる。


 困惑を深めたロッソさんを招き入れ、美由さんは言葉を続けた。



「結論から申し上げます。私は、100年後の未来から来ました」





読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
「本当に、ありがとう。お前は命の恩人だ」 学校での耕太君に対する回りの目が柔らかくなるといいね。 オタク君の女体化キャラの絵は沢山あったけど 耕太君 「自分の女体化キャラじゃなければ同好の士として小…
>「本当に、ありがとう。お前は命の恩人だ」 ちゃんとお礼を言える恩を仇で返すような子じゃなくてよかったな >「美由っちが持っていた端末に入っていたゲームも、その辺詳しいデータなかったし。容量を頑張っ…
ヴァルハラは日本が滅びる時に一緒に潰れていたら歴史の教科書には載らなそうです。 ロッソさんに平行世界のあなたは歴史に名を残す殺戮者になりましたと説明したらどんな反応をするのやら。
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