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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第二章 クラン
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第二章 エピローグ 中

第二章 エピローグ 中




サイド なし



 某県某所。とある映画館近くにある、マンション。


 その一室にあるソファーに、猫耳の少女がぐったりとした様子で座っている。


 否、少女ではなく、幼い少女に見える成人女性。遠海虎毬が、口を半開きにして天井を見上げていた。


 今にも、口から魂が抜け出そうな顔である。


「……先輩。気、抜き過ぎでは?」


 濡れた髪をタオルで軽く押さえながら、部屋に入ってきた安田は開口一番そう告げた。


 そんな糸目の後輩に、公安内で合法ロリと名高い遠海は天井を見上げたまま答える。


「そりゃあ、こうもなるわい。なーんで、『万が一にも過激派団体と対象が接触したら面倒だなー』……程度のノリで尾行した結果、四方八方からアサルトライフルで撃たれなきゃならんのよ」


 遠海の言葉に、安田はそっと顔を逸らす。流石に、何も言えなかった。


 そう。何を隠そう、遠海虎毬は、ズメウの霊的災害の現場にいたのだ。


 公安と一口に言っても、複数の部署やチームが存在する。その1つから、『カラミティ』が不穏な動きをしている地域を聞いていた彼女は、コッソリと矢広耕太達を追跡していたのだ。


 目立つ容姿の彼女だが、伊達で公安に所属しているわけではない。多少距離をとっていたが、彼らに気づかれる事なく完璧な尾行を行っていたのである。


 矢広達がダンジョン探索を終え、帰りにファミレスへ寄っていた時、彼女は向かいの建物にあるハンバーガーのチェーン店でごく自然な様子で彼らを観察していた。


 何事もなく帰宅しそうだ……と、思っていた矢先に『アレ』である。


「大変でしたね……本当に」


「そうね……しかもなるべく目撃されずに、って。私の『本来の戦い方』と合わな過ぎんのよ、クソが」


「口調が下品ですよ」


 部屋の角にある鏡台へと移動し、安田がドライヤーで髪を乾かし始める。


 元々、ここは彼女のセーフハウスだ。そこへこの野良猫みたいな公務員猫が上がり込んだのである。


 ごー、と。ドライヤーの音をさせながら、安田は遠海に問いかけた。


「それで。先輩が気にしていた例の『ゴーレム』。どうでしたか?」


「チラッとしか見る事は出来なかったけど……誰かの異能で動いているでもなけりゃ、有り得ないわね」


 それまで天井を見上げていた遠海が、ようやく視線を安田の方へ向けた。


「動きが自然過ぎた。たしか、米国で秘密裡に実験しているゴーレムも、軍人と組み手したらあっさり押え込まれるレベルだったでしょ」


「ああ、既存のロボットをどうにかゴーレムに改造しよう、ってやつでしたっけ。一応、走ったり跳んだりは出来るそうですが。あと、銃をある程度扱えるとも聞きましたよ」


「それでも、重量の問題とAIとゴーレム自体のズレが起きていたはず。なによりコストが高いくせして、戦闘能力はまだまだ低い……ってのに、おかしいでしょ。アレ」


「そんなにですか」


「そんなによー」


 ドライヤーを止めた安田が、オイルを髪になじませていく。


「ま、その辺は後で書類に纏めるから。そん時に共有するわ」


「ありがとうございます。あ、先輩アイス食べます?」


「食べるー」


 遠海の言葉に、安田は洗面所で手についたオイルを洗うついでに、冷蔵庫からカップアイスを2つと、スプーンを持ってくる。


「どうぞ。バニラで良かったですよね」


「おーう。流石我が後輩。くるしゅうない」


「ははー」


 ケラケラと笑いながら、Tシャツに短パンというラフな格好で、彼女らはソファーで横に並んだ。


 遠海が、尻尾を左右にゆっくりと揺らす。


「私の話ばっかりで悪いわね。今度何か奢るわ」


「本当ですか。じゃあ、ブランドのバッグ買ってください。あるいは3つ星レストランのフレンチ」


「100均でエコバッグ買ってくるわ。あるいはカップ麺」


「えー」


「ま、そっちもご苦労さん。避難所の人ら、上手く誘導できたみたいね」


 遠海の言葉に、チョコ味のアイスを食べながら安田は笑う。


「そういうのが元々専門ですからねー、私。マスコミが沢山駆けつけていましたから、そこに混ざって近づくのは簡単でした」


「……相変わらず、あんたの変装と話術はやばいわね」


「目が細い以外は、特徴のない顔ですから」


 安田もまた、公安である。遠海とは専門こそ異なるが、その手腕は確かなものだ。


 異能ではなく、純粋な技量でもって常人を操るなど容易い。


「なるべく、異能者へ良いイメージをもってもらえる様に思考を誘導しておきましたよ。東京での一件もあって、やり易かったです」


「アレなー。上の方何人頭抱えてんだか」


「まあ、仕方ないかと。個人的には、それよりも『カラミティ』の銃密輸を見逃した人達に文句を言いたいですけどね」


 安田が、その細い目を僅かに開く。


 一瞬だけ、その視線が隣の小さな先輩へと向けられた。


 露出する華奢で小さな、触ったら柔らかそうな手足には、傷1つない。しかし、それは結果論である。


 大量の銃弾を浴びせられるなど、異能者だろうと死ぬのが当たり前だ。ごく一部の強者か、けた外れの才能を持った天才しか生き残れない。


「んー……まあ、そっちも仕方ない理由があるかもしんないわ」


「仕方ないで、済まされます?」


「済まされるルートかもしれないって事」


 遠海の言葉に、安田の持っていたスプーンが動きを止める。


「……どこの国ですか?」


「そこまでは分からないわよ。でも、たかが過激派組織だけで集められる量じゃないわね。十中八九、国レベルのバックがいる」


 はむ、と。アイスを口に含んだ遠海が、ゆっくりと咀嚼する。


 しゃくしゃくとアイスを噛んだ後、彼女は細い喉を動かした。


「……だからまあ、そう責めなさんな。本人達の方が、今頃自分達を責めているでしょうからね」


「……はい」


 僅かに項垂れる安田のふくらはぎを、ぺしぺしと遠海の尻尾が軽く叩いた。


「あんたも落ち込むなって。つーか、そんな暇があったらこっちの報告書手伝って」


「嫌です。無理です。というか、佐藤さんなら絶対に気づきますよ。あ、こいつ後輩に手伝わせたな、って」


「そうよねー。あの爺、マジで抜け目ねぇし。だからあそこまで生き残っているんでしょうけど」


 不満そうに、遠海がガジガジとスプーンを噛む。


 そんな彼女に、安田は苦笑を浮かべた。


「まあ、佐藤さんも完璧超人ってわけじゃないみたいですけど」


「そりゃそうよ。この前も、何を失くしたか分からないって言って、ずっと探し物していたしねー。とうとうボケが始まったに違いないわ」


「はい。私がこの前定期連絡した時もですね」


 特に、彼女らが佐藤を嫌っているというわけでもなく。軽いノリで、上司への愚痴をこぼし合うだけの時間。


 そんな、公安である事すらも関係ない、やり取りの中で。


 やはり安田は、本当に何て事のない風に告げた。



「時間を、うっかり間違えていたんですよ。佐藤さんが」


「────は?」



 緩やかに揺れていた遠海の尻尾が、止まる。


 彼女が咥えていたスプーンが、カラリと床に転がった。


「先輩?」


「佐藤さんが、時間を間違えた?本当に?」


 どうしたのかと困惑する安田を、遠海が見つめる。


 一切の嘘は許さないと、刃の様に射抜いてくる瞳。それに、後輩である彼女はびくつきながらも頷いた。


「え、ええ。と言っても、10分程ですが……」


「10分、も」


 空になったアイスの容器を手に、遠海は再び天井を見上げた。


 スプーンも拾わず、数秒程沈黙した彼女に、安田がおずおずと話しかける。


「あの、いったい」


「安田」


 再び顔を後輩に向けた遠海は、その表情から感情を消し去っていた。


 潜入中の完璧な作り笑いでも、仲間に向けるだるそうな顔でもない。普段の遠海なら、絶対にしない表情。


 それに、安田も何かを察した。


「ここから先、佐藤さんへの報告は私を挟みなさい。先輩命令」


「……良いんですか?権限的に、まずいですよ」


「後で責任問題になったら、最期にどっかやべー組織に特攻かまして死んでやるわよ」


 冗談でも言う様な口調だが、彼女の瞳は笑っていなかった。遠海は、本気である。


 無意識に、安田は硬い唾を飲み込んでいた。


「……分かりました」


「悪いわね。そのうち、ブランドのバッグ買ってあげるわ。今ならネックレスもつける」


 スプーンを拾い上げた後、遠海がソファーから立ち上がる。


「だからってわけじゃないけど、お願いしたい事があってね」


 そして、後輩へと振り返った彼女の顔には。



「佐藤さんを調べる。手伝って」


 一瞬だけ、悲壮な覚悟が浮かんでいた。



 ────史実において、この日、この時。彼女はこの場にいない。


 小鳥遊美由のいた世界線において、とあるダンピールと、とある喫茶店に関わりはなかった。結果、遠海虎毬の監視対象も霊的災害に巻き込まれる事はない。普通に帰宅した彼を追い、彼女も自身の拠点へ帰還した。


 ゆえに、愚痴を言いにこのマンションへ訪れる事もなく。後輩から先の話を聞く事もない。


 安田も、長く記憶に留めておく様な話ではないと。佐藤がたった1回、10分だけ時間を間違えた事を先輩へ語る事はなかった。


 世界がまた、分岐する。



*    *     *



 時は、僅かに巻き戻る。


 もうすぐ夕方という時間帯。空の端が赤らみだした頃、東京の某所を、2人の少女が歩いていた。


 非常に、人の目を惹く2人であった。


 片方は、煌めく様な金髪の少女。幼げな顔立ちに、小柄な体躯。全体的にあどけなさが残るが、しかしそれ以上に美しい。


 白のYシャツの上から、薄い青のキャミワンピースを着、七分丈のジーパンという出で立ち。青と白のスニーカーを履いた彼女は、チラチラと隣を歩く少女に視線を向けている。


 その、もう1人の少女。彼女もまた美しい顔立ちをしていたが、なぜか星型のサングラスを掛けていた。


 パーティーグッズとしか思えない代物。しかも、黒いTシャツに白のハーフパンツという格好の上から、紫色の着物を纏っている。袖を通しているが、前を閉めず、膝辺りにある裾をひらひらと風に遊ばせていた。


 白く長い美脚には足袋と下駄が履かれ、カランコロンと、鳴っている。


 何とも、奇抜な装いであった。灰色の長い髪もあって、良くも悪くも目立っている。


 金髪の少女は、どこか不安そうな顔で。灰色の少女は、鼻歌でも歌いそうな顔で。並んで歩いていた。


 やがて、2人は公園に到着する。


 大半の遊具が取り払われ、随分と広くなったその場所には、もうすぐ日が落ちる事もあってほとんど人がいない。


 いるのは、それこそ木の傍で立ち尽くす子供1人ぐらいだ。


 2人の少女が、その子供に歩み寄る。


「どうかしたの?もうすぐ暗くなるから、帰った方が良いよ?」


 金髪の少女が、少しだけ膝を曲げ、子供に視線を合わせながら問いかける。


 それに、子供は涙目のまま上を指さした。


 金髪の少女が視線をそこに向けると、枝と枝の間にボールが挟まっている。


「ぼーる、とれないの……!みっちゃんも、帰っちゃって……!」


「なるほど。そういう事ね」


 下駄を鳴らし、灰色の少女が前へ出る。


 そして、くしゃくしゃと子供の頭を撫でた。


「お姉さんがとってあげるから、ちょっと待っていて」


「え?」


 少し驚いた様子の子供を余所に、灰色の少女は少しだけ息を吸い込むと。


 ────カンッ!


 まるで、下駄が鳴った様な音を口から発した。


 かと思えば、膝を軽く曲げた後に跳躍する。


 3メートル程の位置にあったボールを灰色の少女は軽く殴り、枝から外す。


 ぽてぽてと地面に落ちたボールに子供は目を輝かせ、すぐに拾い上げた。


「ありがとう、お姉さん!」


「良いって事よー」


「さ。おうちの人も心配するから、気を付けて帰ってね」


「うん!」


 彼女らに手を振って、子供が駆けていく。


 それを見送る、2人。まだ十分に子供と名乗れる少女達は、空が暗くなり始めた今も帰る気配はない。


「……ねえ、『穂鶴(ほづる)』」


「どうしたの?『菜々美(ななみ)』」


 金髪の少女、菜々美が、視線を下に向けながら口を開く。


「警察の人達……守ってくれるかな?」


「……きっと、頑張ってはくれるよ」


 不安げな菜々美に、穂鶴は穏やかな笑みを浮かべる。


 風に灰色の髪と着物をなびかせた彼女は、下駄を鳴らしながら友人の前へ移動した。


「でも、最優先では、ないと思う」


「……そう、だね」


「彼らは、国民全員を守らないといけない。だから、もしも同時に予告状が出された場合。優先されるのは、国民全員が影響を受ける人になる」


 ────関東圏を騒がせる、連続殺人鬼。


 段々と行動に派手さが目立ち始めた彼は、とうとう数十人の人間へ一斉に殺人予告を送った。


 その中には、泉原臨時総理を含めた数名の大臣の名がある。


 彼女らの友人一家も狙われているが……『対異能者』の部隊は、臨時総理達の護衛についた。


 だが、この2人にはある種の確信がある。殺人鬼は、友人一家を狙うと。


 なぜなら、報道こそされていないが────彼女らは一度、彼の犯行を防いでいる。


 まったくの偶然ではあったが、その時に向けられた殺意を2人は忘れていない。


 恐らく、元々襲う相手のリストに、彼女らの友人一家が載っていた。ならば、あの殺人鬼は真っ先にそこを狙うだろう。


 しかし、件の殺人鬼は神出鬼没。犯行を防いだという確たる証拠を彼女らは持っておらず、警察はよくある悪戯として2人の証言を信じてはいなかった。


 大きな事件である程、『犯人を見た』『犯人に会った』という偽の証言が増えていく。その1つと思われたのも、仕方のない事だ。


 しかし。この因縁を、彼女らは軽視などしない。転移で逃げるその瞬間まで、犯人は憎悪に染まった瞳で2人を睨みつけていたのだから。


「ねえ。やっぱり、闘うんじゃなくってさ。逃げようよ、皆で。それで、警察の人が捕まえてくれるまで……」


「それはきっと、無理だよ」


 推測する様な言葉に反し、穂鶴の口調はハッキリとしたものだった。


「相手は結界すら素通りしてくる。それをお巡りさん達すら知らない……というか、信じてくれていない」


「それは……」


「何より、逃げ続けても、犯人の方が有利過ぎるからね。どこかで、追い付かれるよ」


 菜々美の目が、穂鶴の顔を……サングラスに覆われた目を見た後、彼女の指先へと視線を移す。


 僅かに剣だこのあるその指は、僅かに震えていた。


「……でも、恐いよ」


「そうだね。めっちゃ恐い。だからさ」


 ひらりと、長い髪と着物を翻し。穂鶴が菜々美へ振り返る。


 真っ直ぐに、彼女へ手を伸ばし。



「力を貸して。菜々美」



 不敵な笑みを添えて、そう告げた。


 断られるなんて、微塵も思っていない顔。もしも相手が菜々美以外であったのなら、穂鶴はこんな危険なお願いをしなかっただろう。


 たった1人で戦って、たった1人で傷ついて、聞かれない限りは誰にも己の戦いを語る事もなく、笑うのだ。


 この少女が、幼馴染がそういう奴だと、菜々美はこの世界の誰よりも知っている。


「しょうがないなぁ」


 ため息まじりに、そう答えて。


「私、か弱いんだから。あんまり期待しないでよ?」


「嘘つき。背中は任せるぜ?相棒」


 少女達は、手を取った。


 これは、小鳥遊美由のいた世界でも有った出来事。彼女の知る歴史にこのやり取りはなくとも、2人の名はハッキリと書き記されていた。



百目鬼(どうめき)穂鶴(ほづる)


金木(かねき)菜々美(ななみ)



 1人は、『盲目の戦乙女』として。


 1人は、『裏切りの聖女』として。


 そんな2人から、数キロ離れたビルの屋上。満月を背に、無骨な眼帯をした少女が見守る。


 偽りの神を名乗る存在が、慈しみの笑みと共に見守る中。


 彼女らは、友の為に戦場へと歩き出した。


 これは、竜人達と矢広達が戦った、同じ夜の出来事である。



*    *     *



 かくして。竜人達は討たれ、殺人鬼は捕縛された。


 日本が魔物への恐怖と、異能者への歩み寄りの気配を出している頃。


 ワシントン、ホワイトハウスにて。


「……ええ。ええ。分かりました。お疲れ様です」


 会議室で1人、スーツを着た初老の女性がスマホで電話をしていた。


「結果は残念でしたが、落ち込む必要はありません。次の準備を進めましょう」


 明るい声音に反し、その表情からは感情が抜け落ちている。


 彼女はまるで遊びに行く計画を立てる様な口調で、電話の向こうへ喋っているというのに。


「分かりました。その様に。後日『メキシコのお酒』を送ります。それでは」


 通話を終えて、数秒。突然彼女の顔に感情が戻ってくる。


 少しだけ戸惑った様に周囲を見回したその女性は、しかしすぐに何事もなかった様子でスマホをポケットにしまうと、脇に抱えていたタブレットを操作し始めた。


 そのタイミングで、ガチャリと扉が開く。


「うん?『キャサリン』か。なぜ1人で?」


 入って来たのは、ミゲル・タイラー副大統領。


 彼の言葉に、初老の女性はタブレットを脇に抱え直す。


「おはようございます、副大統領。大統領はジムさんと通話中でして。パートナーとの会話をお邪魔するわけにはいきませんから、近くにあるこの部屋で仕事を」


「ああ、なるほど……『馬に蹴られて死ぬ』のは、誰だって嫌だからな。まあ、甘い話だけではなく、異能関連の話中心だろうが。気づいたら惚気ているからな、奴ら……」


「……?」


 げんなりとした様子で語るタイラー副大統領に、女性、大統領秘書であるキャサリンは首を傾げた。


「馬に?……ああ、もしや、日本の諺ですか?」


「そうだ。あの国では、人の恋路を邪魔すると蹄で頭をかち割られるらしい」


「それはまた。素晴らしいですね」


「私としては、おっかないがね。なんでカップルにそこまで気を遣わないといけないのやら」


 大仰に肩をすくめる副大統領に、キャサリンはコロコロと笑う。


「それにしても、本当に副大統領は日本にお詳しいですね。たしか、奥様が大の日本好きだとか」


「そうだ。10年ほど前に旅行で行って以来、侍の虜だよ。わざわざ家の一部をリフォームして、畳と障子を取り寄せたぐらいだ。布団での寝起きに、私も慣れてしまったよ」


「あら。しかし、体にあった寝具は健康の秘訣ですよ?」


 キャサリンは、心配そうに彼を見つめながら。


「副大統領は長身ですし、脚の長いベッドの方がよろしいかと。それこそ────」


 彼女は、普段通りの笑み。普段通りの声音で。



「人がすっぽりと、ベッドの下に隠れられる高さが良いでしょう」



 一瞬だけ瞳から感情を消しながら、そう告げたのだ。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。創作の原動力になっておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
>そう。何を隠そう、遠海虎毬は、ズメウの霊的災害の現場にいたのだ。 好奇心は猫を◎す(好奇心ではない) 仕事で行ったら鉄火場で十字砲火のおまけ付きとかお疲れさまです。 >異能ではなく、純粋な技量でも…
>しゃくしゃくと、まだ少し凍っているアイス 「しゃくしゃくと」バニラでこの音は爽だな。間違いない。 「まだ少し凍っているアイス」え? アイスって凍ってるものじゃないの? 溶けてたらしゃくしゃくとは鳴…
虎毬さん佐藤?さんの違和感に気付く、深入りすると貴方もモシャモシャされちゃうよ~。 にゃ~ん♪  ∧∧ (・∀・) c( ∪∪ )
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