第二章 エピローグ 上
第二章 エピローグ 上
ズメウ達の霊的災害から、2日。
自分達4人は、喫茶『アルフ』へと集まっていた。
「いやー……すっかり有名人だね、ロッソん」
喫茶店に置いてある新聞紙を眺めながら、璃子先輩がそう呟く。
彼女から記事を受け取り、自分深く頷いた。
「ええ。避難所を救ったヒーローですからね」
そして、小鳥遊さんに新聞紙を回す。
「はい。紛れもなく、貴女は英雄です」
小さく、しかし満足気に頷いて、彼女はロッソさんの前へ新聞紙を広げた。
それに対し、我らが『英雄殿』は。
「今から新聞社を焼き討ちしてくれる……!」
顔を真っ赤にして、プルプルと震えていた。
『中二病の20代ダンピール女性、避難所の防衛に尽力』
凄い。何が凄いって、この場にいる誰も記者の取材を受けていないのに、ロッソさんの事を的確に言い表している。
はたして、どこで年齢と種族と中二病の事を知ったのか……。
「おのれ母上……!なぜ取材でこんな事を……!自慢か……?母上なりに自慢したかったのか……?」
ああ、犯人はお母さんか。
謎が解けたと、璃子先輩と頷き合う。じゃあ問題ないな。
そして、あらかじめ彼女には自分達3人の事は口止めしておいて良かった。
記者やネットの玩具にされるのが嫌なのもあるが、『ケニング』の事もある。幸い、停電と通信障害により人型ロボの目撃情報こそあれ、機体をハッキリと映した写真はネット上に上がっていない。
ぼやけた写真や動画。それも、肩や足がチラッと映った程度。それぐらいしか、目立った投稿がないのは運が良かった。いや、悪運と言うべきか?
そんな事を考えていると、ロッソさんがバンバンと机を叩く。
「誰が中二病か!吾輩は誇り高き魔界貴族である!『ロッソ・ヴェンデッタ』だぞ!あれだぞ、魔界に行ったら誰もが吾輩にひれ伏すからな!偉いのだぞ!?凄いのだぞ!?」
「貴女、前に魔界から追放されたとか言っていませんでしたっけ?」
「やめな、オタク君。設定の矛盾をついちゃいけない」
「貴様らぁ!」
「コーヒーとケーキお待たせー。スペース空けてねー」
「あ、ありがとうございます」
「ほーい。ほらロッソん。自分の記事が嬉しいのは分かるけど、どかして」
「嬉しくないわ!?」
そんなやり取りをしている間に、小鳥遊さんが新聞紙を手に取って『おぉ』と小さく呟きながら瞳をキラキラさせていた。
熱心に読んでいる姿に、邪魔する事も出来ずロッソさんが歯をギチギチと鳴らす。
「おぉのぉれぇ……新聞社も止めろ……!根も葉もない事を書きおって、真実の探求者としての誇りはないのか……!」
「誇りは知りませんが、真実ではあるかと」
「いやー。新聞記者さん達が、真実の探求者をきちんとしていてくれてあーしは嬉しいよ」
「貴様ら吾輩に何か恨みでもあるのか……!?」
「恨みだなんて、そんな」
「ただのスキンシップだぜ、マイフレンド!」
「おかしい。こんな友情は絶対におかしい」
クスクスと、自分達のやり取りを笑いながらマスターがカウンターの方へ戻っていく。
なおもギャーギャーと騒ぐロッソさんと璃子先輩から、視線を小鳥遊さんが見ている新聞へと移した。
あの霊的災害。そして避難所の件は、1面記事の最も目立つ位置……ではなく、2番目に目立つ辺りへ載せられていた。
その辺は、新聞社による。現在、各メディアで2つの事柄が大々的に報じられていた。
1つは、勿論ズメウ達の霊的災害の件。
死者行方不明者は3桁を超え、火災により倒壊した建物は数十棟。その中には警察署も含まれており、近くにあった市役所も被害を受けたとか。
消火活動中の消防隊員達がズメウに襲われた事で、火の手が止まるのに随分と時間がかかったと聞く。
不幸中の幸いか、地面に転がった放水ポンプから流れ出た水により、ロッソさんの家は庭木が燃えるだけで済んだ。
もっとも、彼女とそのお母さんは現在、マスターの紹介でこの喫茶店からほど近い位置にあるマンションへ移っている。
避難所の件は、彼女らにとってあの地域で過ごす事に対してしこりとなったのだ。
あの時、ロッソさんのお母さんを追い出した男性2人。彼らを訴える方向で、マスターの知り合いの弁護士さんと、話し合いが進んでいるとか。
意外な事に、あの時避難所にいた他の住民達が裁判に対して協力的……どころか、例の2人すら罪を認めているそうだ。
非常時におけるパニックゆえ……と、本人達は言っている。
彼らの潔さの理由は、定かではない。報復を恐れたのか、地域の戦力が減ってほしくないのか、単純に頭が冷えて罪悪感が出て来たか。
人間の心とは、1か100かでは表せない。もしかしたら、今浮かんだ理由全部の可能性もある。
何にせよ、彼らには罪を償ってほしい。緊急時とは言え、簡単に許されて良い所業ではないのだから。
他の住民達から、裁判で証言をする事を約束する手紙や、謝罪の電話がロッソさん親子の所に来ている。取りあえず、法的に彼らをボコすのは、可能なはずだ。
その後、彼女らがあの家に住み続けるかどうかは……本人達の心情次第である。
閑話休題。そういった、限られた人間だけが知る事情は、当然報道されていない。
話題になっているのは被害の大きさと、『魔物が銃を使った』という事実である。
昨日、テレビで『カラミティ』に所属する者達の死体が発見され、骨に残った噛み痕と魔力残滓からズメウによるものと判明。更に、現場となった廃工場の倉庫でゲートが見つかったと報道されていた。
ズメウは、彼らを襲いテロに使われるはずだった武器を奪い、使用したとされている。『魔物が初めて人間の武器と戦術を理解した』として、歴史に残る事となった。
今も、テレビやネットでは魔物の危険性について再認識すると共に、その対策をどうすべきかが議論されていた。
……小鳥遊さんがいた世界では、なぜ『ゴブリンが最初』だったのだろう。
単純に、並行世界だから歴史の流れが違うだけ?それとも────。
ズメウ達が、霊的災害後も潜伏に成功した?
……幾ら頭の良い魔物とは言え、可能だろうか。
火災があったとしても、弾痕は誤魔化せないはず。銃弾で亡くなった人達もいたはずだ。
異能や魔物の犯行を捜査する事は難しいが、現代兵器による犯行ならば既存の技術が見逃さない。
であれば……誰かが『隠した』?
トリガーハッピーみたいに銃を乱射していた、ズメウ達の痕跡を?
小鳥遊さんから聞いた、『この時代の日本政府に、魔物の影がある』と未来で語られているという説。
それが、また補強された気がする。
……前に璃子先輩が言っていた、マスター発案のアレ。本気で実行に移すべきか。
しかし、伝手がない。あるとしたら……。
頭に浮かぶのは、猫耳の少女……に、見える、成人女性の疑惑がある人物。
虎穴に入らずんば虎子を得ず……かぁ。
「矢広さん」
「うん?」
小鳥遊さんに袖を引っ張られ、視線を彼女の方に向ける。
隣に座る彼女が、突然身を寄せて来た。ふわりと漂うシャンプーの香りに、肩へ触れるさらりとした髪の感触。
何より、見下ろす形となった彼女の爆乳に、思考が吹き飛ぶ。
「な、なに?」
「この記事を見てください」
小鳥遊さんの白魚の様な指が示したのは、話題になっているもう1つのニュース。
『関東を騒がせていた連続殺人鬼、女子高生2人の手により逮捕』
散々世間を騒がせ、顔も名前も判明していたのに警察から逃れ続け、あまつさえ犯行を止める事のなかった殺人鬼。
それが、たった2人の少女によって御用となったのである。
何でも、彼女らは関東で活動する冒険者らしい。しかも4月に東京で起きた2件の霊的災害で活躍したのと同一人物である。
未成年である為、2人の個人情報は載っていないが、どこもかしこも大騒ぎだ。特にネットでは、真偽不明の書き込み多数で大変な事になっている。主に自称本人とか、自称知り合いとか。
ハッキリしているのは、彼女らは例の殺人鬼に友人一家が狙われ、それを守る為に戦ったという事のみ。美談としか言いようがない。
そんな話題性抜群過ぎる事件が、ズメウ達の霊的災害と同日に発生したのだから、驚きだ。
……まあ、警察は今大変らしいが。
片や警察署が魔物により燃やされ、肝心な時に市役所ごと機能停止。片や大捕り物で女子高生達に先を越されと。あちこちで警察に対して不満の声が上がっている。
何というか、ご愁傷様としか言いようがない。
「異能者によって異能者の事件が解決され、ロッソさんの活躍も報じられた事で、異能者と非異能者の溝が埋まるかもしれません。これは、喜ばしい状況です」
「そうだね。本当に、そうなって欲しいよ」
ついでに、自分の学校生活も改善してほしい限りである。いや、本当に。
「それを祝し、私の家でパーティーなどいかがでしょうか」
「おおう!?美由っちからパーティーのお誘いとな!?」
ロッソさんとほっぺを引っ張り合っていた璃子先輩が、勢いよくこちらを向く。
ほっぺが凄く赤い。何やってんだこいつら。
「いいねいいねぇ!いつやる?今日やる?ナイトフィーバーしちゃう?」
「皆さんの予定次第ですね。私はいつでも構いません」
「……まあ、吾輩も特にやる事はない。裁判やら引っ越しのアレコレは、だいたい母上がやってくれているからな」
赤くなった自身の頬を撫でながら、ロッソさんがぶっきらぼうに言う。
「あー、じゃあ僕も別に予定とかないんで……」
基本的に打ち上げとかは苦手だが、今回は別である。例の件とか、ロッソさんに小鳥遊さんの事情を話すかどうかとかに丁度いい。
自分達の言葉に、小鳥遊さんが頷く。
「では、早速今夜やりましょう。ご安心下さい。準備自体は既にある程度済んでいます」
「お、準備いいじゃん、美由っち」
「はい。『余興』もありますので、ご期待ください」
「マジか!そこまで乗り気だったとは……ここは、ギャルとしてあーしも派手に決めてやんぜ!PON!PON!」
「ふっ……狂宴か。それもまた良かろう。吾輩の武勇伝を、語ってやるのもまた一興か。……あの、何か用意しておくものとかある?」
「いえ。どうぞ手ぶらで来てください。ああ、もしもお菓子など食べたい物があったら、お願いします」
「あい分かった」
「ふおおおおお!盛り上がってきたぜベイベー!あーしもお菓子とかジュースとか用意しナイトプール!パシャパシャ!波打ち際のマーメイドゥ!」
「璃子。あんまり騒ぎすぎちゃダメだよ」
……なぜだろう。
いつもの無表情で淡々とした口調の小鳥遊さんだが、妙に饒舌だ。何より、その瞳がギラリと鋭い輝きを放っている気がする。
背中に、変な汗が流れた。嫌な予感とまでは言わないが、良い予感とも言い切れない。え、なに。こわぁ……。
「矢広さん」
「……はぁ⤴い!」
彼女から発せられる謎の『圧』。それに、思わず声が上ずった。
だが、小鳥遊さんはその事を指摘する事はなく、意味あり気に深く頷いてくる。
「楽しみにしていてください。『余興』を」
「……お、おーけー」
なんなのぉ!恐いよぉ!?
読んで頂きありがとうございます。
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