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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第二章 クラン
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第五十五話 竜人達の母

第五十五話 竜人達の母




 ロッソさんに手を引かれながら、星空を飛行する。


 夜だと言うのに、異様な程明るかった。あちらこちらで、家や車両が燃えている。警察署と思しき建物の周辺は、特に。


 きっと、彼女の……彼女が家族と過ごした家も、あの辺りにある。


 何も言わず、ロッソさんは黒い羽から魔力を放出し、先程聞こえた雄叫びの主の元へと飛んでいた。


 彼女に今は語る事がないのなら、自分があの火事について言うべき事もない。


 避難所を飛び立ち、10分は経っただろうか。警察署の炎が背後にやってきた頃、満月を背にした異形の影を目視する。


 大きさは、近接型のズメウと同程度。しかし、その両腕はより逞しく、そして踝に届く程に長い。


 巨体と呼ぶべき体躯の両脇から、もう1対の腕が生えている。魔法型のそれと同じサイズをした腕には、それぞれ1丁ずつ小銃が握られていた。


 腰には腰布と、乱暴に巻かれた革のベルト。それに挟まれた幾つものマガジン。


 怪物の背後では長い尾が揺れ、何よりも目立つ大きな竜の翼が広げられていた。


 こちらを見つめる、縦長の瞳孔。ギチリと、怪物は口元に牙を覗かせた。



『GGGGUUUUUOOOOOOOO────ッッ!!』



『スコルピア』



 竜人達の母にして、知と武を兼ね備えた怪物。神代の英雄すらも一騎討では敵わなかったとされる、正真正銘の人外。


 それが、月に届かんほどの雄叫びを上げる。


 衝撃波すら伴う大音量。常人であればこの距離でも鼓膜が破れていただろう、その咆哮の中で。


「行くぞ」


 彼女の声だけは、ハッキリと聞き取れた。


「はい!」


 互いに手を離した瞬間、ロッソさんが加速する。同時に、念力の腕を彼女の大鎌に伸ばした。


 得物を振りかぶり突撃するロッソさんへ、スコルピアもまた前進。両脇の腕で銃を乱射しながら右の爪を引き絞る様に構える。


「おおおおおっ!」


 ライフル弾でその身を抉られながら飛ぶロッソさんが、全力で鎌を振り抜いた。


 互いの間合いに入っていない状況での一閃に、スコルピアの目が細められる。


 だが、高速で飛び込んできた自分へ、即座にその右腕を突き出してきた。


「しぃ……!」


 顔面を正確に捉えた爪を、バレルロールで回避。そのまま、右脇腹の銃へ剣を振るった。


 銃身がひしゃげ、地上へと落ちていく。すれ違った自分へスコルピアは一瞬だけ視線を向けるも、即座に斬りかかってきたロッソさんへ左腕を掲げた。


 分厚い鉄板を何枚も重ねた様な前腕の鱗が、大鎌の刃を受け止める。激しい火花と轟音が夜空を駆け抜けるも、怪物の腕は微塵も押し込まれない。


 魔法の使用により『浮遊』が解け、自由落下が始まる。体を反転させ、スコルピアの翼へ念力の腕を伸ばし、思いっきり自身を引き寄せた。


 再び彼我の距離が迫るも、僅かに上体を傾けた怪物は左脇の腕で銃を向けてくる。


 そして、狙いもつけずに発砲。ハチの巣にされる未来を幻視し、咄嗟に念力を解除して回避。刀身を盾代わりに、顔の前で掲げる。


「ぐぅ……!」


「はあああああ!」


 大鎌を引き、ロッソさんが今度は横薙ぎに刃を振るう。しかしそれは左腕で払い落とされ、続く右の貫手が彼女の心臓へ迫った。


「っ!」


 咄嗟に身を捻るも、ロッソさんの左肩が大きく抉られる。追撃はさせまいと念力の腕で彼女を引き寄せれば、先程まで首があった位置を太い尻尾が通り過ぎていった。


 ロッソさんに再び手を引かれ、空を飛行する。


「空中戦はやはり不利か……!」


 彼女が苦々し気に言葉を漏らす中、スコルピアが両翼から膨大な魔力を放出。猛スピードで突っ込んでくる。


『GOO……!』


「くっ!」


 咄嗟にロッソさんの手を離し、右親指で剣帯のスクロールを起動。『浮遊』を発動させ、スコルピアへと斬りかかった。


 未来は視えている。怪物が繰り出す右の貫手。それを、奴の腕を転がる様にして回避。同時に距離を詰め、首を剣で狙う。


 だが、それよりも先に右脇腹の腕が裏拳を放ってきた。反応が遅れ、胸を打たれる。鎧が軋みを上げ、罅が入った。


 衝撃に、肺が押しつぶされる。


「がっ……!?」


 速い。視えているのに、身体能力で圧倒される……!


 斜め下へ吹き飛ばされる自分へ、スコルピアが銃を向けてきた。それを阻止せんとロッソさんが斬りかかるも、怪物は空中を滑る様に後退。避けた直後に、小銃を乱れ撃つ。


「づっ……!」


「この!」


 距離を詰めようとするも、遅い。『浮遊』は本来、空戦が出来る程の速度が出せるスクロールではない。


 脇腹の腕を使いマガジンを交換するスコルピアの口から、未知の言語が聞こえてくる。


 詠唱。やはり、魔法まで使うか……!


 たった数節の呪文が紡がれた後、奴の頭上に巨大な火球が出現する。それを見た直後、ロッソさんが進路を変えこちらへ向かってきた。


 スコルピアはその行動に目を細めながらも、指先を自分へ向けてくる。2人纏めて焼き殺さんと、直系3メートルはあろう炎の塊が降って来た。


 ────それを、待っていた。


 こちらの背後に回ったロッソさんが、背中を支えてくれる。そして、自分は剣を手放し、右手で杖の薬室に直接スクロールを装填。


 杖先下部の器具を掴み、2つの魔法を発動した。



『スクロール:魔法拡大』


『スクロール:水弾』



 道中、火事について彼女と語る事はなかったが……それ以外。作戦は、ある程度たてていた。


 対霊庁が公開する、魔物の情報。そこに、少ないながらこの怪物の事も記されていたのだから。


「ロッソさん!」


「やれ!」


 迎撃の水の塊が5つ、迫りくる火球へと飛んでいく。


 純粋な出力ではあちらが上。しかし、魔法に籠められた『概念』のぶつかり合いならば……!


 超常の現象たる異能の産物も、多少なりとも物理法則による縛りを受ける。すなわち。


 膨大な熱量をもつ物体と、大量の水が衝突。辺りを、膨大な水蒸気が包み込んだ。


『GRRRR……!』


 怪物の唸り声が聞こえて来た。その位置目掛けて、自分の背を押したままロッソさんが飛翔する。


 当然の様に、高熱の霧が出迎えた。目を開けている事すら難しい。たった数秒で抜けるとは言え、激痛が全身を襲う。


 それでも、指の感覚だけで杖先下部に新たなスクロールを装填。前方へ、構えた。


 水蒸気を突破した自分達を、スコルピアが正面から出迎える。どっしりと空中に身を留め、銃を向けていた。


 再生した瞳で、それを目視する。鱗に覆われた指によって、引き金が絞られる瞬間も。


 だから、こちらも同時に魔法を発動する。


『スクロール:念力』


 出現するのは、不可視の腕にあらず。杖先に、半透明な楕円形の盾が展開した。


正面から降り注ぐ弾丸の雨が、まるで鉄砲水の中に投げ込んだ小石の様に弾かれていく。


『GA……!?』


 初めて、スコルピアの目が動揺に見開かれる。


 この盾がもつのは、たったの10秒。しかし。


「おおおお!」


 背後で雄叫びを上げる彼女には、十分過ぎる。


 身を捻り、ロッソさんの手から離れた直後。彼女が振るった大鎌が、スコルピアの胴を捉えた。


 左肩から右脇腹に駆けて振り抜かれた刃。赤い線が走った直後、盛大に血飛沫が宙を舞う。


『GA,AAAAAA────ッッ!!』


 夜空に響く竜人の絶叫。それでもなお、怪物は剛腕を振るいロッソさんを吹き飛ばした。


 それと入れ替わりに、念力の腕をスコルピアの腕へ絡みつかせる。自身を全力で引っ張り、竜人の上へ。


 傷口を庇う様に体を丸めたその背に飛び乗り、後頭部を踏みつける。


『GYY……!?』


「落ちろ……!」


 翼と翼の間。前腕に比べて随分と薄い鱗を貫き、嘴の様な杖先を固定。空になったマガジンを交換した直後に、スコルピアが暴れ出した。


 上下が幾度も逆転し、長い尾が鞭の様にしなって頭部を打つ。それを、奴の角を右手で掴みながら耐えた。


「ぐぅ……!いい加減に……!」


 杖先をより深く鱗の内側に押し込みながら、左手で魔法を発動。『炎弾』が放たれ、怪物の肉を焼く。


 そのまま、片手でコッキングを続けながら3発。こちらの左足ごと、スコルピアの背中を焼き続けた。


 激痛に、怪物の角からこちらの手が離れる。その直後に、尻尾による強打で地面へと叩き落された。胸当が砕け、金色の鉄片が軌跡を描く。


 だが、スコルピアもまた、急速に高度を下げて行った。ほぼ自由落下で、地上に降下していく。


 アスファルトの地面に叩きつけられる、数メートル手前。横からロッソさんが飛び込んできたかと思えば、彼女に抱えられる様にして、街路樹の枝葉へと突っ込んだ。


 それを突き抜けて、地面へと斜めに落ちる。道路を2人してゴロゴロと転がり、ロッソさんの手が離れてそれぞれうつ伏せとなった。


 全身が痛い。脳内麻薬でも誤魔化しきれない程の激痛。気絶すらも出来ない痛みを発する傷口が、端から治っていく感覚が気持ち悪い。


「ぐっ、ぅぅ……!」


「がはっ……!」


 揺れる視界の中、どうにか立ち上がる。視力が回復すれば、同じ様に鎌を支えにして起き上がったロッソさんがいた。


「ナイス、キャッチです……」


「そちらも、ナイスガッツだ……」


 我ながら呑気なやり取りの後。頭を軽く振って、どうにか意識をハッキリとさせる。


 そして、鞘の中に剣を再構築。すぐさま右手で引き抜き、構え直した。


 自分達の視線の先。4車線道路の、中央。そこに、スコルピアがいた。


 心臓と片肺を切り裂かれ、背中に重度の火傷を負った竜人。口からは大量の血と、僅かに煙が漏れ出ている。落下のダメージはなくとも、既に致命傷だ。


 翼も閉じられ、もう飛ぶ事も出来ないのだろう。後数分もすれば、黒い霧へと変わり、魔石が転がるに違いない。



『GGGGGGAAAAAAAAAA────ッッ!!』



 その数分の間に、奴は街の何割を焼け野原に変えるだろうか。


 天へと雄叫びを轟かせた怪物は、前傾姿勢をとる。その双眸は、自分達を真っすぐ睨みつけていた。


 こちらもまた、それぞれ得物を構える。


 今更、撤退は出来ない。スコルピアの脚力が、腕力に劣るとは思えなかった。


 天上の満月は何も語る事はなく自分達を見下ろし、周囲の建物を燃やす炎が拍手でもする様にバチバチと音を立てる。


 先程クッション代わりにした木から、ミシミシと音がした後。アスファルトの地面に倒れた音がした。


 それとほぼ同時に、全員が動き出す。



 第2ラウンドが、始まった。





読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
こんなんモビルスーツやん。
これ自衛隊とかが対処したらどれだけ被害出るんだろ 数と質の暴力で案外サクッと倒しちゃうのかな
>『スコルピア』 添え物にすぎないとはいえ近代武装が様になっていて非常に恐ろしい。 ほんまカラミティ君はやってくれたわ……。 >詠唱。やはり、魔法まで使うか……! 徒手空拳と遠距離武器と詠唱を同時に…
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