最終章 エピローグ 下の1
本当は今回で最終話でしたが、思ったよりも長くなってしまったので分割しました。
申し訳ありません。
最終章 エピローグ 下の1
夕方。喫茶『アルフ』。
「それじゃあ、皆の無事の帰還を、そして勝利を祝って!」
マスターが、満面の笑みでグラスを掲げる。
「かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
彼女の号令に合わせて、クラン『アルフ』メンバーが一斉にグラスを掲げた。
そのままオレンジジュースを飲んでいると、絹江さんが肘で突いてくる。
「よ、英雄殿。東京じゃ大活躍だったそうじゃねぇか」
「いえ、そんな。僕だけが頑張ったわけじゃありませんから」
「かーっ。お手本みたいな返事しやがって。流石は今をときめく株式会社かぐやの魔道具開発部門の部長殿!」
「え、待ってその肩書知らない」
「言っておらぬからな!」
「こいつ……」
グラス片手にドヤ顔をするロッソさんに、頬を引きつらせる。
ちなみに、全員グラスの中身はノンアルコールである。
「何なんですか、そのおよそ高校生が持つとは思えない役職名」
「言うてお前。もう実績とか考えたら高校生カウントして良いか分からないじゃん」
「ぐっ……!」
「そうだ言ってやれ絹江よ!若き鬼も!既に逃れられぬのだ!政府の陰謀から!大人達が用意した闇の渦から!」
「厨二全開の癖にわりと本当の事を言いやがりますね」
「まあ、んな事は良いんだよ。どうでも」
絹江さんが、犬吠埼さんが作ってくれたピザを頬張りながらこちらを見てくる。
ピッツァじゃない、ピザである。
彼ならば、本場イタリアで出しても恥ずかしくないピッツァを焼けるだろうが、今回は仲間内の宴会という事であえてピザを選んだのだろう。
表面に載せられた薄切りのサラミが、チーズの熱を受けて美しい油の輝きを放っていた。
「お前ら昨日は勝った勝ったと騒ぐばかりで、具体的に何があったとか教えてくれなかったからな。語れ」
「いや、突然言われましても」
「ふふん。で、あれば。ここは吾輩が」
「お前は昨日妄言しか言っていなかったからパス」
「妄言ではないが?吾輩の英雄譚の序章だが?」
「お?良いのか?アタシがお前の話を元に絵を描いて、それを店の前に飾っても」
「……璃子ぉ!絹江が虐めるぅ!」
「うんうん。それはロッソんが悪いね。じゃ、放置するね」
「璃子ぉ!?」
社長の扱い雑だな。残念過ぎて当然だが。
マジでロッソさんを放置して、璃子先輩がこっちに加わる。
「んで、何の話よ」
「お前ら、昨日、何していた。話せ」
「なぜ片言」
「りょ。私達、凄く、戦った。バルドル、首、ちょんぱ」
「そっちもか。てか内容がザックリし過ぎでは」
「なるほど。だいたい分かった」
「分かったんだ……」
「つまり、アタシは『黒髪ロング巨乳美少女巫女が、ドスケベパイスー黒髪ロング爆乳美少女とバルドルの首にケーキ入刀している絵』を描けば良いと」
「何がどうしてそうなった?」
「だいたい合っていますね」
「4割合ってねぇよ。突然何言ってんの美由さん」
「……バルドルはケーキではない、と」
「ごめん。そこ含めたら6割だったわ」
真顔で何を言っているのこの子。
訝し気にこちらを見る美由さんに、頭を抱える。自分達は、いったいどこで彼女の情操教育を間違えてしまったのか。
「んまっ!4割合っているのならほぼ事実と言っても過言じゃないな!」
「過半数違ったら過言だよ!?あとそういや元凶貴女でしたね!美由さんが『アルフ』らしくなってしまった原因!」
「いや。元々そうだったと思うんだわ。出力が出来ていなかっただけで」
「出力しちゃったのが問題なんですよ……。胸の内に秘めているだけなら、問題ないんですよ……」
「2人とも……?うちのクランは、別に変な子の集まりってわけじゃないからね……?」
マスターが苦笑を浮かべて、そんな事を言ってきた。
璃子先輩が無言で、彼女の持っているグラスの匂いを嗅ぐ。
「どうでした?」
「お酒の匂いはしない。素面っぽい」
「泣くよ私!?」
「すみませんマスター。ですが、事実このクランは僕と貴女以外、変人しかいません」
「そうだぜお祖母ちゃん。あーしという理想的『オタクに優しいギャル』を除くと、お祖母ちゃんぐらいしか常識人はいないんだぜ?」
「ん?」
「え?」
「うう……どうして、どうしてこうなったのかなぁ……」
「まあまあマスター。このピザ、コーラにめっちゃ合うぞ。流石メイド長」
「恐縮です」
いつの間にか傍にいたらしい犬吠埼さんが、絹江さんのグラスに追加のコーラを注ぐ。
というか、メイド長て。
……そうか。とうとう。
「耕太、くん……ピザ、冷めちゃうよ?」
「あ、はい。そうですね」
とてとてと近づいてきた竜宮さんの言葉に、頷いて答える。
折角犬吠埼さんが石窯で焼いてくれたのだ。美味しく頂かねば。
そう思い、大皿から自分用の小皿へと移す。
おお、これは思ったよりチーズが多い。生地を主役としたピッツァと違い、アメリカンなピザはチーズを含めた具材にこそ重きを置く。
どちらも美味しいが、男子高校生の腹にはやはり後者の方が適していた。期待と共に、一口目を頂く。
「……!」
何という、濃厚さ……!
一口目を歯で噛み千切れば、口とピザの間にチーズの架け橋が出来上がる。
薄切りながら、しかしガツンとくるサラミの塩味。それを受け止めるチーズのまろやかさ。
チーズそのものの塩味もあるが、それ以上にこのトロリとした包容力。
そして、生地も良い。サクリと簡単に噛み千切れたというのに、その内側は焼き立てのパンの様にフワフワだ。
サラミが派手に騒ぎ、それをチーズが柔らかく受け止め、両者をピザ生地が支える。
イタリア人やアメリカ人に怒られてしまうかもしれないが、あえて日本人的表現をさせてもらうのなら、肉と白米を同時に食べた様な満足感。
素晴らしい。しかし、これは一口目にしてインパクトが強すぎる。はたして、二口目もこれほどの感動を味わえるだろうか?
いいや。その為の飲み物。くい、と。グラスの中のオレンジジュースを飲む。
フレッシュな果実の甘さと、それ以上の爽やかさが口内を瞬く間に塗り替えていった。
このジュースは、確かたつみんさんの村で作られた物。自分が知る大手メーカーのジュースよりも、酸味が強い。
大手メーカーのオレンジジュースは、とても甘い。それは悪い事ではないし、むしろ個人的には大好きである。
だが、このピザに合うのは間違いなくこちらだ。それ自体がお菓子とすら言える市販のオレンジジュースとは違う、『食事に合うジュース』。
やはりと言うべきか。二口目も先ほどと同じ、サラミ、チーズ、生地の素晴らしいハーモニーを味わう事が出来た。
片手にジュース、片手にピザというやや上品さのない食べ方になってしまうが、仲間内での宴ならば問題ないだろう。
あっという間に端の方まできてしまったが、サプライズはまだ残っていた。
ピザの外円。人によってはあまり好みではないその箇所を食べた瞬間、目を見開く。
内側に、細いソーセージが仕込まれていたのだ。厚みを増し、生地の主張が強くなり過ぎる箇所へ、この援軍。
しかも塩気が強すぎない様に、薄っすらとだがトマトベースのソースも塗られている。
よく見れば、サラミの配置が外円からやや離れていた。サラミと一緒にこの箇所を食べていたら、ソーセージと喧嘩になっていたかもしれない。
しかし、こうして単独で待ち構えていた事で、味変と共に最後まで満足感たっぷりのピザとなる。
ここに集ったのは、マスターと犬吠埼さん以外は若者ばかり。それを見こしての、調理……!
「こっちの、ポテトチップスも美味しかった、よ?手作りなんだって……」
「何と……!」
竜宮さんが、指でつまんで差し出してきたポテトチップス。こちらも表面は綺麗な黄色であり、薄さもちょうど良い。見るだけでパリっと感が伝わってくる。
だが……その……これ、『あーん』では?
硬直する自分に、彼女は頬を赤く染めながら、小さく首を傾げた。
「……ダメ?」
「だ、駄目じゃ」
「ダメだが?」
ひょい、と。璃子先輩が差し出されていたポテトチップスを摘まんで持って行く。
そして、彼女の口の中へ。
「うん、美味しい」
「り、璃子先輩」
「カナっちぃ。カナっちが無自覚なのは分かっているけど、協定違反だぜぇ?」
「……?あっ。ごめん、ね……そうだった」
「協定……?」
「気にするな、オタク君」
「いや、気になりますけど……」
「気にしない、で……?」
「え、まあ、でも」
「気にするな、若き鬼よ」
「何でロッソさんまで?」
「気にしないでください、耕太さん」
「美由さんもなの?その協定って、4人が入っている感じのものなの?」
「耕太よぉ」
ガッシリと、絹江さんに肩を掴まれる。
「外野から失礼するが。それ以上、その件に突っ込んじゃぁいけねぇぜ」
「一応、理由をお尋ねしても……?」
「お前が知らない方が、アタシが面白そうだから」
「こいつ……!」
もの凄い悪い顔である。何て人としてダメな大学生なんだ……!
「まあ、聞くなと言うのなら聞きませんけど、それとは別に質問しても?」
「おう。なんだオタク君。言ってみぃ」
「犬吠埼さんは、いつメイド長に……?」
気配を消して壁際に立とうとする犬吠埼さんへ、視線を向ける。
メイド云々以前に、貴方も一緒に食べましょうよ。
「先ほど、マスターより免許皆伝の許しを頂きました。同時に、もはやメイドではなくメイド長だと」
「もう、犬吠埼ちゃんに教えられる事はないね……!」
何やら、もの凄く満足気な笑みでサムズアップするマスター。
……うん。
「つまり、犬吠埼さんの男性部分に止めを刺したのは、マスター?」
「あっ」
弟子の成長がよほど嬉しかったのか、失念していたらしい。
ピシリと固まったマスターに、犬吠埼さんは優雅に一礼する。
「感謝いたします、マスター。貴女のおかげで……私は、新たなる生命……『キキーモラのメイド長』となる事が出来ました」
「……そっかぁ」
ちょっとだけ長めの沈黙の後、マスターはそう呟いた。
目が思いっきり泳いでいる上に現実逃避気味な声音だが、『彼』……いいや、『彼女』の現状を理解してくれたらしい。
つまり、もう色々と手遅れである。
さようなら、ダメ人間の犬吠埼さん……。こんにちは、瀟洒で可憐なメイド長、犬吠埼さん……!
まあ、ぶっちゃけ遅かれ早かれというか。別に人格が完全に消えたわけではなく、その上に新しく人格が築き上げられただけだ。
地続きみたいなもんである。人間、時間と環境で性格が変わるなんてよくある事。それが爆速で行われたに過ぎない。
たぶん、恐らく、メイビー。
「まあメイやんがメイド長になったならないはどうでも良い!今は祝勝会だぜ皆ぁ!」
「その通りでございます、お嬢様」
「良いのかな……」
「良いのです、旦那様」
「そして僕の呼び方は旦那様なんだ……」
「はい。貴方はもう、そこらの大人よりよほど社会に貢献した紳士ですから」
「は、はあ」
「ですが」
犬吠埼さんが、小さく笑いながら、白手袋に覆われた人差し指を唇の前でたてる。
「一人前の殿方になられるのは、あとほんの少し先の事でございますね」
「……へ?」
「もしも手ほどきが必要とあれば、いつでもお申し付けください。旦那様」
「はい?」
「まあまあまあ!飲め!食べろ!そして歌おうぜ!なっ!」
やけに妖艶な雰囲気を出す犬吠埼さんに飲まれていると、璃子先輩がグラスをこちらの頬に押し付けてくる。
いや、それ貴女ので……まって頬とは言えこれ間接キスでは!?
「そう、だよ……?たくさん、食べて……体力、つけて……!」
耳まで真っ赤になりながら、竜宮さんがお皿を差し出してくる。こちらは料理を押し付けなんて事はしていないが、代わりにお胸様を二の腕に押し付けてきていた。
どこまでも沈んでいきそうな柔らかさ。それでいて、確かにある反発。彼女の体温。
それらが脳みそに叩きつけられ、思考が停止する。
「あ、その。えっと」
「そうです。今は食事と飲み物を楽しむ時間です」
「ちょ!?」
後ろから両肩を掴まれたかと思えば、背中に圧倒的質量を押し付けられた。
これは、間違いなく美由さんのお胸様!
竜宮さんよりも強めの反発。それでいて、ふにり……いいや、『むにぃ♡』とした柔らかさ。どちらが優れているという話ではない。
だが、この爆乳の質量はまさに兵器……!
「そ、そうだぞ若き鬼ぃ!」
こ、今度はロッソさんが!?まさか、彼女まで、み、密着を!?
バサリと、どこから出したのかマントを翻すロッソさん。その手には、マイクが握られていた。
……わっつ?
彼女は────もの凄い、決め顔だった。
「一番、ロッソ・ヴェンデッタ!歌います!」
「なんて?」
「良いぞ、やれやれー!」
「ご近所の人には、少し騒がしくなるかもって言ってあるから……。でも、大きな声を出し過ぎない様にね?」
「承知したぞ、マスター!さあ吾輩の美声に聞き惚れるのだぁ!」
そこから、可もなく不可もなく過ぎて語る所がないロッソさんの歌声を聞いたり、犬吠埼さんの上手過ぎる讃美歌を聞いたり。マスターが昭和のアイドルソングを歌ったりして。
夕方から始まったクラン『アルフ』の祝勝会は。
自分達らしい混沌と、それ以上の楽しさに満ちていた。
読んで頂きありがとうございます。
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明日、ついに本当の最終話となり、明後日に『最終章 設定+おまけ』を投稿させて頂きます。




