最終章 エピローグ 上
最終章 エピローグ 上
第二次東京決戦。そう呼ばれる世界でも類を見ない大規模な霊的災害から、一夜明けた。
バルドルの大結界によって覆われていた範囲内に、生存者はなし。更には、先の戦いによって自衛隊員36名が死亡したとされている。
生存者の有無を確認出来ていない状況下で自衛隊を動かし、更にはミサイルによる攻撃を行った事。そしてその作戦で死者が出た事から、飛田臨時総理は一夜にして政治家生命を断たれる寸前にまで追い込まれた。
だが、ネットで彼を擁護する声が多数上がり、更には、米国のフリーマン大統領がホワイトハウスから『彼は限られた手札の中で、最善の選択をした』と発表。
これらの事情から、驚いた事に彼は臨時総理を続投。中断された総裁選は初めからやり直す事になったが、飛田臨時総理の政治家生命は繋がったと見るべきだろう。
もっとも、『火中の栗を拾う人』扱いかもしれないが。
閑話休題。政界の事は、自分にはさっぱり分からない。ただ、泉原臨時総理みたいなのが二度と出てこない事を祈るばかりである。
そして、あの戦いで亡くなった方々の冥福を、それ以上に祈ろう。だが、それはそれとして。
自分にも生活がある。そして、現在大いなる問題に直面していた。
「あ、矢広……君?おはよう」
「あ、うん。おはよう、松田君」
そう────夏休み明けの、クラスメイトとの距離感!
長期休みを間に挟んだ後の学校というものは、もはや別世界にすら思えるもの。更には夏休みともなれば、そのクラスになって最初の長期休み。
『あれ、あいつに対して自分って君づけだっけ?どうだっけ?』『あー、隣の席の奴のあだ名ってどんなんだっけ……』『そもそもこいつの名前思い出せねぇ』
そんな問題が多々発生する!更には『夏休みデビュー』をする生徒さえもいるのだ!
斜め前の席にいる五里沢五里男君なんて、猫耳カチューシャをつけてバナナを貪り食うという、謎の夏休みデビューをかましている。というか君、そんな顔だっけ?何か人類から離れていない?いや、霊長類ではあるっぽいんだけども。
しかしなんだろう。五里沢君の顔を見ていると、とある人物が頭に浮かんでしょうがないのだが。
霊長類……ゴリラ……猫耳……はっ!?
「そうか。五里沢君はとら……遠見さんの、大ファンなのか……!?」
「そりゃそうだろ。猫耳カチューシャを見れば一目で分かるじゃないか」
「松田君……!」
「俺も持っているぜ、猫耳カチューシャ」
「松田君……?」
「むしろお前持っていないのか?夏休み明けで家に忘れちゃったのかよ。俺の予備いる?」
「松田くぅん!?」
そういやうちの学年、大半というかかなりの割合が、虎毬さんに性癖歪められてんだったわ。
いやこれもう性癖の問題か?
気が付けば、猫耳カチューシャをつけているのは五里沢君だけではなくなっていた。
クラスメイトの多くが、まるで当然の様に猫耳を装備している。
僕は……この二学期を、無事に過ごせるのだろうか……!?
* * *
「って、事なんですけど。どうにかなりませんか?」
「知らん」
「元凶のくせに……!?」
昼休み。
うちの高校は、夏休み明けなのになぜか二学期初日から授業が1日入っている。それもあって、一学期中散々お世話になったスペースでまた、1人でお弁当を食べていた。
そこに、またも虎毬さんがやってきたので、丁度良いから打開策を聞いたのである。
が、彼女は隣の教室で被っていた猫を脱ぎ捨て、口を『へ』の字にして心底面倒そうな顔をしていた。
このアラサーの顔を信者達に是非見せてみたい。面白そうなので。
「クラスに馴染めないのなら、通信制の高校に編入するか、公休多めにとれば?手続きは私がやってあげるわよ」
「嫌ですよ。僕は普通の高校生活を過ごしたいんです」
そう、たとえ友達0人だったとしても!学歴と経験は手に入るから!
泣いてなんか……ない!
「あのね。それは偏見よ?通信制の高校だって、きちんと青春を」
「そもそも。それをやったら貴女エンドレスで魔道具の注文書送ってきますよね?」
「今の状況では送らないとでも?」
「僕高校生ですよ??」
夏休み中10時間労働させられまくったのを忘れていないからな?マジで。
何なら10時間以上スクロールと向き合うはめになった日も少なくないぞ。
そんな自分を、虎毬さんがジッと見てくる。
「……いや。というかさ」
「何ですか?」
「ちょっと、キモイ」
めっちゃストレートな罵倒が、突如襲ってきた。
「…………あ、はい。すみません」
「へこむな、面倒くさい」
積み上げてあった椅子を1つ取り、どっかりと虎毬さんが座る。
「別にあんたの事を生理的に無理とか、視線がキモイとか、笑い方が不気味とか言うつもりはないのよ」
「すみません。言葉のサンドバッグにしないでもらえますか?」
「たださぁ。もっとこう、あるでしょう。あんな戦いを乗り越えた翌日よ?」
「いや。戦いに勝った事に関しては、昨夜一通りはしゃぎまくりましたが」
村に帰ってから皆で焼肉パーティーしたし。カラオケ大会っぽい事もしたし。
夜の9時過ぎそうになった辺りで、マスターからストップ入ったけども。
「そこはほら。『僕は大・英・雄!様なんだぁ!跪け愚民どもぉ!』とか。『フハハハハ。我こそが神殺しの刃!』とか。『誰のおかげで息が出来ていると思っている!』とか。クラスメイト相手にイキったりしないわけ?」
「そのイキり方は人として恥ずかしくありませんか?」
「……ああ。あんた『ふっ……皆能天気だぜ。僕だけが、世界の真実を知っているんだぜ』と内心でドヤ顔浮かべるタイプか」
「ねえ、どうしてさっきから言葉のボディブローを放ってくるんですか?泣きますよ?」
「図星みたいね」
「くっ……!」
そうですよ。僕は『誰からも称えられなくても、僕だけがあの大冒険を知っていれば良いのさ……良いのさ……のさ……』とセルフエコーしちゃうタイプだよ畜生!
別に良いじゃないか、誰にも迷惑かけていないし!自画自賛でちょっとキモイ笑いしても!
「めんどくせぇ……子供は子供らしく、バカ面晒して素直に喜んで自慢なりしなさいよ。問題にならないよう、フォローしてやっから」
「10時間労働を子供に強いている人が言いますか?」
「うっさいわね。私がルールよ」
「警察官の台詞と思えねぇ!」
「何とでも言いなさぁい。大人ってのは汚いもんよ、坊や」
くっ、何てムカつくヘラっとした笑顔なんだ!
「鬼!悪魔!」
「へっ。ガキの罵倒なんぞ、どうという事も」
「アラサー猫耳ゴリラロリ!」
「ぶっ殺してやる」
「ごめんなさい!」
だから真顔でこっちを見ないで!恐い!
ぶっちゃけキレたバルドルより恐い!主に目が!
「……はぁぁ。ま、大丈夫そうなら良いわ」
「────はい。特にトラウマとかは……少しあるかもですけど、大丈夫です」
何となく、虎毬さんが自分のメンタルを心配してくれているのは、察していた。
まあ、確認の仕方があまりにもプロレス漫才感あるけど。叩けば鳴る玩具じゃないんですからね?
「我ながら、この数カ月で色々と経験しましたから。慣れじゃないですけど、どれだけ戦っても、死にかけても、人の死を見ても……お腹は減るし、眠くもなるって、分かっていますから」
「いっちょ前に言うじゃない。何かイラつくわね。コミュ障ボッチ飯のくせに」
「理不尽過ぎません?もしかして僕本当にサンドバッグにされていませんか?」
メンタルを心配して来てくれたんですよね?ね?
何でちょっと目を逸らすんですか、虎毬さぁん!
彼女は顔ごと視線を逸らしながら、チラリとスマホを見る。
「昼休みももうすぐ終わりね。んじゃ、私は教室に行くから」
「うっす」
「それと、今日から1週間は忙しくなるから、何か用がある時は昼間に学校で言うか、安田に電話しなさい。夕方以降、私は電話に出ないわよ。暫く徹夜であちこち回らなきゃ」
「お疲れ様です」
「本当よ。あ゛ぁぁ……偶にマジで転職を考えるわ」
「大変ですね。それはそうと、1つ相談が」
「あによ。午後の授業遅刻するわよ」
虎毬さんが、げんなりした顔をこちらに向けてくる。
だが、こっちも必死なのだ。ここは是非、公安という、人の心に関しては精神科医並みに詳しい大人に相談をしておきたい。
「そのぉ……この歳で弟か妹が出来る事を、まだ受け入れられていないのですが……」
「あっそ。ご両親にもう1ダース子供こさえてって伝えておいて」
「他人事だと思ってこの合法ロリ!?」
「うっせぇバーカ」
中指をたてながら、虎毬さんは振り返らずに去って行った。
好き勝手言ってきたかと思えば、意外と心配そうにしてくれたのに、最後はこれである。
何と言うか、本当に猫みたいな人だな。あの人。
* * *
「ほーん。なんつうか、ある意味青春だねー」
放課後。喫茶『アルフ』によれば、メイド服姿の璃子先輩がぐでー、と机にもたれながらそう告げた。
いつもの4人でテーブルにつき、カウンターではマスターがコップを磨いている。
「いや、青春要素ありました……?」
「公安のエージェントと、昼休みに密会……男子高校生が思い描く、最高の青春じゃん」
「……まあ。否定はしませんが」
中二心ならぬ、高二心をくすぐるシチュエーションである。いやまあ、リアル高一だが。
「しっかしさぁ。あーしとしては、そもそも実感がないんだよねぇ」
机の上で組んだ自身の腕に頬を預けて、璃子先輩がニヘラっと笑う。
「だってさー。この場にいるメンツプラス、たつみんで東京を襲った化け物に殴り込みだぜー?人類救っちゃったんだぜー?テンションぶち上がり過ぎて、もうわけわかめじゃなーい?」
「分かる。その気持ち、凄く分かるぞ。璃子よ」
豊かな胸の下で腕を組み、ロッソさんが深く頷く。
「吾輩の中で、あの激闘の記憶は今も鮮明に焼き付いておる。バルドルとロキを纏めて相手取り、『我こそは真の魔界貴族なり!』と名乗りをあげた瞬間は、一生忘れられまい」
「昨日の今日で記憶色褪せ過ぎじゃね?」
「色褪せたというか、塗り替えましたね」
「うるちゃい。吾輩、頑張った。吾輩、偉い」
ぷくー、と頬を膨らませて、ロッソさんが顔を逸らす。
この25歳児……。
コトリ、と。美由さんがソーサーにカップを置く。
「そうですね。私も、昨日の事を生涯忘れる事はないでしょう」
「……うん。そうだね」
きっと、あの戦いが……バルドルとの一戦が、彼女のいた世界の様に、人類が滅びに向かうかどうかの分水嶺。
たとえ、自身のいた世界でなくとも、この世界を救えた。それは、きっと美由さんにとって……。
「耕太さんが、ドスケベ巫女服姿で沢山の人を癒した日の事を……」
「璃子先輩。脳外科の予約お願いします」
「諦めろオタク君。不治の病だ。君でも治せん」
「なにっ!若き鬼が、ドスケベ巫女服姿になったと!?」
「なってねぇよ。いやマジでなってねぇよ」
「私の心の目が見たと言っています」
「心の目って眼科かなぁ!心療内科かなぁ!」
どこに目ェつけてんだ本当によぉ!
人がしんみりとしている中、何を凛とした顔で言いやがりますかこのポンコツ未来人。
「んま!テレビでは、あーしらの戦いの事はなぁんにも言っていないけどねー。自衛隊が頑張りました、ってだけで」
璃子先輩が、今度は後頭部で腕を組みながら背を逸らす。
プルンと揺れた彼女の巨乳から目を逸らしつつ、その話題に乗っかる。
「まあ、ただでさえ飛田臨時総理も土俵際というか、1回土俵の外に投げ飛ばされた後、物言いで留まった形ですからね」
「土俵……ああ。裸の男性同士が組み合う、あの」
「美由っち。その言い方はマジで怒られるからやめなさい。アレはスポーツであり、格闘技であり、神事だから。てか相撲を侮辱するのはあーしが許さん」
「え、あ、すみません」
笑顔の璃子先輩に、美由さんが慌てて頭を下げる。
この自称ギャル、相撲中継とかも見るのか……マジで多趣味だな。
「兎に角、そんな感じですから、ここで更に民間人まで参戦していたとは、言えないでしょう」
「しかし、他の戦士達は納得しているのか?」
ロッソさんが、不思議そうに首を傾げる。
「己の手柄に対し、もう少し喧伝する者がいても良いと思うが」
「まあ、変わり者ばかりですからね。あの日参戦した人達って」
確かに報酬は出たが、あの激戦に見合うものとは思えない額。名誉もなく、称賛を浴びる事もない。
それに不満を抱く人はいると思うし、むしろ当たり前なのだが。
「全員、我が道を行くって人ばっかりだからねー。他人から貶され様が褒められ様が、どうでも良いってこった」
「むぅ。そういうものか」
「何なら、ロッソんはテレビに出演してみるー?『株式会社かぐやの美人社長、第二次東京決戦で大活躍!』って感じで」
「……嫌だな!」
「でしょ?」
「吾輩、炎上する自信がある!」
「そっちかー」
でも正直納得してしまった自分がいた。
あの戦いに参加した冒険者、どいつもこいつも癖が強すぎるので。僕以外。
「てかさ。むしろ、あーしらが『実は英雄でした!ババーン!』って出るの、無理くね?」
「ほう、その心は」
「ちょっと全員スタンドアップ。見た方が早いわ」
「はぁ……?」
困惑しながら立ち上がり、璃子先輩に言われるがまま横一列に並ぶ。
「じゃ、全員『霊装』を展開!」
「え、何でですか?」
「良いから良いから」
「まあ、璃子先輩が言うのなら……」
本当は無暗に『霊装』を出すのはいけないのだが、武装さえ展開しなければセーフか……?
そう思い、『霊装』を展開。隣に立つ美由さんの、シースルーの生地越しに見える谷間につい視線が奪われそうになる。
それぞれの姿を見た後、璃子先輩が深く頷いた。
「どう見ても、悪の四天王!」
正直ちょっと思った。
揃いも揃って、色合いが黒系なのである。
ビシリと、美由さんを璃子先輩が指さす。
「まず美由っち!任務と主人公との間で揺れ動く四天王のヒロイン枠!」
「……個人の感情より、任務優先が常識では?」
「次にロッソん!好き勝手盤面を荒らしていくトリックスター枠!」
「くくっ……まあ?悪くない役どころではあるな。うむ」
「そしてあーしは爆速で主人公と読者の好感度を稼いだ後死ぬ系の四天王!」
「それは四天王なんですか……?」
「んで、オタク君は武人系かと思ったら姑息な手を使って情けなく死ぬ四天王」
「マスター!璃子先輩がですねー!」
「くっそぅ!姑息な手を!ごめんちゃい!」
腰を90度曲げる璃子先輩を横目に、『霊装』を解除する。
まあ、言いたい事は分かるんだけれども。
「おのれオタク君め……!たとえあーしの心が折れようとも、第二第三のあーしが……!」
「魔王じゃねぇか」
「ねぇねぇ。璃子」
「ぴえんお祖母ちゃん!?ちゃうねん。今のはちゃうねん」
いつの間にか、マスターがカウンターのこちら側へ来ていた。
ビクリと背筋を伸ばし、お胸様を揺らしながら冷や汗を流す璃子先輩。しかし、彼女の心配は杞憂だったらしい。
「あのね。祝勝会の二次会を今日やるでしょ?それで、三次会は今度の連休に、たつみんちゃんの村でまた皆で遊ぼうと思って」
なんせ、自作らしい旅のしおりを手にルンルン顔なので。マスター。
「というか、日を分けて二次会とか三次会って、少し変な気がしますね……」
「だって、昨日は皆本当は疲れているのに、気分だけは高揚してはしゃいじゃっていたから……その、後で大変と思って中断させたんだ。ごめんね?」
「あ、いえ。こちらこそすみません。ありがとうございます、マスター」
「マスターの判断は正しかったかと」
「うむ。実際、今朝は吾輩マジで起っき出来なかったからな……」
「そうそう!良いんだよお祖母ちゃん!さあ、楽しい話をしよう!オタク君の告げ口とかは気にしないで!」
「この似非ギャル……」
ここぞとばかりに、璃子先輩がマスターの言葉に全力で頷く。
「そう?それでね。安田さんにはたつみんちゃんの村に移住を勧められているけど、私はこの店を閉じる気はないし……代わりに、行く頻度を多めにしようかなって」
「あー」
そう言えば、自分も本気で移住を勧められていたっけ。公安だけじゃなく、たつみんさんからも。
通学の件で流石に断ったが、卒業後はマジでどうしようかな……。
どの大学に行くか決めていないが、あの村最近どんどんアクセスが良くなっているし、本気で検討しても良いかもしれない。
「どうかな。三次会に」
「いえ。申し訳ありませんが、三次会は私の家で行おうかと」
「へ?」
美由さんの言葉に、首を傾げる。
それまた、なぜに?
「……うむ!マスターの言う三次会は、四次会という事に」
「そ、そだねー。それが良いかも、ねー」
かと思えば、ロッソさんと璃子先輩まで賛同している。
いったいどういう事だろうか?しかも、2人揃って顔が真っ赤だし、不自然なほど汗も掻いている。
「……なる、ほど」
彼女らの様子に、マスターが頬を少し引きつらせた。
自分の提案を後回しにされた形になって、機嫌が悪いのだろうか。いや、彼女はそんな狭量ではない。
ますます状況が分からず、疑問符を浮かべる。
「あの、なぜわざわざ美由さんの家で?」
「二次会はここ、喫茶店で行う予定だけどさ。ほら、あんまり汚すわけにはいかないじゃん?それにゲームとか色々セットしたいし、それは美由っちの家の方が何かと都合が良いわけよ」
こちらの問いに、璃子先輩がやけに早口で答える。
「いや。ゲームだったら別に奥のリビングで」
「……矢広君」
「え、はい」
マスターの声にそちらを見れば、彼女はやけに真剣な表情をしていた。
驚きつつも、その顔に背筋を伸ばす。
「なん、でしょうか……?」
「……璃子と、これからも仲良くね」
「は、はあ……?」
「2人には、私と安田さんで説明するから……!」
「はい?」
だから、何のこっちゃ。
そもそも2人とは?この場にいないのは、たつみんさんと犬吠埼さん、絹江さんの3人。ならば、2人とは?
まさか、璃子先輩の親御さん?こう、野郎も参加する祝勝会で、三次会までやるからとか?
忙しさのあまり、中々帰国出来ないそうだが。それでも娘への愛情はあるのか、今大急ぎで日本に帰ろうとしているらしいけど。
でも文脈が少しおかしい様な……。
いや、それより。
「あの、というか。僕三次会とか言われても、親の許可が」
「む。聞いていないのか、若き鬼よ。貴殿のご両親は、今日別の場所に泊る予定だぞ」
「え?……あ、本当だ」
スマホを取り出して確認すれば、メールがきていた。
何でも、異能者が妊娠した事例はまだ日本では少なく、万全を期す為に村の一角に作った『自衛隊の元医官さん』と『元公安のお医者さん』が働く病院が出来たらしいから、そこに相談する為あっちに泊るとか。
……どっからツッコめば良いのだろうか。
ついでに、ウィンドさんには駅前の巨人達の件で、昨夜お礼のメールを送っていたのだが。
『感謝してくださるのであれば、どうか魔法の探求の為に、下着姿の写真を送ってください。お願いします』
と、やたら丁寧な標準語で返信がきていた。
……これ、このまま警察に持って行った方が良いのかな。
いやでも、恩があるし。悪い人じゃないし。そもそも自分の下着姿ぐらい、別にどうでも良いっちゃ良いのだが……。
「どうした、若き鬼よ。ご両親から、何かあったか」
「あー、いえ。大丈夫です。はい」
「む?そうか」
「それと、ウィンドさんから『魔法の探求の為に、下着姿の写真を送ってください』とメールがきていまして。ロッソさんにお返しを相談する予定だったのですが」
「なに!?奴め、10代の少年にその様な変態的要求を!恥を知れ!」
「ロッソん。鏡見な」
「どういう意味だ、璃子よ!?」
んー。まあ、ロッソさんみたいなものか。なら、無害だし送っても良いだろう。
そんな事を考えていると、ポン、と。美由さんがこちらの肩に手を置いてきた。
「ご両親は今夜家にいない、という事でよろしいですね?」
「え、ああ、うん。でもだったら、なおさら家に僕がいた方が」
「大丈夫です。貴方の家は24時間体制で公安に見張られています。防犯的な意味では問題ありません」
「凄い。言葉にすると問題しかない状態だ」
国際テ□リストか何かの本拠地かよ、我が家は。
「ですので────今夜は、私の家に来てください」
そう告げる美由さんの瞳は、妙に真剣な光を帯びていて。
「……はい」
気圧される形で、頷いた。
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