第九十二話 私達が欲しかった武器
第九十二話 私達が欲しかった武器
「んで、どうする?『クラン総会』の件」
ゴーレムによる簡易スクロールの生産に成功して、6日が経過。
自分達は再び、たつみんさんの村に向かっている。そのバスの中で、璃子先輩がそう尋ねてきた。
「どうするもこうするも……明日ですよ?今日の午後にはもう、東京に出ないといけないんですが」
「だからこそよ。ぶっちゃけさ、『オタク君が総会に出席する』って意外過ぎるんだけど」
「うむ。それは正直吾輩もびっくりした」
バスの一番後ろ。横一列に座れる席で、自分の左側にいるロッソさんが深く頷く。
「例の元政治家との接触の件は吾輩や美由も同行するが、総会に出る気はないぞ」
「そもそも、私は呼ばれていませんしね」
右側に座る美由さんが、無表情で呟く。
……もしや、若干拗ねている?
それこそ意外だと、彼女の顔をまじまじと見てしまった。反対側の璃子先輩も同じ心境なのか、左右から見つめられて美由さんの眉間に皺ができる。
「何でしょうか」
「いや……」
「美由っちが拗ねるって、珍しいなと」
「拗ねていません」
むすっとした様子で答える美由さんに、驚きが深まる。
前までは、戦闘力に関して異様に割り切りが良かったのに。今は『実力のある冒険者』に含まれなかった事を、気にしている様だった。
その変化に喜ぶと共に、拗ねている姿がちょっと可愛い。
「メガきゃわじゃんか美由っち~!え、え?拗ねている顔もっと見せて~?」
「で、ですから!拗ねていません!」
「なんと……美由もそういうのを気にする様になったのか」
「だーかーらー!私は客観的に自分の戦闘能力を評価しています!呼ばれなかった事に対して、不満などありません!」
「んぎゃわいい!美由っちぎゃわいい!結婚ちよ♡」
「しません!」
璃子先輩が奇声をあげながら美由さんに抱き着く。
が、直前で間に腕を入れた美由さんが、全力で似非ギャルの頬を押しのけた。
膂力にかなり差があるはずだが、流石に全力は出していない様でアホ、もとい璃子先輩が窓に頭をゴンとぶつける。
「あーん、ふられちゃったよオタク君。慰めて?」
「絶対にろくな事じゃないでしょうが、何をしろと?」
「抱腹絶倒間違いなしな一発ギャグをどうぞ」
「どうぞじゃないが?」
「3!2!」
「え、ま」
「1!」
「ぱ、パンはパンで食べたくないパンは~?グーパ~ン!」
「で、結局どうして総会に出席するって決めたん?」
「ぶん殴んぞてめぇ」
少年の心を弄びやがって。
拳を握りしめていると、ロッソさんがこちらの肩を優しく叩いてくる。
「若き鬼よ」
「ロッソさん……」
「かなりつまらなかったぞ?」
「次はお前だからな?」
「え、何を?まさか一発ギャグの方を?待って?謝るから考え直して!?」
ガチビビりする20代厨二を無視し、美由さん越しに璃子先輩の方へ顔を向ける。
「クラン総会に出席する理由は単純です。他の有力な冒険者について、知っておきたいからですよ。今後の事を考えて」
「というと?」
「美由さんが知っている英雄達。彼ら彼女らの実際の姿と人格を、少しでも把握できるチャンスです。どこまで一致するかは、分かりませんが」
なんせ、自分は商業の為に女体化され、虎毬さんは誰がモデルなのかも分からない絵が後世に残った。
美由さんの未来知識は、ハッキリ言ってあてにならない。
「それでも、情報が0よりはマシですから。何より」
「何より?」
「何かあった時、『え、あいつあの場にいなかったよね?』『てか誰?知らないんだけど』って。今度何かで集まる時に孤立するの恐い……」
「待って若き鬼。その術は吾輩にも効く」
「むしろロッソんは不参加だから、もろに効くな」
「ほぎゃ……!?」
あ、自称魔界貴族が白目剥いて気絶した。自分自身の想像力に殺されたか。アーメン。
「逆に、璃子先輩はどういう理由ですか?」
「半分はオタク君と同じ理由。もう半分は、きなくせぇって思ったから」
「後半、もう少し詳しくお願いします」
「おけ。普段のクラン総会ってさ、前にも言ったけど、各県の県庁でクランマスターだけが集まって、対霊庁の講習を聞くだけなんだよ。お祖母ちゃんも日帰りで出席していたし。でも、なぜか今回だけ東京で、しかもマスター以外まで呼び出された」
「まあ……不思議ですよね、かなり」
「たぶんだけど、いつもみたいに講習やって終わり。とはいかないっしょ。流石に荒事が起きるとまでは言わないけど、絶対に何かが起きると思うんだよね」
「ですかね……」
「オタク君も、そんな予感があるんじゃない?」
「……少し」
それこそ、映画みたいに『異能者は全員捕縛だ!』とか『人体実験を開始する!』とか。そういう事は起きないだろう。
だが、何かが起きる気はしている。それも、良くない事が。
普段ならそんな所に近づかないのだが……。
「でも、例の元政治家さんとの接触もありますし、マスターだけ行かせるのも……」
「だよねー」
マスターは頼りになる大人だが、だからと言って1人で行かせるのも気が引ける。
力になれるかは分からないが、己の精神の為にも行っておきたかった。
と、そんな事を話している間にバスが目的地に到着する。料金を支払って降りると、既に山岡さんが車で待っていてくれた。
「あ、こんにちは。お世話になります」
「いえ。こちらこそ。ようこそおいでくださいました」
ニッコリと笑う山岡さんとお互いに会釈して、彼の車で移動する。
向かった先は、たつみんランドの裏手。倉庫の前で自分達が降りると、山岡さんは小さく会釈して走り去ってしまった。
恐らく、気を遣ってくれているのだろう。この村の人にそこまで隠す気はないし、隠せないとは思っているが、大っぴらに喧伝する段階ではない。
「ほら、到着しましたよ。ロッソさん」
「はっ!?美由?こ、ここは……吾輩は孤立して、自棄になって、盗んだ戦闘機で飛び立ったはず……」
「まだ気絶していたんですか……」
「そして、ア●カードごっこをしながら米軍の船に墜落した様な……」
「アホ言っていないで、しゃんとしてください」
「アホではない、魔界貴族である!」
『皆、元気がおねー』
ガラリと倉庫のドアが開いて、たつみんさんが顔を出す。
ぽてぽてと歩く彼女に、小さく頭を下げる。
「たつみんさん。こんにちは」
「おっすたつみん!いえーい!」
「こんにちは、たつみんさん」
「ふっ。久しいな、青き竜よ……!」
『いえーい、がおー。皆よく来てくれたがおー』
璃子先輩とハイタッチした後、たつみんさんがこちらへ向き直る。
『明日、というか今日の夕方には東京がおね。忙しい中、ありがとうがおよ』
「いえいえ。こちらこそ、色々とお任せしてすみません」
『構わないがお。この件が上手くいけば、うちの村は蘇るがお。何より……たつみんランドが、復活するかもしれないがお』
「……そうですね」
着ぐるみのつぶらな瞳越しに、竜宮さんの真剣な眼差しを感じ取る。
国や世界の未来なんて、正直よく分からない。だが……身近な人の未来ぐらいは、より良いものであってほしいと思う。
『さ!早速、見て欲しいものがあるがお!』
「はい」
たつみんさんが、倉庫の扉を完全に開ける。
そこでは、20機のゴーレムがスクロールを作成していた。壁際のラックには、何枚ものスクロールが乾かされている。
『耕太君の言う通り、別の倉庫で10機のゴーレムが魔力供給用スクロールの生産を開始してからこっちも稼働させたがお』
「どうです、生産数は」
理論上、魔力と材料さえあればスクロールは幾らでも作り出せる。そして、供給用スクロールを入れ替え続ければゴーレムは24時間スクロールを生産可能だ。
もっとも、サポートする人間が必要なので実際そんなに動かすのは大変だし、部品の交換も必要なのだが。
倉庫の別室。前にロッソさんが使い魔を入れていたスペースに、ゴーレムの部品が詰めてある。右腕が摩耗したら、そこにある物を胴体に付け替える手はずだ。
『順調がお。既に複合簡易スクロール?とかいうのが、8000本以上出来上がっているがおよ』
そう言って、たつみんさんがお腹からスクロールを取り出す。
そこ、ポケットになっていたんだ……。
彼女が取り出したスクロールは、自分が普段使う単3サイズよりも2センチほど長い。
これこそが、『複合簡易スクロール』。
他の人が作る通常のスクロールのおよそ4分の1程度の威力しかない簡易スクロールを、2種類『混ぜ合わせた』ものだ。
これにより、通常と比べて半分の威力にはある。ようは、自分が駆け出し冒険者の頃使っていたのと、同じ出力だ。
大抵のハンドガンよりはマシ、と。講習会の際に自衛官さんから言われた威力しかない。
それでも、魔物相手に多少は有効なはずだ。
「ありがとうございます。しかし、8000本ですか……多いですね」
「いえ、まだまだ足りていません。たつみんさん。作業用ゴーレムを新しく5機持って来たので、後ほどセッティングをお願いします」
『分かったがおー!任せるがおー!』
「作業用ゴーレムも、理論上は工場で生産可能です。どんどん作って、どんどんスクロールを作りましょう」
ぐっ、と。美由さんが拳を握る。その手首には、例のアイテムボックスの指輪が紐に通してあった。
『がおー!アタイも頑張るがおー!それと、もう1つの方も順調がお!見ていくがおー!』
「はい」
「ふっ……吾輩の使い魔達であるな」
『そうがおー!』
倉庫を出て、たつみんランドとは反対側には雑木林がある。
細い踏み固められた土の道を進むと、開けた場所についた。
広さは体育館2つ分以上。かなりのスペースである。昔は、ここに何か建っていたのかもしれない。
その開けた場所の中央は周囲を土の壁に囲まれ、その中に5体の使い魔が装着型ゴーレムを纏った状態で待機していた。
『説明するより、見てもらった方が速いがおー!今から成果をお見せするがおよ!危ないから、この後ろにいるがおよー』
「分かりました」
使い魔達から10メートルほど離れた位置にある、高さ約1メートルの土壁。その後ろに立つと、たつみんさんが何かのコントローラーを璃子先輩に渡した。
『璃子ちゃん。ドローンの方をお願いするがおー』
「んお?あ、なるほど把握。任セロリー」
『じゃ、アタイは使い魔達に指示を出してくるがおー』
「うむ。……アレ、もうこれ、吾輩のじゃなくってたつみん殿のでは……?」
「気づいたか、ロッソん」
「ま、まあ?別に良いのだが。良いのだが……」
「土地なし、民なし、爵位なし……貴族とは?」
「しっ!美由さん、それ以上はいけない……!」
「ぐすん」
『準備完了がお!璃子ちゃん、ドローンを離陸させるがおー!』
「おけまるー」
ぽてぽてと、たつみんさんが戻ってくる。
見れば、5体の内4体が壁際に整列。1体が少しだけ前に出て、右手にリボルバー型の杖を持っていた。
美由さんが持っている物より少し大型のそれを手に、使い魔は側面をこちらに向けている。
小さなモーター音を響かせて、使い魔達の反対側にある壁からドローンが飛翔した。どうやら、璃子先輩が渡されたコントローラーはアレの物だったらしい。
『今から射撃訓練を開始するがお!美由ちゃん、例の可視化ゴーグルの予備、皆に配ってほしいがお』
「分かりました」
「あ、僕は見えているので、大丈夫です」
恐らく、魔力の塊を放出した的だろう。それならば、魔眼で目視可能だ。
スマホを箱に入れただけのVRゴーグルを装着する面々の横で、たつみんさんが着ぐるみのジッパーを開いた。
それに驚いていると、白い手がにゅっ、と出てくる。
「じゃあ……耕太君には、これ、あげるね?」
「え、あ、どうも……?」
差し出されたのは、棒付きの飴だった。
困惑しながら反射的に受け取れば、既に包装は解かれている。この暑さで溶けてしまうのもと思い、口に咥えた。
たつみんさ……竜宮さんの異能でヒンヤリしているのだが、やはり暑かったのか。表面がほんのり溶けている。
これは、塩飴?棒付きのあるんだ……。
「おい、しい……?」
「はい。ありがとうございます」
「良かった……」
ジッパーの隙間から、少しだけ竜宮さんが顔を覗かせる。
ほんのりと汗を掻いている様で、長めの前髪が頬に張り付いていた。それが、妙に艶めかしい。彼女の瞳がどこかしっとりとしている気がして、妙に色っぽく思えた。
いけない。恐らく熱中症対策で飴をくれたのだろう仲間を、そういう目で見るのはダメだろう。
「うっし。カメラ起動っと。ん?どったのオタク君。たつみん」
『何でもないがおー!早速、的を出すがおー!あ、ぽちっとな!』
たつみんさんに戻った彼女が、着ぐるみの手で小さなスイッチを押す。
すると、先ほどドローンが上がった壁の所に5つの魔力が噴出した。ゆらゆらと揺れるそれらの上で、ドローン下部に取り付けられたランタン型の魔道具が起動する。
『火弾』と『破邪』を混ぜたスクロールが起動し、魔力の影をハッキリと照らし出した。
「おお。見える様になった」
隣で、ロッソさんが感嘆の声をこぼす。
たつみんさんが、右手を掲げた。
『1号機!射撃準備がお!目標、眼前の魔力の影!準備完了次第、射撃開始がお!』
その声に反応し、前に出ていた使い魔がゆっくりと右腕を前に向けた。よく見れば、その左肩に『1』と書かれている。
トリガーが引かれ、装填されていた複合簡易スクロールが発動。『火弾』と『風弾』が合わさった魔法が、炎の矢となって飛翔した。
1つ目の魔力の影に、命中。続けて、2つ目、3つ目と撃っていく。5発の内、命中は4発。悪くはない……はず。
『ご覧の通り、射撃は問題ないがお。実はダンジョンにも連れて行って、クレイジー・ボア相手にも戦わせたがおよ』
「え、本当ですか?」
『がおがお。これ、その時のデータがお。後で確認するがおー。絹江ちゃんの絵と組み合わせてあるから、景色含めて出力されるはずがおー』
「サンキュー。問題なさそうだったら、明日のプレゼンに使うわ」
璃子先輩が、たつみんさんからUSBメモリを受け取る。
もうダンジョン内での稼働に成功していたのか。というか、受付通れたんだ。
「てか、よく持ち込めたね。『封鎖所』で止められなかった?これはなんだって」
『がおー。1機だけだったし、アタイが大きなリュックを背負っていても誰も気にしなかったがおー』
「なる。把握したわ」
あー……まあ、たつみんさんのインパクトを考えると、大きなリュックぐらいスルーする、か……。
それはそれでどうなの、とは思うけど。今回は好都合なので良しとしよう。
『ただ、リボルバー型だと火力に不安があったがおねー。あと、やっぱり接近戦は厳しいがお。使い魔の反応が鈍いのもあるがおが、それ以上に装着者が人間の場合、衝撃で大変な事になるがおー。特に指部分』
「ですよねー」
『装甲は、びっくりするぐらい頑丈だったがおが』
そう告げて、たつみんさんが使い魔達の方を見る。
『2号、中央に出るがおー。3号、2号に杖を向けるがおー』
「え、ちょ……いや、まあいいんだが」
『ごめんがお、ロッソちゃん。でも、大丈夫がお』
たつみんさんの言う通り、2体のゴーレムが構える。
『3号、魔法を撃つがおー』
トリガーが引かれ、炎の矢が飛んでいく。それは棒立ちの2号に直撃し。
───ずるん。
その表面を滑る様にして、四散した。
『『流体魔力装甲』……正直、クレイジー・ボアの体当たりを受けても無傷だったのは、びっくりしたがお』
「恐縮です」
褒められて、ちょっとだけドヤ顔をする。
『流体魔力装甲』
装着型ゴーレムの表面に、『念力の盾』を薄くして常時流している。一応循環はさせているが、大気中の魔力により少しずつ減少してしまうのが玉に瑕だが。
試しに石を投げたりして試したが、およそ『通常のライフル弾』程度なら無傷で防ぐ事が可能である。
一定以上強い魔物。それこそオークレベルの攻撃は通ってしまうが、3割程度は威力を軽減できるはずだ。
現状ゴーレムの表面にしか使えない魔法だが、いずれは関節や装備に使えるかもしれない。
目を見開いている美由さんに、ぐっとサムズアップしておく。
「頑張ってみた」
「……最高です」
彼女も、ほんのり笑みを浮かべて親指をたててきた。そのリアクションを引き出せたのが、誇らしい。
美由さんは親指を引っ込めた後、土壁の上に手を掲げた。
「火力でしたら、これで多少は解決するかと」
アイテムボックスから、ある魔道具が取り出される。
鉄の輪で束ねられた、6本のシンプルな杖。その石突側には円盤があり、更にその先には金属製の箱。
そこからストックが後ろへ伸び、下側にはグリップとトリガー、そして箱型のマガジンが備わっていた。
長さ1メートル20センチ。本体重量7キログラム。
「『マジカルミニガン』です。1分間に100発のスクロールを発射可能。モーターにより稼働し、装填と排莢を自動で行います」
『何か思ったよりやべーのがきたがお!?』
心なしかドヤ顔をする美由さんの左右で、璃子先輩と一緒にドヤっておく。
ガトリングは、浪漫なんです。歩兵がミニガンを持つのは、もっと浪漫なんです……!
「本来のミニガンと比べれば威力、連射力、射程。全てにおいて敗北しています。しかし、対魔物戦に有効。それだけで、これは非常に優れた武装と言えるでしょう」
何で1回貶したの、美由さん。そこはストレートに褒めて、美由さん。
左右でしょんぼりする自分と璃子先輩をよそに、美由さんがマジカルミニガンを撫でる。
「……本当に、優れた武装です。私が、私達が、欲しかった武器です」
「……そうだね」
未来の世界で彼女が経験した事の詳細を、自分は知らない。
きっと、軽い気持ちで尋ねるべきではないのだろう。あまりにも、壮絶だったはずだ。
非異能者が魔物を倒すのに、人の血肉が必要だった世界。およそ、もう末期としか言えない世界。
もしも、これが彼女の希望となれたのなら……それは、とても嬉しい。
「ところで」
ちょっと感傷的になっていると、美由さんが勢いよく顔をあげる。
「人間が装着した場合のデータは、まだ?」
『まだがおー。アタイじゃ力が強すぎるし、村の人だとちょっと体が大変がおー。たぶん、ある程度鍛えている人じゃないと厳しいがおー』
「でしたら、私がテスターになりましょう。非異能者より頑丈ですが、皆さんほどの身体能力はありません」
『が、がおー。じゃあ、お願いするがお?でも、東京に行く準備もあるんじゃないがおか……?』
「はい。データ取りは最低限にしましょう」
そう言っているが、実際は着て動いてみたいのだな。
それが微笑ましくて、璃子先輩と顔を合わせて笑う。美由さんも、すっかり健康的な精神になってきたものだ。
と、笑っていると。
「ダイバースーツは持って来ています。今着替えますね」
「は?」
その言葉の意味を理解するより先に、美由さんが着ていた黒いTシャツをガバリと脱いだ。
日の下に出てきた、白いお腹。しっかりとくびれ、縦に長い綺麗なおへそ。
それに影を作る、爆乳。シャツが脱がれた際に、『どたぷん』と大きく揺れた。
惚れ惚れするほどの曲線。前に大きく突き出た、ロケットオッパイ様が、白地に紫色のレースで縁取られたブラジャーに納められている。
予想外に布面積の少ない下着。頭の片隅で、『あ、きっとサイズが大きすぎて、海外の派手なのしか合うやつがないんだ。家にあるスポブラの数も、足りていないんだろう』などと思考する。
透き通る様な肌。長く深い谷間。それを惜しげもなく晒しながら、美由さんは白い背中を丸めて履いていたジーパンまで脱ごうとする。
同じく、白地に紫色のレースが施されたショーツ。それに綺麗な、そして大きなお尻が納められていて……いや、納められていない!え、Tバック!?
「うおおおおお!?にゃ、にゃにをしておるかー!?」
視界が、黒くて柔らかいものに覆われた。
ふわりと漂う石鹸の香りに、頬に当たるフリルらしき物体。だがそれすら忘れそうになる、顔全体を包み込む柔らかくも張りのある、幸せな感触。
……え、まさかロッソさんのお胸様!?
「何を、と言われましても。着替えを」
「そこで!服を!脱ぐな!美由っち!」
「取りあえず隠せ!それから、着替えるのならさっきの倉庫か、せめて物陰にせよ!」
『ま、待つがお!その前にロッソちゃんは、耕太君を離すがお!何をどさくさに紛れてオッパイに顔を埋めているがお!』
「は?え……みぎゃあああああああ!?」
「あっ」
瞬間、視界が上下逆転し、浮遊感を全身で覚える。
投げられる、と予知できたのだが、顔に押し付けられた巨乳の感触で反応が遅れた。地上との距離は、8メートル前後と言ったところだろう。
回転する視界の中、しかし魔眼の動体視力は正確に周囲の景色を把握した。
ぶん投げた後、真っ赤だった顔を急激に青くして追いかけてくるロッソさん。
わたわたと両手を動かして、パニックになっているたつみんさん。
自分がいた位置と美由さんの間に立ち、両手を広げている璃子先輩。
その向こうで、Tシャツとジーパンを抱えてこちらを驚いた様子で見上げる下着姿の美由さん。
───ありがたや……ありがたや……。
自然と、両掌を合わせていた。一応『霊装』は展開したが、受け身よりも優先するもの。それは、感謝と崇拝。
美由さんとロッソさんに、祈りを捧げる。これもまた運命か、彼女らは2人。オッパイと同じだ……!
乳神様じゃ……!乳神様が、降臨なされたのじゃ……!
それも、尻神様までお連れになって、我らを救いに来てくださったのじゃ……!
冷静になるとアホ過ぎる思考のまま。
頭から、地面に落下した。
……いや、これ異能者じゃなかったら死んでるな?
「わ、若き鬼ー!?ごめーん!!」
『あ、あわわわ!た、大変がおー!救急車!救急車ぁ!』
「でぇい、落ち着けアホども!あれぐらいじゃかすり傷もつかねぇよ!それより美由っち!今の内に服を着て!」
「はい。ダイバースーツを着ます」
「そっちじゃねぇ!いやもうそっちでも良い!着ろ!」
この後、美由さんは30分ぐらい装着型ゴーレムを纏ってシャドーボクシングや射撃訓練をした。
彼女はヘルムを脱いだ時、それはそれは綺麗な笑みを浮かべていたものである。
それはそうと、もうちょっと僕の心配もして?いや、確かに無傷だったけども。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.たつみんの着ぐるみの中って、流石に汗を掻くぐらいには暑いの?
A.いえ。クーラーガンガンに利いた部屋ぐらいの温度です。
Q.どうして唐突に脱いだ。
A.
シナリオ部長
「前話にブリッツが脱いだので、今話はヒロインが脱ぎました」
コメディ後輩
「また部長がすごい澄んだ目でアホな事言ってる……」




