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捜索×令嬢  作者: 神木 有
転生したら公爵令嬢でしたが、元刑事なので殺人現場に乗り込みます!
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 そうしてまた、わたしはドニ・ルヴァンに向き直る。オハラにも何か尋ねることはないかと水を向けたが、彼はゆっくりと首を振った。

「今の私は、お嬢さまの護衛ですので」

 だから必要なことは全部わたしの方から訊けということか。まあ確かに、この商会副会頭の尋問を望んだのはわたしである。

「それではドニ副会頭、引き続きお尋ねします。ルヴァン商会で何が起こっていたのか。兄君であるジェラール会頭は、いったい何に加担しているのか。ご存知のことをすべてお話いただけますか」

 ドニ・ルヴァンはじっとわたしを見つめ返したのちに、気まずそうに目を逸らした。やはりまだ、身内の秘密を明かすことに抵抗は残っているようだ。しかし彼は、その身内に切り捨てられたのだ。

 荷馬車襲撃の主犯が本当にフィールズ一家(ファミリア)なら、彼の兄ジェラールがその荷馬車を手配した目的は明らかだ。ジェラールはフィールズとの関係を維持することに決め、反対していたドニらを処分しようと企んだのである。もしこれで再びルヴァン商会に戻っても、また別の手段で彼は消されるだろう。

 つまりもう、彼には帰る場所もない。ここでわたしたちにすべてを明かして、保護を求める以外に生き残る道はないのだ。

「私も……すべてを知っているわけじゃない。彼らとの計画は、兄がひとりで仕切っていた。副会頭などと名乗っていても、私など体のいい駒でしかなかったんだ」

「わかっています。もちろんわたしたちも、あなたがその件に加担していたとは考えていません。ですので、知っていることだけで結構です」

「……兄が彼らと組んで何かをはじめたのは、もう一年以上前のことだった」

 そうして彼は、重い口を開いた。

「仲介したのは、騎士団の調達隊だろう。うちの商会は戦争の頃から、騎士団への武具や糧食の納入でやってきたからね。彼らには逆らえないんだ。だからおそらく、兄も否応なく巻き込まれたのだと思う」

「それは、騎士団特別行李を使って人が送り込まれるようになったことも?」

「そうだ。私の役割は夜明け前に倉庫を開けて、『荷物』が外に出て行くのを黙って見過ごす。それだけだった。彼らが一体何者なのかはわからなかった。日常的に訓練をしている騎士団の隊員には見えなかったが、かと言って一般人とも違った」

 禁術アルカロンの術式に通じたヤミ魔導師たち。確かに荒事に長けたような体格ではなかったろうし、市民に紛れ込む訓練も積んでいたのかもしれないが、それでも堅気ではないとわかる独特の雰囲気があったのだろう。

「あの男たちは何者なんだと兄に尋ねても、詮索するなとしか答えはなかった。ただ、兄の心労も目に見えて伝わってきてね。何かとんでもないことに巻き込まれていることは察していた。このままでは商会もただでは済まないと。それで私は独断で、商会で何が行われているのかを調べることにして、このマーカスを頼ったんだ。商会も騎士団もおかしいとなれば、他に頼る相手もいなかったのでね」

「でもどうやってウォレン兄弟(ブラザース)に連絡を取ったの。商会は以前から彼らと関係を持っていたわけ?」

「そういうわけではない。だがうちの商会は、強制労働明けの前科者の受け入れもしていたのでね。その中には、ここの元メンバーもいた。そのうちのひとりに渡りをつけてもらった」

 そうした者たちの中には、関係を絶ったフリをしたスパイもいただろう。城門の外へと追いやられたウォレンたちにとって、街の情報を得るためにもそうした存在は必要だったはずだ。そうしてドニは、いまだにウォレンと関係を保っていたスパイのひとりと接触することができたわけか。それがはたして「運良く」と言うべきなのかはわからないが。

「そしてウォレンから送られてきたのがゴードンという男だった。彼は私の頼みに応じて、特別行李でやって来る男たちが何者なのかを探ってくれていた。その素性だけでなく、ともに送られてくる荷の中身に不審なところがないかも……しかしその途中で、あのようなことになってしまった」

 その調査の過程で、何か不測の事態が起きたのか。あるいはゴードンの正体がジェラールたちに発覚していたのか。おそらくは後者だろう。そうしてあの夜送り込まれてきた暗殺者の罠に嵌まって、ゴードンは命を落とした。

「あんたが気に病むことじゃねえ。あれはただ、やつがヘマをしただけのことだ。もちろん手を下した野郎には落とし前をつけさせてもらうがな」

 顔を伏せたドニに、ウォレンは奇妙に優しい声で言った。もとより危険は承知の稼業、それを依頼人の責任にするつもりはないということか。

「けれど彼のおかげで、いろいろなことがわかった。送り込まれてきたのはみな、フィールズ一家(ファミリア)が密かに集めた魔導師たちだった。そうして市内に放たれた魔導師たちは、すでに三十六人になる。彼らは息を潜め、人知れず何かの計画を進めているようだ」

 ドニ・ルヴァンにしてみれば、一世一代の決意のもとの告発なのだろう。しかしここまでのところは、すでにウォレンから聞かされたものと大差なかった。

「そんなことはもう知ってる、みたいな顔をしてやるな、お嬢さまよ」

 しかしそんな内心が顔に出てしまっていたのか、ウォレンが口を挟んできた。これはいけない。取り調べにおいてはご法度でもある。反省しないと。

「先日聞かせた話はそもそも、こいつとゴードンが掴んだネタなんだからよ。だから二度手間になったってぇなら、俺のせいだな」

「別にそんなこと思ってないわよ。話してくれてありがとうございます、ドニ副会頭」

 わたしはにっこりと笑いかけ、言った。けれど、笑みを見せるのもほんの一瞬。

「ただ大事なのはその先なのも確かです。彼らがその魔導師たちを使って何をしようとしているのか、何か掴んでいますか?」

「すまない、詳しいところまではわかっていないんだ。集められた魔導師たちが、アルカロンの術式を操る者たちであることから、それに関わることだとは思うが……」

 市内に潜伏し、密かにアルカロンを蔓延させるか。とはいえスクロールでの流通ができない以上、できるのはせいぜい対面でひとりずつ術を施してゆくことくらいだ。それでは効率も悪いし、発覚もしやすい。今のところ街中で目に見えて中毒者が増えている様子もない。

「ただ、ゴードンが気になることを聞いたと言っていた。ボールドウィン領は一夜で陥落した、グレインディールもそうなる。彼らがそんなことを話していたと」

「一夜で?」それはまたずいぶんと無茶な話だ。「そんなこと、いったいどうやって?」

「わからん。だが彼らはそう言っていたと」

「あなたたちなら、どう?」とウォレンに水を向ける。「そんなこと、できる?」

 彼は肩をすくめて首を振った。

「どうだろうな。騎士団だって全員が寝返るわけでもねえだろうし、今の兄弟(ブロス)の頭数じゃ無理だろう。まあ千の兵隊を率いて力押しすりゃあ何とかなるが、そんな真似をすりゃあ王家も黙ってねぇ」

 もちろんそんな派手なことをすれば公爵家としても王家に救援要請を出すし、王都にいる公爵、つまりわたしのこの身体の父親だって黙っていない。そうなればフィールズは王国そのものを敵に回して戦争をすることになるし、それはさすがに勝ち目もなかろう。だからあくまでボールドウィン領と同じように、統治機構を自壊させて無法地帯を作り、そこに居座るような形を取らなければならないはず。

 それを一夜で。はたしてどうやって。

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