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40話 永遠の命題ね

 ぐったり。

 さっきの訓練に似たナニカの合間に、アソコとかソコを執拗に反撃されてしまった。

 刺激されちゃって、その敏感になってるし、濡れてるし。


 ああナルシュ君、すごく気まずそう。

 洋服屋さんの店番があるからって、そそくさと帰っちゃった。

 あのーリリファさん、なんで私よりも荒い呼吸しててじっと私の下腹部を、熱い視線で眺めてるのかな。


「アリス」


 え゛。2回戦はちょっと。


「貴女がとつぜん訓練したいなんて言って驚いたわ」


 え? それ、は。

 悩み事って程でも、ない、んだけど。

 なんだかモヤモヤしちゃって。


「もしかして悩み事? アリスの困ってること、私なら叶えられるわ」


 悩み事ってほどでもないけど。

 うんせっかくだし話しちゃおうかな。どうせ無言になっちゃうと気まずいし。


 私に出来ることってなんだろう。お兄様の奴隷になれたのはとても幸せなんだけど。

 私はたったそれだけの理由でお兄様の傍にいていいのかなって、つねづね考えちゃう。


 料理も、裁縫もてんでダメで、今の私はやれることの方がむしろ少なくって。

 私はお兄様だけじゃなく、みんなに助けて貰って生活してる。リリファさんにも大好きだし、ランキスさんにも恩返しをしたい。


 そんな悩み事みたいなのを相談したら、リリファさんは真剣に受け取ってくれた。


「それは、永遠の命題ね」


 じつはリリファさんも同じ悩みを抱えていたそう。

 リリファさんの指に蝶が止まってる。なんだかリリファさんって虫に好かれてるな。


「私はランキス様に買われてから。傭兵として戦うための術を徹底的に叩き込まれたの。けれど他にも役立てることはないかって色々考えて、他の傭兵仲間の方から炊事洗濯とか色々と教わったわ」


 リリファさんって悠然としてて、私なんかよりずっと大人な印象だったけど。

 当たり前だけどやっぱり私だけじゃないんだな。将来だとかみたいな、漠然とした不安ってみんな持ってるんだろう。おくびにも出さないだけで。

 

 それにしても他の傭兵仲間?

 ランキスさん以外にも何人かいるのかな。

 

「アリス、私は貴女を導くわ。私は貴女が大好きだから。貴女を熟練の戦士にしてみせるわ」


 ありがとう。

 あれ、なんだか獣耳がピコピコと反応、してる?


【感覚スキルがLVUPしました!】


 私の声に反応するようにリリファさんが視線を道路に向ける。

 お兄様、とランキスさん。王城での仕事が終わったよう。でも何でだろう、あまり浮かない表情だ。


「ただいま。王との会談で疲れたよアリス、俺を癒やしてくれ」


 あのお兄様、首筋をクンクンって嗅ぐのは、屋敷に入ってからのほうが。

 じゃないとまた下着の中が溢れちゃう……。


「いやラズは疲れないだろ。交渉してたの俺だし」


「とりあえずラズとリリファ、屋敷に来てくれ」

「古龍の首を刈るだけの仕事だろう。打ち合わせなど必要ない」

「お前はいらなくても俺は必要なんだよ」


 あのランキスさん。

 私も参加してしまったら、その、迷惑でしょうか?


「なあリリファ、なんて言ってるんだ」

「アリスも参加したいそう。もちろん構わないわよアリス」






 一組の傭兵が夕方の山道を歩いている。

 装備はごく標準的。しかし視線の配り方や足音を立てない歩行など、よく観察すれば彼ら2人の能力を推し量れるだろう。


「ねーえーウェルザーちゃん」

「どうしましたオランタさん」


 ウェルザーと呼ばれた男は、銀色と灰色の混じった短髪を撫でながら丁寧に答える。

 老紳士という呼称が似合いそうな外見だが、彼はまだ40歳になったばかり。近くに寄ると筋肉質で顔の皺も少なく若々しいが、老成した雰囲気が彼を実年齢以上に感じさせる。


「ずいぶんと愉しそうですね」

「だってリリファちゃんに久しぶりに会えるんですもの。積もる話も一杯あるわぁ」


 オランタと呼ばれた彼女は赤銅色の後ろ髪をぴょこぴょこ揺らす。そんな彼女を微笑ましく眺めるウェルザー。

 彼女はウェルザーの奴隷である。しかし主人と奴隷という、言葉が持つ暗い雰囲気は微塵もない。これは彼らの団長もそうだ。


「我々の滞在する屋敷を用意してくれているそうですよ。金銭的なゆとりもありますし、しばらくはゆっくりできそうですね」

「ねーね! あの街ってとっても素敵なドレス工房があるんでしょ。ランキスちゃん連れてデートしちゃおうかしら~」

「ええ、ですがあの国はまだ治安が悪化したままですから。強盗などには注意しましょう」

「ふふふふ。強盗がイケメンなら押し倒しちゃう」


 和やかに談笑しているが、もう日は傾いている。乗り合い馬車が落石事故に巻き込まれたせいで予定よりも日数をオーバーしてしまったのだ。


「少しばかり急がないと深夜になってしまいます」

「じゃあ、ショートカットね」


 2人は、おもむろに崖の向こうへと跳んだ。

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