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36話 ずっと一緒にいたい

 コンコンとノック。お兄様起きてますか?

 お兄様はすぐ開けてくれた。

 

 袖無しシャツに木綿っぽいズボンっていう簡素な格好。私の前に現れるときはいつも着飾ってるのに。

 

「眠れないかい。絵本読んであげようか」


 絵本。それは幼児とかに読み聞かせるもの。

 やっぱり私はお兄様にとって、そういう風に扱わなきゃいけない存在なんだろうな。

 

「どうしたんだい?」


 黙ってる私の顔を覗き込んでる優しいお兄様。

 意を決しタオルの結び目をほどいた。スルリと落ちて毛むくじゃらの裸があらわになる。

 

 こんな感覚、私初めて。

 お兄様の目の前で、自分から裸になったんだ。

 

「……いいのかい」


 全てを察してくれたお兄様はぎゅっと優しく抱きしめて。

 どうしてお兄様の腕に包まれると胸板も固くて筋肉が詰まってる。

 

 お姫様だっこでベッドに連れていってくれた。

 急に寒さを感じた。

 

 毛むくじゃらな、こんな身体なのに。

 お兄様に迷惑を掛けない、覚悟は決めたハズなのに。

 

 だけど、見上げると、威圧感というか。男の人に対する恐怖が湧いてくる。

 お兄様が、怖い。

 涙が溢れそうになる。

 

「アリス」


 大丈夫、です、お兄様。私は、私は、お兄様が大好き、だから。

 

「アリスが好きだよ。だから、そんな怯えた顔をして欲しくない」


 やっぱりバレちゃってた、怯えてるの。

 でもそれは当然のことなんだろう。

 この異世界に来てからずっとお兄様は私のことを見ていてくれた。そんなお兄様が気付かない訳がないのだから。

 

「俺はこの世界に現れてから、ずっとアリスのことばかり考えてた」


 お兄様は指差した。

 そこにあったのは机に飾られてる、綺麗な額縁に収まってる絵。とても上手で、まるで写真みたいに正確な絵。

 そこには日本にいた頃の、私とお兄様が描かれてる。だけど2人とも、首から上は空白のままだった。

 

「俺はランキスに拾われるまでずっと、何処ともしれない、見渡す限りの大草原に立っていたんだ」


 心に刻まれてたのは私の姿と名前と声だけ。

 それ以外、過去の記憶が全くなくて、どうしてここにいるのか分からなくて、いつからこうしてるのかも分からなくて。

 

 全ての記憶が断絶してて。日が沈んで夜になって、暗闇でなにも見えなくて、やがて日が昇って朝になって。

 それでもずっとなにをしていいのかわからないから、ずっと立ち尽くすしかなくて。

 

 それはどんな心境なのだろうか。

 ランキスさんに拾われるまで、ずっとお兄様はそうしてたそう。

 

「アリスに会いたくて、でも会えなくて。せめて絵だけどもと思って。だけど描けないんだ、アリスの顔がどうしても思い出せない。月日が経つごとにアリスと一緒にいた記憶が薄れていったんだ擦り減って消失してしまう、それが1番怖かった」


 ああ。

 居なくなってからのお兄様を1つ知ることが出来た。

 また少しだけお兄様に近づいた気がした。

 

「アリスが傍にいてくれて一緒に笑ってくれるこれ以上の幸せは僕には無い。一緒に寝よう」


 目を閉じるとお兄様の温もりが伝わってきて安心する。

 どっと睡魔がやってきた。今日のことはたぶん一生忘れない。

 

 今日は色々な出来事があった。嬉しいことも、大変だったことも色々。

 でもそのお陰で私は自分の心に気付くことが出来た。私はお兄様とずっと一緒にいたい。だからもう絶対離れないと誓った。


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